軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

232話 窒息

サクラの上に広がる前人未到の台地。

その果てにあった湖と遺跡という、とても素敵なシチュエーション。

こりゃ探検するっきゃない――ということで遺跡に潜り始めた。

ダンジョン化していると思われる遺跡を攻略していると魔物たちに次々と襲われる。

そのうち強敵と遭遇した。

黒くて山のような身体から突き出た3本の頭。

ルビー色に輝く身も凍るような目――ケルベロスってやつだ。

この世界にいる普通の魔物と違うようで、誰もその正体を知らないという。

かなりの強敵なのは間違いないのだが、なにも馬鹿正直に真正面からやり合う必要はない。

俺は魔物に毒を盛って、弱体化させることにした。

俺たちを誘う下層に降りる斜めの階段。

そこを塞いでいたアダマンタイトでできたと思われる、黒い格子があったのだが、それをアイテムBOXに入れて取り除いた。

下層に降りて毒を入れた餌を置くと――ケルベロスが襲ってきたので、アイテムBOXからダンプを出して通路を塞いだ。

今、ダンプの向こうにデカい魔物がいて、ウロウロこっちを探しているのが解る。

さすがに鋼鉄製の乗り物を破壊して、こっちに来るようなことはできないらしい。

低周波の唸りが収まると、何かを食べる音が聞こえてくる。

これは、毒入りの肉を食っている音らしい。

あの図体なら数十kgある肉でもあっという間に平らげてしまうだろうが――果たして毒は効くだろうか?

