軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

奈落の御所1

重い黒曜石の扉をくぐり抜けた先は、まさに『奈落』の名にふさわしい狂気の異空間だった。

地下であるはずなのに、見上げれば赤黒い雲が渦巻き、毒々しい紫色の月が浮かんでいる。

そして眼下には、果てしなく広がる朽ち果てた平安京のような瓦礫の都が続いていた。

これが、国内に三つしかない特級ダンジョンの一つ【奈落の御所】だった。

「最深部の50階層まで、この廃都を下っていくってわけか。……先は長いな」

俺はドドンキ袋を腰のベルトにしっかりと結び直し、1階層の石畳へと足を踏み出した。

『マスター、前方よりエネミー群が接近中! A+ランク【奈落の 防人(さきもり) 】が二十体です!』

トラ子の警告と同時、瓦礫の陰から、ボロボロの甲冑を纏い、青白い怨念の炎を噴き出す巨大な骸骨武者たちが姿を現した。

「ウォォォォ……!」

「まずは挨拶代わりの初回ボーナスだ」

俺は地面を蹴った。

疾風狼の峡谷で鍛え上げた脚力は、もはや石畳を爆砕するほどの威力を秘めている。

一瞬で骸骨武者たちの懐へと潜り込んだ俺は、錆びた大太刀が振り下ろされるよりも早く、その頭蓋めがけて右ストレートを叩き込んだ。

ドガァッ!!

A+ランクの強固な兜ごと、骸骨の頭が粉々に吹き飛んだ。

『対象の討伐を確認。基礎ステータス【10%】を初回永久強奪しました!』

「よし、次ィ!」

残る十九体の武者たちが一斉に斬りかかってくるが、俺の眼にはその動きが完全に止まって見えていた。

トラ子の100%の軌道予測に従い、刃の隙間をミリ単位で潜り抜ける。そして、すれ違いざまに顎を蹴り上げ、胸ぐらを掴んで地面に叩きつけた。

1階層から3階層までは、まさに一方的な蹂躙だった。

一切の魔法もスキルも使わず、ただ特売品のジャージを着た男が、素手の物理攻撃だけでA+ランクの群れを次々と粉砕していった。

4階層に入ると、景色は巨大な武家屋敷の内部のような入り組んだ迷路へと変わった。

襖を開けるたびに、障子の裏から、あるいは天井裏から、様々な死霊系の魔物が襲い掛かってくる。

『マスター! 上から【呪縛の天井嘗め】! 右から【怨霊の首くくり】です!』

「シィッ!」

『累計討伐数、二百を突破! 順調に積み重なっていますよっ!』

エク子が元気よくカウントを取る。

「フハハハッ! よいぞよいぞ! そのまま奈落の底まで、一切合切の力を強奪し尽くしてやるのじゃ!」

グリ子も心象世界で高笑いを上げていた。

4階層から9階層までは、とにかく魔物の数が異常だった。

だが、それは俺にとって「エサ」が豊富にあるということに他ならなかった。

回避の精度を極限まで保ちながら、俺は一切の休憩を挟むことなく、ひたすらに殴り、砕き、奪い続けた。

そして、特級ダンジョン突入からわずか二時間後。

俺は最初の関門である、10階層の巨大な大広間へと到達した。

「……ここが10階層か。ボスの部屋っぽいな」

百畳はあろうかという血塗られた畳敷きの広間。

その最奥の玉座に、周囲の魔物とは明らかに次元の違う瘴気を放つ、身の丈五メートルを超える巨大な鎧武者が鎮座していた。

四本の腕を持ち、それぞれに禍々しい呪力を持った妖刀を握りしめていた。

『マスター、エネミーの識別完了。10階層のフロアボス、S-ランク【血塗られた修羅将軍】です!』

「S-ランクか。……ちょうどいい腕試しだ」

俺が広間の中央に進み出ると、修羅将軍は四つの赤い眼光を光らせ、地響きのような咆哮を上げた。

直後、四本の妖刀が同時に振るわれ、不可視の真空刃が網の目のように俺へと迫り来る。

『マスター! 全方位からの不可視の斬撃! 回避ルート……上空のみです!』

「応ッ!」

俺は床の畳を蹴り破り、一気に天井付近まで跳躍した。

足元を無数の斬撃が通り過ぎ、巨大な柱や壁が豆腐のように切り刻まれて崩落していった。

だが、空中に逃げた俺を待ち構えていたかのように、修羅将軍が跳躍し、四本の刀で俺を串刺しにすべく迫ってきた。

二段ジャンプなどが不可能な俺にとって、空中は回避不可能な死地だと踏んだのだろう。

「甘いな」

俺は、広間の天井を支える極太の 梁(はり) を思い切り蹴りつけた。

バンッ!! という木材が爆ぜる音と共に、梁を足場にした超高速の三角飛び。俺の身体は弾丸のように軌道を変え、修羅将軍の刀の射程外へと一瞬で移動した。

「ギギギ……!?」

修羅将軍が驚愕に目を見開くのが分かった。

「オラァッ!!」

そのまま修羅将軍の無防備な頭上へと回り込んだ俺は、重力と全身のバネを乗せた渾身の踵落としを、その兜の脳天めがけて振り下ろした。

ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!

落雷のような轟音と共に、S-ランクの巨大なボスが、10階層の床をぶち抜くほどの勢いで叩きつけられた。

分厚い鎧がひしゃげ、四本の腕がだらりと垂れ下がった。

『対象の生命活動、停止を確認。……10階層フロアボス、討伐完了です』

静まり返った広間に、トラ子の声が響いた。

『初回討伐報酬、S-ランクボスの基礎ステータス【10%】を永久強奪! さらにドロップアイテム【修羅の妖刀】と【将軍の魔石】をドドンキ袋に収納しました!』

「よし。これで10階層はクリアだな」

俺は着地し、軽く首を鳴らした。

特級ダンジョンとはいえ、まだ序の口。

基礎ステータスを極限まで高めた今の俺にとって、この程度は準備運動に過ぎなかった。

「さあ、次は20階層を目指すぞ。暗黒龍のトカゲ野郎、首を洗って待ってろよ」

俺は広間の奥に現れた、11階層へと続く下り階段へと迷いなく足を踏み入れた。

極限の物理無双による特級ダンジョンの蹂躙劇は、まだ始まったばかりだった。