軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王子様はそれを知りたい4

* * *

ようやく話が纏まり、ディアナはブルーム侯爵家へと帰った。

アイリスと魔法を使ってどんなことをしようかとワクワク顔をしながら馬車に乗り込むディアナを、クラウスとルッツも穏やかな表情で見送った。

その後、部屋へと戻ったふたりは執務机に座り、残った仕事を片付けながら今日のことを話していた。

「それにしてもディアナ嬢、予想以上でしたよ。あんなに面白い人だったなんて」

「……だから言っただろう。以前耳にしていた癇癪持ちだという話とは、まるで別人のようだと」

機嫌良く話すルッツとは大きく異なり、クラウスは淡々とそう返した。

「それに、無表情だとキツめの美人なのに、笑うと幼くなってかわいらしいですね。殿下の前であんなに表情豊かにされるご令嬢は、初めて見ました。殿下もディアナ嬢には甘いんですね。結構なことを言ってましたけど、咎めなかったじゃないですか」

「……私相手にあんな反応をする女性は、珍しいからな。色目を使ってしなだれかかる女共よりも、よほど好ましい」

機嫌が悪い。

そう気付きながらも、ルッツは続ける。

「へえ?そんなこと言って、悔しいんじゃないですか?今までその無駄な美貌と胡散臭い笑顔に騙された女性をわんさと見てきましたからね。俺としては面白くて仕方ないですけど、ディアナ嬢が自分に靡かなくて、殿下は面白くないんじゃないかと思うんですよね」

にやにやと笑みを深めながら見てくるルッツに、クラウスは持ったペンをバキッと折りたくなった。

「……おまえ、本当に良い性格をしているな……!」

「なんのことですか?ディアナ嬢の前でも素でしたが、彼女からは好印象を頂けたと自負していますよ?」

「そうだな、いつもは上品ぶっているくせに、珍しく一人称が“俺”だったからな」

クラウスが吐き捨てるように指摘すると、ルッツはまた笑った。

へらへらするルッツにイラッとしながらも、クラウスは平常心を保とうとひと息ついた。

「いやだがな、むしろ私を目当てにアイリスに取り入ろうとする女の 類(たぐい) でなくて良かったのだ」

「まあ、それはたしかに」

これまでクラウスは、自分の容姿を最大限利用して生きてきた。

元々クラウスは冷たい雰囲気の色合いと顔立ちをしているが、少し微笑めばそのギャップが良い!と頬を染める令嬢も多い。

しかしその中身は、どちらかといえば見た目通りの冷淡な人間であることをルッツは知っている。

実際、クラウスは心にない甘い言葉と微笑みで女性を利用したり、会談を優位に進めたりしてきた。

ディアナに対しても、クラウスは最初からある程度紳士的に接してきた。

惚れられても面倒だが、妹を任せるのだから適度に愛想良くしておかなくてはいけない、冷たい男だと嫌われ断られてしまっては元も子もないと思っていたから。

しかしディアナは、クラウスの予想のどちらでもない反応をした。

頬を染めることも、嫌悪感を滲ませることもなく、ただアイリスのことしか見ていない。

……どちらかといえば嫌悪感を抱く方に傾いていたかもしれないが。

面倒事から逃げようとしたり、遠慮無しに突っ込みを入れてきたり。

挙句の果てにはクラウスを放置し、クロイツェル公爵やルッツと盛り上がる始末。

今までクラウスが受けてきた扱いとは違う、ディアナのそれに、少々不満に思ってしまったのは事実だった。

「でもあの意味不明に機嫌を損ねるのは止めた方が良いですよ?頼ってほしかったのは分かりますけど。ディアナ嬢、面倒くさいな〜って顔、してましたよ?」

「……うるさい」

半分冗談だったのだが、やはり図星だったのかとルッツはため息をつく。

ディアナに悪気は全くなく、むしろ多忙なクラウスを気遣っての遠慮だったのだが、それがクラウスには面白くなかった。

クロイツェル公爵やルッツにならば……というディアナの発言も、また然り。

「不覚にも嬉しいと思う言葉をもらってしまったからな。それに、久しぶりに目を輝かせるアイリスを見た。全部、彼女のおかげだ。だからせめて、アイリスのためにと動いてくれる彼女の力になりたかった」

やれやれとルッツは眉を下げた。

先日のクロイツェル公爵とのやり取りを聞いた時から思っていたが、クラウスは間違いなくディアナを気にしていた。

普段のクラウスならば、お得意の誘惑攻撃をして、後は勝手にやらせておけば良いと言っただろう。

だが、今クラウスは“力になりたい”と言った。

それがアイリスへの愛情にのみよるものか、もしくは……。

「それにしても、最後にちゃんと殿下の本音を回収していくあたり、無自覚なのかわざとなのか……。どちらにせよ、末恐ろしいな」

『相談させて下さい』

『優しいお兄様ですね』

クラウスはただ、ディアナの口からその言葉を聞きたかっただけなのかもしれない。

くるくると表情を変える“癇癪令嬢”を思い浮かべて、やはり面白いなとルッツは笑んだ。

自分もまた、目の前の主人と同じく紳士の仮面を被ることが多い。

しかしそんな仮面を剥がして素を晒してしまうような、素顔で話してみたいと思ってしまうような、風変わりな令嬢。

「悪い顔をしているな」

「殿下ほどじゃありませんよ。あまりいじめて泣かせないようにして下さいよ?全く、自分だけが名前で呼べないし呼んでもらえていないからって……」

「ち、違う!」

そう否定しながらも心当たりがあるのか、クラウスはぐっと怯んだ。

そんなクラウスの反応に満足しつつ、ルッツはそういえばと疑問を口にする。

「でも彼女、どこであんな知識を得たんでしょうね?虹を作る、なんて。王宮に勤める賢人に聞いても、誰も知らないと思いますよ」

するとクラウスもまた、真面目な表情に変わる。

「……不思議なご令嬢だな。まるで別人のように人が変わったことと良い、目が離せない」

それはどういう意味で言っているのかと、ルッツは胡乱な目をする。

(虹の原理とやらもそうだが、外国の神話だの、太陽の光の色だの……。彼女のその知識は、どこから来ているんだ?)

口元に手をあて考え込むクラウスは、テラスでのディアナの姿を思い出す。

その魔法で、大切な人を激励すると良いとディアナは言った。

ちらりとクラウスを見て、今度はやれることがあるのだと、アイリスに言い聞かせた。

その時、アイリスの我儘は、なにもできず寂しかったあの子の不安の裏返しだったのだと、クラウスは気付いた。

なぜディアナはすぐに気付いたのだろう。

アイリスと似た境遇だったからかもしれない。

けれど、それだけであのように立ち振る舞い、励ますことができるだろうか?

「……もう少し、ブルーム侯爵令嬢のことを調べてみようか」

どういうつもりで調査するのか……と若干呆れながらも、ルッツはそれに反対することはしなかった。