軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

190話 伯爵邸

ダリアまできたついでに、懇意にしているノースポール男爵が治めている領を訪れたのだが、魔物が出没しているという。

男爵の話によれば、出没しているのは黒狼とゴブリン。

男爵領にはマロウ商会が投資しているし、男爵はアマランサスに忠誠を誓っている、いわば身内。

その話を聞いた俺たちは、魔物退治をすることにした。

1国の軍隊にも匹敵する戦力が揃っているのに、黒狼とゴブリンに負けるはずもなく、軽く撃破した。

魔物を退治したあと、夕方の食事で盛り上がる。

アネモネも友達のマリーとお泊りしてキャッキャウフフして嬉しそうだったし、よかったよかった。

俺たちは再びダリアに戻ることにした。

朝一で男爵に別れを告げ、マリーを家まで送っていくと、ダリアに向けて出発した。

マロウ商会を留守にしていたマロウも家に戻っているころだろう。

車で安全運転ののち、2時間ほどでダリアに戻ってきた。

直接マロウ邸に乗り入れると、車から降りたプリムラが、屋敷の中に入っていく。

皆が降りたのを確認したあと、ペットのスライムを降ろし、車をアイテムボックスに入れた。

このまま入れようとするとエラーが出て収納できない。

たとえば車に小型の虫などがいてもそのまま収納できるのだが、死んでしまう。

虫でも、大型のキラーホーネットなどは収納できなかったので、大きさによる判定があるようだ。

俺たちが外で待っていると、マロウが慌てて走ってきた。

「やぁ、マロウ」

「ケンイチ様! マーガレットを引き抜いてもらっては困ります!」

なにかと思えば、その話か。

マロウがマーガレットから話を切り出されたのだろうか?

