作品タイトル不明
224話 探索のために
俺はサンタンカにやって来た。
オダマキでゲットしてアイテムBOXに入っていた「豊穣の杖」の能力を調べるためだ。
シャングリ・ラで買った、土壌検査キットというのを使って調べていく。
畑の土を水に溶かして、そこにリトマス試験紙のような紙を突っ込む。
そこに現れる色を見本と照らし合わせることで、成分が把握できるわけだ。
俺は試験紙に現れた色を凝視した。
pHは酸性、窒素リン酸カリウム、全部が最低レベル。
これは間違いなく、絵に描いたような痩せた土地だ。
「うん、これは間違いなく土地が痩せてるな」
「見れば解るにゃ」「そうだよ旦那」
獣人はそう言いながらも、周囲を警戒中。
俺が、なにかやり始めたので、村人たちが集まってきている。
人が集まれば、その中には獣人の女がいるので、彼女たちはそれを警戒しているわけだ。
俺としては、そんなのは気にしていないのだが、獣人たちには気になるらしい。
「ここは、なにを植えても育たなくなってしまった畑です。本当に蘇るのでしょうか?」
「まぁ、本当にできるかどうかはやってみないと解らん」
豊穣の杖を使うためには魔力がいるらしいのだが、俺の力がそれに使えるかどうかも不明だ。
解らないから試してみるのだが、俺の力を使って魔法陣も起動させることができたし、杖も起動できるに違いない。
俺は、アイテムBOXから豊穣の杖を取り出した。
「よし、いくぞ」
木の杖を両手で持って、荒れた土地に立てる。
これで正解かどうかも解らんが、とりあえずやってみないとな。
けが人に 回復(ヒール) を使う感じで、杖の中に力を流し込む。
ドンドン力が吸われている感じがするので、間違いなく機能しているらしいが、なにも起きない。
あの転移の魔法陣と同じように、起動するまで力を注ぎ込む。
そのうち腹が減ってくるので、アイテムBOXから取り出したカロリーバーを食いながら、作業を続けた。
「ちょっと待て――まだなのか?」
そう思った瞬間、土地が広範囲に渡って光り始めた。
大気中に溢れた青い光の粒子が、土の中に染み込んでいく。
身体の中から、なにかがごっそりと持っていかれる感覚に襲われて、俺はその場に倒れ込んだ。
「ケンイチ!」
俺にアネモネが抱きついてきた。
「ケンイチ!」「旦那!」
獣人たちも心配そうな顔をしているが、杖が起動してなにか起きたのは間違いないようだ。
その結果を確かめたいが、フラフラでなにもできない。
とりあえず、アイテムBOXから取り出した飯を食うことにした。
「ふう――こいつはキツイぜ」
どうやら広範囲に渡って魔法を使うので、大量の魔力を消費するらしい。
こりゃ普通の魔導師では使うのは無理だろう。
もしくは、大魔導師クラスを複数用意するとか。
魔力をチャージした大型の魔石を使うとか。
ヘタっている場合ではない。
飯を食って復活したので、なにがどうなったのか結果を見てみないと。
俺は、再び土壌検査キットを使ってみた。
結果は――。
「pHは変わらず、窒素リン酸カリウム、全部増えてるじゃないか!」
どういうことだ?
窒素は大気中の窒素を取り込んだと考えられるが、リン酸とカリウムはどこからきた?
魔法によって無から生み出されたとでもいうのだろうか?
