作品タイトル不明
39話 となり村のクロトン一家
俺たちは、アストランティアという街へやって来ている。
怪しい婆さんがやっている店で、魔道具と魔導書というちょいとデカい買い物をしてしまったが、これも先行投資だ。
魔道具は色々な薬品の合成に使えそうだし、魔導書は魔法が使えるようになるかもしれない。
ただ婆さんの話によると、魔導書については魔法の才能が全くなければ使えないと言うのだが。
その時は、また誰かに売れば良いのだ。魔導書は希少価値から値段が下がらず高く売れるらしい。
買った魔導書はファイヤーボールの魔法――これは汎用の魔法で魔導書の数も多い。
それ故、金貨10枚(200万円)という値段で購入出来たが、強力な魔法や珍しい魔法の魔導書ともなると、桁が1つ~2つ跳ね上がると言う。
冒険者ギルドで肉が出来上がるのは夕方だ。それまでには少々時間がある。
一度家に帰って、俺だけバイクでやって来るという手もあるのだが、アネモネも街に居たいと言う。
久々の街なので楽しいのだろう。ここら辺は、まだまだ子供だ。
皆で市場を見て回り、時間を潰す。
だが歩き疲れて、どこかに腰を下ろそうかと思案していると、路地に人影が見えた。
何ともなしに見てしまったのだが、どこかで見た顔だ――。
湖の畔にあるサンタンカという漁村に住んでいる、クロトンという男――そう、俺から毛布と絵本を買っていった男だ。
何やら、ガラの悪いチンピラ風の男共に絡まれているようだが。
だが絡まれているのは彼だけではなく、腰にはアネモネと同じぐらいの歳の子供が、しがみついているのが見える。
栗色の長いウェーブヘアをポニーテールにしていて、麻のワンピースを着た女の子だ。
おそらく、彼の話にあった年頃の娘ってのは彼女の事だろう。
ガラの悪いチンピラは3人――チビ、ガリ、デブ――テンプレのような組み合わせである。
どうしようか――俺が迷っていると、アネモネが俺の袖を掴まえた。
「助けてあげないの?」
また、そういう悲しげな顔をする~。おじさんは、そういう瞳に弱いんだよなぁ。
これで絡まれているのが巨乳で美人のお姉さんなら、電光石火で助けるんだがなぁ。
それに俺はバイオレンスをやるようなキャラじゃないんだけど……薬のせいとはいえ、悪党をぶっ殺しまくってしまって今更なんだが。
「くそ、しょうがねぇ。ミャレー、俺が危なくなったら頼めるか?」
「任してにゃ」
俺は意を決したが、顔を見られると 拙(まず) いかもしれないな。俺はともかく、無頼達の矛先がアネモネへ向かうと困る。
顔を隠すためマスクをシャングリ・ラで探してみた。見れば仮面舞踏会等で使うようなマスクが売っている――300円か安い。
これってベネチアンマスクっていう名前なんだな。初めて知ったわ。
だが、並んだ商品の中に、黒い鳥のクチバシのようなペストマスクを見つけた。
これだー! お値段なんと7500円。 勿論(もちろん) 、無駄遣いだが、これには忘れていた俺の中二心が 疼(うず) いた。
男には買わねばならぬ時がある。
「ポチッとな」
落ちてきたペストマスクをつけて、アネモネに注意を 促(うなが) した。
「悪者に顔を見られると 拙(まず) いから、隠れてなさい」
「……うん」
俺のナイスなマスク姿に、アネモネがドン引きしているように見えるが、気のせいだ。
俺は、クチバシをつけたまま男達の下へ向かった。
「ちょっと待ちなぁ!」
男達の視線が一斉にこちらを向く――うっ! このプレッシャー!