犬に似ているから、犬に禁忌とされている毒を選んだのだが、本当に効くかどうかは不明。

いきあたりばったりの出たとこ勝負になっているが、作戦としては間違ってないはずだ。

餌を平らげたのか、魔物が移動を始めて足音が小さくなっていく。

どうやら、廊下の奥のほうが定位置らしい。

俺は、ダンプの下に潜り込んだ。

階段の段差をズリズリと腹ばいでクリアして、そっと廊下を覗く。

俺が置いた餌は全部なくなっていた。

「やったな」

俺は小声でつぶやく。

毒が効くまでには時間がかかるだろう――一旦、皆のところに戻ることにした。

「旦那! どうだい?!」「ケンイチ!」

獣人たちがやってきた。

「ケンイチ、大丈夫?」「聖騎士様!」

「アネモネ、アマランサス――心配するな大丈夫だ」

「餌は食ったかい?」

アキラが作戦の成否を心配している。

「ああ、廊下に置いた餌は全部なくなっていた。あとは毒が本当に効くかどうかだな」

「どのぐらいの時間で効くんだ?」

「う~ん? ちょっと待ってくれ」

俺はシャングリ・ラで犬の病気の本をゲットした。

電子書籍で読んでもいいのだが、皆のいる場所でそれをやるとシャングリ・ラを使っているのがバレてしまう。

「ポチッとな」

表紙に犬の写真が載っている本が落ちてきたので、ペラペラと捲る。

「そんな本も作れるのか? どんな知識でも出し放題じゃねぇか」

「まぁな。キシリトール――あったぞ」

「どんなもんだ?」

「30分から60分で症状が出ると書いてあるな」

「そんなに早いのか。犬が食うとマジでヤバいんだな」

10kgの犬が1gのキシリトールを食べただけで、重篤な症状が出たと書いてある。

「ケンイチ! 見せて見せて!」

犬の本をアネモネに見せる。

「う~ん? アキラ、あのケルベロスって何キロぐらいあると思う?」

「ざっとラ○クルの2倍だから4t――多く見積もって5t!」

「え~と……」

10kgの犬が1gでヤバいから、約10000分の1か。

ケルベロスが5tってことは、5000kgで、盛ったキシリトールは4.5kgだから――約1111分の1。

「食わせたらヤバい量の10倍は食った計算になる」

「それじゃ確実だな。1時間後に作戦を開始すればいいってことだ」

「そうだな」

俺とアキラが話していると、後ろでなにやら騒々しい。

アネモネが読んでいる本を見ていた獣人たちが騒いでいるようだ。

「ぎゃぁぁ! ワン公の身体の中まで描いてあるじゃねぇか!」「ふぎゃぁぁ!」

犬の病気の本なので、解剖図なども詳しく描いてあるのだ。

どうやら、この世界に解剖学みたいな学問はないらしい。

そう言えば――王宮で手に入れた本の中にも生物図鑑のようなものはあったのだが、医学書やら解剖図のようなものはなかったな。

「俺は、こういう本で勉強したから、身体の中についても詳しいんだよ」

医者ではないから詳細はしらないが、絵を書くために解剖学はそれなりに勉強した。

生物学とかも好きだしな。

「ほう、リリスが聖騎士様は賢者だと申しておったが……」

「けど、こういうのは禁忌なんだろ?」

「まぁ、そうじゃろうのう。じゃが聖騎士様の知識を見ていると、この世界には必要なものだと考えさせられるのう……」

「それは間違いない。身体の構造が解れば魔法での治療も発達するかもしれないぞ」

俺たちが話しているところに、ニャメナがやってきた。

「だ、旦那……」

「どうした? ニャメナ」

「お、俺が死んだら、俺の身体は旦那の好きにしていいからさ……」

なんか、そんなことをいいながら、耳を伏せてプルプルと震えている。

「前もそんなことを言ってた気がするが――そんなことはしないから心配するな」

「で、でもよ……」

ニャメナを抱き寄せて背中をなでてやると、本当に震えているのが解る。

「ははは、よしよし」

「ケンイチ! ウチもなでるにゃ! いつもトラ公ばっかりでずるいにゃ!」

ミャレーの顎の部分をなでてやると、耳をパタパタさせている。

「よし、あと1時間だな! ケンイチ、ビールとツマミ!」

「マジかよ」

アキラは、祝福でアルコールを分解できるので、飲酒は問題ない。

テーブルと椅子を出してやり、ビールやら飲み物、ツマミとお菓子を並べる。

それとアイテムBOXからタイマーを出した。

タイマー爆弾用に買っている、キッチンに置くタイプだ。

60分にセット。

「これでアラームが鳴れば、突撃開始ってわけだ」

アキラがプルトップを取るとビールを飲み始めた。

ニャメナも飲みたいようだが、彼女はアルコールを分解できない。

駄目だな。

「ああ、みんなにも戦闘に参加してもらうから頼むぞ」

「任せて! 魔法は使っていいんだよね!」

「もちろん」

「妾にも任せてたもれ」

「でもよ、毒が効けば危険はないんだろ?」「そうだにゃ」

獣人たちはお菓子を食べ始めた。

ニャメナは、せんべいをバリバリと小気味よい音を出してかじっている。

白い牙がチラリと見えるのだが、いかにも硬そう。

「効いても弱体化だけなら、戦闘はしなくちゃならないからな。どのぐらい毒が効くのかさっぱりと解らんし」

「真正面からガチで当たるよりはマシだろ。ゲームでも状態異常攻撃は常套手段だからな」

「そういえばそうだな」

話をしていると、皆の緊張も解けたようだ。

そこにタイマーのアラームが鳴った。

「わ?!」「んにゃ?!」

タイマーの音に、獣人たちが飛び上がる。

「よし、時間だ!」

「よっしゃ! やるか!」

「うん!」

「任せてたもれ」

テーブルと椅子をアイテムBOXに収納すると、獣人たちにクロスボウを渡して、皆で斜めの階段を下る。

俺たちの目の前には鋼鉄のダンプ。

