軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

38話 アストランティアの街

――次の日。

近くの街、アストランティアへ行くことになったので、朝食は街で食べる事にした。

戸締まりを厳重にして、アイテムBOXからオフロードバイクを出す。後ろの荷台に取り付けられていた森猫用のBOXを取り外す。

家に鍵を掛けても木製の窓だから壊されたら終了だけどな。だが盗む物は何もないが。

部屋にあるのはベッドだけ。その他のアイテムは全部アイテムBOXの中へ収納されているからな。

ヘルメットも取り出して、アネモネに被らせた。

「その変な乗り物でここまで来たにゃ?」

「そうだ。ダリアの街でも走っているだろ?」

「にゃ、ドライナントカってやつにゃ」

「これは魔法で動くけどな」

「野盗の所へ行く時に使った、馬なしで動く荷車と同じにゃ?」

「まぁそんなところだ」

俺たちはバイクで森の中を走るが、ミャレーは走っていくと言う。

獣人の最高速は時速60㎞ぐらいらしいからな。バイクと十分に並走出来る。

それに、ここからアストランティアまで5~6㎞ってところだ。それぐらいの距離なら、スタミナも余裕らしい。

まさに、ステータスを運動能力へ全振りしたような種族だ。

「よし、行くか~。アネモネ、ちゃんと掴まっていろよ」

「うん」

チョークを引いて、キック一発でエンジンが始動した。パンパンと乾いた甲高い音と共に白い煙がマフラーから流れる。

「ああ、この臭いにゃ!」

どうやら、ミャレーはこの2ストエンジンの排気煙の臭いと微かな森猫の匂いを辿って俺達に追いついたらしい。

スロットルを開けて、時速10Km~20㎞程で森の中を走り始めた。ゆっくりと走っても30分もすれば到着するはずだ。

左手に高い崖を見ながら森の中につもり積もった柔らかい腐葉土の上をバイクで走る。まるでふわふわの絨毯の上を走っているようだ。

ちょっとエンジンを吹かすと、後輪が空転して落ち葉を巻き上げる。

真っ直ぐに森の中を走れれば良いのだが、木の根っ子や倒木等があるから迂回する事も多い。

ミャレーは、それを飛び越えながら真っ直ぐ走っていってしまうのだが、俺はアネモネと2人乗りをしているから、あまり無茶は出来ない。

俺1人で乗っているなら多少の無茶をしても良いのだが、コケてアネモネに怪我でもあったら大変だ。

それでも30分ぐらいで、森の木々越しに石造りの城壁が見えてきた。

前に居たダリアよりは少々小さい街のようだ。魔物や野盗等から備えるために、大きな街は城壁を備えているのがデフォルトのようだな。

「ミャレーはアストランティアへ来た事があるのか?」

「何回かあるにゃ」

まぁ獣人の脚とスタミナなら100㎞の旅行もそんなに苦ではないとは思うが……。

そのまま直進して森の切れ目に向かって走る。そして街道の手前でバイクから降りてアイテムBOXへ収納した。

このバイクは目立つからな、いくら自転車が普及し始めたと言っても街の中では 拙(まず) いだろう。

ここから街道を歩いていく。ミャレーの話では街の門までは1㎞ぐらいだと言う。

俺達が目指すのは街の東門だ。湖にあるサンタンカの村からは街の西門の方が近い。

「アネモネ、歩けるか?」

「うん」

この世界の住民は基本歩きだ。どこへ行くのも歩き。馬を飼うのも結構金が掛かるし、それなりに裕福でなければ馬車も持てない。

田舎でも土地を持っていて農場をやっているとかな。

だが、小さい頃から歩いて暮らしているので、このぐらいの距離を歩くのは慣れっこだと言う。

俺もこの世界へやって来て散々歩きまわっていたので、かなり足腰が強化された。普段の運動不足が解消されたのだろう。

歳を取るとどうも億劫が先に立って、出不精になるからな。

それに元世界――田舎の人間程、歩かない。100m離れた店へいくのにも車を出してしまう。

それ故、都会の人間の方が、よく歩いていると思う。

通勤で家から駅まで歩く――改札から階段を登り降りしてホームへいく――そして駅から会社まで歩く。これだけでも結構な距離だ。