「なんだ、てめぇは?」「なんだ、こいつは?」
チンピラも、ペストマスクをつけた俺にドン引きしているように見えるのだが、多分気のせいだ。
「善良な親子に因縁をつけるとは穏やかじゃねぇな」
「ハハハ、こいつが善良ってか?」「ハハハ」
どういう事だ? 何やら訳がありそうだが……。
「そうか、それじゃ親父は仕方ないとしても、女の子は助ける事にするか」
「なんだぁ? やるってのか? ああ?」
「悪い事は言わん。ここで引き下がらないと、俺様の魔法が炸裂するぜ?」
「なに? 魔法だぁ?」
俺は、アイテムBOXから爆竹とターボライターを取り出すと、導火線に火を点けてチンピラの前へ放り投げた。
爆竹の、けたたましい連続した炸裂音は路地の壁に反響しまくり、それはさらに増幅されて耳の奥がキンキンと痛い。
その音を聞いたチンピラ達は腰を抜かして尻もちをついた。
「「「ひいいい!」」」
「どうだ俺様の魔法は? 次は、お前らの身体の中で炸裂するぞぉ? ハハハ!」
「に、逃げろぉぉ!」
恐怖心に駆られたチンピラ3人衆は脱兎のごとく走りだし、1人は脚がもつれたのか盛大にコケて置いてあった木箱へ頭から突っ込んだ。
ぐったりとした男を、残った2人が担いでその場から逃げるように立ち去った。
こういうシーンでの付き物の――「覚えていろ!」が聞けると思ったのだが、そんな余裕もなかったようだ。
だが、余りの大音響に街の住民も集まってきてしまった。
見れば、クロトンもその場に硬直してビビりまくっている。娘さんは、もう半泣き状態だ――こりゃ魔法が、ちょっと効きすぎたな。
俺は慌てて散らばった爆竹の不発弾を集めると、クロトンと彼の娘の手を引き、その場から脱出した。
------◇◇◇------
クロトンと彼の娘を人気のない所まで連れてくると、俺はマスクを外し素顔を見せる。
「可愛い娘さんを抱えて面倒事かよ?」
「あんただったのか――助かった。礼を言う」
「パパ、この人は?」
「お前の絵本を売ってくれた商人さんだよ」
「ああ! 本をありがとうございます!」
彼女はポニーテールを前後に揺らし、勢い良く礼をした。
俺の臭いを辿って、アネモネとミャレーもやって来た。こういう時には獣人の鼻が役に立つ。
「あんた、魔導師だったのか?」
「ああ、その事は他言無用でな」
「無論、俺達の恩人だ。約束する」
立ち話も何なので、近くの食堂に入った。そこは木造の2階建てで古色蒼然だが、中々に味わい深く歴史がありそうな 佇(たたず) まいをしている。
子供達とミャレーは別のテーブルでミルクを飲む――ミルクは1杯小角銅貨5枚(500円)と結構高い。
そして俺達は男同士で話をする事にした。クロトンはエールを飲んでいるが、俺はミルクだ。
エールってのはビールみたいな物だが、はっきり言って不味く――元世界のビールを知っている人間には飲めた代物じゃない。
ただ誤解があるようだが、エール自体は不味くないし、ビールに比べて劣っているわけでもない。 元世界のような美味しく作る技術が無いだけなのだ。
「なんだって、あんな連中に囲まれていたんだ? 彼奴等の話じゃ知り合い風だったぞ?」
「ああ――役人をやっていた時にな、小遣い稼ぎに奴等に情報を売ったり、手心を加えたりと色々とやっていたんだ」
「それを逆手に取って 強請(ゆすり) でも始まったか?」
「そうなんだ……」
「ああいう連中が、良い顔をしているのは最初だけさ。それで街落ちして、あんな所に住んでいたのか?」
「そんなところさ」
「まぁ、俺もな――商人の揉め事ってのは嘘で、さっきみたいな魔法の件で貴族に追われている」
「そりゃ、凄い魔法持ちとくれば、貴族は放っておかないからな。あんた逃げて正解だよ。あんな子供がいれば、人質に取られる事もある」
「そりゃ、あんたも同じだろう? どこか遠くに逃げた方が良いんじゃないのか? 女房子供に危険が迫るぞ? それとも、まだ街に未練があるのか?」
「……」
返事がないって事は、まだ心残りがあるのだろう。
彼の話では、昔の伝を使って悪事の片棒を担がせようと、奴等が接触してきたらしい。
ああいう連中は、しゃぶり尽すまで止めないからな。
だが、これ以上は彼の問題だ。俺がどうこう言う話ではない。
子供達の方を見ると、アネモネとクロトンの娘は、すっかり意気投合してしまったらしい。
歳が近い子供が近くにいなかったからな。アネモネの初めての友達かもしれん。
「あの本ね~、私も作るのをお手伝いしたんだよ」
「え~本当に? 新しい本を作る時にマリーも手伝って良い?」
