軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

233話 不死者

古代の遺跡と思われるダンジョンを探検中。

途中にいたケルベロスらしき魔獣を毒殺という、ちょっと卑怯っぽい手段で倒した。

勝てば官軍――倒せればなんだっていいんだ。

バカ正直に真正面から当たって、家族にけが人が出たらどうする。

俺はそんなのは嫌だね。

そのためには、卑劣という誹りも堂々と受けよう。

ケルベロスを倒した奥で、ホコリを被った古い本を見つけた。

全部で20冊ほどある。

古書としても貴重なものだろう。

アキラの話では、レイランさんに頼めば翻訳も可能だと思われるので、是非ともコレクションに加えなくては。

通路の探索は終わったが、他になにもない。

俺は再びアイテムBOXから車を出すと、皆を乗せて走り出した。

通路の突き当りを右に曲がって左に曲がる。

自動車教習所のクランクを思い出す。

車の窓のここがクランクのここに来たら、ハンドル2回切って~みたいな教え方だったが、あんなの役にたたないよな?

でもまぁ、あれでなんとか車に乗れるようになるんだから、あの教えかたで合っているのかもしれないが……。

アキラにもその話を振ってみる。

「ははは、確かになぁ。俺のときもそんな教えかただったなぁ」

「あれってば、全国共通なのか」

「一応、それで乗れるようになるわけだし……」

「そうだなぁ」

アキラも俺と一緒の意見のようだ。

とりあえず形から入ることも大事ってわけだな。

アキラが彼の知り合いについて語ってくれる。

「俺の知り合いにさぁ――半年間ずっと教習所の外周だけグルグル回っていたやつがいてな……」

「なんで外周だけ?」

「それしかできないというか、それも怪しいから他のことができなかったんだよ」

「ええ? それで免許は取れたのかい?」

「教習所って9ヶ月だか、10ヶ月ぐらいの日数制限があるらしいんだけど、それで取れなくて一回退学して入り直して取った」

「それでも取れるのはすごいような……」

「まぁ、俺もすごいと思ったよ、はは」

俺たちの会話に、他の連中は意味不明だろ。

そんな話をしているうちに、またクランクだ。

「まさか、ずっと続くってことは……おっと!」

俺はブレーキを踏んだ。

通路はそこから階段になっている。

その先も見えるが――通路一面に黒い溝。

通路の一部が切られて穴が開いている。

侵入者避けか、さっきのケルベロスが入ってこないようにする仕掛けか。

見たところ、そんなに幅はないので、ケルベロスならジャンプできそうだが……。

階段もラ○クルで降りられないこともないが、どの道穴は越えられない。

皆を降ろすと階段を降りる。

そのまま通路を進むと溝に到着した。

幅は5mぐらいか――両脇にはキャットウォークもなく、歩くことはできない。

明かりで穴を照らす。

深さも5mほどか、下には棘のようなものが見えるが、中は綺麗なのでここまで侵入した者は今までいないようだ。

「こういうのには、白骨死体が引っかかってたりするもんだが」

アキラの言葉に俺はうなずいた。

「こんな所までやって来たやつがいなかったんだろう」