排気ガスがなくて空気が綺麗なら、都会の人間のほうが健康的だと思うのだが。

城壁の門を潜る――。

この街でも、検査を受けたりする事はない。通りを見ると、この街にもドライジーネが何台か走っていた。

「先ずは、冒険者ギルドへ行って登録だな」

「私もいく!」

「ウチもにゃ!」

「ミャレーは、ここの冒険者ギルドへは登録しているのか?」

「してないにゃ」

「それじゃ、ミャレーは登録しておいた方が良いかもな。ギルドへ、お使いを頼むかもしれないし」

「にゃ」

冒険者ギルドの場所はミャレーが知っていた。登録はしていないが、場所は知っているらしい。

仲間の誰かが登録をしていれば、全員登録する必要もないからな。

それは、メインストリートに面した場所にあった。石造りで2階建ての建物だ。1階部分の窓にはガラスが 嵌(はま) っている。

この世界の建物は、こういった建築様式が多いな。大きさは、ダリアのギルドより一回り小さい。

剣と盾の看板もダリアと同じ物だが、この看板はギルド共通の物らしい。

別に建物の大きさでギルドの勢力図が解るわけでもないが、街自体もダリアより少々狭いし街の大きさに合わせて、こんなものなのだろう。

両開きの扉を開けて中へ入る――。

中は明るく、透明な窓ガラスから斜めに日差しが入り込んできている。

冒険者ギルドは、この世界のハロワでもあるため、多くの人々が訪れて壁に貼られた掲示板をチェックしている。

とりあえず正面の受付へいく。白いブラウスに紅いベストを着たお姉さんが対応してくれた。

しかも巨乳である――巨乳。

大事なことなので二回言いました。

どこの世界でも、受付は見た目重視なのであろうか。巨乳に目を奪われていると、アネモネとミャレーの視線が刺さる。

「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でしょうか?」

「登録をお願いしたい」

「他のギルドへの登録は済ませていらしゃいますか?」

「はい、ダリアの商業ギルドと冒険者ギルドへ登録をしています」

「では、証を提示して下さい」

「後、こっちの獣人の登録もお願いしたい」

俺と、ミャレーの証をギルドの受付のお姉さんへ渡す。

「少々お待ち下さい」

証を受け取ったお姉さんが奥へ引っ込むと、すぐに戻ってきた。

「あ、あの! ケンイチさんはダリアでシャガの討伐をした方なんですか?」

「おい、個人情報の漏洩は困るな」

「し、失礼いたしました!」

慌てて口を押さえるお姉さんであったが可愛いから許す。でも情報を漏らされると困るな。

「登録完了いたしました。登録料は銀貨2枚(10万円)です」

ミャレーの分も金を渡したのだが、ミャレーには異議があるようだ。

「ウチの分は、ウチが払うのににゃ」

「俺の仕事を頼むかもしれないからな」

そういえば、シャガの討伐をした時に彼女も大金を貰ったはずだ。どこへしまっているのだろうか?

「金なら、ギルドの証の中へ入っているにゃ」

どうやら、この証はキャッシュカードみたいな事も出来るらしい。

証を持っていけば、登録しているどこのギルドでも引き出す事が可能のようだ。

勿論(もちろん) 、大金を引き出すとなれば事前に連絡等が必要になるのだが。

しかし金の勘定が出来ない獣人達に大金を持たせて、大丈夫なものなのであろうか。

それは余計な、お世話かもしれないが。

受付で買い取りのカウンターを教えてもらい、そこへ向かった。

ミャレーとアネモネは掲示板へいって依頼の張り紙を見ている。ミャレーは字が読めないので、アネモネが読んであげているようだ。

「おう、何を持ってきたんだい?」

金髪で長く黒い前掛けをしているニヤニヤした若い男が対応してくれた。

少々態度は気になるが、こういう所を任されているんだ仕事は出来るのだろう。

「角ウサギ3匹と鳥が4羽――それから」

日本ではないので、ウサギが3羽とは数えないようだ。

後は、大ネズミという黒いネズミが2匹。さすがにネズミの肉は食った事がないのだが、味はどうなのであろうか?