「うん!」
返事をしたアネモネが俺の所へ、とことことやって来た。
「マリーが新しい絵本が欲しいんだって! ケンイチは新しい本は作らないの?」
「そうか、それじゃ作るか」
「やったぁ! マリー、新しい本を作ってくれるって!」
アネモネは喜び勇んでテーブルへ戻り、彼女と話し込んでいる。
「あの本は、あんたが作ったのか?」
「まぁな。本当は絵描きなんだよ」
クロトンは黙ってエールを飲んでいるのだが……。
「あんな可愛い娘と女房――娘さんはあんたに似ていないから、奥さん似なんだろ? それじゃ美人のはずだ。それだけのお宝抱えて、この街に何の未練があるって言うんだ?」
「……その……好きな女がいてな」
「んあ? 女房以外にか?」
「ああ……」
「こいつは呆れたな。どうせ高嶺の花とかで、手の出しようもない女なんだろ?」
「馬鹿な奴だと笑ってくれ……」
エールのカップを両掌で抱え、下を向くクロトンではあるが。
なんとまぁ、こいつには呆れたわ。娘は良い子なのになぁ……。
食堂を出て彼等と別れる。彼等は普通に歩きなので、今から帰らないとサンタンカの村に着く前に暗くなってしまう。
俺たちみたいな自転車やバイクがあるならともかく、徒歩で魔物に出会ったりしたら逃げられないからな。
クロトンの娘、マリーが手を振っている。アネモネと遊ぶ約束をしたようだ。
漁村のサンタンカは橋の架かっていない川の向こうにある。川幅3mぐらいの浅い川なのだが、子供だけでは少々危険だな。
行き来するなら注意しないと。
そして日が傾く頃、冒険者ギルドへ向かい出来上がった肉を受け取ると、俺たちも帰路へつく事にした。
門を出て街道を歩き森へ到着すると、木々の間は既に青から黒に変わりつつある。
アイテムBOXからオフロードバイクを取り出すと、エンジンを掛けてヘッドライトを点けた。
ミャレーはこの暗さでも十分に見えるらしいからな。
ヘルメットを被ったアネモネを後ろに乗せると、家へ向かって走りだした。
右手に崖を見つつ走れば自然に到着するのだから、暗くても迷う事もない。
「その明かりは明るいにゃ~!」
「目がくらむから見ないほうが良いぞ」
彼女の話では魔物の気配はないと言う。
まぁ、30分もすれば家に到着するんだ。それぐらいは何とかなるだろう――と思っていたのだが。
「わわわ! こいつはちょっと失敗したな!」
森の中をヘッドライトを点けて走っているので、意外と虫が集まってくるのだ。
こいつは誤算だ。後で電球をLEDに交換しよう。
ヘッドライト用のハロゲン球を、そのまま交換出来るタイプのLED球があったはずだ。
虫に追われながらも、森を抜けて無事に到着。
普通は暗くなった森を抜けたりする奴はいない。電気という科学の光とバイクがあるから出来る芸当だ。
「ふぇ~やっと到着した」
「虫が凄かったね」
「虫ってのは、お日様と勘違いして、明かりに集まってくるんだよ」
「そうなのにゃ?」
「へぇ~」
「でも、魔法の光には集まってこないにゃ」
「青い光には集まってこないんだよ」
「そうなのにゃ?」
大雑把だが、そういう事にしておこう。LEDの説明をしても解らないだろうしな。
既に辺りは真っ暗なのだが、暗闇の中から何かが襲いかかってきた。
「うわぁ!」
押し倒され顔を舐められて、それがベルだと解った。
「なんだ、脅かすなよ」
ミャレーが警戒しない時点で危険がないのは解っていたのだが、突然だとやはり驚く。
森猫の背中を撫でながら辺りを見回すが、真っ暗――これじゃ外で料理は出来ない。
家の中でカセットコンロを使い、お湯を沸かしてインスタント物を食べる事にした。
そして彼女達のリクエストは――。
「カレー!」「カレーにゃ!」
「君等、本当にカレー好きやね」
「だって美味しいもん」「にゃー!」
――というわけで、カレーに決まった。
何かいつもカレー食ってるような気がするが、彼女達がそれで良いと言うのだから仕方ない。
だが、インスタントのカレーは肉が少ないので、今日ゲットした角ウサギの肉を炒めて追加する事にした。
インスタントでも一手間掛ければ、それなりに美味くなる。
ミャレーはそれに胡椒と鷹の爪を足している。見るからに辛そうだ。
俺とアネモネはご飯、ミャレーはパンを食べて、森猫には猫缶を2つだ。
「美味しいね」「にゃー!」
カレーを頬張る彼女達は、本当に幸せそうである。
さて、飯が食い終わったら、新しい絵本でも描くか……アネモネがあの子に約束してしまったようだしな。
題材は何が良いだろうか?
