軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

202話 造船所

南の海岸沿いにある港町、オダマキにやってきている。

まったりと観光旅行でも、と思ったのだが――この世界には、作られた観光地などという俗物的なものはない。

青い空と海、そして白い壁の家が並ぶ坂道の街。

それだけで十分に美しいのだが、すぐに飽きてしまった。

帰ろうとすると、獣人の女の叫び声が聞こえる。

放置するわけにもいかず、犬人の男たちから猫人の女を助けたのだが、主役は森猫のカゲ。

不思議な力を使って、男たちをひっくり返すとコテンパン(死語)にしてしまった。

ひょんなことから、カゲの謎の力を知ってしまったわけだ。

魔法のようには見えないので、なにか特殊能力だろうか?

助けた獣人の女たちが、わらわらとついてきたので、それをミャレーとニャメナが懸命に牽制している。

「てめぇらついてくるな!」「そうだにゃ!」

「なんだよぉ!」「旦那にお礼させてくれてもいいじゃないのさ~!」

「うるせぇ! 旦那は俺たち2人で間に合ってるっての!」「そうだにゃ!」

2人が懸命に俺にゴシゴシと身体を擦り付けて、他の女の匂いを消そうとしている。

「でもケンイチ。あの犬人たちは、あのまま帰して大丈夫?」

アネモネは、女たちに対する仕返しを心配しているようだ。

「聖騎士様は、自分が貴族だというのを忘れていなさるようじゃな」

「アマランサス、そうは言うけどな、よその貴族が街にやってきて騒ぎを起こしたら、地元の貴族や領主がいい顔をしないだろ?」

「それもそうじゃ……」

サクラによその貴族がやってきて好き勝手したら、俺だって怒るしな。

「少々冷たいようだが、この街のことはこの街で解決してもらわないと。つまり、この街の領主の仕事だ」

「確かにのう」

それにしても、カゲが使った力がなんなのか気になる。

「なぁ、お母さん」

「にゃー」

俺の問いかけに、ベルがこちらを見上げる。

「カゲの力ってのは、魔法なのか?」

ベルがカゲとなにか話しているように見えるが、言葉や鳴き声は聞こえない。

「にゃー」

「え? 影をひっくり返した?」

「にゃー」

小さな絨毯の上に立っている人に対して、それを引っ張るような感じらしい。

それなら倒れるのも解るが――いったいどういう仕組みなのか解らん。

解らんといえば、俺の祝福の力だって解らんし、魔法だって解らん。

もちろん、俺のシャングリ・ラとアイテムBOXだって。

アキラのマヨネーズだってワケワカメだろう。

指からマヨネーズだよ?