「いやいや、俺が引き抜く気はないのだが、彼女が辺境伯領を訪れたいと言い出したんだよ。なぁプリムラ」

「はい――お父様、そのとおりなのです」

彼女がカレーを食べて心変わりした経緯を説明した。

「なんと……しかしカレーとは……」

マロウ商会にもカレーを送ったことがあるので、マロウも食べたことはあるのだが、さすがにメイドのマーガレットまでには行き渡らなかったらしい。

今回、俺がマロウ邸にやってきて、初めてマーガレットがカレーを口にしたわけだ。

「こちらにカレーを送るということで、マーガレットも納得したと思ったのだが……」

「はい、私もそう思ってました」

「とりあえず俺が引き抜くつもりはないとだけ、予め言っておく」

「承知いたしました」

マロウも解ってくれたようだ。

まぁ娘のプリムラもその場にいたからな。

「仕事が終わったあとにでも、プリムラも一緒に説得にあたってくれ」

「はい、そのほうがよいでしょう」

やれやれ、そんなにカレーが気に入ったのか。

この世界の香辛料でもカレーが作れるとはいえ、貴重で目が飛び出るような値段の香辛料を使わないと作れないからな。

それはさておき、仕事だ。

マロウ邸の庭にコンテナハウスを出して皆には休んでもらい――俺はマロウと一緒に、ここを治めているアスクレピオス伯爵の下に向かう。

さて、お貴族様の所に行くとなると――いつものこの恰好じゃまずいな。

着替えをするために新しいコンテナハウスを出し、中に入るとシャングリ・ラを検索してコスプレ衣装を探す。

黒い神父のような服があったので、こいつにしてみるか。

それに黒いマントを羽織ってみよう。

アイテムBOXから長鏡を出して、壁に立てかける。

「なんだか中二病のコスプレだな」

あとは、小物で革のベルトとナイフ。

豪華さを演出するため、金メッキのネックレスと指輪もしてみよう。

う~ん、成金っぽい。

外に出るとアネモネがいたので、感想を聞く。

「う~ん、貴族みたい」

「みたいじゃなくて、貴族なんだけどなぁ、ははは」

そこにアキラがやってきた。

「おっ! ケンイチ、コスプレだな、ははは」

「そういうアキラの帝国服だって、コスプレみたいだったぞ」

「まぁな、ははは――おっ! ケンイチ、アゴになんかついているぞ」

「え? マジか」

俺は、アキラの言葉を真に受けて、アゴをなでた。

「う~ん、マ○ダム~」

「なんだよ、オッサンしか解らんネタは止めろよ、あはは」

2人ともオッサンだから通じるネタだが、日本全国でこのネタが通じるのもすごい。

コスプレはしてみたが――アキラの服と並べたら、作りが違うのは一目瞭然だ。

あちらは帝国皇帝から賜った超高級品、こちらはコスプレ用の安物だからな。

俺もいい布で、それっぽいのを作ったほうがいいのだろうか。

今度、アストランティアのカナンに相談してみよう。

一応、アマランサスにも見てもらうが、遠目では解らないから問題ないらしい。

伯爵の下に行くとなると、贈り物が必要になるだろう。

他の貴族たちにも、訪問したり、訪問を受けたりした場合は、白金貨の贈り物をしている。

シャングリ・ラでは、白金貨と金貨はほぼ同じ値段なのに、この世界では100倍の価値がある。

非常にコストパフォーマンスがいい。

金貨を白金貨と交換すれば、あっという間に大金持ちに――ということを考えてしまうが、実際は大量に供給すれば価値が下がってしまうし、市場も混乱するだろう。

通貨の発行というのは国がやっていることなので、それを辺境伯領が崩してしまうのはマズい。

この国を傾けるつもりであれば、それも1つの手なのだが。

白金貨を裸で贈り物にはできないので、シャングリ・ラから宝石箱を購入。

漆器だが、鳳凰の模様が書いてある綺麗な箱を見つけた。

こういうものは、この世界にはないだろう。

ちょうどいい――お値段も手頃な3500円。

その中に白金貨を2枚いれた。

他の伯爵にも2枚渡しているので、揃えたほうがいいだろう。

これだけでも金貨200枚以上――日本円で4000万円の価値だ。

「……」

アネモネが、俺が持っている漆器の箱を見ている。

「どうした? これが欲しいのか?」

「うん」

シャングリ・ラからもう1個同じものを買う。

安いからな。

「ほい、宝物でも入れるのかい?」

「ケンイチ、ありがとう!」

アネモネの目がキラキラと光る。

そこにいつもより上等な服を着た、マロウがやってきた。

「ケンイチ様、それが白金貨ですかな」

「そうだ。珍しくて価値があるものっていえば、これが一番だろう。領主になれば、いいものはほとんど揃えているだろうし」

真珠でもいいのだが、お城から王族以外には卸すなと釘を刺されているからな。

「にゃー」

コスプレをしている所にベルがやってきた。

「お母さんは、伯爵の所には連れていけないからな。ここで待ってておくれ」

「にゃー」

「え? 似合ってる? やめてくれよ、ははは」

森猫と話す俺は、傍からみたら危ない男にみえるだろうか?