ミャレーの話では不味くはないらしいのだが。

「おおっ! アイテムBOXかよ、久々に見たぜ。全部買い取りかい?」

何もないところから獲物を出したので、男が驚いたようだ。

「いや、肉だけ欲しい。その他は買い取りで」

男は俺がアイテムBOXから取り出した獲物の状態を手を当てて確かめている。

「獲物は、まだ温かいか……これなら全部大丈夫だな。そうだなぁ、今日は予定が入っていないので、全て夕方には出来るだろう」

「それじゃ、その時に取りに来る」

「あいよ~」

男から金属製の受け取りに使うチップを貰う。ここら辺も、ギルド共通仕様のようだ。

そうそう、植物についても聞かないとな。再び受付のところへ向かった。

「ちょっと聞きたいんだが、植物の種類等が解る本とかは置いてないか?」

「薬草採取、初心者用の冊子ならございますが」

「ちょっと見せてくれないか?」

受付のお姉さんが巨乳を揺らしながら、棚から数ページの紙が纏められた冊子を取り出してくれた。

「これですけど――小四角銀貨1枚(5000円)です」

なるほど――よく利用される薬草やらが絵入りで書かれている。もちろん、ここには印刷技術は無いので全て手書きだ。

これは役に立ちそうだな。全部覚えるか書き写したら、この冊子を他の奴に売れば良いのだ。

ギルドで5000円だが、3000円ぐらいなら欲しい奴がいるかもしれない。 勿論(もちろん) 、買う。

アイテムBOXに入っている草の名前と解説が載っていた。

よく見かけた【青露草】と【赤露草】は薬草らしい。その他の植物も薬草が多いようだ。

薬草と言っても、腹に効く――とか痛みに効く――とか色々と効能があるからな。

「常に需要がある物は、常時買い取りを行なっております」

その場で赤露草10本を小四角銀貨1枚(5000円)、青露草10本を銅貨3枚(3000円)で買い取ってもらう。

アイテムBOXの中に【無我虫草】という物もあるが、こいつは毒らしい。毒の需要もそれなりにあるようだが、掲示板に貼り出してあれば買い取ると言う。

保留だな。

試しに、シャングリ・ラの買い取りへ赤露草を入れてみた――だが。

【これらの買い取りは1kg単位となっております】――と表示された。

1kgかよ。こんな草1kgって結構な量を入れないとダメだぞ? こりゃ薬草の類はギルドの方が買い取り値段が高いとみた。

元世界で漢方薬の買い取りとか袋単位だろうしなぁ。

例えば貴重な薬草――冬虫夏草みたいな物は高いかもしれないが。

「あの……虫にキノコが生えてるのって解ります?」

「ああ、ムシタケですね。あれは高いですよ。下についている虫の種類によって値段が違いますが」

「それは良い事を聞いた」

その話を聞きつつ、アイテムBOXの中を覗いて冊子に載ってない物を見つけた。

「この【黒紅玉草】ってのは冊子に載ってないのだが?」

俺は収納から黒い葉っぱに真っ赤な実がついている植物を取り出した。実の大きさは、さくらんぼぐらいか。

「ああ、これは紅玉を香辛料に使うのですよ。う~ん、これだけ新鮮な物であれば、1本小四角銀貨1枚(5000円)でお引き取り致します」

マジか? それじゃ、2本あるからこれで1万円か。

薬草採りでも結構金になるな。薬草の群生地を見つけたら、少しずつ採取してローテーションを回せば良い。

そうすれば定期収入が望めるってわけか。ふむふむ、勉強になるわぁ。

アイテムBOX内に溜めていた物は殆ど売れたので、アネモネ達に声を掛けた。

「おおい! 薬草が売れたから、飯を食いにいこうぜ」

「は~い!」「にゃ~!」

少々小金が入った1万8千円――冊子の金を引いても1万3千円である。