頭を抱える俺だが、思えば――アキラのマヨネーズだって、なにもない指先から無限に湧いて出てくる。
それに比べたら、土壌にリン酸やカリウムが増えたことぐらいは許容範囲内か……。
なにか釈然としないものは残るが、杖の効果によって土壌が改善されたのは事実。
「村長、俺の力で土は蘇った」
「ほ、本当でございますか?」
「まぁ、信じられないかもしれないが、それを確かめるためにも、ここでなにかを栽培してみてくれ」
「はは~っ! かしこまりました!」
まだ作物は栽培されていないが、数値的には豊穣の杖が使えることが解った。
「ケンイチ凄い!」
「凄いにゃー!」「さすが旦那だぜ!」
領の畑で、とりあえず化学肥料を使っていたが、俺になにかあれば使えなくなる。
そのときにはどうしようかと考えていたのだが、この杖があればそれも解決しそうだな。
大量の魔力を消費するこいつを使える魔導師がいればの話だが……。
そのあと、「豊穣の杖」の研究を行い、その使いかたを模索。
以前挫折した電弧法などの併用も考えたりしたのだが、俺は難しく考えすぎていた。
発想の転換――簡単な使いかたが判明したのだ。
その方法とは――狭い土地に連続して使うこと。
広大な土地を一気に肥沃化させようとすると膨大な力を消費するのだが、限られた狭い土地であればその限りではない。
たとえばケースに土を入れ、そこに力を使ってもまったく消費せず、しかも連続で使うことができる。
ケースの土にたっぷりと窒素リン酸カリウムを出現させてから、それを畑に撒けばいい。
普通の土を化学肥料化するわけで、これなら普通の魔導師にもできる。
これで俺になにかあっても、農業が行き詰まることはないだろう。
その分、豊穣の杖の管理が重要になるので、注意しなくては。
使いかたも極秘にしなくてはならないだろうな。
------◇◇◇------
アイテムBOXに溜まっていた住宅を吐き出したが、住宅不足はまだまだ続いている。
そりゃ、なにもない場所を開拓して、ゼロから街を作ろうというのだから仕方ない。
近場で中古住宅は漁り尽くしてしまったし、もうちょっと離れた場所の住宅も探すべきか?
少々悩むところだが、住民たちの移住は進み人口の流入は続いている。
人が増えれば、それを目当てにさらに人が集まってくる。
俺の所には、隣のツンベルギア子爵領の農民からも問い合わせが来ているのだが……。
さすがに表立って他の貴族が支配している土地から、農民を奪うことはできない。
目立たないように、1人また1人と、脱村してもらうしかないな。
それでも、バレたら揉め事になるとは思うが……。
この世界で、村を抜けるのは罪ではない。
農民がいなくなるような領地経営をする貴族が悪い、という風潮が強い。
――とはいえ、他の領が絡んでいることがバレるとマズいだろう。
リリスやアマランサス、ユリウスを含めて対応を協議中だ。
領の経営は問題なく回り、魔法を使ったサトウキビの栽培がすでに収穫を迎えており、順調に輸出を増やしている。
従来より安い値段で砂糖が買えるとあっては、売れないはずがない。
砂糖や塩の販売は専売制になっているのだが、辺境伯の俺はその権利も有している。
つまり、いくら売ってもOKってことだ。
それにここには、サトウキビの栽培に適した水辺の土地が山程ある。
元世界の琵琶湖ぐらいある巨大な湖の畔を全部農地にできるのだ。
王国の他の土地で、サトウキビに適した土地を持っているのは、この辺境伯領か――かなり規模は小さくなるが、ソバナがあるレインリリー公爵領か。
サトウキビの噂を聞きつけて、警備の目を掻い潜り何株かが領外に持ち出されたという話もある。
そりゃ是が非でも砂糖の秘密を解き明かしたいところだろうが、ここ以外でサトウキビの栽培をするのは少々難しいと思われる。
砂糖が売れれば金が入ってくるわけで、その金を使ってさらなる公共事業を行う。