カレーを食べているアネモネに尋ねてみた。
「シンデレラが良い」
「君は、その本を持ってるだろ?」
「マリーにも見せてあげたいの!」
「なるほど、そうか」
それじゃ、シンデレラに決定だな。
ヒロインが王子様と結ばれる話だから、女の子受けも良さそうだ。
オリジナルは結構酷い話なんだがな。小さいガラスの靴に無理やり足をいれるために、指をちょん切ったりとか。
ご飯を食べ終わった後、アネモネはしばらく勉強をしていたが、随分と眠たそうだ。
あちこち歩きまわって疲れたのであろう。
今日は早めに寝ることにした。
------◇◇◇------
――次の日。
アネモネが本を描いてとせがむので、早めに仕上げる事にした。
婆さんから買った魔道具を使って、バイオディーゼル燃料が作れるか実験をしたいのだが、やむを得ない。
まぁ、バイオディーゼル燃料はまだ100L近くあるからな。急ぐ必要も無いか――。
白黒の絵なら、飯の支度とかしながらでも1日3枚ぐらいは仕上げられる。
俺が絵を描いていると外でアネモネが叫んでいる。 櫓(ろ) を漕いだクロトンが舟で彼の娘――マリーとやって来たのだ。
ここへ来るなら、舟でやって来た方が早いのだろう。
クロトンが湖で漁をする前に、マリーを俺の所へ置いて、漁が終わると連れて帰っていく。
マリーも同じ歳の友達が出来て嬉しいようだ。子供達と一緒に遊んでいるミャレーも楽しそうなのだが、精神年齢が近いのか?
外で遊び回り疲れたのか、子供達が家の中へ入ってきたので、おやつにミルクを出してやる。
ミルクを飲みながら、家の中で絵を描いている俺の姿を、アネモネとマリーが食い入るようにじっと見ている。
この世界で絵を描くような職業は滅多にいないし限られている。 所謂(いわゆる) 、宮廷画家のような職業しかないので珍しいのだろう。
「そんなに絵を描いているのが珍しいのか?」
一休みして、マリーに質問をしてみた。
「うん――凄い。どうしたら、そんなに綺麗な絵が描けるの?」
「そうさなぁ、一杯絵の勉強して一杯描いたんだよ」
「そうなんだ」
「沢山勉強すると、沢山お金が掛かるね」
アネモネは随分とシビアな感想を持つが、的を射ている。
「そうだな。勉強するのは金と時間が掛かるな」
俺がアネモネに渡した元世界の絵本は、人に見せてはダメ――と言ってあるので、彼女もマリーには見せていない。
それ故、シンデレラの絵本を作って、彼女に見せてあげたいのだろう。
それから何日か、マリーが遊びにやって来る日が続き、シンデレラの絵本も後は印刷をするだけになった、ある日の午後3時頃――。
クロトンと一緒にいた獣人の男と美しい女性、そしてマリーが船でやってきた。
そして、いきなり俺の前に麻袋を置いて懇願した。麻袋から出た音からして硬貨が入っているらしい。
「旦那、助けてくれ!」
「なんだ? どうした! 藪から棒で、全然解らんぞ?」
「ク、クロトンの奴が帰ってこねぇ」
「はぁ?」
一緒に来た女性はクロトンの女房だと言う。やはり、マリーは母親似らしい。マリーと似たような栗色の長い髪を後ろで纏めている。
――美人じゃん! しかもスタイルも良い。
こんな可愛い娘と美人妻のどこに不満があって、高嶺の花が忘れられないなどと――だが今はそれを言うまい。
クロトンは昔付き合いがあった無頼共にまた目をつけられたので、サンタンカの村から逃げ出そうとしていたらしい。
しかし引っ越しには金が要る。荷物を運ぶには荷馬車も要るし、徒歩では最低限の荷物しか持てない。