「よし、戻れ!」

「は~、いつ見ても非常識な魔法だぜ」

ニャメナがため息をつくが、シャングリ・ラで買ってアイテムBOXに入れているだけなのだが。

通路を塞いでいたダンプがなくなったので、下の廊下まで降りて左右を見回す。

「なにもいないな?」

「どうするケンイチ」

「大きな音を立てて、おびき出してみるか? 向こうの突き当りの奥に隠れているようだ」

「ははん、なるほどなぁ」

俺はアイテムBOXからメガホン型の拡声器を出した。

いつぞやお城で使ったやつだな。

すっかりとアイテムBOXの肥やしにやっていた。

「あ~あ! 只今マイクのテスト中~! おらぁ! この畜生め! 命が欲しかったら、かかってこい!」

「うにゃー!」「おらおらどうした!? 魔物なら根性見せてみろよ!」

皆でワイワイと、かなり騒々しくしたのに反応はゼロだ。

さっきは餌を置いただけでやってきたのにな。

「ここはドローンの出番だな」

アイテムBOXからクワッドローターのドローンを出して発進させた。

甲高い虫の羽音のような音を立てて飛行機械が通路を飛んでいく。

目標は通路の突き当りだ。

「あの空飛ぶ召喚獣に偵察させるんだね!」

「まったくもって便利じゃのう。これでは、どこにいても敵が隠れることすらできぬわぇ」

「空から敵の城壁の中を偵察したりするのにも使えるかもな」

「すごいにゃー」

シャガを討伐したときも、周りが明るかったら偵察に使えたかもな。

廊下を突き当りまでいって左に回ると――いた。

「いたぞ、うずくまっている。生きてはいるようだな……」

「あれだけ騒いでもやって来ないってことは、かなり毒が効いているんじゃねぇのか?」「そうだにゃ」

「ケンイチ、行く?」

アネモネが気合を入れている。

「そうだな。襲ってきたら防御の魔法を頼む」

「うん」

突進だけなら、 聖なる盾(プロテクション) で防げるだろう。

ソロリソロリと進み、角の奥を窺う。

黒山のようなデカい魔物が大きく腹で呼吸をしており、酷い獣のにおいと生臭さが漂う。

3つの黒い頭を床につけて、グルグルという低周波も聞こえてくる。

赤い目はどんよりと曇り、キラキラとした輝きを失う。

「くさっ!」

思わず鼻を摘み、吐き気をこらえる。

「うぐぐ……」「ぐにゅにゅ……」

俺でもくさいのだから、鼻のいい獣人たちには堪えるだろう。

「ケンイチ、動かないみたいだぞ?」

アキラの言うとおり、目は動いているのだが身体を動かす気配はない。

「よし、やるか! アネモネ頼むぞ? アマランサスは援護を頼む」

「任せて!」

「任せてたもれ!」

「皆、下がってくれ! コ○ツ戦闘獣召喚!」

空中から現れた黄色い重機が石の床に落ちて、カタピラが火花を散らす。

これだけの大音響が響いたというのに、目の前の魔物は全く動かない――いや、動けないのかもしれない。

俺はコ○ツさんに乗り込むと、エンジンを始動。

アネモネが、ぴょんと重機に飛び乗り運転席にやってきた。

運転席は高い位置にあるので状況を把握しやすい。

排気ガスが心配だが、斜めになった階段から換気されるに違いない。

ガタガタと石の床を傷つけて重機が魔物の前に迫ると、皆はその後ろに隠れてサポートの機会を窺う。

俺はレバーを動かし、鋼鉄のアームに取り付けられたアダマンタイトの剣を掲げた。

この段階になってもケルベロスはまったく動かない。

「コ○ツ必殺剣! 闇から生まれた魔物を涅槃に返す、一筋の光の刃! 相手は死ぬ!」

巨大な剣が振り降ろされると、中央の魔物の頭が真っ二つになった。

血が噴き出し石の床が黒く染まっていく。

「ギャオン!」

犬の声のようだが低くハモった叫び声。

悲鳴を上げたケルベロスが飛び上がったのだが、体を支えることができなくてヨタヨタしている。

立ち上がっただけで精一杯のようだ。

「くらいやがれ!」「うにゃー!」

獣人たちからクロスボウが発射されたが、まったく効いてるようには見えない。

倒れそうになりながらも、巨大な黒い壁がこちらに向かってくる。

「 聖なる盾(プロテクション) !」

アネモネの魔法で出現した透明な盾に、倒れそうになった黒い魔物の巨体が衝突した。

「はっ!」

剣を構えたアマランサスが、重機のアームを踏み台にして高くジャンプ。

まだ生きている左側の頭の鼻面に乗っかると、その場でくるりと1回転。

巨大なマズルが2つに裂け、鋭い切り口から鮮血を噴き出す。

「ギャオン!」

やはり低い犬のような叫び声だ。

「よっしゃ! 俺の出番か!? おら! マヨパワー!!」

鼻が潰れたので、口を開けて息をしている魔物の腔内に、アキラの指先から出たニュルニュルが注ぎ込まれる。

「ゲボッ!」

「オラァ! 鼻の中にもだっ!」

黄色いマヨを吐き出したら、次は吸わねばならない。

吸えば、気道の奥深くまでニュルニュルが入り込む。

そうなったら、もう自力で取り出すことはできない。

ケルベロスは巨体を横倒しにして、脚をバタバタさせ始めた。

断末魔である。

俺は、残る最後の魔物の頭に狙いを定めると、重機に装着されている巨大な剣を掲げた。

「おりゃ、串刺しだ!」

横向になって舌を出している魔物の頭に、アダマンタイトの刃が突き刺さる。

そのまま黒い頭を石の床に縫い付けると、運転席から顔を出した。

「アキラ! 真ん中と右の頭にも、マヨを突っ込んでくれ。どれが息をしているか解らん」

「おっしゃ! まっかっせっなっさいっ!」

破壊された頭でも気道が通っていれば、空気が通るかもしれない。

頭が3つってどういう構造になっているのか、さっぱりと解らん。

食道や気道も3本あって、胃や肺に繋がっているのだろうか?