「旦那、普通はあの触手が突破できないよ」

「そうだな」

「ケンイチどうするの? 橋を架ける?」

アネモネの言葉に返答しようとすると、ミャレーが声をあげた。

「ケンイチ、これは簡単にゃ! 壁走りをすればいいにゃ!」

壁を猛スピードで斜めに駆け上がり、ジャンプするらしい。

確かに獣人たちの脚力とスピードがあれば可能だし、実際に似たようなことをやったことがあるのだろう。

「まてまて、向こうがどうなっているか解らん。渡って安心したところに罠がある可能性もある」

「ああ、ありがちだな」

アキラが、なにかを思い出すようにつぶやく。

「それじゃ、どうするにゃ」

「そういえば、前に丸太で橋を架けたことがあったわぇ」

「やっぱり、そいつでいこう」

俺のアイテムBOXには丸太が入っている。

この丸太、結構活躍する場面が多い。

斜面を転がしたりすれば、武器にもなるしな。

「なんだ簡単そうだな」

「ところが、いつも苦労するのが、アイテムBOXから丸太を横にしか出せないんだ」

「ん~ああ、そういえばそうだな。アイテムBOXから出すときに、長いものは横向きに出てくるな」

アキラも収納の特性に気がついたようだ。

「そんな感じなので、穴の途中にポジションを取って丸太を出す必要がある」

「なるほどな」

橋を架けたりするときも、川に入り水に浸かって丸太を出した。

俺はアイテムBOXから重機を取り出した。

「コ○ツさん召喚!」

運転席に乗ると重機のエンジンを始動させる。

「アキラちょっと来てくれ」

「はいよ~」

彼に簡単な操作を教える。

彼はクレーンの免許も持ってるぐらいだ、バックホウも扱えるだろう。

「この左のレバーを左に倒すと、バケットが前に出るから。右に倒すと戻る」

実際にやってみせる。

「解った、簡単だな。あのバケットに乗って穴の途中まで行くって寸法なのか?」

「そうそう。他のレバーはいじらないでくれよ。バケットから落ちたら助からん」

「ははは、大丈夫だって」

一応、バケットにロープを結んで、安全帯をつけた。

これなら落ちても、下の棘に突き刺さることはない。

「旦那! あの召喚獣は、アキラの旦那の言うことを聞くのかい?」「大丈夫にゃ?」

この世界の人間は、未だに重機が俺の召喚獣だと思っている。

特に獣人たちは疑いをまったく持っていないようだ。

こんな鉄の塊が、動力で動くなんて想像もつかないのかもしれない。

カールドン辺りは、こいつは叡智の結晶だとすでに気がついているかもしれないが……。

「心配するな。お~い! アキラ」

彼に合図を送ると、バケットが前に出始めた。

「動いたぜ!」「うにゃ!」

徐々に穴の上にせり出していく。

バケットが伸び切ると、俺は身体を乗り出して穴の上で叫んだ。

「丸太召喚!」

召喚じゃないんだが、格好をつけてみた。

バケットの右側に低い木琴のような音を立てて、丸太が落ちてきてゴロゴロと転がる。

丸太はアイテムBOXに入るように約10mでカットしてあるので、5mほどのこの溝には、十分な長さがある。

「落とし穴にゃ!」

ミャレーの言うとおり、反対側の岸に落とし穴が現れた。

