軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28話 イキナリ大所帯

――次の朝。

ふと、何かが燃える臭い。

「なんだ!?」

慌てて飛び起きた。

目に飛び込んできたのは、メラメラと燃えている山積みの死体。こりゃまた朝っぱらから、ヘビー過ぎるな……目が一発で覚めた。

さすがに50を超える 屍(かばね) を放置するわけにもいかず、爺さんが魔法で燃やしているらしい。

「お早うさん。爺さん大変な事をやらされてるな」

「おお、起きたか。なぁに、魔導師なら誰もが通る道じゃよ」

軍に徴発されたりすると、このような事を日常茶飯事的にやらされると言う。戦死者の死体を放置して、腐敗させれば疫病の原因にもなるしな。

やっぱり軍に捕まると碌な事にならんようだな。

天へ長く伸びる黒い煙をじっと見つめている女達。皆が俺の用意した白いブラウスと紺色のマキシのスカートを履いている。

昨夜は暗くてよく解らなかったが、悪党共が自分達の好みの女を残したのであろう、結構美人揃いだ。

だが、焼かれて黒焦げになった死体を見ているその顔は、悲しみの表情に見えるのだが――。

「お前達を散々苦しめた奴らのために悲しんでやるのか?」

「いいえ、そりゃ酷い事はされましたが、男共の話を聞くと悲惨な生い立ちの奴等ばかりでねぇ」

ああ、こりゃストックホルム症候群ってやつだな。人質等になって長時間狭い場所に一緒にいると、好意が芽生えてしまうというやつ。

女達と少々話していると爺さんが俺が渡したアルミ板を見つめている。

「爺さんどうした?」

「金属に変化が無いか確認をしているのじゃよ」

「本当に触媒なら変化は無いはずじゃないのか?」

「その通りだが、内部で何らかの変化が起きていて劣化等があるかもしれぬな……」

まぁ魔法が、どうやってアルミを触媒に使っているかなんて解らないけどな。

そして、この 屍(かばね) の山を作った獣人達は剥ぎとった装備を山のように積み上げていた。夜目が利くので夜半までやっていたと言う。

「こんなに持って帰るのか?」

「だって全部、金になるんですぜ? ここに捨てていったら勿体ねぇじゃないですか」

「そりゃ、そうだが。帰りは女達も荷台に乗るんだぞ?」

「ありゃ、そういえばそうか! でも建物の中にも金目の物が沢山あるんですぜぇ?」

他の冒険者達も、捨てていくのは勿体無いという意見で統一されているようだ。

「それじゃ仕方ない。俺のアイテムBOXの中へ入れてやるよ」

「さすが旦那! そう来なくっちゃ!」

俺の言葉を聞いた獣人と冒険者達は、建物の中にあった家具まで運び出し始めた。

マジかよ。まぁ容量的には問題無いとは思うが……。

街へ帰れば、ギルドからたんまり金が出るっていうのに、それを忘れてるんじゃないのか?

はした金は捨てて良いと思うんだがなぁ――まぁ、皆の世話になったんだ好きにさせてやるか。

「さて、漁りは男共に任せて朝飯を作らなきゃな」

だが人間が増えたので俺の圧力鍋で足りるか? 16人で鍋の半分ぐらいだったから、そこから女が19人+1人増えたから――ちょっと足りない?

