軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

84話 甘い毒

王都のお城にやって来た俺達。国王陛下との謁見に時間がかかるという。だが、やることもないし暇だ。

王女からの依頼を受けて、王宮の地下に繁殖しているネズミ退治をする事になった。

この世界のネズミは普通の大きさである。日本でいう、ドブネズミだろう。

その上に大ネズミという種類があるが、猫ぐらいの大きさがあり食用にされている。

街の市場でも売られているし、俺も食った。味には癖はあるが、ネズミと言わなければ解らないだろう。

皆で白い防護服を着て、頭にはLEDヘッドライトを装着する。そして地下への階段を降りると、途中に鉄格子が見えてきた。

王女から貰った鍵はここで使うようだ。錆びた鉄格子の扉が軋みをあげて開いた。

そのまま長い階段を降りる。防護服に装着されている防毒マスク越しにも、臭いが侵入してくる。やっぱり生臭い。

俺でも臭いんだが、鼻が敏感な獣人達はもっと臭いはずだが……今のところは、なんともないようだ。

この世界には、水石という水を浄化する石があるのだが、ここにはそれは使われていないようだ。

この城から下水が流れ出るところに浄化槽があるらしい。

だが建設からかなりの年月が経つ、この建物の地下を改造して、いまさら城内に浄化槽を設けるのは困難なためだろうと思われる。

「アネモネ、大丈夫か?」

「うん、臭いけど大丈夫」

「何もこんな所までついてこなくても……」

「いいの! ケンイチと一緒に冒険するって言ったでしょ!」

そんな話をしているうちに、下に着いたようだ。ライトで照らした限りでは地下も石造りらしい。

地下の通路の真ん中に凹みがあり、そこを排水が流れている。確かに臭いはするが、そんなにドロドロのヘドロで塗れている感じではない。

通路には蜘蛛の巣が一杯だが、こんな暗闇にも蜘蛛がいるのだろうか? だが、チラチラと動く虫のような物が見える。

元世界でいうGやカマドウマに近い生物だろう――この虫をエサにしているのかもしれない。

う~ん、この光景はいかにも地下ダンジョンっぽいな。しかし、アニメカ○オストロの城じゃないが、白骨死体がゴロゴロじゃないだろうな……。

20~30m程進み、アネモネに明かりを付けてもらう。

魔法の光には熱はないので、ガスは平気だろう。

「アネモネ、魔法で明かりを」

「うん、 光よ!(ライト) 」

青白い光が丸い球体を形作り、地下の通路を照らす。

とりあえず、ガスチェックをする。どうやってそんなことをするのかといえば――シャングリ・ラだ。

サイトを検索すれば、メタンガスチェッカーが1万6千円程で売っているので購入。

早速使ってみるが、ガスの反応はない。

石造りの通路内に溢れる魔法の光。

だが、何かがその光に照らされて蠢いているような気がする。ヘッドライトの光を当てると無数に輝く小さな光点。

「うえ! もしかして、通路の床が全部ネズミか?」

「ぎゃー! なんにゃこれ!」

通路が綺麗な理由がわかった。こいつらに全部食いつくされていたんだろう。

振り返ると、いつの間にか後ろも蠢く黒いネズミで通路が覆い尽くされていた。

「旦那! 数は数えられないけど、100匹なんてもんじゃないだろ?」

「ああ、こりゃ1000匹単位だな」

「アネモネ火の魔法は使うなよ!」

「うん!」

返事をした彼女は俺にしがみついている。

「わわ! まとわりついてきたにゃ!」「にゃろ! あっちいけ!」

獣人達が、必死にネズミを踏みつけたり蹴りをいれて追い払おうとしているが、何せ数が多くてきりがない。