一番近いダリアまで100km、反対側のアキメネスまでは200km近く離れている……それで一稼ぎしようと考えたようだ。
クロトンは無頼共の隠れ家に香辛料が隠されているという情報をどこからか仕入れて、そいつをネコババしようと画策――。
だが、それが失敗して捕まったらしい。悪党共から使いが来て、助けたければ金を持ってこい――と言われたそうだ。
まぁ、当たり前田のクラッカー――博打で負けが込んでくると一発逆転を狙いたくなるのだが、それは九分九厘失敗に終わる。
「くそう! オイラが力ずくでも反対すれば良かったぜ……」
今更そんな事を言っても後の 祭(カーニバル) り。
クロトンの女房が金が入っているらしい麻袋の中を開いて見せた。
「私達の全財産です。こんな事を頼める義理ではないのは重々承知の上でございますが……敢えてお願いいたします」
クロトンから俺が魔法を使えると聞いたのであろう。しかしなぁ……。
袋の中を見ると、銀貨と銅貨が一杯――金貨が数枚で70~80万円ってところか。
なるほど、この金で荷馬車を買って引っ越しをするとなると少々心もとない。それで一発逆転を狙ったか。
しかし、クロトンへの身代金は金貨20枚(400万円)である。そんな金があるはずがない彼等は、切羽詰まって俺の所へやってきたようだ。
「足りないのであれば、私の……」
マリーを抱いた、奥さんにそんな事を言われてしまうのだが――そりゃ、美人でスタイルも良い。う~む……だがまぁ、悩む場面じゃないし、そんな事を要求するはずもない。
「いやいや、そんな事をしたらアネモネに嫌われちまう」
アネモネは、この奥さんと俺との会話が何を意味しているのかが解らないようだが、俺の胴にしがみついた。
「ケンイチ! マリーのお父さんを助けてあげて!」
また、アネモネが悲しそうな顔をする。そんな顔をしなくても助けてやるっての。
俺がその顔に弱いの知っててやってるでしょ。
「お父さんを助けて下さい、お願いします」
マリーも小さな手を合わせて懇願しているのだが――。
ああ――こんな可愛い女の子に懇願されたら、無下に出来ないよなぁ……。
「はぁ……ミャレー。これはまた、先手を打って闇討ちかなぁ」
「そうだにゃぁ」
「まさか、今日中に襲ってくるとは思うまい」
「にゃー」
ミャレーの目がキラリと光る。
「おっと、夜襲を掛けるってなら、オイラも行くぜ」
シャム柄の毛皮を着た獣人も眼光を光らせた。
「報酬なんてないんだぞ? いいのか?」
「クロトンには世話になっているんだ。サイネリアもマリーも俺に優しくしてくれた――ここで借りを返さにゃ、男が廃るってもんよ」
サイネリアってのは奥さんの名前らしい。俺は、クロトンを助け出すための準備に入った。
しかし、殴り込みか……全然スローライフじゃないぞ?
なんでこうなるんだ?
しかし、シャガ討伐に成功したからって俺も調子に乗りすぎかな?
これが日本なら、「放っておきなさい。警察に任せろ」で終了なんだけどな。だが、ここは異世界――それじゃ終わらない。
もし金が用意出来ても、解放されるはずもない。更に金をよこせと言ってくるはずだ。
クロトンの奥さんも獣人の男も、それを知っているから助けられる力を持っている俺を頼ってきているのだ。
幸か不幸か俺にはシャングリ・ラというチートがある。
聞けば、シャガよりは人数も少ない、大した悪党ではないようだし、 所謂(いわゆる) 雑魚ってやつだ。
まぁ、乗りかかった船ってやつだな。
『本当に、旦那は人が良いんだから!』
アマナのお小言が聞こえてくるようだ。