いや、増えたのは女ばかりだから、男共より飯を食う量は少ないだろう。

ギリギリ間にあうか。足りなかったら、インスタントスープでも飲ませよう。

俺がアイテムBOXから圧力鍋を出すと背の高い大女が叫んだ。

「野菜やら畑に沢山ありますだ。掘ってきますだ!」

「ああ、そりゃ助かる。それじゃ俺は肉を出すよ」

荒野で冒険者と食事をした際に、アイテムBOXへ入っていた肉は殆ど使ってしまったので、シャングリ・ラから買うことにした。

え~と、豚肉の細切れ――1kg800円の物を買うが、どのぐらい必要だろう? 1人300gとして36人いるから……約11kg! 8800円だ。

ちょっと多いか? いや戦勝祝だ、ドーンと買ってやれ。

よし、味付けはコンソメにしよう。業務用コンソメの素500gを500円で購入したが、パウチに入っている半練り状だったので皿に出した。

コンソメの素は、1Lに18gって書いてあるから、20Lで360g――余裕だ。

女達が圧力鍋に井戸水を汲んできてくれたので料理を始める。

火を起こして、お湯を沸かしていると大女が野菜を井戸で洗い持ってきてくれた。

すると、女達があちこちから包丁やナイフを持ち寄って皮を剥き始める。

まぁ、これだけ女がいるんだから料理は任せても良いか。

「それにしても何かを忘れているような……う~ん」

しばし考えて思い出した。

「あ! アマナを荒野に置きっぱなしだよ! 迎えに行かないと、あいつは街へ帰って討伐失敗の報告をしてしまうぞ」

こりゃ 拙(まず) い。迎えに行かなければ。

丁度、建物から出てきた騎士爵様にアマナの事を話した。

「ああ、あの女の事をすっかり忘れていたな。それよりも、ケンイチ殿。今回の騒ぎに貴族が関わっている証拠を見つけたぞ」

騎士爵様が差し出したのは手紙――それには赤い封蝋が押されている。

封蝋に使う印は、いわば印鑑のような物なので、持っている貴族本人にしか使えない。

「こんな証拠を残してしまうなんて、お粗末過ぎますねぇ。それとも余程バレない自信があったのか」

「いやケンイチ殿。貴族が関わっていれば討伐の情報など筒抜けになってしまう」

「そりゃそうか。討伐が来る日になったら逃げてしまえば良いってわけだ」

「そういう事だ」

「――って、それは騎士爵様にお任せいたしますので、私はアマナを迎えに行って参ります」

「承知した」

俺は慌てて料理をしている女達の所へ向かい事情を説明する。

「ちょっと悪い! 俺は人を迎えに行ってくる。野菜が煮えたら、この調味料で味付けしてくれ。一気に全部入れないで塩梅みながらな! すぐに帰ってくるから」

「解りましたよ」

俺は、トラックに飛び乗ると、エンジンを始動した。10㎞の距離なんてトラックならあっという間だ。

爺さんが魔法を使って破壊した門を潜ると、森を抜け荒野を目指した。

時速40㎞程しか出してなかったが、15分程でキャンプ地へ到着。彼女が1人でポツンと待っていたが、俺のトラックを見つけて勢いよく手を振り始めた。

「おおい! アマナ!」

「旦那! 生きてたんですか!」

「そりゃ、生きてるに決まってる。負傷者はいるが軽傷で皆は無事だ。マロウ商会の娘さんも無事だ」

「良かったですねぇ」

アマナが俺にすがり、おいおいと泣き始めた。まさか泣かれるとは思ってなかったな。

「あたしゃ、こうやって一緒についてきましたけど、ダメだと思ってましたよ」

「はは、正直なやつだな。よし荷物を積んで皆の所へ行こうぜ。女達が飯を作っている」

「女? 野盗に捕まってた女達ですか?」

「そうだ」

彼女を助手席に乗せて、やって来た道を戻ると再び戦場となった古城跡に引き返す。

破壊された門を潜ると、トラックを乗り付けた。

「おおい! 戻ってきたぞ!」

「よくまぁ、皆無事で」

皆の無事な姿を見て、アマナが再び泣き始めた。随分と涙もろいやつだ。

まぁ、年を食うと涙腺が弱くなる。俺も、ちょっとした事で、うるうるしてしまうことがあるからな。

「マロウ商会の娘さんもよく無事で!」

「はい、ケンイチさんに助けていただきました」

俺とプリムラさん、そしてアマナで再会を喜んでいると料理をしていた女達が驚嘆の声を上げた。

「ええ? もう戻ってきたんですか? さっき出たばかりでしょ?」

「言っただろ。あの馬なしの車って奴は俺達獣人並に脚が速いんだよ」

「へぇぇ」

側にいたニャケロが得意げに女達に説明をしているのだが――それを横目に見ながらアマナがアネモネを見つけた。

「こんな子供までぇ……」