やはり防護服を着ていてよかった。それでなきゃ、ネズミに囓られまくりだったぞこりゃ。

「くそ、やむを得ん! 俺の魔法で追い払う!」

とりあえす、メタンガスの反応はない。

アイテムBOXから爆竹とターボライターを取り出して、火を付けて放る。

そして、地下通路の中にこだまするけたたましい爆音。

「ぎゃー!」「うるせぇぇぇ!」

思わず、獣人達が耳を塞ぐ。

だが爆竹が効いたのか、ネズミは潮が引くように見えなくなった。

「ほっ! 効き目はあったようだな」

「どうする旦那! こんなの剣や弓じゃどうしようもないぜ」「そうだにゃ」

「毒を使う」

「毒?」

シャングリ・ラで殺鼠剤を検索する。異世界のネズミにどれが効くか解らないので、色々と投入してみよう。

とりあえず、クマリン、ブロマジオロン、ワルファリン、そしてガラス瓶に入った液体――エチレングリコールを30個ずつ買う。

エチレングリコール以外は全部固体で、金属缶に入っている。

そして、液体を入れるための使い捨てのプラ皿を買う――100枚で3000円だ。

元世界では殺鼠剤に耐性があるネズミもいたようだが、異世界ならそれもないだろう。

「よし、お前等、金属の筒の蓋を取って、中の毒を辺りにばら撒け。手袋は脱ぐなよ」

「解ったにゃ」「おっしゃ!」

また、ちょろちょろとネズミが集まり始めているのだが、それを目掛けて殺鼠剤をぶつける。

アネモネには、通路に置いたプラ皿にエチレングリコールを入れてもらう。

「ケンイチ! 何か甘い匂いがするにゃ! いい匂いだにゃ~」「本当だぜ」

彼女達が気付いたのは、エチレングリコールの臭いだ。

「甘い臭いがして、実際に舐めると甘いんだが、毒だからな。絶対に舐めるなよ! 死ぬぞ!」

「にゃ!」「毒なのに甘いのかよ! こえぇぇ!」

エチレングリコールやジエチレングリコールは人体にも有毒だ。違法な甘味料として使われて多数の死亡事故を起こした事もある。

こんな世界で、こんな毒があることが知られたら、暗殺に使いまくられるだろう。

「甘い毒の事は誰にも喋るなよ。絶対に暗殺とかに使われるようになるからな」

「おお、剣呑剣呑……」「恐ろしいにゃ!」

とりあえず、近場には撒き終わったので、場所を移動する。

アイテムBOXから、ゴミ袋を出して殺鼠剤を分担して運びながら、バラ撒いていく。

この地下道は結構広くて入り組んでいる。

迷ったら大変なので、シャングリ・ラから、折ると光るライトスティックを購入。道しるべに置いていく。

一晩は光っているらしいので、殺鼠剤を撒く時間ぐらいは十分に光っているだろう。

「やっぱり、この服を着て正解だったな。汚れは大した事はないが、ネズミの大群に囓られまくりだったぞ」

「けど、こいつは暑くて息苦しいぜ」「そうにゃ」

「たしかにな……アネモネ、冷却の魔法を使えないか?」

「やってみる――皆、並んで」

3人で横に並ぶ。

「むー 冷却(リフリジレイション) 」

どうやら、温める魔法より、冷却の魔法の方が難しいらしい。

「お! 涼しくなった、すげぇ!」「涼しいにゃー」

その後、アネモネが自分に冷却の魔法を使った。

一休みして、涼しんでいるとまたぞろネズミ達が押し寄せてきた。

「旦那、また集まってきやがったぜ?」

「よし、もう一発お見舞いするか」

ネズミの大群の中に、再度爆竹を放り込むと、凄い勢いで、あらゆる隙間や穴にネズミが入り込んで逃げていく。

「ここは、多分雨水も流すはずだから、街道の橋が落ちたような大雨が降るとヤバいだろうな」

「けど旦那、あんな雨は滅多に降らないよ」「そうにゃ」

皆で手分けをして、殺鼠剤とエチレングリコールを床に置いていく。30個でも足りないので、ドンドン追加だ。

