軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

223話 呆れた襲撃

――洗濯機も順調に動いて、メイドの宿舎の前にはシーツなどが沢山並んでいる。

彼女たちの要望を入れて、もう少し大型の洗濯機も作った。

大きな樽と、コアモーターがあれば簡単に大型化できる。

コアモーターに取り付ける洗濯機の羽は、マロウ商会が手配してくれた職人に作ってもらった。

普段は家具などを作っている職人をスカウトしたらしい。

凝った家具などには彫刻を入れることもあるので、洗濯機の羽などはお手のものだろう。

並行して、俺が考案したコアモーターを使ったフライス盤などの加工機の開発もしている。

のこぎりやノミで羽を作るとなると道具を使いこなすための熟練の技が必要になるが、加工機械を使って分担してやれば、大工の高度な技術はなくても羽が作れる。

大量生産となれば、サンタンカの水産加工場のように女子工員なども増えるかもしれない。

女性が働く場所が少ないこの世界で、女性の社会進出のための足がかりを作るのも、重要な仕事の1つだ。

――そんなある日。

俺は崖の上にある離れで、アネモネと一緒にまどろんでいると――暗闇の中、突然メイドに起こされた。

「ケンイチ様!」

「……ん?! マイレンか? 今日は、お前の番じゃないぞ?」

「ち、違います! 賊でございます!」

「賊!?」

俺は飛び起き、マイレンにドアを開けるように指示。

そこから黒い疾風が2つ飛び出していく――ベルとカゲだ。

アネモネはまだ目をこすっているが、俺も慌ててズボンを穿くと外へと飛び出した。

「ケンイチ様は、避難を!」

俺のあとをついてくるマイレンが叫ぶ。

「何を言っている。数々の魔物を倒した俺が逃げる道理はないだろ?」

崖に上るために設置している足場の所までやってきて、下を覗く。

そこで森猫たちも様子を見ていたが、まったく緊張していない。

この感じだと、大した敵ではないのかもしれないな。

円形に燃えている沢山の松明の中に馬に乗った奴らがいて、黒いローブを羽織っているのが見える。

すっかりと囲まれてしまっているので、逃げるにも逃げられなくなっているのだろう。

集まっているのは、多分獣人たちだ。

夜間パトロールしている獣人に見つかって、耳のいい彼らが次々に集まってきたに違いない。

多分、夜に紛れるために黒い装備をしているのだろう。

俺は急いで下に降りると車を出したが、森猫たちはあとをついてこない。

完全に様子見しているようだ。

彼女たちはそれでもいいが、俺は行かなければならない。

崖から現場まで数百メートルしかないとはいえ、全力疾走したんじゃ到着したときにヘトヘトになってしまう。

ここは文明の利器を使う。

ライトを点け、エンジンを始動すると、オレンジ色の松明目掛けて走り出した。

走ると数分だが、車なら10秒ほどだ。

あっという間に、ワイワイと盛り上がる松明の下に到着。

案の定、そこに集まっていたのは獣人たちだった。

「ケンイチ!」「旦那! こいつら明らかに怪しいぜ!」

獣人たちの中にはミャレーとニャメナ、いつもパトロールしている3人組もいる。

獣人たちが指差した先には、黒い馬に乗った6人ほどの男たちが取り囲まれていた。

沢山の獣人に囲まれているので、馬は興奮状態になっており、制御が上手くできていない様子。

これじゃ逃げるに逃げられないだろうが、盗賊や野盗にしては馬の装備が立派すぎる。

まるで騎士だ。

「ケンイチ!? ハマダ領領主、ケンイチ・ハマダ殿か?!」

なんだ? こいつら――もしかして貴族か?

「そうだが! お前らは一体何者だ! こんな夜中になにをしにきた!」

「き、貴殿に決闘を申し込む!」

「はぁ?!」

獣人たちが一斉に俺のほうを向く。

もう、勘弁してくれ。

こんな真夜中に何を言い出すんだ。

大方、逃げるに逃げられなくなったので、こんなことを言い出したのだろうが、やはり相手は貴族のようだ。

貴族に恨みとかかってたかな?