丸太が落ちたショックで罠が起動したのだろう。

「ありゃ! 壁走りしてたらやばかったかも……あぶねぇ」

ニャメナが尻尾を立てている。

「やっぱり、渡りきって安心しているところに罠が置いてあったか……」

落ちてきた丸太は端までゴロゴロと転がって、落ち着いた。

「もう1本!」

アイテムBOXからもう1本丸太を出す。

「アキラ、戻してくれ!」

「おう!」

バケットがガクガクと戻り始めた。

床に到着すると安全帯を外して、アキラと運転を代わる――次は俺の出番だ。

重機を操作して床に出た丸太を右端までゴロゴロと転がし、通路の壁に2本並行してピタリとくっつけた。

両脇が穴よりは、片側が壁のほうが安定するだろうし、渡りやすいだろう。

壁に手をついて渡れるしな。

運転席から降りると重機を収納し、シャングリ・ラを検索。

探すのは車輪止め。

トラックなどを駐車するときに使う、タイヤと道路に挟める三角形のあれだ。

ゴム製で2個セット、1000円ぐらいだな。

そいつを2セット購入して、2個を手前、あとの2個を奥に使う。

丸太の下に車輪止めを置くと、つま先で蹴り入れた。

「一番乗りにゃー!」

「罠に気をつけろよ」

「オッケーにゃー!」

ミャレーが長い鉄棒を持ってぴょんぴょんと飛び跳ねながら丸太橋を渡ると、向こう側を探索し始めた。

床をバシバシを叩きまくっている。

「うぎゃ! まだ穴があるにゃ!」

どうやら落とし穴だらけらしい。

探索が終わったので、皆で壁に手をつけながら渡る。

「まったく、このようなこと聖騎士様でなければ不可能じゃわ」

「その前に触手で詰むだろ?」

このアキラの言葉にニャメナが反応した。

「アキラの旦那。まずは湖を渡る船がねぇよ」

「船を作る前に、ヒポグリフを倒さないと!」

アネモネの言うとおりだが、アイテムBOXなどがなければ、計画段階でやることが山程ある。

「その前に、数ヶ月の探索を始めるための拠点を何箇所かに設置して、食料などの備蓄をしないとな」

「そのような多大な年月と国家予算をつぎ込んでの探索を、聖騎士様とわずか数人で……これが偉業でなくて、なんなのであろうか?」

アマランサスはそういう立場の人間だったので、この探索にどのぐらいの予算と人手が必要が試算している最中だろう。

「そりゃ、こんな台地の上なんて誰も探索しないよなぁ」

金がかかりすぎる上に、なにもないんじゃな。

普通は、こんな遺跡にたどり着くことすらできないだろう。

まぁ、この台地の上には、俺たちが掘り起こした祠などもあったから、足を踏み入れた人間もわずかながらはいるようだが……。

深い溝を渡りきり落とし穴を回避して、俺たちは通路の終点に到着した。

「旦那! なんだか、いそうな気がするぜ。念の為に弩弓を出してくれ」「ウチのもにゃ」

「解った」

俺は戦闘のプロである獣人たちの直感を信じた。

アイテムBOXから出したクロスボウとコンパウンドボウを獣人たちに渡す。

ミャレーは弦の張り具合を確かめ、ニャメナはボウの弦を引くと矢を番え――ジッと照準を見てから背負った。

突き当りの左から、日の光が入ってきている。

そろそろ底なのではなかろうか?