でも、エルフや獣人たちは、森猫と意思疎通をしているようだしな。

準備もできたので、車に乗って伯爵邸に向かう。

メンバーは、俺と助手席にはプリムラ、後部座席にマロウとアマランサス。

マロウとプリムラは、伯爵に面識がある。

特にプリムラは、伯爵の娘とも交流があるようだ。

アマランサスを連れてきたが、奴隷の身分である彼女を入れてもらえるかは微妙だがな。

駄目だと言われたら、贈り物だけ置いて帰ってこよう。

プリムラの案内で大通りを走り、ダリアの南にある貴族街に向かう。

伯爵邸はその一角にある。

大通りを右に曲がると、徐々に立派な石造りの屋敷が増えてきた。

無役の貴族やら、小役人もここに住んでおり、奥に行くほど上級貴族だ。

アストランティアより大きな街なので、必然的により金持ちが多い。

ここを治めているのが伯爵なので、伯爵より上級の貴族はいないと思われるが……。

伯爵邸の前までやってきた。

金属製の大きな柵に囲まれた、白い屋敷である。

柵の向こうには大きな庭も見えるが、ソバナのレインリリー公爵邸よりは落ちるか。

門の前で車を止めると一旦降り――金属製のアーマーを着た兵士が2人、警備をしていたので話しかける。

「ケンイチ・ハマダ辺境伯だ。アスクレピオス伯爵にお目通り願いたい」

警備の兵士がブルブルと唸りを上げているラ○クルにビビっている。

「こ、これは辺境伯様! あ、あの、この乗り物は? 馬無しで動いておりますが」

「魔法で動く俺の召喚獣だ。噂で聞いたことがないか?」

「シャガを討伐したときに、戦士たちを巨大な馬なしの馬車で運んだという……」

「そうそう、それが俺だ」

「え?! シャガを討伐したあと、姿をくらましたという英雄ですか?」

「英雄ってほどじゃないがなぁ。他の人が頑張ってくれたお陰だし。まぁ、それより伯爵に取り次いでくれ。マロウ商会も一緒だとな」

「は、はい!」

まぁ、一応アポは取ってあるんだが。

この世界には時計もないし、何日も馬で移動するため、トラブルで数日遅れるなんてざら。

今日会えないのであれば、オダマキからの帰りでもいいのだが……。

俺は車に乗り込み、門番を待つことにした。

兵士たちも、俺を辺境伯だと疑っていないようだ。

やっぱり人間ってのは見た目が重要ってことだよなぁ。

人間、中身が大事なんて言うけど、やっぱりほとんどが外見で決まる。

悲しいけど、これって現実なのよね。

そんなことを考えていると門番の兵士と黒い服を着た初老の紳士がやってきた。

多分、男は伯爵の執事だろう。

なぜか執事という職業は、グレーの頭をしてひげを生やしている男が多い。

俺のイメージもそうだし、この世界の貴族のイメージもそうなのだろう。

変なところで共通点が多いものだ。

いや、同じ人類なら考え方や思考も似てくるのだろうか?

この世界の文化だって、元世界の知識で理解できるほど近いものだし。

「どうぞ、中へお進みください、辺境伯様!」

紳士に案内されるまま、車を奥にゆっくりと進める。

アクセルは踏まずクリープ現象だけで移動だが、人が歩くより速い。

紳士は息を切らしながらついてきた。

玄関の前に到着。屋根がついた小さな階段の奥に大きな両開きの扉がある。

皆で車から降りると、俺の鉄の召喚獣をアイテムBOXに収納した。

それを見た紳士が驚く。

「アイテムBOXだよ」

「う、噂には聞いておりましたが……」

「押しかけてきて礼儀知らずなことを言うようで申し訳ないのだが――護衛として奴隷の彼女を同行できるよう、伯爵にお取次ぎ願いたい」

俺がアマランサスを指差すと、執事はチラリと彼女のほうを見た。

首にある奴隷紋を確認したのだろう。

「承知いたしました。とりあえず、こちらでお待ちを……」

玄関を入るとそこは吹き抜けのホールで、シャンデリアがぶら下がっている。

両脇には2階へ上がる階段。貴族の屋敷はこういう造りが多いな。

俺たちは、ホールのすぐ近くにある一階の客間に案内された。

小さな石造りの部屋に赤い絨毯が敷いてあり、小さな正方形のテーブルと、赤いソファーが置いてある。

調度品も豪華で、ガラスの窓からは日の光が入っているが、白いカーテンで遮られている。

「さて――なんて言われるかな?」

「妾のことなど、気にすることはありませんのに」

「まぁ護衛だからな。何かあったら、俺だけでマロウやプリムラを守れないし」

俺の話を聞いていたプリムラが反論する。

「アスクレピオス伯爵は、そのような方ではありませんけど……」

「俺が会うのは初めてだからな。まぁ駄目だと言われたら、贈り物だけ置いて帰るから」

こんな条件を出すのは礼儀知らずなのは解っているが――奴隷ってだけで差別するような貴族であれば、どのみち俺とは考え方が合わないし。

「マロウ、伯爵に紹介してもらったお前の顔を潰すようなことになったら、申し訳ないな」

「なにをおっしゃいます。おそらく大丈夫でしょう……」

美人のメイドさんが、お茶を持ってきたので、それを飲みつつ待つ。

お茶といっても薬草茶で、元世界のようなお茶ではない。

ちょっとシャングリ・ラを検索すると、お茶の木――チャノキの苗が普通に売っている。

この国は温暖なので、普通に育つのではないだろうか?

普通に出されたお茶を飲んでいるが――こういう場合、貴族だと毒の心配もしなくちゃいけないのかなぁ……毒見を用意したほうがいいのか?