この世界の少々高い食い物の味はどんな物なのだろうと、通りにあった、ちょいと立派なレストランに入ろうとしたのだが――。

入店お断り……原因はミャレーだ。

「獣人差別かよ。酷いな」

「まぁ、いつもこんなもんにゃ。ウチ等は毛が抜けるからにゃ~」

ミャレーはいつものことらしくて、余り気にはしていないようだが。

仕方なく、市場の露店で飯を食う。

市場は、ダリアと同じように人の渦状態――景気は良いらしい。良い事だ。

出てきた料理は出汁も取らずに、野菜と肉を煮ただけのスープと硬いパンだ。

まぁ、こんなのが、この世界では普通の料理だ。

アイテムBOXから鰹だしを出してスープに振り掛けた。そして胡椒を少々――。

「若干まともになったかな」

他の客から見えないようにして、アネモネとミャレーの皿にも鰹だしと胡椒を入れてやる。

「美味しくなったね」

「にゃー」

アネモネとミャレーがヒソヒソ声で話しているのを聞きながら、スープにパンを浸して食べる。

とりあえず――イマイチながらも腹は満たされたので、市場を散策する。

品揃えはダリアとあまり変わらないかなぁ。 しかし、こう見ると俺が露店に並べていた品物がかなり突飛な物だったと改めて気づく。

そりゃ食いつく奴が沢山いるわけだよなぁ。

口直しに露店でリンカーを30個買う、一山銅貨3枚(3000円)だ。

「甘くて美味しいね」

リンカーを頬張るアネモネが、ミャレーに微笑みかける。

「にゃー!」

このリンカーが、市場で売っている果物の中では、一番甘みと酸味のバランスが取れている。

野菜はイマイチな世界だが、この果物は美味いと思う。

ついでに野菜も色々と買う。味はイマイチだが家の畑に野菜が育つには少々時間が掛かる故、仕方ない。

リンカーを食いながら市場を回り、外れに道具屋があるのを発見した。

こいつは、お宝の臭いがぷんぷんするぜ――入ってみるか。

看板には【スノーフレーク道具店】と書いてある。

「ちわー」

「はいよ」

中から出てきたのは、カーキ色のローブを被った婆さん。ローブの中は黒い服だ。胸には大きな緑色の宝石が光っている。

歳は不詳だが結構な歳だろう。だが随分と達者そうだ。

デカい釜で、ぐつぐつと怪しげな物を煮ている姿がよく似合いそうな気がする。

この婆さんがスノーフレークって名前なのか? その割には真っ黒なのだが……。

ウロウロと道具屋の中を見て回る。何に使うのか解らない道具が一杯だ。

「ほぇ~全然解らん」

「兄さん見かけない顔だねぇ」

兄さんときたか。まぁ、この婆さんから見れば 兄(あん) ちゃんかもしれんが。

「ダリアから来た。ダリアの市場の近くにも道具屋があったが……」

「あの爺、まだ生きてたかい?」

「んあ? もしかして知り合いかい? 爺さんはギルドマスターの師匠とか言ってたけど……」

「ああ、そいつさ。間違いない」

「あの爺さんも元気だな」

「あいつが、何か凄い発見をしたとか手紙を送ってきたけど、ボケたんじゃないだろうねぇ」

そういえば道具屋の爺さんにも悪い事しちゃったなぁ。色々と世話になったのに。

アネモネも色々と興味深そうな顔で見物して回っているが、ミャレーは全く興味がないようだ。

「何か買うのかい?」

「ああ、それじゃ射程400の可変式プラズマライフルをくれ」

「生憎それは品切れさ。在庫がある物にしておくれ」

勿論(もちろん) 、これは冗談ではあるが――婆さんもワケが解らん事を言われたので、在庫が無いと言っただけだろう――と思う。

ウロウロと歩きまわっていると、奇妙な道具を見つけた。

細長く黒い器具で上に大きな器が載っている――そして中間には小さな器。

器具の両脇からは、傘のように斜めに45度に彫られた溝が伸びていて、何かが滴り落ちる構造なのか?