そういうものだと理解するしかないな。

考えたら負けのような気がする。

キャンプ地に戻り獣人の女たちを帰していると――日が傾き始めた。

飯の用意をしなくては。

今日は、プリムラがいない。シュロの屋敷で歓待されているからだ。

俺にも同様のおもてなしを――とシュロは考えていたようだが、俺は断った。

礼儀に反しているのは解るが、性に合わないからだ。

その代わり彼には礼をたっぷりと支払っているし、これから付き合いが始まれば、大きな商いがついてくる。

俺が変な人間なのは、付き合いの長いマロウとプリムラが説明してくれるだろう。

さて、飯だ。

シュロから海産物をもらったので使いたいのだが、アキラが遊びに行ってしまって今日は戻る気配がない。

やむを得ず、俺が捌く。

彼ほどの腕ではないが、魚を3枚におろすことぐらいはできる。

皆に食べやすいように、つみれにして、スープに入れようと思う。

つみれ汁だ。

2枚貝もあるので、こいつもスープの具に入れてみるか。

日本人だと、なんでもかんでも生で食うことを考えてしまうが、ここでは一般的ではない。

俺が魚を捌いているうちに、アマナにスープを作ってもらう。

彼女はベテランなので料理は上手い。

アネモネはパン焼きだ。

残ったアマランサスには、すり鉢とすりこぎで、魚のつみれを作ってもらう。

すり鉢の中に調味料などを入れると、アマランサスのパワーの出番だ。

「こうやって、円を描くようにすればいいのかぇ?」

「ああ、それでいい。すまんな、料理をさせて」

「妾は奴隷なので当然じゃ」

アマランサスも楽しそうにすりこ木を回しているので問題はないか。

そこにアマナがやってきて、俺に耳打ちをする。

「ちょいと旦那、アマランサスさんって、元貴族なんじゃ……?」

「奴隷に、さん――とかいらないから」

「でもねぇ、普通の人じゃないよ?」

「たとえ元貴族でも今は奴隷だから。でも、粗末には扱わないでくれよな」

「解ってるけどさ」

パン焼き器を火にかけて魔法でアシストすると、一段落ついたのか、アネモネが様子を見にきた。

「その団子は、川で食べたのだね!」

アネモネとダリアから逃げたときに、川で釣ったマスをつみれにしたのだ。

「あの時は川魚だったけど、今日は海の魚だ」

「違いってあるの?」

「ないな。あの湖にいる魚の種類だって、海まで下るやつもいるし」

「そうなんだ!」

「川や湖で卵を産んで、川を下り海で大きくなって、また上ってくる魚もいる。遡上っていうんだが」

「聖騎士様は博学じゃのう」

「本当だねぇ」

アマナとアマランサスが感心しているが、つみれはこれで終わりではない。

スプーンで掬い団子状にして、スープの中に投入していく。

料理が完成したので皆で食べ始めた。

2枚貝の貝柱からもいい出汁が出ているし、つみれもいいできだ。

魚介類のスープなんて、ダリアでも食えないごちそうだ。

俺がシャングリ・ラで買えば食えるだろうが、普通の一般人では貴族でも難しい。

アイテムBOXを持っている商人でも抱えていれば別だが。

ベルとカゲには猫缶とつみれをあげると、美味しそうに食べている。

料理で出たゴミはスライムにやる。

あまりゴミをやりすぎると大きくなってしまうので、ほどほどにしないと駄目だな。

ある程度まで大きくなると分裂して次々に増える。

そう考えると、餌だらけである湿地帯で無限に増殖してもおかしくないような気がするのだが、実際はそうなってはいない。

なにか増殖を止める因子があるのだろうか?

考えていると、カールドンのことを忘れていた。

彼に料理を持っていってやる。

辺りは暗くなりつつあるが、彼の使っているコンテナハウスに向かうと、窓から明かりが漏れている。

おれが貸してやっているLEDランタンの光だ。

お城の半地下で研究をしていたときも、ローソクの光を使ったり、自分で 光よ!(ライト) の魔法を使ったりして、明かりを確保していたようだが、俺が貸してやった明かりで夜なべができるようになったと、彼も喜んでいる。