そう思いながら左に曲がると――。

「おおっ!」

俺たちが出たところは、円形のホール。

崖の影が落ちて床の半分が暗くなっており、直径は30mほどか。

上を見ると、透明な材料で屋根が覆われていて、中心にポッカリと穴が開く。

ホールの壁からは、黒い木のようなものが伸びて透明な屋根を支えている。

その屋根の上には俺が階上から落っことしたスケルトンがバラバラになって散乱していた。

骨を落とした衝撃でも、この屋根は壊れなかったらしい。

「にゃ!」「ここが奈落の底ってわけかい?」

「つ~ことは、ここにボスがいるってことになるが……」

アキラがダンジョンの構造をつぶやく。

「それって絶対にいるものなのか?」

「絶対ってわけじゃないが、あのスケルトンやらケルベロスを作ったやつはいることになるぞ」

「ケンイチ、真ん中になにかある!」

アネモネが、影になっているホール中心を指差した。

よく見ると、なにかあるようだ。

そこまで行って確かめようとしたが、目標を中心に円を描くように3mほどの溝が掘られている。

俺たちは、溝の手前で止まった。

「玉座?」

「旦那! 骨が座ってる!」「にゃ!」

「骨?」

獣人たちの言うとおり、白骨死体が椅子に座っているように見える。

頭を覆うように細かい刺繍の入った緑色のローブを着ているが、顔は骸骨だ。

骨の腕や指にはアクセサリーが沢山光り、椅子には杖がよりかかっている。

かなりの年月が立っているように見えるのだが、ローブがほこりをまとっているようにも見えない。

そういえば、俺たちが通ってきた通路にもホコリが積もっている場所はなかった。

「お宝にゃ!」「こいつはすごいぜ!」

彼女たちは骸骨の格好を見て、金目のものがあると踏んだのだろう。

「ここの主か……?」

俺は独り言でつぶやいたつもりだったのだが……。

『そうだ――横奪者どもよ』

骸骨が顔をあげて、窪んだ目の中に紅い光を灯した。

「うえ?!」「生きてるにゃ?!」

獣人たちの毛が逆立つ。

「スケルトンか?」

『ふふふ……そのような下等なものと一緒にされては困るな』

ここの主が玉座に座り直す。

確かに、スケルトンはかくかく動くだけで喋ったりはしなかった。

「いやあの――申し訳ない。ここに主がいるとは思っていなかったもので……」

『散々、我が城を荒らしておいて、よく言う』

「なぜ、バレてる!?」

「そりゃケンイチ……」

アキラが、屋根に乗っている骨の残骸を指差した。

「フヒヒ、サーセン!」

アキラの口癖が移ってしまった。

「あなた、リッチだよね?!」

骸骨を見て、アネモネが叫んだ。

『ほう……わっぱのくせに私を知っているのか』

「……ケンイチ、わっぱってなに?」

アネモネが俺のほうを見る。

「子どもって意味だよ」

「子どもじゃないし!」

『ふはは――わっぱと言われて腹を立てるのは、わっぱの証拠』

「むう!」

「アネモネ、ちょっと待て。話し合いができそうじゃないか。先にぶっ放すなよ」

「……」

ちょっと不機嫌なアネモネだが、とうのリッチはアネモネのほうを見ていない。

取るに足らない存在だと思っているのだろう。

それよりも――彼が立ち上がりゆらゆらと揺らめく指先がゆっくりとアマランサスを差した。

『この地に流れてきて1000年――また私の前に立ちふさがるのか? 聖騎士よ』

「ち、違う! 妾は聖騎士ではないぞぇ?!」

ああ、やっぱりかぁ……そうだよなぁ。

能力からみても、アマランサスが聖騎士だよなぁ。

思わぬ指摘にうろたえるアマランサスに、骨が笑う。

『ふはは、お前が聖騎士でなければなんだと言うのだ?』

骸骨が、外れそうな顎を開けて笑っているのだが、あの顎はどういう構造になっているのか。

身体も床から浮いているのか、スケルトンのようなカタカタ音もしないし、なめらかに動く。

細かい模様が入ったローブが揺れて、風に吹かれたヤナギのよう。

「聖騎士様なら、そこにおわすわぇ!」

アマランサスが俺を指差す。

俺か?

「祝福を受けたのが聖騎士っていうなら、そっちの男もそうだろ」

俺はアキラを指差した。

「あ、俺か? フヒヒ、サーセン!」

『どういうことかは知らんが、聖騎士に連なるものを生かして返すわけにはいかん――煉獄に踊りし亡者の嘆きよ、ゲヘナの門より湧き出て敵を焼き尽くせ』

俺たちが入ってきた入り口が閉じると、リッチの周りに青い光が集まり始めた。

「ええ? 問答無用?!」

「さすが、ボスだな」

『死ね―― 火炎連弾(ヘルファイヤー) 』

「皆! かたまれ!」

俺は、剣を取り出したアマランサスを抱き寄せた。

リッチが放ったのは、ファイヤーボールの上級魔法らしい。

無数の火の玉がマシンガンのように俺たちを襲う。

アンデッドで火に弱いはずなのに、自ら炎の魔法を使うのか?