計画中なのはアニス川を使った運河計画だが、かなり大規模な開発になるので、実現できるかどうか不明だ。
とりあえず船は建造しているし、マロウ商会も乗り気ではあるのだが。
毒の花やスライムの養殖は保留中。
――残るは――崖の上にあるらしい魔法陣の探索と、周辺の測量だ。
崖には滝があるが、その水源がどこなのかも気になるしな。
――そんなある日の夕方。
皆と一緒に飯を食う。
食卓の上にはスープなどの他に、なぜか肉まんが乗っている。
アネモネからのリクエストで、シャングリ・ラから買ったものを出したのだが、それを食べたサンバクが、旨さに感激して同じものを作ってくれたのだ。
一流の料理人が作ったから当然というか、冷凍食品の肉まんより数段格調高い料理に仕上がっている。
格調高い肉まんってのはどうなのよ? って思うが、美味いのは間違いない。
その肉まんを頬張りつつ、明日からの予定を話す。
「明日から、崖の上の測量に出かけるから」
当然、数日前からユリウスや家族などには相談済み。
領主がある日突然にいなくなるとかはできないからな。
「私も行くし!」
当然、アネモネはメンバーに入っている。
うちのパーティーの大魔導師様だからな。
「行くにゃー!」「ははは、俺もだぜ!」
ちょっと離れた場所でビールを飲んでいるニャメナもご機嫌だ。
逆に不機嫌な者もいる。
「「……」」
リリスとアマランサスだ。
「やはり、妾が護衛に……」
「アマランサス、崖の上に魔物はいないから護衛の必要はないよ」
「危険がないなら、妾が行ってもいいじゃろ?」
リリスが乗り出す。
「リリス、万が一ってこともあるし……」
「万が一があるなら、やはり妾が聖騎士さまの護衛に!」
こんな感じで、リリスとアマランサスが堂々巡りをしている。
アマランサスは確かに戦力になるので連れていってもいいのだが――オダマキへの旅で、リリスを留守番にしてしまった。
今回もリリスが留守番となると、ちょっと彼女が可哀想だ。
――とはいえ、未知の探検にリリスを連れていくのはちょっとなぁ……何があるか解らないし。
安全だと思っていた湖の周りの測量でさえ、結構危険があったし。
「やはり、今回は少数精鋭で行くよ」
「うん! だってリリスを連れていっても、なにもできないし」
「うぐ!」
アネモネに痛い所を突かれて、リリスが言葉に詰まっている。
「プリムラ、しばらく留守にして、領の財務のほうに問題はないな?」
「ええ、砂糖の輸出も順調ですし、作付面積も増えてます。水産加工品のほうも順調です」
「それはよかった」
「それに……」
彼女がなにか言おうとして、口をつぐんだ。
「それに? なにかあるのかい?」
「崖の上なら、女がいないから安心です……」
「最近は増やしてないじゃないか」
俺の言葉にプリムラが、プイと横を向く。
「プリムラの言うとおりじゃのう」
リリスも肉まんを頬張りながら、そんなことを言う。
「君まで、そんなことを言うのかい?」
リリスもプイと横を向いてしまった。
どうやら、測量につれていかないことが不満らしい。
「にゃはは! 強くて金持っているオスにメスが集まるのは当たり前だにゃ」「まぁなぁ、獣人のメスなら間違いなく入れ食いだし。旦那から絶対に変なにおいが出てるぜ」
「そんなわけないだろう」
獣人たちは、俺の身体からフェロモンのようなものが出ていると言い張る。
俺はそんなことはないと思うのだが、なぜか獣人に好かれているし、黙っていても獣人たちが寄ってくる。
「聖騎士様ぁ! 妾は、そんなことを気にしませんぞぇ? 聖騎士様が、至高の女を求めるのは当然のこと」
アマランサスが席を立つと、飯を食っている俺に抱きついてきた。
その様子に、料理人のサンバクも驚いている。
多分、王宮にいた頃の彼女とはあまりに違うからなのだろう。
