軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

知るとは、学ぶこと1

目の前にはふわふわと浮かぶ大きな球体。

「おねぇしゃま!できたね!」

「ちょっと待ってグエン!ここからが勝負よ!」

ごくりと息を呑み、そっとその球体に手袋をはめた手を近付ける。

ちょん。

よし、割れない!

そのまま球体を両手で包み、静かに胸元まで持って来る。

「す、すごぉぉい!おねぇしゃま、まほう!?」

「ふふん!これは魔法じゃないのよ?グエンもやってみる?」

「みるー!」

おおはしゃぎのグエンにお手製の紙ストローを渡す。

そう、私達は今、シャボン玉を作って遊んでいる。

ただしなかなか割れないやつ、前世では有名だったよね、砂糖を入れると割れにくくなるって。

この世界にも洗濯用の洗剤が存在しているので、シャボン玉はそう珍しいものではない。

ただし、綺麗だけどすぐ割れてしまうってだけで、子どものお遊びに用いられたりはしない。

洗濯をしている母親の周りで、子ども達が綺麗だねーって言うくらいのレベル。

でも前世では子どもはみんな大好きな遊びだったのよね。

「そうそう。吸っちゃだめよ、そうっと吹いて……あ、なかなか良い感じ!」

「できた!……でも、おねぇしゃまのより、ちっちゃい……」

賢いグエンは吸ったりせず、ちゃんと軽く吹くことができている。

……誤って吸っちゃってゲホゲホ!大丈夫!?口ゆすいで!な案件、保育士なら誰でも経験したことがあるだろう。

しかしそんなグエンも、大きなシャボン玉を作るには経験値が足りない。

「何度もやってると、だんだんコツがつかめるわよ。あ、ほら。さっきより大きい」

「ほんとだ!ぼくすごーい!」

無邪気なグエン、尊い。

きゃっきゃとはしゃぐ弟の姿に、先日精神に負った疲労が癒やされていく。

二日間の学園の休日、私は王宮でアイリス様と過ごした。

それは良いのだ、少しぶっきらぼうで素直じゃないところはあるが、アイリス様とのやり取りは楽しい。

しかしなぜかそこに第三王子殿下までついてきた。

……二日目も。

アイリス様と一緒にいる時だけならまだしも、その後に面談まで行われた。

しかもアイリス様のことだけでなく、なぜか私のことも色々と聞かれるのだ。

意味が分からない、私は仕事の面接に来たのではない。

そう思いながらも王子様を相手に無視することはできず、適当に答えていた。

いやだが、ひょっとして虹の原理などという知識を持った私を怪しんでいるのかもしれない。

腹黒策略家様が今度はなにを考えているのかと、恐ろしくて精神的にものすごく疲れてしまった。

「みてみて!ほら、おっきい!」

「わ、ホントだ!すごいねぇグエン、上手!」

先程よりも大きくできたシャボン玉に、拍手を送る。

前世でイケメンは鑑賞するだけで癒やしだと画面越しに拝んだものだが、それは二次元だけの話だったらしい。

三次元では必ずしも癒やしにはならないのだと、殿下に教えて頂いた。

ああ、アルフォンスも一応見た目はイケメンか。

奴は問題外だなと脳内でぺっと捨てる。

「おねぇしゃま、ぼくにもてぶくろ、ちょーだい!」

「うんうん、そうね。はい、どうぞ」

グエンの小さな手に毛糸の手袋をはめてやる。

前世では軍手をよく使ったが、これをはめると表面の細かな繊維がシャボン玉に触れて力が分散され、触っても壊れにくくなる。

「わあ!ほんとにさわれた!みてみて、おねぇしゃま!」

シャボン玉を持って大興奮のグエン、もしスマホを持っていたら連写していたであろうかわいさだ。

あの殿下にもこんなかわいらしい時期があったのかしら。

だとしたら、いつから腹黒策略家様に?

……グエンもいつか反抗期を迎えてお姉様と呼んでくれなくなっちゃうのかしら。

うるせー!ババア!とか言われちゃうの……?

「おねぇしゃま?なんでないてるの?」

「ご、ごめんねグエン。時の流れの残酷さをまざまざと感じちゃってね……。でもそれもひとつの成長のあかし、お姉様ちゃんと我慢してグエンのこと見守るから」

想像して涙目になってしまった私を、グエンは首を傾げながらも撫で撫でしてくれたのだった。

「シャボンダマ?なにそれ、食べもの?」

新しい遊びを提案した私に、アイリス様は眉を顰めた。

「いえ、食べるのはちょっと……。えーっと、洗濯場とかで見たことありませんか?洗剤の泡が飛んで、こう透明な玉が浮かぶやつ」

そういえば前世で、なにを思ったかふわふわと浮かぶシャボン玉にぱくりと食いついた子がいたっけ。

もちろん美味しくない……と、べーされてしまった。

そんなことを思い出しながらシャボン玉の説明をしてみたが、どうやらアイリス様はピンときていないようだ。

「洗濯してるところなんて、見たことないもの……」

唇を尖らせてアイリス様が呟く。

そっか、王女様にそんなところを見る機会なんてないか。

というか、王族だけでなく貴族も基本的に使用人の仕事をしているところを見ることはほぼない。

仕事風景(そんなところ) を主人に見せてはいけない、という風習があるからだ。

でも仕事をしている人の姿を見るのって、すごく勉強になるんだけどな。

いつも自分が見たり、食べたり、使ったりしているものが、こんな風に作られているんだって知ることができる。

こんなに大変な思いをしてやっている人がいるんだって、感謝の心が育つ。

「……ね、アイリス様。私と一緒にお散歩、しませんか?」

小さく頷くアイリス様を見て、早速殿下に許可を貰おうと侍女に声をかけるのだった。