「むー! 聖なる盾(プロテクション) !」

敵が放った炎に対抗するために、アネモネが防御魔法を展開する。

一面に炎の弾が撒き散らされたが、ここはすべてが石造り。

延焼するようなものはなにもない。

アネモネの透明な盾に阻まれて火はすぐに消えたが、熱気は残っている。

「あちち! 毛が焦げる!」「ぎゃあ!!」

獣人たちの身体から漂う焦げ臭いにおいが、辺りに充満する。

俺たちの頬や手の皮膚もチリチリと焼けるような感じがするが、アネモネの魔法から出たら酷い火傷を負ってしまうだろう。

加熱された空気は天井の穴から吹き抜け、床に開いた溝から新しい空気が入ってくるようだ。

『ほう……』

リッチの目が怪しく赤く光る。

一番小さなアネモネが魔法を使うとは思っていなかったのかもしれない。

「やりやがったな! これでも喰らえ!」「フシャー!」

獣人たちが背負っていたクロスボウを構えると、リッチに向けて発射した。

俺がシャングリ・ラから購入したクロスボウは、かなりの威力があるのだが――相手は骨だ。

ローブに命中したのだが、貫通してそのまますり抜けてしまった。

中身がスカスカなので、これは仕方ない。

「くそ!」

奴はアンデッド――つまり死んでいる。

「ケンイチ、やつを収納できないか?!」

アキラの言うとおり、スケルトンと同じようにアイテムBOXに収納できるはずだ。

収納できたら、ゴミ箱に投入すればいいが――。

「ここだと、やつとの距離がありすぎる!」

アイテムBOXに入れるためにはもっと近づかないと。

「聖騎士様! 妾が!」

「ちょっと!」

俺が止める間もなく、アマランサスが剣を構えて溝を飛び越えた。

彼女の脚力であれば、3mぐらいのジャンプは造作もないだろう。

「いやぁ!」

そのままアマランサスがリッチに急接近して飛び上がると、細身の剣が頭蓋の上に振り降ろされた。

『 聖なる盾(プロテクション) 』

魔物が唱えた魔法が彼女の剣を弾き飛ばすと、チリチリとした光の欠片が放射線状に飛び散る。

「ニャメナ! 俺を溝の向こうに放り投げてくれ!」

「ええ?!」

「早く!」

彼女が俺の身体を掴むと、頭上に抱え上げた。

「うぉりゃぁぁぁ!」

「あああああ!」

俺の身体を抱え上げたままダッシュすると、溝の反対側まで放り投げられゴロゴロと転がった。

「あたた――板?」

そのとき、溝に隔てられたこの空間が、黒い板張りの床だと気がついた。

板だが木製ではない。

その間にも、アマランサスの鋭い斬撃が次々とリッチに叩き込まれていたが、すべて防がれているようだ。

男としてどうかと思うのだが、アマランサスを盾にして、彼女の背中に駆け寄った。

「収納!」

必殺の収納である――が、反応なし。

もしかして、防御魔法越しに収納できないのかもしれない。

一応、アイテムBOXも魔法扱いみたいだし。

防御魔法のせいなら、そいつを破壊すればいい。

「そんな防御魔法、こいつで吹き飛ばしてやる! コ○ツ戦闘バージョン召喚!」

俺は打撲した場所をさすりながら、黄色の鋼の巨体を召喚した。

空中から現れた重機が、黒い床に落下して大きな音を立てる。

ここの床はかなり強固で、巨大な重機が落ちてもびくともしない。

魔法かなにかで強化してあるのだろうか?

黒い――もしかしてアダマンタイト?

