作品タイトル不明
改19話「新しい部屋」
私は王宮魔導士のヒーラーとして働くことになったので、お城に住むことになった。
てっきり魔導士の宿舎に案内されるものと思っていたのだけど……。
「ここがリアーナの部屋だよ」
「えっ……?」
アルドリック様に案内され連れて来られたのは、お城の三階、皇族の部屋の並ぶエリアだった。
扉を開けた瞬間、桃色のカーテンや絨毯が視界に飛び込んできた。
レースのカーテンに、花柄の壁紙、壁際に猫足のついた白い家具が並ぶ、可愛らしいお部屋だった。
装飾が美しいテーブルの上に、花瓶が置かれ、ピンクのチューリップが生けられていた。
天井からはきらびやかなシャンデリアが吊るされ、壁際には天蓋付きのベッドが配置されていた。
ハルシュタイン王国で与えられていた部屋の、十倍の広さがある。
王宮魔導士に過ぎない私が、こんな豪華な部屋に住んで良いのかしら?
聖女は質素倹約を求められるので、ハルシュタイン王国の部屋には小さなベッドと、飾り気のないタンスと、小さな椅子とテーブルがあるだけだった。
「リアーナ、タンスを開けてみて」
アルドリック様に言われ、タンスの扉を開けると、色とりどりのドレスがぎっしりと詰まっていた。
「引き出しも開けてほしいな」
彼に言われるままに、引き出しを開ける。
引き出しの中には、アクセサリーが眩い光を放ち、整然と並んでいた。
確かこのドレスは今帝国で流行しているものです。。
帝国で流行してるドレスやアクセサリーの知識は、ゲルダさんから教わった。
ゲルダさんは皇族専属のお針子だけあって、その辺の知識は豊富なのだ。
なので、ここにあるドレスやアクセサリーの価値もだいたいわかる。
沢山のリボンが胸元を飾り立てていている豪華なドレス。
袖にレースが使用されているきらびやかなドレス。
背面には優雅なマントのような布がついた華やかなドレス。
リボンの付いたチョーカー。
花が付いた髪かざり。
真珠のネックレス。
ダイヤモンドのイヤリング。
華やかなデザインの扇子。
宝石はサファイアにルビーに黒真珠にアメジストにエメラルド……様々な色の宝石がキラキラと輝いています。
靴や帽子もたくさんの種類があります。
花やリボンが付いた帽子、美しいデザインのハイヒール。
「あの……この部屋本当に使ってよろしいのでしょうか?」
この部屋は私には眩しすぎます。
「もちろんだよ!
リアーナのために用意したんだから!」
アルドリック様が黒檀色の目を細め、口角を上げ、にっこりと笑う。
「私は、今日先触れもなくこの城を訪れました。
お部屋の飾り付けが短時間で出来たとは思えません。
このような高価なドレスやアクセサリーを、このような短時間で集められたとは思えません」
職人さんが一針一針魂を込めて縫い上げたと思われるドレスは、まるでどなたかの為にオートクチュールで作り上げたようだ。
アクセサリーもドレスに合わせて、選んだように見える。
「この部屋は、どなたかがお使いだったのではありませんか?
怒りませんから、正直に話してください」
アルドリック様は皇太子。
婚約者候補の一人や二人いたとしてもおかしくない。
婚約者候補の方が、使っていたお部屋だったのかも……?
私が来たせいで、その方は部屋から追い回された?
私が質問すると、アルドリック様は額に汗を浮かべ、目に見えて動揺していた。
「違うんだよ……!
えーーと、これには理由があって……」
「リアーナ様、皇太子殿下はいつリアーナ様がこの城を訪ねて来てもいいように、
毎年ドレスやアクセサリーを買い揃えていたのですよ」
「えっ……?」
この部屋はアルドリック様が私の為に用意していた……?
私がへーウィット様と婚約していた時からずっと?