まぁ、色々と利権を潰したりしているので、恨んでいるやつもいるとは思うが。

「なんじゃ、どうしたのじゃ」

そこに薄ピンク色の寝間着を着た、リリスとアマランサスがやってきた。

アマランサスはすでに細身の剣を装備しており、2人とも眠そうで不機嫌な顔をしている。

その後ろから、ユリウスもやってきた。

「リリス――こんな場所で決闘を申し込まれても、受ける義理はないよな?」

「はぁ? はぁ……こんな時間に推参する無礼者に応える必要はないじゃろ。野盗として処分してしまっても、構わぬと思おうぞぇ?」

リリスは大きなため息をついて、心底呆れたように話した。

「だいたい、お前はどこのだれなんだよ」

俺の言葉に男が激昂した。

「おのれ、忘れたとは言わさぬぞ! アストランティアの貴族、ゴヤ・ゴーヤ男爵だ!」

「ああ! なんだ、お前か」

「知り合いかぇ?」

「カナンに横恋慕しているやつがいるって言っただろ?」

「おう! あの男かぇ? ははは、人の側室に手を出すなと、そなたの父親に抗議の書簡を送ったはずじゃが?」

「私ではなく、父上に抗議をするなど卑劣な!」

「卑劣ってな。大方、お前らは闇討ちでもするつもりで、こんな所にやってきたんだろう? それが逃げられなくなったんで、決闘とか言い出したくせに、どっちが卑劣なんだ?」

俺の言葉に、囲んでいる獣人たちから嘲笑の声が漏れる。

「こ、このような下賤な獣人どもをけしかけるなど、無礼にもほどがある!」

何を言ってるんだ、こいつは……。

ここまでおかしいやつはいないだろうと思っていると――さらに斜め上を行くやつがいるのは事実だが……。

しかし、アマランサスといいカナンといい、横恋慕してくるやつが多いなぁ。

それだけ美人ってことなんだろうが、まぁ――俺も2人を寝取っているから人のことは言えんが。

いや、2人とも離婚後に俺の所にやってきたわけだから、決して寝取りではない。

「領主様、こいつら畳んでもいいんですかい?」

獣人たちが殺気立ち始めた。

この馬上のちんちくりんなやつらでは、獣人たちにはまったく敵うまい。

魔導師でもいれば別だが、それらしき者はいないようだ。

「まてまて――相手が無礼者だろうが、獣人が貴族に手をかけたとなると、あとで色々と面倒なことになる。ここは俺に任せろ。貴族の相手は貴族だ」

獣人たちの囲いをゆるくしてもらい、スペースを開けさせると、コ○ツさんを召喚した。

地響きとともに現れた黄色い鋼鉄の重機。

「おお~っ! 領主様の召喚獣だ!」「すげぇ!」

周りで見ている獣人たちが喜んでいる。

騒ぎにつられて、徐々に只人の住民たちも集まってきた。

俺は、颯爽とコ○ツさんに乗り込みエンジンを始動させると、黒煙を噴き出し鋼鉄の身体がブルブルと震えだす。

レバーを操作して、長い腕を高く振り上げた。

「おりゃ!」

地響きと大音響を響かせて、鋼鉄のバケットが地面にめり込む。

その音に驚き、貴族たちが乗っていた馬が立ち上がり、主を振り落としてしまう。

男たちが起き上がるところをバケットで軽く弾き飛すと、ゴロゴロとまとめて転がり、そのまま動かなくなってしまった。

「ありゃ、やりすぎたかな? おお~い、そいつらふん縛ってしまえ」

「「「おおお~っ!」」」

「どさくさ紛れに、2~3発入れてもいいぞ。死なない程度にな」

「「「おおお~っ!」」」

重機を収納すると、アネモネがやってきた。

「ケンイチ……」

彼女が眠たそうに目をこすっているので抱きかかえる。

「残念、アネモネが活躍する前に片付いてしまったよ」

「うん」

彼女が目をつぶっておれの首に手を回した。

獣人たちに群がられて、あっという間に貴族たちは簀巻きになって並べられる。

顔はボコボコになって痛そうだが、こいつらは要人暗殺のテロリストだ。

彼らに話を聞く。

「そのゴーヤは横恋慕だって解ったが、他の連中はなんなんだ?」

「わ、私たちは……」

男たちの話を聞く。

こいつらは、アストランティアがあるユーパトリウム領の隣――ツンベルギア子爵領の貴族のようだ。

「隣の領の貴族がなんのようだ?」

「貴殿が子飼いにしているマロウ商会が売り出しているチーズのせいで、我々のチーズが売れなくなっているのだ」

「ああ、そっちに影響が出ているのか――でも、商売ってのはそういうものだろ?」

マロウ商会で作っているチーズは、子牛の胃を使ったものではない。

俺がシャングリ・ラで買った、合成のレンネットを使っている。

大方、負け犬同士で意見が一致して、それなら――ということになったのだろう。

屋敷もない貧乏領なので、戦力も大したことがないと思ったに違いない。

ここを訪れている貴族も多いのに、彼らから――1国の軍隊にも匹敵する戦力を保持しているハマダ領の話を聞かなかったのだろうか?