『おおおっ!』

不死の魔物も、鋼鉄の魔獣には驚いたようだ。

骸骨には表情がないので、どんな顔をしているかは不明だが、確かに驚愕の声をあげた。

俺は重機の運転席に乗り込むと、エンジンを始動させた。

「アマランサス、下がれ!」

魔物を釘付けにしていた彼女の攻撃と入れ替わりに、巨大なアダマンタイトの刃が、不死の頭蓋を水平に薙ぎ払った。

『おおっ!』

透明な防御魔法を吹き飛ばし、後ろに下がったリッチに追撃を加えるため――ペダルを踏み込むと鋼鉄の車体を前進させて巨剣を振り上げた。

「コ○ツ両断殺! それは、 現世(うつしよ) にしがみつく未練多き亡者を、 幽世(かくりよ) に還す一撃! 相手は死ぬ!」

『ふっ…… 至高の障壁(ハイプロテクション) 』

振り降ろされた巨剣が透明な壁に阻まれた。

空中で止まった剣から光の粒子がパラパラと飛び散り、床に落ちてバウンドする。

聖なる盾(プロテクション) の上位魔法、至高の障壁である。

そのとき、部屋全体がゴロゴロと地響きを立てて、うなり始めた。

「なんの音だ?」

『汝の力を示す光弾の輝きよ、 我が敵を討て(マジックスピア) 』

いつの間にかリッチの隣にスケルトンが召喚されて、そいつの口が詠唱をしている。

「なんだそりゃ、ずるいだろ?!」

この骸骨は至高の障壁を展開しながら、召喚したスケルトンに攻撃の魔法の詠唱をさせているのだ。

普通の魔導師はそんなことはできない。

アネモネがいつも使っている 魔法矢(マジックミサイル) の数倍大きい光の槍が影の中に5本現れて、俺に狙いが定まる。

『中々、面白い余興だったぞ――死ね』

防御の透明な壁がなくなると、それによって止められていたアダマンタイトの刃が空を切り、光の槍が俺に向けて打ち出された。

「聖騎士様!」

アマランサスの叫び声が聞こえる。

「ちょっと――」

光の槍の輝きに、俺は死を覚悟した。

その一瞬で、この世界にやってきてからのことが脳裏に浮かんでは消える。

俺の目の前がまばゆい光で満たされたのだが、輝きは止まりそのまま固まっていた。

「むー! 至高の障壁!(ハイプロテクション) 」

アネモネの詠唱で顕現した巨大で透明な壁によって光の槍が遮られたのだ。

『ぬ?! まさか、わっぱが至高の障壁を使うとは……』

「子どもじゃないし!」

リッチが撃ち出した魔法は、いつのまにか重機の隣にやって来ていたアネモネの防御魔法によって、阻まれたのだ。

光が消えると、魔物の身体に変化が現れた。

なにか黄色いウネウネしたものが降りかかっている。

「ははは! リッチのマヨネーズがけの完成! こりゃ不味そう!」

コ○ツさんを挟んで、アネモネの反対側にはアキラもやって来ていた。

2人とも、獣人たちによって放り投げられて溝を越えてきたのだ。

魔物が魔法を打ち出したときに防御魔法を切ったので、そのスキをついてアキラがマヨネーズを噴射したのだろう。

ドラゴンをも倒した彼の必殺の攻撃だが、相手はアンデッドで最初から死んでいるし、呼吸もしていない。

マヨネーズで窒息させることは不可能。

それは彼も解っているに違いない。

「アネモネ、アキラ! 無茶をするな!」

「私がケンイチを助けるんだから!」

「まぁほら。俺もドラゴンスレイヤーとしていいところを見せないと駄目だし――分離!」

魔物にかけられたマヨネーズが、アキラの声とともに茶色の油に変わる。

『こ、これは油か? 面妖な……』

さすがの不死者も、自分の身体を見回してアキラのトンデモ攻撃に戸惑っているように見える。

アンデッドの類は火に弱い。

これで火を点けられれば、ダメージを与えられるかも……。

こいつは自分で火の魔法を使っていたが、油まみれになったことで、火系の魔法は封じることができたはず。

やつの攻撃の1つを縛ることはできたが、こんな化け物にどう対処すりゃいい。

俺たちがやって来た扉は閉ざされて、退路はすでに絶たれている。

俺たちのすぐ後ろには3mの溝。

まさに背水の陣。

「旦那!」「うにゃ!」

獣人たちも、溝を越えて重機の側にやってきた。

サクラに帰るためには、こいつを倒すほかない。

ケルベロスが地獄の番犬とすれば、ここは地獄の一丁目か?

やっぱりリリスを連れてこなくてよかったよ。