「おい、カールドン。飯だぞ」

アルミ製のドアをノックすると、中でバタバタと音がする。

このコンテナハウス――ドアも窓枠もアルミ製なので、中で魔法の実験をすると上手くいかないらしい。

「これは、ケンイチ様に料理を運んでいただけるとは、恐縮でございます」

「どうだい、研究は進んでいるかい?」

「はい! これをご覧ください!」

彼が見せてくれたのは、船の動力であるコアモーターの設計図。

ここで設計しても、現物合わせで少々変更する可能性があるのは彼も解っている。

「これで大きな船が動くのが楽しみだな」

「はい! まさか私がこんな大きな事業に手をお貸しできるようになるとは」

「これが一般に使われるようになれば、君の名前は歴史に残るぞ?」

「いいえ、歴史に名前が残るのはケンイチ様だと思いますが……」

「俺は領が発展して、民が幸せになればそれでいいんだ」

「そのとおりでございますな」

船を建造するといっても、いきなり大型船を建造するわけではない。

未だにアニス川をすべて走破したものはいないのだ。

俺の持っている中古漁船では小型すぎるので、もう少し大きな帆船を建造する。

まずは、それを使ってすべての流域を調べてから、どのぐらいの船なら通ることができるかを見極めなくてはならない。

暗くなってもアキラは帰ってこないので寝ることにした。

今夜、ベッドで一緒なのはアマランサスだが、今日はプリムラがいない。

彼女は、シュロ邸に泊まっている。

「なーん」

変な声を出しているのは、耳と尻尾をつけたアマランサスだ。

「別にそんな恰好をしなくてもいいんだぞ?」

「でも聖騎士様は、このような恰好がお好きじゃろ?」

「まぁ、好きなんだけど」

そして夜はふける。

------◇◇◇------

――オダマキにやってきた次の朝。

朝食を食べていると、アキラが帰ってきた。

「オッス!」

「オッスオッス!」

「いい子はいたか?」

「フヒヒ……まぁな」

女性陣の白い視線もなんのその。

さすが勇者だ――とはいえ、ここにはアキラの家族はいないからな。

彼の家族がここにいたら、さすがに無茶はできないだろう。

「枕探しにあったとか、そういう面白い話は?」

「ないな。そういうのは元世界にいたときに散々経験済みで、経験値を積みまくっているし」

「やっぱり、日本以外だと治安は悪いのか?」

「まぁな。警察が一番信用できねぇし」

それは、ここら辺でも一緒だ。

役人は袖の下一つでどうとでもなってしまう。

サクラはそうならないようにしないとな。

飯を食い終わったら、マロウとプリムラがやって来た。

ここの主であるシュロも一緒だが、プリムラが寝不足のような顔をしている。

「おはようプリムラ、どうした? 寝不足か?」

「はぁ――キキョウに旅の話を色々と聞かれてしまって」

「はは、話すことがいっぱいあったろ? 魔物を退治したり、お城で陛下に謁見するとか普通じゃありえないからな」

「はい、それで興味を持たれてしまって……」

プリムラがそんなことを言っていると、黒髪のポニーテールの女の子が走ってきた。

「ケンイチ様! ドラゴンを倒して、国王陛下に謁見したというのは本当ですか?」

「ええ~っと、陛下に謁見したほうが先だったんだが……」

「すごーい!」

「これ! キキョウ! 辺境伯様に失礼だろ!」

娘の無礼に父親のシュロが彼女を咎めた。

「ああ、構わん。俺が倒したのはレッサーとワイバーンだが。あそこにいる男は、本物のドラゴンを倒したんだぞ」

「ええ? 本当?!」

「おい、ケンイチ。こっちに振るな」

「え? 本物のドラゴンを倒したと言われるのは帝国の竜殺しなのでは……」

今度は、シュロが食いついた。

アキラに根掘り葉掘り聞いている。

「相手が女ならいくらでも聞かせてやるが、オッサン相手じゃ英雄譚を話しても面白くもなんともない」

アキラは、いつものアキラだ。

「これは、やはり当屋敷でおもてなしするべきなのでは……」

シュロが真剣な顔をして悩んでいる。

「俺は、この街におもてなししてもらって満足だから、ははは」

「まぁそれより、船大工への案内を頼むよ」

「かしこまりました」

シュロが頭を下げた。

これで本来の仕事に入れる。

船大工の所に行くメンバーは、俺とアキラ――2台の車を出す。

アキラの車には、マロウとシュロ、カールドンだ。

俺の車にはプリムラとアマランサス。

アイテムBOXから、ラ○クルを出すとシュロがまじまじと見ている。

「こ、これが、マロウの手紙に書いていた、鉄の召喚獣でございますな」

「ほほほ、そうだシュロ。屋敷で話したが――私たちがダリアを出発してきたのは3日前、一昨日には海岸に到着していた」

マロウがドヤ顔をしている。

「な、なんと、このようなものがあるとは……」

「色々と話はあるだろうが、とりあえず乗ってくれ」