地下を殺鼠剤だらけにしてやる――皆で調子よく毒を撒いていたのだが……。

獣人達が、何かに反応して耳をくるくると回している。

「ケンイチ! 何か来るにゃ!」「旦那、クロ助の言う通りだぜ」

LEDの明かりで通路の奥を照らすと、大きく光る赤い宝石のような物が見える。だが、こんな所に宝石などがあるはずがない。

明かりに照らされて現れたのは、通路を塞ぐような巨大な黒いネズミ。

「大ネズミだにゃ!」「こ、こんなデカイのは見たことがないぜ!」

尻尾を入れたら体長は2m以上か。殺鼠剤の入ったゴミ袋を投げ捨てると、アイテムBOXから武器と矢筒を取り出し、獣人達に放る。

ポリカーボネートのタワーシールドも取り出して放り投げた。

「アネモネ、俺達の後ろの上に 光よ!(ライト) の魔法を」

「うん! 光よ!(ライト) 」

アネモネが出してくれた魔法の光をバックに、俺も装填済みのクロスボウを取り出して構えた。

そして、すぐさまネズミの頭へ向けて発射。

「ぎぃぃ!」

巨大ネズミの突進を、ポリカーボネートの盾で受ける。激しい衝撃でふっ飛ばされたが、なんとか大丈夫だ。

その隙に、ミャレーとニャメナが横から、大ネズミの胴体へ向けて、矢を放った。

「にゃー!」「おりゃ!」

「ぎぃぃ!」

巨大ネズミが怯んだ。俺は、すかさずアイテムBOXからカットラス刀を取り出すと、ネズミの頭蓋へ向けて鋭い刃を振り下ろした。

「ぎぃ!!」

刀がネズミの頭へ食い込むと、ひっくり返った黒い毛むくじゃらは、尻尾を振り回し、脚をバタバタさせて、すぐに動かなくなった。

「はぁ……」

「ケンイチ、大丈夫?」

アネモネの心配そうな声を横に、俺はその場でしゃがみ込み、防護服のフードを脱ぐ。

そして深呼吸をするように大きな溜息をついた。防毒マスクをしたままで運動すると息苦しいのだ。

それは獣人達も同じようで、フードを脱いだ。だが、マスクを外すとやっぱり臭い。鼻が曲がりそうだ。

ユ○ボが出せれば、このぐらいの敵ならどうって事はないんだが、この狭い通路じゃ無理だ。

「くそ、こんなのがいるなんて聞いてねぇぜ」

「あの、お姫様に一杯食わされたにゃ」

「ギルドが引き受けなかったのは、このせいかもしれんが、引き受けてしまったものは仕方ない」

俺は、巨大ネズミの死骸をアイテムBOXへ収納した。こんなのは入れたくはないが、致し方ない。

「まだいるかもな」「そうだにゃ」

「その可能性は高いな。他のが集まってこないうちに、毒をバラ撒こう」

獣人達にも、透明なバックラーと剣を渡す。結局フル装備だ。

大ネズミ用の毒もいるな。シャングリ・ラでプラ製の大きめな洗面器を買って、その中をエチレングリコールで満たす。

大きな敵がいるのが解ったので、皆で固まって行動する。

そして、主要な通路には毒を撒き終わった。脇道などは放っておいても、エサがあれば出てくるだろう。

その毒エサに食いついてくれるかが問題だ。

道しるべに置いた、スティックライトを回収しながら、出口を目指す。

ネズミがまた大量に集まってきたのを、爆竹で蹴散らしながら上に登る階段までやって来た。

そして階段を登り、鉄格子の扉に再び鍵を掛ける。

あのデカいネズミは、鉄格子を突破出来ないだろうが――小さいネズミなら、この階段からも登ってこれるな。

「あちあち~!」「暑いにゃ~」

「暑~い」

アネモネが防護服を脱ぐのを手伝ってやる。皆で装備を外し、防護服を脱ぎ捨てると汗だくだ。

防護服は使い捨てなので、ステータス画面のゴミ箱へ直行だ。ポケットに入れていた時計をチラ見する。

結局4時間程、篭っていたらしい。2時間ぐらいな感じがしてたんだが……。

「アネモネ、どこか齧られたりしてないか?」