アマナがアネモネへ近づくと彼女の頭を優しく撫で始めた。

「ぐすっ……あたしの子供も生きてりゃ、このぐらいの歳に……」

「え? お前、子供いたのか?」

「ええ――流行病で亡くしてしまいましたけどね……もう10年ぐらい経つかねぇ」

聞けば、行きずりの男との間に生まれた子供で、小さいうちに病気で死んだらしい。

この世界は医療が発達していないからなぁ。子供の生存率は高くないだろう。

アマナの相手はアネモネに任せて料理を仕上げよう。腹が減ったからな。

「野菜は煮えたかい?」

「まだですよ。この鍋の使いかたも解りませんし……」

量が多いので、さすがに煮えるのに時間が掛かるらしい。

「爺さん、魔法で鍋をちょっと加熱出来ないか?」

「そうじゃな。ワシも朝から働いて腹が減ったわい」

爺さんが何かの魔法を使うと数分で鍋がぐつぐつと沸き始めた。

「さすが爺さん。よっしゃ、いい感じだ」

俺が圧力鍋の蓋を閉じると、すぐに蒸気が上がり始めた。これで、10分もすりゃ食えるようになる。

「すぐに食えるようになるぞ、食器を用意してくれ。人数分あるか?」

「本当ですか? 食器は野盗の男たちが使っていた物がありますから」

野盗は50人以上いたからな。この人数でも大丈夫だろう。

女達によって用意された深皿やスプーンは殆ど木製だが十分に使える。

「ああ――騎士爵様には俺の食器を用意した方がいいかな?」

「気にすることはないぞ?」

いつの間にか俺の後ろに騎士爵様が立っていた。周りを散策してきたらしい。

「戦場では食事すら満足に出来ないこともしばしばあるからな。こんな所で美味い食事が出来る事自体がありがたい」

「戦にも参戦した事が、おありなんですか?」

「ああ、何度かな。だが殊勲を取ったわけでもなく、未だに無役の騎士爵のままだが」

「今回のこの討伐で、役ぐらいは貰えますよ。だいたい騎士爵様のように優れたお人が無役って事がおかしい」

今回同行した冒険者達も 頷(うなず) いている。

「世の中、中々上手くはいかん」

「どうせ役立たずの大貴族の子息様とかいう連中が重役を占めてしまって、能力のある人材が割を食っているんでしょう」

「まぁ、そんなところじゃな。そんな連中は戦になっても後衛で飯を食っているだけじゃからの。 ホホホ」

あまり笑い事じゃないがなぁ。

鍋が煮えたようなので、圧を抜くと白い噴水のように勢いよく蒸気が吹き出す。

「それはどういう仕組なのじゃ?」

「鍋の蓋を締め閉じ込めて中を圧縮するんだよ。そうすると早く煮える」

「ほう、魔法でも圧縮すると温度があがるぞ。なるほど理に適っておるのう」

「あの、ケンイチさん。その鍋を商会に卸していただくのは……」

「これは、ちょっと 拙(まず) いかなぁ。しかし原理が解ったなら似たような物を作れると思いますが」

「その通りじゃ、要は蓋をぴったりと閉めれば良いのじゃろ?」

「まぁな」

話をしつつ、コンソメの素を入れる。商品の袋には水1Lに対して18gと書いてあったから、水は20Lで360gあればいいわけだ。

こいつは500gあるから約3/4だな。

皿に乗っていたコンソメの素、3/4をヘラで鍋に入れ、だしの素と胡椒も1/2瓶入れてしまう。加減が解らんが40人近くいるんだ、こんなもんだろう。

ちょっと味見をしてみる。

「ん、美味い」

ニャケロや他の冒険者達にも味見をさせてみる。

「美味いけど、もう少し塩気が欲しいな」

肉体労働した後だからな、塩分が欲しいのかもしれない。残っていたコンソメの素を全部鍋へ投入した。

そして、シャングリ・ラから【訳ありパンセット一袋】という1200円の物を20袋購入して、ビニール袋のまま地面に並べた。

もう皿に移すとかやっている場合じゃない。とりあえず食えればいい。

準備が整うと皆が一斉に料理にかぶりつきはじめた。

「おおっ! 今日のスープもウメェ! 旦那の料理はうめぇな!」

「今日は女達が手伝ってくれたぞ」

「わたし等、野菜の皮を剥いただけじゃないですか」

「ひゃぁ~このパンは柔らかくて美味しいよ! それに甘いんだ!」

「これじゃ、スープが要らないね」

この世界のパンは硬くてガチガチで乾燥している。それをスープに浸して食べるのが一般的だ。

今日の料理も皆に好評のようだ。

ただ、女達の中にいた大女――アリッサと言うらしいが、彼女は大食らいの獣人並に飯を食っていた。こいつは食事もヘビー級だ。

だが、パワーは凄い。男達に混じってデカい家具や荷物を軽々と持ち上げていた。

