軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第17話 公開翻訳審問/条約を読み上げる女

宮内局書記長ルベールを直接追及する場は、思いがけず公開翻訳審問になった。外務卿の提案だった。

「密室で問い詰めれば、政治的な処分で終わる。公開で文を読ませれば、誰が何を歪めたか見える」

外務卿は記録を好む人だが、時々かなり厳しい。審問は王宮の中会議室で行われた。出席者は外務院、宮内局、関係国使節、裁判所書記、新聞社代表。偽造書簡で騒いだ新聞社も呼ばれている。ルベール書記長は、細身の男だった。

整えられた髪、薄い笑み、滑らかな声。彼は礼儀正しく、どの質問にも丁寧に答えた。

「私は王国の安定を守るため、必要な確認を行っただけです」

そう言う彼の声には、紙を扱う者の自信があった。私は中央の机に立った。目の前には三つの文書がある。一つ目、十年前の救護協定原文。二つ目、その王国語訳。三つ目、今回の第七条修正案。クロイツ公爵は少し離れた席にいる。彼の前には、妹エリーズの記録写しが置かれていた。彼は表情を変えない。

だからこそ、私は正確でなければならなかった。

「ルベール書記長。まず、この北方語原文の地名を読んでください」

彼は紙を手に取った。

「南の修道院」

「北方語の単語を一つずつ」

「……南、岸、仮、収容所」

部屋がざわついた。私は続けた。

「四つの単語を合わせれば、南岸の仮収容所です。南の修道院ではありません。十年前の訳文では、なぜ修道院になったのですか」

「当時の状況では、仮収容所が修道院へ移管される予定だったと聞いています」

「聞いています、では記録になりません。移管記録はありますか」

ルベールの笑みが少し薄くなる。

「古い案件です。すべての記録が残っているとは限りません」

「残っています」

私は別の紙を出した。

「砂州自治領の監査写しです。移管は行われていません。南岸の仮収容所は三日後に閉鎖。そこにいた子どものうち七名が熱病で亡くなっています」

クロイツ公爵の指が、机の端に触れた。私はその動きを見ないようにした。見れば、声が揺れる。

「次に、今回の偽造書簡について。書簡には、川町の『霧』という単語が添えられていました。これはリリーヌ・オルフェ嬢が倉庫札で練習していた文字と似ています。しかし筆圧と語尾の癖は、宮内局の筆記訓練を受けた者のものです」

ルベールは笑った。

「筆跡鑑定は専門外では?」

「そのため、三名の筆跡監定士の報告を添えます」

外務卿が書類を配らせた。新聞社代表たちが顔を見合わせる。

「さらに、侯爵家南書庫から持ち出された灰色リボン番号G-42の下書きには、偽造書簡と同じ行間修正が含まれています。侯爵家から宮内局へ文書提供を求めた手紙には、あなたの側近の受領印があります」

「王家の安全のためです」

「王家の安全のために、他人の名で偽造書簡を新聞社へ送ったのですか」

ルベールの顔から笑みが消えた。

「証拠はない」

「では、最後の文を読みましょう」

私は偽造書簡の末尾を示した。そこには王国語で、クロイツ公爵が王国を愚弄したとされる一文がある。

「この文は、古帝国語の定型句を王国語に直したものです。しかし訳し方が古い。現在の外務院では使いません。十年前の宮内局研修資料にだけ残っている訳です」

外務卿が、古い研修資料を机に置いた。ルベールは黙った。沈黙は、時に最も多くを語る。クロイツ公爵が初めて口を開いた。

「私の妹の名を利用した理由は」

ルベールは答えなかった。公爵の声は静かだった。

「答えられないなら、記録には答弁拒否と残る」

その言葉を聞いて、私は胸の奥が締めつけられた。彼は怒っている。けれど、文を歪めていない。審問の終わり、ルベールは職務停止となり、宮内局内の文書調査が始まることになった。新聞社代表たちは偽造書簡の訂正記事を出すと約束した。