「大丈夫だよ」

「ミャレーとニャメナは?」

「ふう……大丈夫さ。けど旦那の言うとおり、この服を着ていてよかったよ」

「あんなに沢山のネズミに食いつかれたらヤバかったにゃ」

「全く酷い目に遭ったが、毒が効けば労せずして、金が入るってわけだ」

「もう、十分苦労しているんだけど……」

ニャメナが、愚痴をこぼすのだが――千匹以上のネズミや、あのデカイ化け物と対峙するよりはマシだろう。

「あのデカブツにも毒が効けば良いけどな」

「沢山食えば効くんじゃね?」「そうだにゃ」

「毒で死んだ仲間の 屍(かばね) を食った共食いでも毒が効くからな」

「うえ~考えたくもねぇ」

「その死体を食ったネズミも死ぬにゃ?」

「ああ、死ぬ死ぬ」

某G用に売っているコ○バットやホウ酸団子と同じ仕組だ。

けど、共食いされて数が減ると、もらえる金が減るな――まぁ、危ない橋を渡るより全然良いか。病気にでもなったら大変だしな。

汗まみれになってしまったので、ベースに戻ると井戸から水を汲んで浴びる。

当然、皆で素っ裸だ。お城の裏庭でこんな格好をしていいものなのか微妙なところなので、 衝立(ついたて) を買った。

茶色い板が4枚ジグザグ形に繋がっていて、これを3組たてると、完全に目隠しが出来る。

1組8000円ぐらいだな。

「冷てぇぇぇぇ! こっちは冷たすぎる」

そう、井戸の水は冷たいのだ。

「アネモネ、被るならちょっと魔法で温めた方がいいぞ」

「大丈夫だよ」

「ウチ等も平気だにゃ~」「このぐらいどうって事ねぇ」

獣人達は勢い良く、ザバザバと水を浴びている。俺は彼女達のために、アイテムBOXからテーブルとジェットヒーターを取り出した。

ミャレーとニャメナが毛皮を乾かしているうちに――夕飯の準備でもするか。

「お疲れ様でした」

家の扉を開けて、プリムラとベルが出てきた。

「ああ、凄かったぞ。プリムラが一緒だったら、卒倒してたな」

「ええ? そんなにですか? ネズミが?」

「数もさることながら、デカい大物がいた」

俺は、アイテムBOXから、巨大ネズミを取り出した。

「キャァァ!」

叫び声を上げて、プリムラが俺の後ろに隠れてしまったので、すぐにアイテムBOXへ戻した。

目の前に現れた巨大なネズミにベルが興味を示したようなので、たしなめる。

「おっと、ベル。今のは飯じゃないからな」

「にゃー」

「こんな大きいネズミがいるんですか? 大ネズミでも、もっと小さいですよね」

「ミャレーやニャメナも初めて見たっていうから、大ネズミと違うそういう種類なのか、はたまたお城のゴミの栄養が良すぎて巨大化したのか……」

ジェットヒーターで毛皮を乾かしていたニャメナが会話に入ってきた。

「さすが、お城だよ。食い物を捨てるなんて、俺達の街じゃ考えられないからな」「そうだにゃ」

あんなに沢山のネズミの住処になるぐらい、エサがあるのか? 虫も沢山いたからな。そういうのもエサになっているのか。

そんな話をしているうちに、すっかり夕方だ。獣人達も毛皮を乾かし終わったので、飯の準備をする。

いつもカレーばっかりなので、何か他の物を――ちょっとシャングリ・ラを検索する。すると、ビーフシチューを見つけた。

ビーフシチューか――あまり食った事がないな。カレールーと同じようなチョコ状の塊になっているようだ。

要は、スープを作って、ビーフシチューの素を入れれば、出来上がるのだろう。1箱300円ぐらいだ。

肉が欲しいので、牛肉を買う。脂身は要らないので、もも肉を買おう。1kg3000円らしいので、2kg買う。

獣人達にはジャガイモの皮をピーラーで剥いてもらおう――だが、まてよ。ビーフシチューって芋入れるのかな?