この世界にはマスメディアは存在しておらず、巷の情報伝達はもっぱらが人の噂。

昔の偉人曰く「人は信じたいものを喜んで信じるのだ」

コンテナハウスを出して、賊を放り込んだ。

ゴーヤ男爵は、ユーパトリウム領主代行の俺が処分できるが、他の領の貴族は処分できない。

ツンベルギア領に送って処分させなければ。

こいつらの処分が甘いようなら、ツンベルギアは敵ということで確定だ。

「ケンイチ、王都に直接訴える手もあるぞぇ?」

お城に訴え出て、陛下からツンベルギア子爵へ、子飼いの貴族を処分をするように命令してもらうわけだ。

「いいよ面倒だ。そのまま送り返して相手の出方を見よう」

「ツンベルギアは、ユーパトリウム領を狙っていたという話を聞いたが……」

アマランサスがつぶやく。

カナンから話を聞いたに違いない。

「まぁな。どう出ても敵か味方かはっきりするのはいい」

騒ぎは収まったので、コンテナハウスの警備だけ残して解散させた。

「ユリウス、明日はちょっと仕事があるぞ」

「かしこまりました」

「まったくのう――このような愚か者が貴族におるとは……」

リリスが呆れているが、当然だ。

「どんなに愚かだろうが、親が貴族なら世襲で貴族になれるのだから、そりゃ当然だよ」

「やれやれ……」

「お城にいては、まったく解らぬことばかりじゃのう」

リリスもアマランサスも、比較的視察などに出かけたほうらしいのだが、それでもこんな辺境のことまでは把握していない。

「ユリウスならおおよそ把握しているんだろ?」

「そうだとしても私に貴族の世襲に口を挟む権限はありませんし」

「ふう……明日はちょっと忙しくなるな」

俺は、暗い夜道をアネモネを抱いて崖の上の離に戻った。

------◇◇◇------

――サクラが間抜けな賊に襲われた次の日。

朝食が終わると、アストランティアに獣人の使いが出された。

アキラを呼びに行ってもらったのだ。

1時間ほどでアキラがトラックで来てくれたので、仕事を頼む。

こいつで賊を運ぶのだ。

「オッス、ケンイチ!」

「オッスオッス!」

「なんだか、とんでもない奴らが来たんだって?」

「まぁな。とんでもないつ~か、呆れたよ」

「知らんぷりして、ヌッコロしちまえばいいのに……」

「その現場に俺と家族だけなら、それも可能だったが、目撃者が多数いたからなぁ」

「そうか――はは、災難だったな」

こんな馬鹿みたいなことに関わる皆が災難だ。

アキラの運転するトラックに賊を乗せて運んでもらい、助手席にはユリウスが乗る。

彼には申し訳ないが、これも仕事だ。

行き先はゴーヤ男爵の屋敷と、ツンベルギアの領主邸。

そこに賊を届けてもらう。

彼らが出発したあと、昼前には先代のゴーヤ男爵が馬車ですっ飛んできた。

俺の前に土下座したのは、金糸の刺繍が入った黒い服を着た頭の剥げた老人。

少ない白い髪の毛がプルプルと震えており、地面に這いつくばったまま固まっている。

もちろん謝罪をするためだろうが、処分はすでに伝えた。

国王陛下に任命された領主代行に男爵家の当主が弓を引いたのだから、これは国家に対する反逆である。

本来なら極刑なのであるが、処刑とかやりたくないので、男爵家の取り潰しとだけ伝えた。

俺の言葉を聞いてがっくりと肩を落とし、帰路につく先代男爵。

彼とその家族に非があるわけではないが、現当主がやらかしてしまったのでは仕方ない。

極刑なしで一見温情に思えるかもしれない。

しかし代々平々凡々と貴族をやってきた人間が身分を剥奪されて平民になり、なにができるだろうか?