会議室を出る時、クロイツ公爵が私に短く言った。

「ありがとう」

「私は文を読んだだけです」

「その文で、妹の場所が戻った」

私は何も言えなかった。失われた人は戻らない。けれど、誤った場所に置かれていた名前を、正しい場所へ戻すことはできる。それもまた、言葉の仕事なのだと思った。

六カ国会議の朝、王都は晴れていた。雨も霧もなく、空は高い。王宮の会議棟へ向かう道には、各国の馬車が並んでいる。旗が風に揺れ、衛兵たちはいつもより緊張した顔をしていた。私は青い印章を鞄に入れ、父の万年筆を胸元の内ポケットへ収めた。

マルタは紺色のドレスを整え、サラは宛名を書いた招待状の控えを抱えている。オリーヌは資料鞄を両手で持ち、何度も深呼吸をしていた。

「緊張します」

「私もです」

「イザベル様もですか」

「もちろん」

そう答えると、オリーヌは少し安心した顔になった。会議室は円卓だった。席次は議題ごとに変わる。最初の議題は保護条項。そのため、文書責任者である私が中央の読み上げ席に立つ。正面には外務卿。右にクロイツ公爵。左に北方三国、港湾連盟、砂州自治領、南方連盟の代表。少し離れた補佐席に、アルマンが座っていた。

彼は私を見ていない。それでよかった。今日、私は夫に見せるために立っているのではない。外務卿が開会を宣言した。

「南方連盟覚書および国境保護附属書に関する六カ国会議を始める」

私は立ち上がった。紙の束を開く。一枚目は王国語。二枚目は北方語。三枚目は港湾語。四枚目は砂州語。五枚目は山岳語注記。六枚目は古帝国語引用。六つの言葉が、同じ机に並んでいる。私はまず王国語で読み上げた。保護、移動、労働、居住。

四つの項目を分け、未成年者の単独移送を禁じ、家族再会名簿を整備し、救援品の受領によって労働義務が生じないことを明記する。次に北方語。北方語では、家族と共同体の語が重い。私は父に教わった古い発音を意識した。ユリアンが静かに頷く。

港湾語では、契約と貨物の境界を明確にした。レイモンド商務使が指で机を叩く。納得の合図だ。砂州語では、古帝国法への敬意を残しつつ、現行運用に合わせる。老使節の目が細くなる。山岳語の注記では、冬道の通行保証を短く示した。

最後に古帝国語の引用を読んだ。人を保護するとは、その名を失わせないことである。古い法典の一節だ。読み終えると、会議室は静かだった。紙の音さえしない。私は息を吸った。

「以上が、保護附属書の本文です。各国の実務担当者が同じ意味で運用できるよう、別紙に現場通達の簡略版を添付しています」

外務卿が質問を促した。北方三国が家族再会名簿の管理を確認する。港湾連盟が倉庫保管料の扱いを問う。砂州自治領が監査役の権限を確認する。南方連盟が通行税の一時免除を確認する。私は一つずつ答えた。答えられない箇所は、答えられないと言った。その上で、外務卿または各担当者へ引き継ぐ。万能であるふりはしない。読める者が、すべて決める者ではない。

議論は長く続いた。昼を過ぎ、夕方の光が窓から差し始めた頃、各国代表が最終案に同意した。署名は翌日、正式な式典で行われる。今日の会議は、合意までたどり着いた。閉会後、私は円卓の端に手を置いた。足が少し震えている。

サラとオリーヌが近づいてきたが、その前にクロイツ公爵が静かに立った。

「見事だった」

短い言葉だった。それだけで、胸の奥がいっぱいになった。

「ありがとうございます」

「あなたは六つの言葉で、同じ人間を守った」

私は返す言葉を探した。けれど、また見つからなかった。言葉を失っても、彼は急かさない。その沈黙の中で、窓の外の空がゆっくり暮れていく。私は今日、条約を読み上げた。夫の名でも、衝立の後ろでもなく、自分の名で。