ドアの開け方などを教えてやるが、馬車にも取手やロックはついているので、そんなに違和感はないと思う。

歩いてでも行けると思うが、この街は坂だらけ。

広い通りを行けば車でもなんとか進めるし、少し遠まわりになっても、こっちのほうが楽だ。

案内してくれるシュロは脚が悪いしな。

俺の所に、カールドンがやってきた。

「ケンイチ様! 私の部屋を持っていってくれませんか? あの中には研究の資料などが詰まっておりますので」

「ああ、いいよ」

「ありがとうございます」

カールドンのコンテナハウスに行ってアイテムBOXに収納していると、アネモネがやってきた。

「私も行くー!」

「面白くはないと思うがなぁ。ここで待ってたほうが……」

「いーやー!」

「解った解った」

アマランサスがいれば、護衛は十分だと思われるので、獣人たちはアマナと留守番をしてもらう。

「あの……私も乗せてもらうことはできないでしょうか?」

俺の所に、シュロの娘――キキョウがやってきた。

「こんなのに乗ってみたいのかい?」

「はい、このようなものに乗れる機会は、もう一生ないでしょうし……」

「まぁ構わんよ」

「やったぁ!」

凄い元気なお嬢さんだな。

元気ハツラツって感じだ。

悪いが彼女には3列目のシートに乗ってもらった。

「ベルとカゲも留守番頼むな」

「にゃー」

「みゃー」

皆で車に乗り込んで、無線機のマイクを取る。

「アキラ、シュロに案内してもらうから、そちらが先行してくれ。車の通れるなるべく広い通りをよろしく」

『オッケー!』

『この声は?』

『向こうと魔導具で話しているんだよ』

『こ、これを手に入れるわけには』

『ははは、ちょっと無理だなぁ』

『シュロ、昨日話した鳥を使った通信で我慢しなさい。それも辺境伯様から教えていただいたものですよ』

『うう……』

無線機の向こうから聞こえてくるのは、マロウとシュロらしい。

さすがに電源も無いし、この無線機で話せるのは数kmって感じだろうから、都市間の通信には使えない。

改造して出力を上げられれば……でも、いつも言っているように、俺のアイテムに頼った商売はよくない。

俺がいなくなったり死んだりすれば、あっと言う間に詰む。

マロウは、そこらへんをよく解っているので、無線機をくれとは言わない。

自分が再現できないものは、あまり欲しがらないのだ。

アキラの車が走り出したので、そのあとをついていく。

白い壁が並び、坂道が多い港町を広い通りを探しながら走る。

「すごいですねぇ! さっきの離れた所と話せる魔道具も凄いですが、この乗り物も全然揺れないです!」

3列目シートに乗っているキキョウが、窓の外を見てはしゃいでいる。

「石畳の上じゃ、馬車は大変だろう」

「はい、街を出るまで馬で行って、途中で馬車に乗り換えたりするんですよ」

車はぐるっと迂回してしまったが、10分ほどで海岸の近くの大きな建物に到着した。

普通の家、6軒分ぐらいはあり、窓は少なく白い壁だけが目立つ。

作った船を海に浮かべないと駄目なので、海岸沿いに建物があるわけだ。

先に止まったアキラの車から男たちが降りてきたが、何やらシュロが興奮している。

俺たちも降りよう。

「これは凄い! 全然揺れないし、まるで鏡の上を走っているようになめらか。座席も柔らかい!」

ほぼ、キキョウと同じ感想だな。

それに彼は足が悪い。車があれば簡単に移動できるので、その便利さに感動しているのだろう。

「シュロ、仕事のほうを頼む」

「こ、これは、年甲斐もなく取り乱しました」

「お父さん、凄いよねぇ。こんなのに乗れたなんて、街の商人たちにも自慢ができるよ」

「いや、まったく――いいや、信じてもらえないかもしれん」

シュロは興奮冷めやらぬ様子で、建物の中に入っていった。

「キキョウちゃん。ここが船大工の所か?」

アキラがキキョウに色々と聞き始めた。

「はい、凄い怖い人なんですけど……」

「まぁ、職人ってのはそんなもんだ。自分の気に入らん仕事は受けなかったり」

「しまいにゃ金の問題じゃねぇ! とか言い出すよな」

アキラの言うとおりだ。

「でも、真面目なのは確かだろ。一線でいいものを作り続けているのに、不真面目なやつには務まらんからな」

「違いねぇ」

外でアキラと2人缶コーヒーを飲みながら待つ。

他の皆にはペットボトルでアップルジュースを買って、カップで飲ませてみた。

「おいひい……」

アップルジュースを飲んだキキョウが感激している。

「よかった」

「そのアイテムBOXの中には、いろんなものが入っているんですね」

「ははは、家まで入っているからな」

「そうなんですか? 人を入れたりとかは?」

「残念ながら、生きている人は入らない。死体なら入るけどな」

「え? 死体って入れたことがあるんですか?」

「キキョウ、ダリア周辺を襲っていた野盗のシャガをケンイチが討伐して、私を助け出してくれた話をしましたでしょう?」

