軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ふんどし忠犬

その日は町からおすそ分けで貰った小麦粉(実際は違うのかもしれない)で適当にデザートを作りたくなったので気分転換に作る。

なんでデザートかと言うとラトと研究して作ったバイオプラントの変異種に蜜を精製出来る物が出来たからだ。

試食も兼ねて作っている。

「兄ちゃん! 何作ってんだ?」

「黙って見てろって、ああ、火はそれくらいで……出来る限り弱めで良い」

鉄板を温めて小麦粉に魔物乳を混ぜ合わせつつ、生地を作る。

他に乳の脂肪分を浮かせクリームを作ってホイップさせている。これに蜜を入れて甘さを追加。

更に果物を用意してっと。

俺が料理をしていると奴隷共と魔物、そしてフィロリアルが匂いに釣られて集まってきていた。

……足りるか?

一応、同じ材料で他の料理担当の連中にも作らせているがな。

「そんな事よりお前等はやる事しているのか?」

「当たり前だぜ兄ちゃん!」

「尚文って料理が趣味なのか?」

錬が女騎士との訓練を終えて尋ねてくる。

確か次は言語の勉強が待っているはずだが?

コイツ、どれだけの決意があるのか知りたいからと俺が勉強をしろと命令していたんだ。

一応、素直に受けている。

こう言うタイプって人から勉強しろと言われたら嫌がるかと思ったけど、なんだかんだで真面目に取り組んでいる様子だ。

俺が文字の一覧表を作って渡したのを精一杯書き写している。

こんな事じゃなくて早く強くなる為の手段を――とか言ってたら反省が無いと判断するつもりだったがな。

「別に趣味じゃねえよ。気が付いたら覚えてただけだ」

「のわりには手慣れているな。匂いも良いし」

「抜かせ、何ならお前も覚えるか?」

「尚文が望むなら……」

「……冗談だ。食いたいなら待ってろ」

「ああ、尚文の作る飯は美味いから楽しみにしてるよ」

ご機嫌取りか?

自分さえよければ良いと思ってるタイプの癖に……慣れない事をするなっての。

「さて」

出来る限り薄く伸ばした生地を丸く鉄板で焼いて、すぐにひっくり返して焼き上げる。

そしてその下地を別のテーブルに移動させて、果物を盛りつけ、最後にクリームを塗ってカップ状に包む。

「完成したぞ」

「ああ、やっぱりクレープを作ってたのか」

「まあな、昔フードコーナーでバイトしてたから作り方は知ってたんだ」

「バイト……懐かしい言葉だな」

「錬はやった事無いのか?」

「無い。やりたいとは思っていたけど」

まあ錬は高校生だし、学校や親によってはアルバイトを出来ない所も多いからな。

現に俺の弟はアルバイトが禁止されている学校に通っている。

俺? 高校生の時から金欲しさにバイトをしていた。

使い道はお察しだな。

と言いつつ、試作品一号を錬に渡す。

再現は上手く行ったか。錬が一番評価しやすいだろう。

「む……やはり美味い。ちょっと俺の知るのとは違うけど、気にする必要はない程だ」

「なあなあ。やっぱ美味いのか?」

キールが目を輝かせて聞いている。

「ホラ、これが俺の世界にある食い物の一つ、クレープだ」

完成した二つ目をキールに渡した。

「クレープ……聞いた事の無い食べ物だ。兄ちゃんの世界の食べ物なんだな」

匂いを嗅いだキールがクレープをマジマジと見ている。

一応、今は人型だ。最近じゃ犬である事の方が多いけどさ。

本人曰く、変身中は魔力を消費するけど、それよりも感覚が鋭敏になって体が軽くなり、楽なんだとか。

パクッとキールはクレープを頬張る。

「食べた事の無い味だな」

もぐもぐと何度も食べながらキールは尻尾と耳を動かす。

「おいしい!」

「そうか」

キールの言葉に村の連中や魔物、フィロリアル達が食べたいと意思表示しだす。

だから次々とクレープを焼き始めたのだけど。

「おいしい! クレープうめええぇぇぇぇー!」

とか言いながらキールが走り出した。

「転ぶなよー」

っと、俺が注意するのとほぼ同時だったと思う。

キールがこけた!

「なあ……どっかで見た事無いか? あれ」

「奇遇だな、俺もだ」

しかも盛大にクレープは地面に落ちて飛び散った。

「アイスクリームだった気がする」

「俺の所じゃかき氷だ。随分古いけど見た事がある」

VRMMOがある様な未来&異世界の日本でもお約束は存在するらしい。

キール……外さない奴だな。

「うう……兄ちゃんが作ったクレープがぁああああああああああああ!」

キールの奴、飛び散ったクレープを涙目で凝視しながら叫んでいる。

そ、そんなにも惜しいのならすぐに……材料が持つかな?

村に居る奴等に全部渡り切るか怪しい量しかない。

「……」

凄く惜しそうにキールは地面に落ちたクレープを見つめる。

他の亜人奴隷が立たせようと手を伸ばすが目に入っていないようだ。

やがて……。

パク!

食べた!?