この処分を逆恨みをするようならば、今度は遠慮なく切り捨てることができる。

まぁ、この噂が広まって歯向かうやつらが出てこないことを願う。

その日の夕方には、トラックに乗ったアキラとユリウスが戻ってきた。

「ユリウス、どうだった? 向こうの反応は?」

「領主は留守ということで、抗議書簡と賊だけ置いて参りました」

「ははぁ、こりゃとぼけるつもりだな。もしかしたら、向こうの領主も知っていたのかもしれない」

「かもしれませんな」

「まぁ、そうなれば、ツンベルギアは敵ってことで間違いない。それなら大手を振って色々とできる」

「あまり派手なことをなさいますと……」

「もちろん、そんなことはしないさ」

派手なことはしなくても、真綿で首を絞めることはできる。

ツンベルギアに卸すマロウ商会の物資を絞るとかな。

俺が持ち込んだ元世界の農作物に関する援助も絞ろうか。

ツンベルギアの実りがいまいちなのに、隣のユーパトリウム領の農地が豊作となれば、こちらに乗り換える農民もでるかもしれない。

そうなれば、アキメネスからアストランティアに移り住む者も増えるだろう。

どういう具合に嫌がらせをしてやろうかと考えてニヤニヤしていると――。

「ケンイチも意外と性格悪いにゃ」「おい、馬鹿! クロ助!」

いつのまにかやってきたミャレーが、俺の顔を見て呆れている。

そんなに悪い顔をしていたのだろうか。

「ははは、前にも言ったと思うが、お人好しって言われているけど、俺は全然お人好しじゃないからな」

「うにゃ、ウチは知ってるにゃ」

「なんだ?」

「ケンイチは面倒なのが嫌なのにゃ。お金を損しても、面倒じゃないほうをとるにゃ」

「そうそう、ミャレーは、よく解っているじゃないか」

しょうもないできごとに呆れてしまったが、これでカナンも安心できるだろう。

------◇◇◇------

サクラを襲ったしょうもない事件を片付けた俺は、次の仕事に取りかかった。

それは――アイテムBOXに入っている「豊穣の杖」というアイテムのチェックだ。

石灰鉱山に現れたダンジョンで討伐したボスモンスターからドロップしたものだが、こいつの能力を確かめなくてはならない。

アキラの話では、帝国の貴族の中に同様のアイテムを持っている者がいるという。

1度使うと、その年の豊作が約束されるという――文字通りの魔法のアイテムだ。

さすがファンタジーの異世界。

俺の予想では、大気中にある窒素などを土壌に固定する機能が備わっているものだと予想している。

マメ科の植物などは、根に共存している根粒菌の力を使って大気中の窒素を固定しているのだが、それと似たような機能を持っているのではないだろうか?

それなら理屈は解る。

いくら魔法のアイテムとはいえ、なにもないところから、なにかを生み出すことはできないのではないか?

「う~ん」

目の前に置いた「豊穣の杖」を眺めて、俺は唸っていた。

まぁ唸っていても話は始まらない。

これがどういうものか確かめないことには、使いみちがないのだ。

原理は不明でも闇雲に使ってみる手もあるのだが、使うことでなんらかの副作用もあるかもしれないし、慎重にならなくては。

なんのデメリットもなしで豊作が約束されるとは、どうにも嘘くさい。

数年は豊作だったが、それが前借りだったらどうする?