ここの伯爵はマロウも知り合いだから、ここで毒を盛る意味はないだろうけど、いつの間にか敵対していたり密かに野心を燃やしている貴族もいるだろうし……。

まぁアキラの話では、祝福があるならそう簡単には死なないそうだが。

ああ、こんなことを考える自体が嫌だなぁ。

ゆっくりと森の中でスローライフがどうしてこうなった。

少々落ち込んでいると、執事がやってきた。

伯爵が会うと言う。

客間から出るとホールを通り、手すりのついた階段を上がって2階へ行く。

俺が先頭で後ろはアマランサス、その後ろがマロウとプリムラだ。

ホールは石材だが階段と廊下は木製。

王宮に比べたらそりゃ質素かもしれないが、見事な造りだな。

歩きながらキョロキョロと見回す。少々みっともないが、屋敷を建てる際の参考にしたい。

写真を撮れればいいんだが……。

こんな屋敷を建てられるのは一体いつになることやら。

魔法で地面から生えてくるとかじゃないからなぁ……。

2階に上がると、吹き抜けから長い廊下があり、一室に案内された。

執事が黒い扉をノックをする。

「辺境伯様がお越しになられました」

「入ってもらえ」

扉を開けてもらい、中に入る。

中にいたのは、正面の机に座っていた御仁と、その家族。

正面に座っている白い頭をオールバックにしているのが伯爵だろう。

金糸の刺繍を施された緑色の服を着ている。

いかにも堕落した貴族って感じの丸いブヨブヨの身体ではなく、ゴツくて四角い顔に口ひげを生やした武人といった佇まい。

歳は50歳ぐらいか。

彼の右側にいるのが、正室だろう。

高くアップにした金色の髪と胸の開いた白いロングドレスを着た美人。

歳は40には届いていないように見える――意外と若い。

その横には男女の子どもがいるが、伯爵の子どもだろう。

紺色の服と半ズボンを穿いた短い金髪の男の子と、フリルのついたピンク色のワンピースを着た女の子。

お姫様は長い金髪の髪をツインテールにしている。

男の子は12歳ぐらい、女の子は10歳ぐらいか。

正室も子どもたちも全員金髪なので、伯爵の白い髪ももともとは金髪なのかもしれない。

部屋の真ん中には、花が生けられた白い花瓶が載った四角いテーブルと、赤いソファー。

「初めてお目にかかる。ケンイチ・ハマダ辺境伯だ。護衛の奴隷を同席させろなどと、無理を申して申し訳ない」

右手を曲げて腹に当てて礼をする。これで相手が目上だと、膝を折らねばならない。

一応、ユリウスと一緒に、礼儀作法のお勉強もしている。

面倒だが、社会人としてやらねばならぬこともあるのだ。

それは元世界でもこの世界でも同じ。

辺境伯は、この世界では侯爵クラスらしいので、伯爵相手であれば敬語は不要。

何事も初めての経験なので、ビビリまくっているのは内緒だ。

「おお~っ! よくぞお越しくださいました、辺境伯様。どうぞお座りください」

伯爵は手を出して、笑みを浮かべた。

その表情を見て俺の緊張も緩む。奴隷を同席することに関しても、なんとも思ってないようだ。

アマランサスとマロウ商会の2人を後ろに立たせて、俺はソファーに座る。

本当は王妃なのに、俺の後ろに立つなんて考えられないのだが、彼女が奴隷を止めないのだから仕方ない。

マロウ商会の2人もそうだ。

プリムラは俺の側室で、マロウは俺の義理の父なのだが、身分の違いはいかんともしがたい。

俺の正面に座った伯爵から彼の家族の紹介を受ける。

「皆様よろしく」

トコトコと女の子がやってきたと思ったら、俺を素通りして、後ろに立っているアマランサスの所にいった。

「あの――アマランサス様? なぜ、後ろに立っておられるのですか?」

「大きくなったの、公子。妾は奴隷の身分なので、聖騎士様と一緒に座ることはできぬ」

どうやら、アマランサスと彼女は面識あるようだ。

領主クラスなら、登城することもあるから当然といえる。

「聖騎士様?」

アマランサスの言葉を聞いて女の子が首を傾けたが、無邪気な彼女の行動が、部屋の空気を一変させた。

まさか一発でアマランサスの正体がバレるとは思ってなかったので、俺も焦った。

「な、なんですと!?」

「まさか、アマランサス王妃?!」

伯爵と正室が飛び上がった。俺の後ろに立っている女性と、自分の記憶とを照合した結果、その結論を出したのだろう。

目の前に王妃がいるんだから、驚くのも無理もない。

「妾はすでに王妃ではない。娘のリリス共々王族籍を抜けており、辺境伯様の庇護の下で暮らしている」

「お、王女殿下まで……?」

「……そのような噂がちらほらと聞こえてきて、悪趣味な噂だと一蹴していたのですが……」

