軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第25話 退場する侯爵/新しい役職

アルマン・ヴァルニエへの処分は、署名式の一週間後に下された。外務関連の役職停止。宮内局との不正な文書授受への譴責。侯爵家財産の一部凍結。そして、私の未記名労務について、裁判所が算定する補償金の支払い義務。爵位剥奪ではなかった。

サラは不満そうだった。

「もっと罰を受けると思ってました」

「貴族の処分は遅く、重く見えて軽いこともあります」

「ずるいです」

「ええ」

私は正直に頷いた。すべてが綺麗に終わるわけではない。侯爵家は縮むが、消えない。アルマンは社交界で笑われるだろうが、明日から食べるものに困るわけではない。それでも、彼は外交の場から退場した。少なくとも、他人の言葉を自分の名で使う席からは。

処分の説明会は外務院で行われた。私は当事者として出席したが、発言は求められなかった。アルマンは落ち着いていた。以前のように怒鳴らない。怒鳴ることで状況を変えられないと、ようやく理解したのかもしれない。説明が終わった後、彼は私を廊下へ呼んだ。

「少しだけ、話せるか」

クロイツ公爵が少し離れた場所にいた。私は頷いた。

「短くなら」

アルマンは窓の外を見た。

「リリーヌは実家に戻った。私との関係も終わるだろう」

「そうですか」

「君は、彼女を助けたそうだな」

「証言書の形を整えただけです」

「なぜだ」

「正確な証言が必要だったからです」

彼は小さく笑った。

「君らしい」

その言い方は、以前なら私を苛立たせただろう。今は、ただ遠い。

「私は、君を便利だと思っていた」

彼は言った。

「妻としても、文書を書く者としても。君がそこにいるのが当然だと思っていた。名前を出せと言われた時、なぜそんなことにこだわるのか分からなかった」

私は黙っていた。謝罪が来るのだろうか。来ても、何が変わるわけではない。

「すまなかった」

彼は言った。言葉は遅く、ぎこちなかった。私はそれを聞いた。胸が晴れることはなかった。ただ、重い石が少し場所を変えたような感じがした。

「謝罪は記録に残しますか」

私が尋ねると、彼は驚いた顔をした。すぐに、少し苦笑した。

「君は本当に」

「記録に残すなら、補償審問で扱えます。残さないなら、私的な言葉として受け取ります」

アルマンは考えた。

「記録に残してくれ」

私は頷いた。彼が初めて、自分に不利な言葉を記録に残すことを選んだ。それは小さな変化だった。大きな許しにはならない。けれど、退場する者が最後にできることとしては、静かな区切りにはなった。廊下を戻ると、クロイツ公爵が待っていた。

「大丈夫か」

「はい」

「謝罪されたか」

「記録に残すそうです」

公爵は少し目を瞬いた。

「あなたの元夫は、最後に少し学んだらしい」

「元夫では、まだありません」

「そうだった」

彼の声が少しだけ硬くなった。私はその変化に気づいたが、何も言わなかった。離縁判決は、もうすぐ出る。その日まで、私はまだ法的には誰かの妻だった。けれど心は、もうずっと前に屋敷の門を出ていた。

署名式から十日後、外務院に新しい役職が作られた。 多言語文書監査官(たげんごぶんしょかんさかん) 。条約、通達、翻訳、現場様式の各言語版を監査し、作成者、校閲者、承認者の記録を管理する役職だ。初代として、私の名が候補に挙がった。外務卿は病床から復帰したばかりだったが、執務室で私を待っていた。顔色はまだ悪いが、目はいつも通り鋭い。

「レヴィエ殿。受けるか」

単刀直入だった。私は任命案を読んだ。報酬、権限、任期、監査範囲、各部署への照会権。よく整っている。外務卿が本気で作った役職だと分かる。

「なぜ私ですか」

「今回の件で、誰もが必要性を理解したからだ」

「私でなくても、制度は必要です」

「制度を最初に動かす者が必要だ」

外務卿は机の上の新様式を指した。

「作成者欄、校閲者欄、承認者欄。君がうるさく言った欄だ。これを外務院全体へ広げる」

「反発があります」

「あるだろう」

「特に、名を出したくない人と、他人の仕事を自分の名で出したい人から」

「だから君が向いている」

褒め言葉なのか、面倒な仕事を押しつけられているのか判断に迷った。

「ただし、条件があります」

「言ってみろ」

「見習い制度を作ってください。オリーヌのような下級書記、サラのような混合言語の話者、現場を知る人が学べる仕組みを」

外務卿は少し眉を上げた。

「役職を受ける前から、部下を要求するのか」

「制度は一人では続きません」

「もっともだ」

彼は紙に短いメモを書いた。

「見習い枠三名から始める。予算は少ない」

「足ります」

言いかけて、私は口を閉じた。その言葉は便利だが、時々自分を小さくする。

「いえ。足りませんが、始められます」

外務卿は笑った。

「よろしい」

任命案への返答期限は三日後だった。私はすぐに受けると言わなかった。役職は名誉ではない。責任だ。受ければ、外務院の中に居場所ができると同時に、逃げ場も減る。公文書館へ戻ると、オリーヌとサラが待っていた。

「どうでしたか」

「多言語文書監査官という役職が作られます」

「すごいです!」

サラが飛び跳ねる。オリーヌは目を輝かせた。

「イザベル様が初代ですか」

「候補です。まだ受けるとは」

「受けないのですか」

私は机に任命案を置いた。

「考えます」

夕方、クロイツ公爵が来た。彼は任命案を読み、静かに頷いた。

「あなたに合う」

「そうでしょうか」

「あなたは、紙の先に人を見る。監査官には必要だ」

「でも、外務院に残れば、カルヴァレンとの契約は終わります」

言ったあと、胸が少し痛んだ。公爵は私を見た。

「契約は終わる。関係まで終わるとは限らない」

その言葉に、私はまた返事を失った。彼は続けた。

「あなたがこの役職を受けるなら、私は喜ぶ。隣国の外交官としては、手強い相手が増える。個人としては、あなたの名が消えない場所が増えるのが嬉しい」

嬉しい。彼の口から出ると、その言葉は不器用で、まっすぐだった。

「公爵閣下」

「何だ」

「本会議後に、距離を改めて確認すると言いました」

「覚えている」

「離縁判決が出たら、改めてお話しできますか」

公爵は少しだけ息を止めた。

「もちろん」

その返事は短かったが、声は低く、確かだった。新しい役職の紙が、机の上で静かに待っている。私はまだ答えを出していない。けれど、誰かの妻としてではなく、自分の仕事として選べることが、すでに大きな変化だった。