この世界の人間なら魔法のアイテムの力を信じてしまうところだが――俺は、違う世界からやって来た科学社会の人間だ。

いったいどういう仕組みで、どういう効果があるのか――それを知らないことには気持ち悪くて使えない。

信じる者は救われるって言葉もあるが、信じる者は足を掬われるって言葉もあるしな。

俺は前にシャングリ・ラで見かけて、欲しいものリストに入っているものを思い出した。

土壌の検査キットだ。

作物を育てる土壌に必要なものは、 pH(ペーハー) 、窒素、リン酸、カリウムだ。

この4つの数値が簡易的に解るキットらしいが、今の俺にはお誂え向きだ。

正確な数値は解らなくても、土壌の様子が把握できるのは凄い。

これを使えば、豊穣の杖がどういう機能を持っているのか、確かめられるに違いない。

俺は、土壌検査キットをシャングリ・ラで購入した――6500円だ。

「ポチッとな」

30㎝ぐらいのダンボールがドサッと落ちてきた。

中を開けてみると、白いプラ瓶の試薬と説明書が入っている。

読んでみる――どうやら採取した土に水をいれて、試薬を塗った紙を浸すことで色が変わるらしい。

その色をチャートに照らし合わせることで、アバウトな数値が解る仕組みのようだ。

「ふむふむ」

なるほど、こいつをつかえば畑の不作の原因が解るってことか。

豊穣の杖の機能を調べるだけじゃなくて、普通の畑の不作の原因も調べることもできるわけだ。

この畑には窒素が足りないとか、土壌が酸性すぎるとかが解る。

窒素が足りなければ、窒素肥料や窒素を固定する植物を植えればいいし、酸性土壌ならそれを中和する石灰などを撒けばいい。

こいつは使える。

「面白そうだ、早速使ってみたい!」

そう思ったのはいいが――サクラの周辺は森を開墾したばかりの土地で、腐葉土が多く肥えている。

肥沃な土地なのが解りきっているここで使っても意味がない。

――となると……サンタンカか。

あの村なら開拓してから時間がたっているので、痩せている土地も多いかもしれない。

村長も知り合いであるし、畑の状況も把握しているだろう。

俺は、車を出すとサンタンカに向かうことにした。

「私も行くー!」

俺の行動に飛んできたのは、アネモネだ。

「遊びに行くんじゃないぞ」

「うん」

飛んできたのはアネモネだけではない。

「ウチも行くにゃー!」「おっと、俺をおいていくつもりか?」

獣人たちもやってきた。

「仕事だぞ? 仕事」

「解ってるよ。サンタンカに行くんだろ? あそこにも獣人がいるからな。護衛だよ、旦那」

「そうにゃ! ケンイチの変なにおいに、獣人の女が集まってくるにゃ」

「変って言うなよ」

自分の腕をクンカクンカしてみる。

そんなにおいが出ているとも思えないが――ニャメナの言うとおり獣人たちが集まってくるのは確かだ。

「しょうがない」

俺は、アネモネと獣人たちをラ○クルに乗せると、サンタンカに向かうことにした。

皆を乗せて湖の畔を走ると、すぐにサンタンカに到着したので、村長の家を尋ねることに。

「これはこれは領主様。御用でございましょうか」

白髪とひげの爺さんが俺を出迎えてくれた。

なんだかんだで、この村長との付き合いもクロトンのこと以来になるな。

「村長、サンタンカに不作になっている、痩せた土地はないか?」

「はぁ――ございますが」

「そこに案内をしてくれ。俺の力を使えば、土地を蘇らせることができるかもしれない」

「え? そのようなことが……」

俺の突然の申し出にも、彼は訝しげな表情を浮かべている。

魔法を使うといっても、そんな魔法を聞いたことがないのだろう。

帝国には豊穣の杖があったが、この王国にはないみたいだし。

「ケンイチ、凄いにゃ?! そんなことができるにゃ?!」「マジかよ旦那!」

「本当にできるかどうかは、やってみないと解らない。それを確かめるために痩せた土地で試してみたいんだ」

「承知いたしました」

どうも村長は、俺の話を信用していないような顔だが、領主の話は聞かなくてはならない。

彼は村の隅の土地に案内してくれた。

畑らしいが、疎らな雑草だらけで作物の栽培はされていない。

本当に土地が死んでしまうと、雑草すら生えないからな。

原っぱの草を刈っても、その草が枯れて土地に還っていくので、いつまでも土地は痩せないが、農地は違う。

作物が土地の栄養を吸い上げて、それを人間が収穫してしまう。

ドンドン栄養を吸い尽くされてしまった土地は、最後はなにも生えなくなってしまう。

俗に言う、ぺんぺん草も生えなくなるってやつだな。

ぺんぺん草ってのはナズナのことで、これすら生えなくなると土地として終わる。

「よし、これならよさそうだ」

俺はアイテムBOXから土壌検査キットを出すと、容器に土を入れ精製水を投入して振る。

こうやって土壌の成分を水の中に溶け出させるのだ。

しばらく振った容器の中に、リトマス試験紙のような紙を入れて色を見る。

これでここの土壌がどんな具合なのか解るって寸法だ。

アバウトでも数値で示されるってのはいい。

どこをどう改善すればいいってのが解るってことだからな。

俺は、紙に現れた色を凝視した。