作品タイトル不明
第38話 あなたの妻はもう辞めました
結婚式は、初夏の朝に行われた。王宮の大聖堂ではなく、国境救護院の庭だった。
エルネスト様は公爵として大きな式を望めばできただろう。けれど私たちは、名前が正しく刻まれた記念碑の近くで、小さな式を選んだ。列席者は両国の関係者、翻訳組合の人々、外務院、救護院の子どもたち、そして川町の人々。
サラは花を配る係を務めた。オリーヌは式次第の多言語版を作り、緊張のあまり三度確認していた。マルタは朝から泣きそうで、グレタに背中を叩かれている。私は白いドレスを着た。豪華ではない。けれど、袖口に小さな月桂樹の刺繍がある。胸元には青い印章を収めた小さな飾り。妻になる日にも、私の名を守る印を持っていたかった。
式の前、エルネスト様が私の前に立った。
「緊張しているか」
「はい」
「私もだ」
「公爵閣下でも?」
「今日は、ただのエルネストでもある」
私は微笑んだ。
「では、ただのイザベルとして緊張します」
式は六つの言葉で短く行われた。王国語で誓い、カルヴァレン語で誓い、北方語で祝福を受け、港湾語で記録を読み、砂州語で旅の安全を祈り、川町の混合語で子どもたちが花を渡した。最後に、私たちは婚姻記録へ署名した。エルネスト・クロイツ。
イザベル・レヴィエ・クロイツ。私はレヴィエの名を残した。誰かの家に飲み込まれるのではなく、二つの名をつなぐ。そう決めた。署名欄の横には、職務継続欄もある。多言語文書監査官としての職務は婚姻により終了しない。外務卿は、その欄に承認印を押した。
「ここまで書いた結婚記録は初めてだ」
彼は疲れた顔で言った。
「前例になります」
「また仕事を増やす」
「必要な仕事です」
外務卿は笑った。式の後、庭で小さな食事会が開かれた。ニコがミラと一緒にパンを運び、サラが子どもたちに自分の名札を書かせている。リリーヌからは手紙と、辞書用の革栞が届いた。誤字は一つだけだった。アルマンからは祝辞ではなく、正式な通知が届いた。
補償金の第二回支払いを行った。あなたの職務継続を妨げない。これをもって私信は終える。私はそれを静かに受け取った。過去は、今日も消えない。けれど、過去が未来の席を奪う必要はない。夕方、記念碑の近くでエルネスト様と二人になった。
初夏の風が、黄色い小さな花を揺らしている。
「イザベル」
「はい」
「妻と呼んでもいいか」
私は少し考えた。かつて、その言葉は私を閉じ込めるものだった。妻だから黙れ。妻だから支えろ。妻だから名を出すな。けれど今、彼の問いには確認がある。私の同意を待つ沈黙がある。
「はい」
私は答えた。
「ただし、私はあなたの妻である前に、私です」
「分かっている」
「それから、外交文書は私の名で書きます」
「当然だ」
「妻の座を利用して、私の仕事を消したら」
「監査官として告発される」
「ええ」
彼は笑った。私も笑った。あの日、侯爵家の食堂で私は言った。あなたの妻はもう辞めます、外交文書も妻の座もお断りします。それは逃げるための言葉ではなかった。自分の名を取り戻すための言葉だった。今、私は別の言葉を選ぶ。
「エルネスト」
初めて、様を外して呼んだ。彼の目が少し見開かれる。
「私は、あなたの隣に立ちます。妻としても、私としても」
エルネストは私の手を取った。
「私も、あなたの隣に立つ」
言葉は短い。けれど、今の私にはそれで足りた。救護院の庭に、子どもたちの笑い声が響く。記念碑には名が刻まれ、条約の写しには多くの署名があり、私の鞄には青い印章が入っている。私はもう、誰かの名の後ろに隠れない。妻を辞めた女は、自分の名で仕事を選び、自分の言葉で愛を選んだ。
そして初夏の光の中で、私は新しい署名を胸の中に刻んだ。イザベル・レヴィエ・クロイツ。外交官。監査官。妻。そのどれもが、私の名前だった。