器と溝の内側はガラスのような物でコーティングされている。

こいつの形を漢字で例えるならば【不】――に似ているか。

「ばぁ――いや、お姉様よ。こいつは一体なんの道具だ?」

「ほほほ、そんな物に興味があるのかい?」

婆さんは黙って手を差し出す。デモンストレーションでもしてやるから金を寄越せって言っているのだろう。

彼女に小四角銀貨1枚(5000円)を渡す。

「随分と物分かりが良いねぇ。そういう良い子には、きちんと教えてあげようかねぇ」

金を貰った婆さんはニヤニヤと笑いながら器具の準備をし始めた。

ちょっと多めに渡して正解だな。この世界でタダの物は無い――何にでも対価が必要だ。

婆さんは奥へいくと、壷に入った何かを持ってきて、器具の上の器に注ぎ込む。

色と臭いからすると、ワインのようだ。続いて下にも器をセット――そして中間の小さな器に透明な液体を注いだ。

すると――斜め45度になった溝を液体が滴り落ちてきた。

左側の器に流れてくる液体は透明だが、右側へ流れ滴る雫は紫色のままだ。

「こっちは水だな。だが、こっちは……」

紫色した液体はかなりドロドロになっているがワインだ。 ――だが、舐めてみるとアルコールの濃度がかなり上がっている。

それから導かれる結論は――。

「もしかして、上の器に入れた物から特定の物を分離する道具か?」

「ほほほ、中々察しが良いねぇ。ここの中間の器に入れた物が抜かれて左側へ落ちるんだよ」

「それじゃ、中間の器に水をいれたから、ワインから水が抜かれた――って事か?」

「ご明察。これはねぇ錬金術師が使う道具さ」

どういう仕組みかは解らんが魔道具ってやつか。科学では計り知れない動きをするな。

使えるのは液体だけで、金属類には使えないと言う。

だが、待てよ……こいつを使って植物油からグリセリンを抜く事が出来れば、安全にバイオディーゼル燃料を作れるんじゃないか?

そうすれば、あんな危険なアルカリとか使わないで済む。

「婆さん、これいくらだ?」

「はぁ? 買おうってのかい? あんたが?」

どうも婆さんは俺が買うとは思っていないようだ。

「まぁ、値段次第だが……」

「金貨5枚(100万円)だよ」

「よし! 買った!」

「本気かい!?」

婆さんが、しわくちゃの顔を驚きで一杯にする。

「本気も本気」

「ほほほ、こりゃまた随分と酔狂がいたもんだねぇ」

婆さんに金貨5枚を払って、魔道具をアイテムBOXへ収納する。

「アイテムBOXかい!? こりゃ、タマゲた!」

「婆さん、他にも面白そうな物はないかい?」

「ふむ……」

婆さんは顎に手をやると何やら思案をしていたのだが、何か思いついたように部屋の奥に消えていった。

「何を持ってくるつもりだろうか」

しばらくすると、婆さんが表紙が厚い古びた一冊の本を持ってきた。

怪しげな雰囲気を醸し出す、その本の厚さは漫画の単行本ぐらいか。

「これは?」

「魔導書さ」

魔導書キター! 実に異世界っぽいファンタジーな響き。

「魔導書? 読むと魔法が使えるようになるってやつか?」

「魔力の無い人間がいくら読んでも使えるようにはならないけどねぇ」

しかし魔法か……異世界ときたら魔法だろう。ここら辺で俺も魔法ぐらい覚えても良いんじゃないのか?

「値段は?」

「金貨10枚(200万円)だね」

「そりゃまた随分と高価だな」

「だが、これは財産にもなるからねぇ」

「そうか、魔法を覚えた後、いつでも欲しい奴に売れるってわけか……」

「そういうこった。それで? どうする?」

「う~ん……よし! 買うぞ!」

俺はアイテムBOXから金貨を10枚取り出すと、婆さんに手渡した。

「ほほほ、今日は店じまいだねぇ。魔道具は今日持って帰って良いけど、魔導書の登録には1週間程掛かるから改めて来ておくれ」

「登録?」

「魔導書ってのは通し番号が振ってあって、持ち主が代わったら報告を義務づけられているんだよ」

それだけ危険な物って事か? 元世界の日本刀の登録みたいだな。

婆さんの話では、未登録の魔導書が見つかった場合でも役所に届け出て番号を貰わないとダメらしい。

無許可所持は違法である。だが未登録で流通している魔導書も、まれにあると言う。

機嫌の良い婆さんから、アネモネには銀の指輪を――ミャレーには緑色の石が入ったネックレスをサービスに付けてもらった。

そして、店から帰り際――。

「婆さん、あの薬ってあるか? 女とやった後に使う――」

「ああ――あるよ。おやまぁ、あの獣人の女だけじゃないのかい? ほほほ、あんたも好きだねぇ。あたしも混ぜてくれんかねぇ」

冗談じゃねぇ。恐ろしい事を言うなよ。

貰ったのは小さな布に包まれた黒い丸薬。10個で小四角銀貨1枚(5000円)だ。

売りをしているような女は自前で持ってるもんだが。備えあれば憂いなしってな。

デカい買い物をした俺は、婆さんの道具屋を後にした。

おまけをもらったアネモネ達も嬉しそうである。

さて、冒険者ギルドで肉が出来るまで、まだ時間があるな。

どうするかな?