「そんなこと言われても、お前たち以上の至高の女なんているのか?」
「……! ああん! 聖騎士様ぁ!」
アマランサスがベタベタしすぎて、飯が食えない。
「ウチもケンイチに抱きつくにゃー! ウチらも気にしないにゃー!」
飯の途中なのに獣人たちも俺に抱きついてきた。
「クロ助の言うとおりだけど、獣人の女どもは別だけどな」
獣人たちのライバルは、あくまでも獣人たちのようだ。
「「ぐぬぬ……」」
リリスとプリムラはぐぬぬのままだが――なんとか皆が納得してくれたようだ。
夕飯が終わったので、崖の上の離に行く。
暗くなった崖の上に並ぶオレンジ色のLEDの光。今日はアネモネと、森猫たちが一緒だ。
黒い影が2匹、歩く度に俺に身体をスリスリしてくる。
「お母さんたちも測量に行くのかい?」
「にゃー」
当然、行くらしい。
「にゃー」
彼女も新しい領地を開拓するようだ。
いくらベルでも、俺の足場がないと崖の上には上れないからな。
先頭を歩いているアネモネは嬉しそうで、スキップをしたりして足取りも軽い。
「アネモネ、楽しそうだな」
「うん! だって、しばらくケンイチを独り占めできるし」
「独り占めって、獣人たちやお母さんもいるんだぞ?」
「うん」
もちろん解っているとは思うが。
離に到着したので明かりを点けた。
アネモネがベッドの上に飛び乗ると、素っ裸になる。
「アネモネ、大人の女性は人前で裸になったりしないんだぞ?」
「ケンイチだからいいの!」
アイテムBOXから、彼女の寝間着を出してやる。
薄ピンク色のワンピースに着替えたアネモネが、俺の胸に飛び込んできた。
「むふー! 明日から、ケンイチを独り占め!」
俺の胸に顔を埋めて、彼女がそんなことをつぶやく。
「そうだな」
彼女の頭をなでていると、アネモネが怒り出した。
「プリムラが、ケンイチの魔法を貴族に自慢しなければ、こんなことにならなかったのに!」
「そうだな」
「その前に、ケンイチがプリムラを追い返せばよかったのに!」
「そ、そんなのできっこないだろ?」
「うう~」
わざわざ俺を追ってきてくれたのに、追い返すなんてできないに決まっている。
俺だってそこまで非道じゃないし、彼女のことは嫌いじゃない。
――美人だし、スタイルも……ゲフンゲフン。
「ほら、むくれない」
彼女の頭をなでる。
「ふわぁぁ……もう! すぐそうやってごまかそうとする!」
顔を赤くしたアネモネが怒っているが、そこが可愛い。
「うん、そうだよ。なでなで……」
「ふぁぁぁぁ……」
そこにベルもベッドの上に乗ってきて大きな身体を俺に擦り付けた。
「なんだ、お母さんもか」
アイテムBOXからブラシを出すと、ピカピカの黒い毛皮をなでる。
「みゃー」
ベッドの下からカゲもやってきた。
「ほい、アネモネは、カゲをブラシしてやってくれ」
「……うん」
ゴロリとベッドに横になったベルは気持ち良さそうにあくびをしている。
「よしよし……あ、そうだ」
俺は、あることを思い出して窓を開けた。
そこにあるのは、俺が設置したメイド用の小さな小屋。
中には、今日の当番のメイドが座っていた。
「ケンイチ様、なにか?」
「いや、なんでもないんだが……俺とリリスとアマランサスのとき以外は、メイドはいなくてもいいぞ?」
「これが仕事ですから、そうはいきません」
「そうか」
俺は、アイテムBOXからチョコレートを出して、メイドにやった。
「これでも食べてくれ」
「……あ、ありがとうございます……」
メイドが顔を赤くしているが、差し入れをもらえるとは思っていなかったのかもしれない。
「ケンイチ、私も食べる」
「寝る前に食べて、虫歯にならないかな?」
「大丈夫」
この世界の人間は歯が綺麗だ。
土壌にカルシウムが多いのかも知れないし、虫歯になるナントカ菌がいないのかも……。
獣人たちは消化の方式がちょっと違うみたいだし、やっぱり別種族なんだと思う。