魔物の身体の構造なんて考えても解らんが、全部の口をマヨで埋めれば間違いなく窒息死するだろう。

どんな強力な魔物でも生き物であれば窒息からは逃れられない。

万物窒息である。

そうやってアキラはドラゴンも倒して、ドラゴンスレイヤーとなったわけだ。

3つの気道をすべてマヨで塞がれて魔物はビクビクと痙攣し、脚をデタラメに動かし始めた。

「うわぁ、いつみてもエゲツねぇ」「あんなの、めちゃ苦しむに決まってるにゃ……」

「ははっ、ドラゴンのやつも窒息して七転八倒してたからな」

アキラはドラゴンに自ら飲み込まれて、マヨ攻撃をしたという。

「ドラゴンの中で平気だったのか?」

「潰れるようなことはなかったな」

「空気は? マヨに塗れてたんだろ?」

「頭に小さな樽を被ってな、空気の隙間を作ってた」

「それでも飲み込まれたくはないなぁ……」

「俺だって2度と御免だ」

話しているうちに、痙攣していた黒い小山は動かなくなった。

「やったな」

「おう!」

「うぉぉ! やったぜ! こんな化け物を倒すなんてよぉ!」「こんな見たこともない化け物なら自慢できるにゃ」

「聖騎士様ぁ!」

コ○ツを降りてきた俺に、アマランサスが抱きつく。

「しかしなぁ、まったく戦闘の役に立たなかったってのが……」「仕方ないにゃ、普通の獣人にこんな化け物を相手にできるはずがないにゃ」

獣人たちはあまり活躍できなかったので、しょんぼりしている。

「そうだけどよぉ……」

「ほら、この魔物も立派な牙を持ってるぞ? また飾りを作ればいい」

獣人たちは仕留めた獲物の牙などで、飾りを作って自慢をする。

口が3つもあるので牙も沢山ある。

立派な犬歯だけで6本だ。

「ええ? でも俺たちが倒したわけじゃないのに……」「そうにゃ」

「そんなことはない。ここに来るまでに十分に役に立ってくれただろ? 化け物がいると真っ先に気づいたのも、お前たちだし」

「獣人で、こんな化け物とガチでやりあって倒した――なんてことになったら、マジで英雄ものだぜ」

「そうだにゃ」

「手伝ったってだけでも自慢はできるだろう?」

「そうだけどよぉ……」

どうにも、獣人たちは戦闘であまり活躍できなかったことに、引け目を感じているようだ。

まぁ、無理に押し付けることもない。

俺は、3本の頭を持つ黒い魔物の前に立った。

「これで、アイテムBOXに収納できれば、確実に死んでいるってことになる」

「そうだな」

「収納!」

黒い巨大な魔物は、謎の空間に吸い込まれて、石の床には血溜まりだけが残った。

「やったぁ!」

「聖騎士様! やりましたぞぇ?! 新たなる偉業が増えましたわぇ!」

「こいつをサクラに持っていって、住民に見せてやろう」

「こんなの見せたら、サクラにいる獣人たちがみんな旦那にひれ伏すと思うぜ!」「そうだにゃ! 獣人は、強いやつが正義にゃ」

「大きさから言えば、クラーケンもデカかったが……」

「こっちのほうが、獲物って感じがするじゃねぇか」

「そうなのか」

どうやら獣人たちの感覚からすると、そうらしい。

なるほど――と考えていると、ニャメナが俺に抱きついてきて体をくねらせる。

息が荒くて明らかに興奮している。

「ああ! 俺はもう我慢できないぜ!」「トラ公! 盛ってる場合じゃないにゃ!」

「ほらほら、こんな所じゃできないからな」

「はぁはぁ……そんなぁ……ふぎゃー!」

ニャメナが、その場で毛を逆立てて飛び上がった。

「わぁ!」

彼女に抱きつかれていた俺も一緒に飛び上がった。

なにかと思ったら、ミャレーがニャメナの尻尾を引っ張ったのだ。

「な、なにをしやがる! クロ助!」

ニャメナが痛い尻尾をナデナデしている。

「やることがあるにゃ」「ちっ! 解ってるよ!」

他に敵がいないかとか、確認することが色々とある。

ニャメナも、冷静なミャレーに手荒い突っ込みを入れられて正気に戻ったようだ。

あのデカブツがウロウロしてたってことは、この廊下には罠はないはずだ。

アイテムBOXから車を出して廊下を端から端まで走る。

「なにもないにゃ!」「あんな化け物がいたってのに、ハズレかよ」

獣人たちが3列目シートでブーブー文句を言っている。

