軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヒロインの陰謀6

聞いていた通り?

それは、私の情報を持ってやって来たということ。

つまり、狙いは私?

同じことを考えたのだろう、縛られたミラが厳しい顔をして私の方を向き、軽く首を振った。

ごめんね、ミラ。

だけど子ども達を巻き込むわけにはいかない。

ミラを縛り終えた男が私の手を捻り上げた時に、ねえと男に話しかける。

「狙いは私、そうでしょう?なら子ども達もそこの侍女も関係ないわよね?大人しくついて行くから、他の者には手を出さないで」

「へえ、随分とお優しいお嬢サマだな。それに賢い。あんな依頼人には勿体ないが、仕事だからな。仕方がない」

依頼人?

先程も言っていたけれど、一体……って。

うん、ひとり……いやふたりだけ、ものすごーく心当たりがあるわ。

「ふはっ!なんだよその顔」

「うるさいわね。誘拐犯のくせにベラベラしゃべりすぎじゃない?早く連れて行きなさいよ」

「へいへいお嬢サマ。おい、ガキ共を放してやれ」

男がそう指示すると、他の黒フードの侵入者が子ども達から手を放した。

解放された子ども達は、そのままミラの元へと集まっていく。

ミラ、後は頼んだわよ。

依頼人とやらはもう分かったはず。

攫われても場所を特定するのには困らない。

自分の背中に止まっているはずの虫、この子が離れなければ。

「悪いな、それじゃあお嬢サマは連れて行くぜ」

「!?」

リーダーらしき男が、私を荷物のように抱き抱えた。

もうちょっと抱き方というものがあると思ったのだが、だからといってお姫様抱っこもどうかと思うので黙っておくことにする。

もう少し時間を稼ぎたかったが、これ以上は無理だろう。

「……心配しないでね、みんな」

「でぃ、でぃあなさま……」

ミラのうしろに庇われながら、子ども達が涙目になる。

不安にさせてはいけない、無理でも笑え、私。

「すぐ帰ってくるから、大丈夫よ」

「で、でも……」

震える子ども達には、それが嘘だと分かっているのかもしれない。

それでも、笑うんだ。

「……行くぞ」

この男がどんな顔をしているのか分からないけれど、その声には憐れみの色が含んでいる気がした。

「――――!?いました!―――――!!」

来た、幼等部の教師達。

良かった、私はともかくミラと子ども達はこれで大丈夫ね。

「ちっ、早かったな。おい、行くぞ」

見つかったことに焦ったのだろう、リーダーの男は舌打ちをして、なんと空間移動魔法を唱え始めた。

高難易度の魔法なのに……。

この男、何者なのだろう。

段々視界がぼやけて、子ども達の姿も見えなくなっていく。

「でぃあなさまー!!」

「まって!でぃあなさま!!」

「やだやだ!でぃあなさまをつれていかないで!!」

ごめんねみんな、巻き込んでしまって。

その場から消えていく私が最後に見たのは、涙を流し私に向かって手を伸ばす子ども達の姿だった。

「ん……ここは……」

「あ、目が覚めました?」

重い瞼を持ち上げると、ぼやけた視界には知らない天井が映った。

まだはっきりしていない頭を必死に働かせ、朧げな記憶を呼び起こす。

そうだ、私、攫われて……!

がばりと起き上がると、くらりと頭が揺れた。

「ああ、そんなに急に起きちゃだめですよ?」

「あ……なたは……!」

頭上からかけられた可愛らしい声に顔を上げれば、突然で驚いたものの、そこには予想通りの人物が立っていた。

「うふふ。ようこそいらっしゃいました、ディアナ様」

少し高めの声、まるで花びらのように淡く色付く頬、きらきらと澄んだ瞳。

くすくすと微笑む姿は、まるで純真な少女のよう。

「ご挨拶ですね、ユリア嬢」

そんな彼女に、やっぱりなという気持ちで顔を顰める。

でも、ユリア嬢だけ?

アルフォンスはどこかに行っているのだろうか。

「ああ、アルフォンス様なら、別の部屋にいます。私はディアナ様が目を覚ました時に一番にお会いしたくて、ここに。ふふ、私が席を外している時じゃなくて良かった」

無邪気な笑顔に、ぞくりと肌が粟立つ。

この娘、大丈夫?

私がユリア嬢に今一番に感じているのは、“得体のしれないものへの恐怖”。

だって、今彼女から向けられている感情は、“歓迎”と“好意”にしか思えないから。

私が企んだことではないとはいえ、結果的にユリア嬢は私にざまぁ返しをされた立場だ。

だから、復讐しようとか、今度こそという嘲りとか、そういう感情を向けられるのだろうと思っていた。

けれど、目の前にいる彼女の、この天真爛漫ともいえる笑顔はどうだろう。

先程の「ようこそいらっしゃいました」という言葉にも、一切の含みなどなかった。

「あなた……一体何者なの?」

ベッドの中で後すざりをして、少しでも距離を取ろうと試みる。

そんな私を見て、ユリア嬢はくすりと笑った。

「嫌ですね、そんなに警戒しないで下さいよ。本当はディアナ様も分かっているんでしょう?」

そう、そうね。

私が悪役令嬢で転生者ならば、こんな反応をするヒロインの彼女も、きっと――――。

「ほら、ちゃんと分かってる。そうです、私は異世界からの転生者です。ふふっ、この時をどれだけ夢見ていたことか。私が望んだこととはいえ、手荒なことをしてしまってすみません、ディアナ様」

怖い。

こんなに優しい微笑みなのに。

悪意なんてひとつも見られない、まるで天使のように可憐な笑みなのに。

まるで、呑み込まれてしまいそうだ。

「さあ、これから私と一緒に楽しみましょう?」

まるで仲の良い友達を誘うかのような口ぶりでそう発するユリア嬢のことが、私はとてつもなく怖かった。