それに、魔法もあるしな。
洗浄を歯に使えば、歯磨きもいらない。
そのあと、崖の上に広がる未知の大地について語り――ベッドの上でアネモネ、森猫たちと一緒に川の字になって寝た。
------◇◇◇------
――アネモネと一緒に寝た次の日の朝。
目を覚ますと、すぐにベルがやってきて、クンカクンカしている。
薄目を開けただけでも、俺が起きたって解るみたいだ。
さすが野生動物ってことなのだろうか。
俺の上では、アネモネが寝ている。
こちらは、お母さんと違ってねぼすけだ。
アネモネを腹の上からどかして、身体を起こす。
「お~い、アネモネ。朝だぞ」
「……うん」
のっそりと起きたのだが、目を擦りすぐに俺に抱きついてくる。
彼女の頭をなでる。
「ほら、起きて」
「うん」
返事はすれど、彼女は俺に抱きついたまま動かない。
彼女の服をアイテムBOXから出して、ベッドの上に置いた。
「……」
アネモネがくっついたまま離れないので、寝間着のまま彼女の靴を履かせ――そのまま服を持つと、彼女を抱いて離を出た。
一緒にベルとカゲが出てきて、俺の足下に絡みつくので歩きにくい。
崖に上る足場に近づくと、石を叩く甲高い音が聞こえてきた。
もう石工たちがやって来て作業を始めているのだ。
「領主様、おはようございます」
「おはよう」
「今日は、お姫様もご一緒ですかい?」
「ははは、まぁな」
下に降りると、すでにテーブルが設置されて料理が並べられていた。
「「「おはようございます。ご主人様」」」
並んだメイドたちから、出迎えを受ける。
「おはよう」
ズラリと並んだメイドたちだが、化粧をしたりしていつもより気合が入っている。
それを見た俺はピンと来た。
多分、昨日の夜にメイドに渡したチョコレートだな。
測量に出立する前に、マイレンにお菓子を渡してやろう。
料理人のサンバクとユリウスもいて、ちょっと離れた所で獣人たちも朝飯を食べている。
プリムラの護衛であるニャレサも一緒だ。
「ケンイチ!」
白いワンピースを着たリリスがやってきた。
「お、リリスおはよう」
「なんじゃそれは?! 妾にはそのようなことをせぬくせに」
リリスが不満を言っているのは、アネモネを抱いて連れてきたことだ。
リリスのときは、部屋に置いてきてしまうからな。
「アネモネは、まだ小さいからいいんだよ。なぁ、アネモネ」
俺の言葉を聞いた彼女は、腕から飛び降りると黙って食卓についた。
やっぱり、もう起きていたのに甘えていただけだったのか。
「リリス、次から彼女は自分で起きてくるってさ」
「むう……」
リリスが食卓についた。
「聖騎士様ぁ~おはようございます」
「はい、おはよう。アマランサス」
妙にアマランサスが上機嫌だが、彼女の言葉に俺は耳を疑った。
「今日から始まる探索に、妾も同行しますわぇ」
「ええ? リリス?」
「昨晩、母上と話し合って決めた。やはり、ケンイチだけで行かせるのは少々不安じゃ」
「私もいるけど……」
「朝も起きられずに、抱っこされて降りてくるお子様は黙っておるがよい」
「子どもじゃないし!」
「「ぐぬぬ……」」
2人のにらみ合いを止める。
「それじゃ、アマランサスが同行するってことでいいのかい? そりゃ彼女は間違いなく戦力になるから頼もしいけどさ」
「そうであろ。母上が同行しておれば、妾も心配が減る。それに――悔しいが、妾が行ってもなにもできぬのは事実じゃし」
「そうだね」
「「ぐぬぬ……」」
またリリスとアネモネがにらみ合う。
「解った、それじゃアマランサスが一緒だな」
「聖騎士様ぁ~!」
アマランサスが抱きついてきたので、アネモネが割って入ろうとしている。
「アマランサス、くっつき過ぎ!」
「ほらほら、朝食にしよう。腹が減っては冒険ができないぞ」
ベルとカゲにも猫缶をやって皆で食事を摂ると、ユリウスに確認をする。