「ああ、私から弁解させてくれ。私がアマランサスに奴隷を強制しているわけではない」

「それでは、なぜそのような」

伯爵の問いにアマランサスが静かに答えた。

「それは妾の心のホゾゆえ、人には答えられぬ」

彼女の答えを聞いた伯爵家の面々が黙ってしまった。

アマランサスの話の切れ端を集めると「ずっとこうしたかった」らしいのだが。

「まぁ、それはさておき――伯爵には贈り物をさせていただく」

俺はアイテムBOXから漆器の箱を出すと、テーブルの上――伯爵の前に置いた。

「こ、これは?」

「白金貨だ」

「こ、これが?!」

伯爵家の全員が箱の中身を覗き込んでいるので、彼から白金貨を一枚借りると魔力を流す。

彼らの目の前で、銀色のコインが薄っすらと光り出す。

当たり前なのだが、このデモンストレーションをすると、どんなやつでも一発で信じる。

「なんと、本物……」

「もちろんだが、白金貨は懇意にしている貴族全員に贈っているものなので、他意はない」

白金貨を見ている伯爵の家族から女の子が抜け出すと、後ろに立っているプリムラのところにいった。

「プリムラ、今日はなにか面白いものはないの?」

「申し訳ございません、エリカ様。今日は辺境伯様のお付添なので……」

プリムラが困った顔をしている。

「なんだ、つまらない」

「これ! エリカ! 辺境伯様の前で、はしたない!」

伯爵が女の子を咎めるが、そんなことはお構いなしだ。

中々のお転婆のよう。

そんな娘のことなど気にもしない正室から、伯爵が突かれている。

「伯爵、なにか?」

「はぁ、誠に申し上げにくいのですが……辺境伯様は真珠を持っておられるとか……」

ははぁ――お城での一件が、ダリアまでやってきたってことね。

その真珠を正室が欲しがっているのだろう。

「それは事実なのだが……王族のアルストロメリア様から、王家以外に真珠を卸すな! ――と釘を刺されてましてな」

それを聞いた伯爵ががっかりと肩を落とした。

「そこをなんとか……」

――と伯爵は言いかけたのだが――ハッとなにかに気づいて、アマランサスのほうを見た。

王家の意向に逆らう行為を王族の前でしてしまったと思ったのだろう。

「ああ、先程も申し上げたように、アマランサスは王族から抜けておりますので」

俺の言葉を聞いた伯爵と正室は、ホッとした表情を見せた。

「しかし参りましたねぇ。今後のお付き合いのこともあるし――伯爵の意向には応えたいのだが……」

奥さんに弱いご主人のようで、俺の言葉にかなり凹んでいる。

その姿を見て、悪い人物には見えないように見えるのだが……。

「う~ん、それではこうしよう。沢山の真珠を卸してしまえば出どころがバレるので、一粒もので我慢してもらうというのは」

伯爵と正室がなにやら、ヒソヒソ話をしている。

「承知いたしました」

話は決まった。

俺はシャングリ・ラで検索して、18万円ぐらいの真珠1つ玉の18金のネックレスを購入した。

天然ものの大玉なので、もちろん高価――白い真珠ではなく、黒っぽい色をしている。

「これなどは?」

「わぁぁぁ!」

真珠を見た瞬間、目をキラキラさせて正室が飛びついた。

「一粒であれば、昔から家に伝わる家宝だとして言い訳も通じるだろう」

「辺境伯様に感謝いたします……それで、この代金は……?」

伯爵が恐る恐る俺の顔をうかがっている。

「ああ、隣領としてお世話になることもあるだろうし、お近づきの印として贈らせていただく」

「なんと――ありがとうございます!」

伯爵はホッとした表情をしているが側室はいないのだろうか?

正室だけに贈って、側室には贈らないとなると揉めそうだが……。

「重ねて、出どころは内密にお願いする」

「もちろんでございます」

代金を取るつもりは最初からなかったが、代わりを思いついた。

「代金の代わりと言ってはなんだが――少々頼みたいことがある」

「なんでしょうか?」

「この屋敷を案内してほしい」

「屋敷を?」

この屋敷の趣味が俺の好みなので、サクラの屋敷を作る際に参考にしたい。

その旨を伯爵に伝える。

「承知いたしました。それでは執事に案内させますので」

「感謝する」

執事がやってきて屋敷の中を案内してもらうことになったが、マロウはプリムラと一緒に、部屋に残るようだ。

「ケンイチ様、私どもは伯爵様とお話がございますので……」

「ああ、解った。俺は屋敷を見学させてもらうとするよ」

商売の話でもするのだろう。

俺は、執事と一緒に伯爵の屋敷を見て回ることにした。