「リアーナ様の成長を予想して、ドレスをオートクチュールで作らせてたんですよ。
ここまで来るとちょっと気持ち悪いですよね」
カイル様が楽しそうに話す。
「バラすな! カイル!」
アルドリック様は顔を真っ赤に染め、カイル様を叱った。
「長年主を待ち続けた部屋です。
十一年前からリアーナ様のお部屋だったと言っても過言ではありません」
アルドリック様はそんなに前からこの部屋を私の為に?
「この部屋の為にも、家具やドレスを作った職人の為にも、この部屋で暮らしていただけると、アルドリック様の思いも浮かばれます」
「アルドリック様、カイル様のお話は本当ですか?」
アルドリック様は両手で顔を覆い、私から視線を逸らした。
彼の顔はトマトのように真っ赤だった。
やがて彼は、ぽつりぽつりと語り始めた。
「……リアーナがハルシュタイン王国の王太子と婚約したのは知っていた。
それでも君のことを諦めきれなかった……。
いつかリアーナが、何らかの理由で王太子と婚約を解消して、我が国を訪ねて来ることがあったら……。
君に使って貰おうと思って、
君が身一つで来てもすぐに暮らせるようにいろいろと準備していた……」
「皇太子殿下は初恋を引きずりすぎて、ドン引きするぐらい愛が重いですよね」
カイル様が肩を竦めた。
「でも、皇太子殿下はそれだけ一途なんですよ」
カイル様が大切なものを見るような視線を、アルドリック様に向ける。
「カイルの言うとおりだ。
……すまない
重いよね……。
気色悪いと思われても仕方ないよね……」
アルドリック様は肩を丸め消えそうな声で呟く。
彼の顔は耳まで真っ赤だった。
家具も服もアクセサリーも、アルドリック様が私の為に選んでくれたのね。
私がこの国を訪れる保証なんてどこにもないのに。
彼の気遣いがこそばゆい。
「いいえとっても嬉しいです。
ありがとうございます」
私は満面の笑みでお礼を伝えた。
アルドリック様の顔は安堵の表情を浮かべ、ホッとしたように深く息を吐いた。
「良かったぁぁぁぁ〜〜!!
リアーナに嫌われたらどうしよかと思った……!」
アルドリック様の目の端に、涙がうかんでいた。
泣くほどですか?
「私が、アルドリック様のことを嫌いになるなんてありえません」
アルドリック様の顔がボンッと音を立ててさらに真っ赤に染まる。
私、何か変なことを言ったでしょうか?
アルドリック様が復活するのに、しばし時間がかかった。
一通り部屋の中を見せてもらった。
可愛らしいお部屋で暮らせることに、ときめきを隠せない。
「皇太子殿下、リアーナ様は長旅でお疲れです。
休ませてあげましょう」
「そうだな。
リアーナ、僕とカイルはこれで下がるね。
ゆっくり体を休めて。
何かあったら鈴を鳴らせば、使用人が飛んでくるよ」
「何から何までありがとうございます」
アルドリック様にも公務があるのに、私の為に時間を使わせてしまいました。
「そうだ!
伝え忘れていた!
リアーナがいつでも絵が描けるように、君専用のアトリエも作ったんだよ!
明日、案内するね!」
「まぁアトリエを……!」
アトリエと言う言葉に、ドレスや宝石を見たときより気分が高揚した。
「明日までに、君専属の侍女を手配するね。
リアーナの……お、お風呂や着替えは、僕では手伝えないから……。
君のドレスも少し手直ししないといけないから、お針子も選定するね。
君は僕の想像より成長していたから……」
アルドリック様がちらりと私の胸元を見た。
心做しか彼の顔が赤い。
成長って身長のことですよね?
私の身長は百六十センチ。
平均より少し高い。
「皇太子殿下、その発言はセクハラですよ!
あと、視線がいやらしいです!」
カイル様がアルドリック様をじとりと睨む。
「わかってる!
もう言わない!」
私に侍女が付くのは、子供の頃公爵家で暮らしていたとき以来です。
お針子さんを呼ぶならゲルダさんがいいです。
あとでアルドリック様に希望を伝えましょう。
それにしても、こんな至れり尽くせりの生活を送っていいのかしら?
幸せすぎて申し訳ないです。