やはり、プリムラはシュロ邸に泊まって、この娘にあれこれ武勇伝を聞かれたようだ。

「ああ、そのときの……」

「そうなんだ。あとは、討伐した魔物の死体とかも沢山入っている」

「売らないのですか? うちでも引き取りますよ? ここら辺は毛皮が高いです」

ここら辺は獣が少ないみたいだな。

確かにそれなら、森猫を持ち込めば高値で売れたかもしれない。

街道でカゲを運んでいた、あの若い商人の目は確かだったわけだ。

「はは、さすが商人の娘だな。最初は売ったりしていたんだが、食べることが多いし、物々交換で消費したりするので売らなくなったね」

「はわ~そうなんですね~」

キキョウがカップを両手で持って、目をきらめかせている。

なんかキラキラしてて眩しい。

「むー――ケンイチ、デレデレしすぎ」

「え? そんなことないだろ? 女の子には優しくしないとな」

「むー」

むくれているアネモネの頭をなでる。

「前にも言ったが、女の子に優しい俺じゃないと、アネモネもプリムラも助けなかったんだぞ?」

「それはそうじゃの。聖騎士様の言うとおりじゃ」

「ははは、これ以上増やさないから心配するなって」

「フヒヒ、これ以上増えると、ケンイチもちょっとつらいよなぁ」

アキラがコーヒー缶片手にからかってくるが、反論できない。

「今だって大変だぞ」

アネモネをなだめていると、工房のドアが開いてシュロが手招きをしている。

やっと話がついたようだ。

事前に連絡もいっているはずなのだが……。

女性陣には外で待っててもらう。

作業現場なので危険もあるだろう。

工房の中に入ると中は薄暗く、建造中の船がなん隻か見える。

側面の板が貼っていない船は、まるで動物の肋骨のようで、巨大な竜が横たわっているかのようにも見える。

そういえば、船の背骨は竜骨っていうぐらいだしな。

その向こうは、石畳が下り坂になっていて、そのまま海に没しているようだ。

完成した船をそのまま海に浮かべるためだろう。

元世界の造船所もこんな形になっていたと思う。

「おおっ! 素晴らしい!」

カールドンがメモ帳を出して、なにやら書き出した。

船の構造などが手に取るように解るので、これはいい機会なのだろう。

俺たちを待っていたのは、背が低くごつい体型をしたスキンヘッドの親方。

浅黒い肌で、少々残っている髪の毛は白い。

オーバーオールのような作業着に、太く黒いベルトをして、工具を差している。

「ケンイチ・ハマダ辺境伯だ、よろしく」

「あんたかい、船を作りたいとかいう、酔狂な貴族は?」

「まぁな。でも実際に金を出して運営するのは、そこにいるマロウ商会だからな」

「内陸の商人が船なんて持ってどうする?」

「話してないのか?」

マロウをちらりと見たが、彼は俺に説明をさせたかったようだ。

親方に、海からアニス川をさかのぼって、運河に使う計画を説明した。

「正気か?」

俺が貴族だと解っても、随分と粗い口調だ。

敬語なんて使うつもりもないし、気に入らん仕事は受けない。

圧倒的な意志を感じる。

「もちろん」

「アニス川の周辺は魔物の巣だと言うが……」

「新しい魔物よけを開発した」

「魔物よけだと?」

「本当だよ。商人も巻き込んでいるんだ、伊達や酔狂でやるわけじゃない」

「むう……」

親方は腕を組んでいる。

「運河として使えるようになれば、森の材木をここまで持ってくることもできるようになるぞ」

「そいつは嬉しいねぇ。船を作るのに何が大変って、材木の確保だからよ」

「ああ、丸太ならアイテムBOXに入っているから、出してやろうか? 船に使える木の種類なのかは解らんが……」

「アイテムBOXだと?」

「ちょっとどいてくれ」

船がないドックの所に丸太を出す。アイテムBOXに入るように、全て10mにそろえてある。

「おい! 作業している奴ら、注意しろ!」

親方が作業員に声をかけると、地面を揺らして丸太が落ちてきた。

少々坂になっているので、転がるかと思ったのだが、払っていない枝が引っかかって止まったようだ。

「こりゃ、たまげた……マジで丸太だぜ」

「アイテムBOXに入れただけなので乾燥などはしてないが……使えそうか?」

「ああ使える。こりゃすげぇ」

開拓するのに伐採はどうしてもするからな。

伐採だけして放置することもある内陸と、木が欲しいのに近くにない海辺。

それらが融通できるようになるのだから、そこに商機がある。

マロウもそれを考えているのだ。

「俺たちの船を作るんなら材料にしてくれ」

普通なら木材の乾燥に凄い年月がかかったりするのだが、ここには魔法がある。

魔法で乾燥させれば数時間で使えるようになるので、ここら辺は元世界より進んでいると思う。

親方や船大工たちが唸っているが、もうひと押しだろうか。

早々に「うん」と言わせたいところだ。