まぁ、いいや、いれて食えないって事はないだろう。

「アネモネはパンを焼いてくれ」

「うん」

俺は肉をぶつ切りにして、玉ねぎと一緒に炒める。

2kgあるので、どんどんやらないとな。終わった物は、皮を剥いたジャガイモと一緒に圧力鍋の中へ投入。

火が通ったら、ビーフシチューのルーを入れれば完成なんだろう――多分。

「旦那、いつものカレーとは違うのかい?」

「たまには違うのも食ってみたいだろ」

「ウチはカレーでも良いけどにゃ」

「私も!」

そう言われると、なんだか自信がなくなるけど、普通のシチューだって美味いと言っていたから、ビーフシチューも大丈夫だろ。

あと、ハヤシライスって手もあるな。けど、あれもデミグラスソースだから、ビーフシチューと似た感じだと思うが……ちょっと乱暴か。

料理が出来上がって、食器の準備をしていると、王女がやって来た。護衛には、朝にいた茶髪の女騎士が同行している。

「ケンイチ、首尾はどうじゃな?」

「リリス様。こんなのがいるとは聞いてませんでしたよ」

俺は、アイテムBOXから巨大ネズミを取り出した。

「おおっ! やはりな……」

「その様子だと知ってましたね」

「まぁ、話には聞いていた」

「これじゃ、タダのネズミ退治じゃありませんからね。ギルドで引き受ける者もいないでしょう」

おそらくは、何人かは引き受けたのだろうが、割にあわないと途中で放り出してしまったのでは……。

「言えば、其方も引き受けてはくれぬじゃろ?」

「とにかく、この大ネズミは別料金でお願いしますよ。1匹につき金貨1枚でお願いいたします」

「むむむ……」

「出していただけないなら、他の冒険者と同様――放置して逃げますよ?」

「わかった、支払えばよいのだろう」

腕を組んで渋そうな顔をしているが、他に頼る者がいないのだろう。まさか、騎士団を投入するわけにもいくまい。

「ありがとうございます」

「それはそうと、他のネズミはないのか?」

「それは明日以降になります。今日はとりあえず様子見ですが、1000を超えると思われるネズミが地下に蠢いておりました」

「1000?」

護衛の女騎士が声を上げたのだが、すぐに非礼を詫びた。

心なしか、ちょっと彼女の顔が青いような――もしかして、ネズミが嫌いなのかもしれない。

「いやはや、数が多いとの報告も受けていたが、1000を超えるとは。それで、其方は退治出来るのか?」

「まぁ、なんとかして可能な限りは数を減らしましょう」

「承知した。其方に任す」

「ありがとうございます」

話は終わったのだが、王女がそのままスタスタとテーブルに行くと、椅子に座ってしまった。

まぁ、今日も来るんじゃないかと、多めに作っておいたけどな。それに、この王女様は大食いだし。

「そちらの騎士様もご一緒に」

「え? 私は……」

「妾は構わぬぞ。遠慮するな」

「そ、それでは……」

女騎士も席について、一緒に食事をする事になった。

騎士は居心地が悪そうだが、まぁ花は多いほうがいい――って男は、俺1人しかいないけどな。

「このミレットとは、年少の頃からの付き合いでな。姉妹のようなものだ」

「そんな、恐れ多い」

「リリス様は女性ですから、護衛も女性の方がなにかと、ご都合がよろしいでしょう」

「まさに、そのための護衛として任命されたからの」

深皿にビーフシチューを盛る。そして、アネモネが焼いてくれたパンだ。

獣人達は王女が来たので、また地面に座ってビーフシチューをパクついている。

「おおっ! これはうめぇ!」「美味いにゃ!」

「ふむ――む! これは、なんというコクととろみ」

「美味しい……」

王女と騎士の口にも合うようだ。

「今日の料理にはあまり香辛料は使っておりません。どうだアネモネ、この料理は?」