「ほら、たんとお食べぇ。パンもあるよ」

「……うん」

アマナはアネモネに、スープを盛ってやったり、パンを分けてあげたりと――甲斐甲斐しく世話を焼いている。

死んだ子供の面影を重ねあわせているのだろう。アネモネも嫌がっている風には見えないから好きにさせてやろう。

さて、飯も食って腹もいっぱいになったのだが、男達は再び建物内へ入り込むと中を物色し始めた。どんだけやるつもりなんだ。

それどころか畑も掘り起こして全部持っていくつもりらしい。

「だって、せっかく丹精込めて作ったのに、捨てていったら勿体ねぇべ?」

アリッサはそう言うのだが野盗の畑を丹精込めて作る事もなかろう――と思うのだが。

まぁ、とにかく彼女が真面目な性格なのは解った。

しかし俺の目の前に山と積まれた鹵獲品があるのだが少々困った事がある。

これを、アイテムBOXに入れようとしても一個ずつしか入らないのだ。とりあえず箱か何かに入れる必要があるのだが……。

シャングリ・ラでコンテナを検索してみたが、家庭で使うような小さい物しかない。値段で高い順にソートしてみると横が2m程ある大きいのが出てきた。

だが値段が高い――20万円以上だ。こんなの買ってられないぞ?

他に何か良い物は……と物色すると、あった。120㎝×80㎝の木製のパレット。パレットってのは、これに荷物を積んで、フォークリフトで持ち上げるやつだ。

中古だが、1個3000円で売っている。これに荷物を載せて、パレットをアイテムBOXへ入れれば、その上に載せた物も一緒に入るかもしれない。

試しに木製のパレットを1個買って、やってみることにした。

「おおい、暇なやつはちょっと手伝ってくれ」

俺の呼びかけに食事に後片付けからあぶれた女達が、パレットへの荷物の載せ替えを手伝ってくれた。

「旦那、これをどうするんですか?」

「まぁ、見てなって」

アイテムBOXへパレットを収納すると案の定、上に載った荷物も一緒に吸い込まれた。

「やった! 成功だ。そうと決まれば、パレットをもっと買おう」

追加でパレットを9個買い、次々と荷物を載せて、アイテムBOXへ収納していく。

「これがアイテムBOXってやつですか! 凄いもんですねぇ」

女達が口々に驚きの声を上げている。

「お前さん。あの見たことも無い金属もそうじゃが――こんなに大きなアイテムBOXを持っているのが貴族共に知られたら事じゃぞ?」

「爺さんが黙っててくれれば良いんだよ」

「わしゃ当然、黙っているがの。人の舌を抑えることは誰にも出来んぞ?」

元世界で言う――人の口に戸は立てられぬ――ってやつだ。

だが、こうなってしまったら仕方ない。稼ぐだけ稼いで、ヤバくなったら、とんずらするしかない。

昼前に全ての荷物をアイテムBOXに詰め込む作業が終わったので、故郷へ帰りたい女達をトラックで送るために出発する。

女達を村へ帰すために寄り道する事に関しては冒険者の男達も賛成している。

里帰りを希望しているのは9人。一番遠い村は、ここから30リーグ(50㎞)程離れているらしい。

「そういえば、アネモネの村は? どこらあたりなんだ?」

「ウルップ……」

「そりゃ、また遠いなぁ」

その村を知っていた冒険者の1人が 呟(つぶや) く。距離はここから75リーグ(120km)の彼方のようだ。

「帰りたいか? この車なら送って行けるぞ?」

だが彼女は黙って首を振るのみ。

「旦那! 多分、この子は口減らしに売られちまったんですよ!」

アネモネが否定しないという事は、アマナの言う事は間違いないらしい。

貧しい農家等は多人数を養っていけない、女の子では労働力にも足りない――と、そんなわけで、この手の話は多いと言う。

彼女は自分の親によって人買いに売られて、その商人をシャガが襲い――彼女が、こんな悪党の住処へやって来た顛末のようだ。

「可哀想にねぇ」

アマナがアネモネを抱きかかえて、また泣き始めたのだが……。

「アマナ、泣いてる暇はないぞ。女達を故郷へ届けるんだからな」

「解っていますよ」

「それじゃ、アネモネ。皆と一緒にダリアの街に行くか?」

彼女は黙って 頷(うなず) いた。

長旅ではないが、2~3日の村回りといえども、この人数だ――とりあえず水がいる。

アリッサに手伝ってもらい、20Lのポリタンクを10個用意して井戸から水を汲むと、アイテムBOXへ突っ込んだ。

それとトラックの燃料が必要だな。追加で20Lの改質灯油を作って燃料タンクへ入れる。

さて、情けは人のためならず――ちょっと遠回りしますか。