何を思ってか、犬に変身したキールが地面に飛び散ったクレープを食べ始めた。

「キールくん! 何やってんのー!」

「お腹壊しちゃうよ!」

「放せ! 兄ちゃんがせっかく作ってくれたモノなんだ! 無駄になんか出来るか!」

「ダメだよ! お兄ちゃんが落ちた物を食べちゃダメだって言ったじゃない」

「それでも俺は、食べるんだ! どけ! クレープが食べれない! うわぁあああああああああああああ!」

キールの奴、押さえつけられても野生的な目で周りをけん制しつつ、手を飛び散ったクレープに伸ばす。

えっと……中毒になるような物を入れてしまったか?

ラトにこの蜜は失敗だと報告しておこう。

「落ちつけ! ホラ、俺のをやるから!」

「良いのか!?」

「ああ」

錬が叫ぶキールに自分のクレープを与えた事で辛うじてその事態は収束した。

キールが何故あそこまで取り乱したのかは理解に苦しむが、随分と錬が村に馴染んでいるな。

まあ、一日中村で生活していれば慣れもするか。

やがて錬が戻ってきて、少し困った表情で言った。

「懐かれているな……」

「いや、蜜に麻薬成分があったんだろう」

「違うと思うぞ。だからやめないでほしい。皆凄い目で見ているし、つ、作ってくれ」

なんか錬に奴隷共からのプレッシャーが掛かっている。

麻薬疑惑があるが、決定的な物でも無いし、いいか。

なんて話をしていると元康がフィロリアルに囲まれてやってきた。

「お義父さん。何やら羨ましい事をしていますね!」

ちょうど俺からクレープを受け取ったフィロリアルが美味しそうに食べているのを見て元康が言う。

第一声それか。

元康はヴィッチと同行していた頃から思っていたが、コイツの発言は何かと癇に障る。

相変わらずお義父さんと呼ぶのもそうだが、何が羨ましいのか。

適当な事を言いやがって……説教したくなるな。

まあ元康と関わる事自体が面倒だから、適当にあしらうが。

「お義父さん!?」

錬が元康を指差しながら裏返った声で俺に尋ねる。

「話す機会が無かったけど、一体どうなっているんだ!?」

「あー……説明を忘れていたな。錬、元康はヴィッチに裏切られた事が原因で、壊れてしまってな」

「そ、そうなのか」

「壊れるとは失礼ですよ、お義父さん。私は真の愛に目覚めただけです。錬くんもそこを間違えないように!」

「錬……くん!?」

鳥肌を立てて震えあがる錬が俺に助けを求める。

よかった。

変な名称で呼ばれるのは俺だけではなかった様だ。

元康が錬に君付けとか、気色悪い事この上ないからな。

「真の愛ってなんだ!?」

「あー……わかりやすく言うと、落ち込んでいるお前にヴィッチが囁いたように……家の馬鹿鳥が励ました所為でな。その飼い主というか、育ての親である俺は義理の親なんだろ」

「はぁ……よくわからないが、なんか幸せそうだな」

フィロリアルに触れて楽しげに笑う元康を、そう錬は分析した。

「で? 元康、お前はなんだ? 用事が無いならフィロリアルと遊んでいろ」

フィロリアルを育てる事に執心していて、まだ特に指示は出していなかったんだよな。

実際大量に増えたフィロリアル・クイーンは育てれば波でも活躍するとは思うが。

「はい。また新しいフィロリアルを買ってきて良いかとお聞きしたくて」

「まだ欲しいのか! いい加減にしろ!」

俺の怒りに何処からかフィロリアルの雛が出現して元康を威嚇する。

このフィロリアル……フィーロが元康から拝借して俺に預けたのだけど、いつの間にかいなくなって、俺が怒ったり困っていると出てくるんだよな。Lvはあるようだけど姿が変わらない。凄い少食で可愛げがある。

どういう原理なんだ?

というか、これがフィロリアル側のドラゴンの核石のような物なのか?

子ガエリオンをベッドに招くと現れて威嚇し合うし。

まあ、普段は仲良くしているんだけどさ。

表面上は仲良くしつつ、けん制し合う関係の様な寒さがある。

「そうですか……我慢いたします」

素直に引き下がったな。

というか俺の事をお義父さんと呼ぶのはやめてほしい。

しかし、これだけは譲れないようで一向にやめる気配が無い。

「で? 錬はそろそろ勉強の時間だと思うんだが?」

「ああ、そうだったな」

「お義父さん!」

「……なんだ?」

「私も勉強したいです」

「ああ、そう。じゃあ奴隷共や錬と一緒に勉強して来い。夜になったら復習させる」

錬が真面目に取り組んでいるのかを見張るのもある。

俺は忘れない。カルミラ島での事を。

異世界言語理解というスキルは何処で覚えられるかと言った樹に同意していたこいつ等の蛮行を。

誠意を見せて貰わねばな。

「では行ってまいります! ところで豚臭いのをどうにか出来ませんか? 鼻が曲がりそうなんです」

「女が多いという意見は否定しないが、無理だ。お前の体臭……鳥臭さを治したら考えてやる」

「お義父さん、これは高貴で芳醇な熟成された香りですよ?」

「うるさい。俺に意見するな。嫌なら出て行け」

こいつ、キールを速攻で女だと見抜いたんだよな。

どういう原理なんだろうか。

確かにキールは女ではあるのだろうが、パッと見は美少年だ。

中性的な顔立ちの点で言えば錬と被るな。

錬とは話が出来ると言う事は間違いなく見抜いているのだ。

「そうですか、では鼻を詰まんで我慢します」

「……さっさと行け」

俺はクレープを配り終えて、その日の修業を再開した。