「いやいや、あいつは門番で、この先になにかあるのかもしれない」

ぐるりと調べて魔物がいた場所まで戻ってくると、皆で車から降りた。

石の床には黒い染みが広がっている。

「ケンイチの見立てでは、この先になにかあるってことだろ?」

アキラがこちらを見るとニヤリと笑っている。

「まぁな」

まっすぐな廊下を左に曲がると、ケルベロスが寝床にしていたと思われる場所がある。

「くせぇ!」「鼻が曲がるにゃ」

「うっぷ」

「確かに」

アネモネとアマランサスも鼻を摘んでいる。

そこを通り過ぎると、突き当たりを右――そしてすぐに突き当たりを左。

また長い直線の廊下が現れた。

「ここにも魔物がいるの?」

「解らぬのう……」

彼女たちの言うとおりになにかいるかもしれないが……。

アネモネが書いているマップを見せてもらう。

廊下の右側が岩盤、左側が穴側になっているはず。

再びアイテムBOXから車を出すと、廊下を走る。

遺跡の中を車で走るなんて、通常じゃ考えられないな。

アイテムBOXがあるからできる芸当だ。

「ケンイチ! 部屋があるにゃ!」「その隣にもあるぜ!」

獣人たちが言うように部屋が2つ見える。

とりあえず車で廊下の端まで行ってみると、また左に曲がっているようだ。

これから察するに――円筒形の穴を囲んで直線の廊下が四角に囲んでいる構造ではなかろうか。

罠などはなかったので、バックで部屋の場所まで戻って車を降りた。

リアゲートから降りた獣人たちが、扉に駆け寄ると押したり引いたりしている。

鉄ではないが、木を積み重ねた分厚い木の板でできているようだ。

「旦那! 鍵がかかってるぜ!」「びくともしないにゃ」

「よし、どいてろ――ユ○ボ召喚!」

久々に緑色のユ○ボが落ちてきた。

座席に乗り込むとエンジンを始動させ、ガラガラと扉の前まで行く。

「久々のユ○ボアタック! それは、オープン・ザ・ゲート・オブ・バビロン!」

俺は運転席のレバーを操作して、鋼鉄のバケットを扉に打ちつけた。

鋼の爪がなんなく木の扉を破壊して、真ん中から2つに折れる。

「うひょー! すげぇぜ!」「うにゃー!」

「これが噂に聞く盗賊行為じゃな!」

なんだかアマランサスが目をきらめかせている。

高貴な人は悪事に憧れでもあるのだろうか?

車体を進めて、そのままドアを押し倒した。

部屋の中は明かりがなく、真っ暗。

「罠があるかもしれないから気をつけろよ」

アイテムBOXからLEDランタンを出して、部屋の中を照らす。

「本だ!」

真っ先に叫んだのはアネモネだった。

6畳ぐらいの部屋の両脇に本棚があり、そこにボロボロの本がパラパラと並べられている。

疎らにみえるが――それでも20冊ぐらいはあるか。

「おお~っ! 結構あるなぁ」

アキラも本棚まで行って、眺めている。

「なんだよ、本かよ」「ウチらには関係ないにゃ」

獣人たちにとっては、本はお宝ではないらしい。

まぁ、字が読めるわけじゃないしな。

「読めそうか?」

「さてね……」

アキラが1冊の本に手を伸ばした。

彼が手にとった本から白い霧のようなホコリが舞い、LEDランタンの光が筋のように見える。

「ん~、帝国の文字に似ている気がするが……ちょっと読めない所もあるな」

ページが分厚い。

羊皮紙ってやつだろうが、普通の紙より長持ちするんだろうか。

「帝国の文字って難しいのか?」

「いや、母音と子音が一緒に書いてある文字だから、50音の変換表を作ればすぐに読めるようになる」

「それプラス解読作業が必要になるか……」

「まぁ、センセに頼んでみれば? そういうものの専門家だし、センセの持ってた本の中に似たような文字のものがあった気がする」

「全部デジタル化すると思うからデータで共有すればいい」

「そうだな」

「すごい魔法の本もあるかも!」

一番興奮しているのは、本好きのアネモネだ。

俺も嬉しいのだが、他のメンバーからは不評。

あまりうれしくないらしい。

やはり、お宝といえば金銀財宝ってことなのだろうか。

隣の部屋にも本があり、俺たちはプラケースに本を入れて、アイテムBOXに収納した。

あとで、じっくりと研究をしなければ。

でも、これって窃盗なんじゃ――どうにも異世界式に慣れない俺だった。