「美味しい! ――けど、カレーの方が好き」

「そうか~」

やっぱり、お子様はカレーの方が好きかぁ。

だが、獣人達と傍にいたベルが、妙な動きをしている。キョロキョロと同じ所を見ているのだ。

「どうした? 何かいるのか?」

「いや、解かんねえけど、何か気配が……」「にゃ」

俺の目には何も見えない……不思議がっていると、プリムラから声が掛かった。

「ケンイチ、このスープの作り方も教えて下さい」

「ええ? これか、確かえらい時間が掛かったはずだから、ゼロから作るのは大変だぞ? これはスープの素を使ったからすぐに出来たけどな」

「何? スープの素とは?」

王女に、アイテムBOXから出したスープの固形ルーを見せる。

「ほう! スープを乾燥させて固めた物か」

「小麦粉等をいれれば粘りが出ますので、乾燥させれば固くなります」

「王女殿下、これがあれば遠出をしてもスープが飲めます。兵士の兵糧にも利用できるのでは?」

「なるほど、乾燥されているから腐らぬわけか。うむ! これは研究させよう」

「似たような物は、ダリアで商品化されてすでに売っておりますよ」

「真か?」

「はい、妻の実家のマロウ商会で」

元々は、道具屋の爺さんが作ったグラノーラモドキだったのだが、砂糖が高価なので塩味にして、お湯に溶かせばスープになる食品として売られているのだ。

「ほう! マロウ商会といえば、ドライジーネとかいう乗り物を作っているところだの」

王女はプリムラが商人だとは聞いたが、マロウ商会の娘だとは聞いていなかったようだ。

「その通りでございます」

「ケンイチ、其方のアイテムBOXの中にドライジーネは入っておらぬのか?」

「入っておりますが……妻の身長に合わせた物ですので、リリス様だと脚が届かないのでは……」

「それは、妾が決める!」

「プリムラはいいかい?」

「 勿論(もちろん) ですわ。光栄な事でございます」

俺はアイテムBOXから、プリムラの赤いドライジーネを出した。

「おおっ、これか!」

とりあえず、俺が乗って見本を見せる。ペダルはついていないので、脚で地面を蹴って進むのだ。

「おお~っ! よし、食事が終わったら、妾に貸すがよい!」

――と言いつつ、王女はビーフシチューを4杯お代わりして、満足したようだ。

そして食事の後、王女がドライジーネに跨ったのだが、やはり脚が届かないようだ。

「後ろから押すがよい!」

「王女殿下、危のうございますよ!」

女騎士が心配なのか、ハラハラした表情で叫ぶ。

「大丈夫だ! ケンイチ、其方に頼む」

「ひっくり返ったからといって、打首にしないでくださいよ」

「そんな事をするわけがなかろう」

俺には、王侯貴族ってのはそういうイメージしかない。

王女がドレスを翻して跨ったドライジーネを俺が押す。すぐにコケるかと思ったのが、王女は一発で乗りこなしたようだ。

「おおっ! これは速いの!」

花壇を回って元の位置に戻ってくると、俺はヘトヘト――ギブアップした。

「はぁはぁ――騎士様、代わってください」

「ミレット、押すのじゃ!」

女騎士は仕方なく付き合っている感じがありありなのだが、王女が毎度この調子なので、苦労しているようだ。

だが、ドライジーネが気に入った王女は、これを買うと言い出した。

プリムラも了承したので、売買成立――値段は金貨5枚である。

なにせ、全部手作りだからな。塗装等をしていないタイプなら、もっと安いようだが。

しかし、マロウさんが愛娘にプレゼントした物を売ってもいいのだろうか?

「買い手があって、売り物があるのなら、売るのが商人ですよ」

プリムラはあまり気にしていないようだ。

王女はこのドライジーネをプロトタイプにして、王室お抱えの職人に同様の物を作らせるらしい。

さすが王家。財力が半端ないな。