「ユリウス、今日から留守にするが、よろしく頼む」
「お任せくださいませ」
一応、日数の予定なども打ち合わせているのだが、上の台地がどのぐらいの広さかも解っていない。
知られているのは、アストランティアやアキメネスから見られている部分だけ。
その奥がどうなっているのか、誰も知らない。
元世界なら、探検家という職業の人がいたのだが、食うのが精一杯のこの世界には無縁の存在のようだ。
「プリムラ、財務とマロウ商会のほうは?」
「問題ありません」
プリムラの後ろにはマーガレットが立っているが、俺のメイドたちと上手くやっているようだ。
サクラのメイドは領主の俺が雇い主だが、マーガレットはマロウ商会のメイド。
守備範囲が違うので、ぶつかることもないのだろう。
そのかわり、プリムラ関係の仕事は、ウチのメイドはやらなくなってしまった。
そういう取り決めになったのだろう。
「ケンイチ! 何日ぐらいかかるにゃ?」
ちょっと離れた場所からミャレーの声が聞こえてくる。
「解らんが――川の測量をして、水源を調べるだけの予定だからな」
「それじゃ旦那、台地の上をぐるりと測量するわけじゃないんだね?」
ニャメナの言うとおりだ。
それをやったら、どのぐらいの時間がかかるか見当もつかない。
台地の広さがどのぐらいあるのかも解っていないのだ。
今回は川の周りを測量して、あの転移門がある場所を確かめる仕事が第一。
そして水源を確認して、サクラに戻ってくるルートになる。
残る者たちは心配そうな顔をしているが――。
「そんなに心配はいらないよ。何回も行ってるが、上に魔物はいないしね」
魔物どころか、普通の獲物すらいない。
ネズミや蛇の類はいるようだが、どこかに抜け道があるに違いない。
朝飯が終わったので、俺たちは出発することにした。
準備は最低限、荷物は俺のアイテムBOXの中に全部入っているのだ。
そのまま家を出ても、シャングリ・ラがあればなんとかなる。
普通なら、数ヶ月前から道具を揃えたり食料を買い込んだり準備が大変だろうが――それが、すべてアイテムBOXとシャングリ・ラで賄える。
これがチートでなくて、なんなのであろうか。
「よし!」
気合を入れる。
パーティーは、俺とアネモネ、護衛にアマランサスと獣人たち。
リリスが一緒のときは戦闘で気を使ったが、アマランサスならばその心配もない。
はっきりいって、この中で一番強いし。
たとえ魔物がいたとしても、彼女に対抗できるのは、いわゆるボスクラスであろうか。
ズラリと並ぶメイドたちが見送ってくれる。
「「「いってらっしゃいませ、ご主人様」」」
「それじゃ出かけてくるよ」
メイドたちに、箱に詰まったお菓子をやる。
「気をつけるのじゃぞ?」「お気をつけて」
リリスとプリムラも見送ってくれる。
「ねぇねぇ、どこに行くのぉ?!」
騒ぎを聞きつけてやってきたのは、長い耳を揺らしたエルフだ。
「ちょっと上の土地の測量に行ってくる」
「ええ? 上って何かあるのぉ?」
「いや、なにもないが、辺境伯領の領地なのだから、把握しておかないと駄目だろ?」
エルフにも、転移門のことは秘密にしておいたほうがいいだろう。
「うわ~、つまんなそう……」
仕事だから、つまるつまらんの問題ではないのだ。
うるさいエルフがついてこないようなので、一安心。
「ケンイチ様!」
犬人のワルターがやってきた。
「おお、ワルター。ちょっと上を調べるために出かけてくるからな」
俺は崖を指差した。
「例のあれですか?」
「それもある。誰にも話してないだろうな?」
「もちろんでございます」
「留守中、頼むぞ」
彼に犬用のチュ○ルをやった。
「かしこまりました」
彼がそれを受け取ると嬉しそうに尻尾をパタパタと振っている。
「それじゃ出発!」
列になって崖まで行くと、俺たちは足場を上りはじめた。