軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

161話 作戦前夜

家の前で、クラーケン退治の作戦会議中。

作戦会議と言っても、戦闘で難しいことをするわけじゃない。

魔導師たちが船に乗って、クラーケンをおびき出して、戦闘したあと――最後は俺の爆雷でとどめを刺す。

そのために爆雷は作ったが、俺が止めを刺すことに、こだわっているわけではない。

安全に仕留められれば、それに越したことはないし、これだけの魔導師が集まっているんだ、魔法で片がつくかもしれない。

作戦会議の途中、紋章官のユリウスが手紙を持ってきてくれた。

どうやら、王家からの手紙のようだ。

俺は蝋印で丸まった手紙を開いて読もうとしたのだが――。

「砂糖の――え~と……アネモネ読んでくれ」

「うん!」

言葉は普通に通じるのだが、読み書きは少々苦手だ。

簡単な読み書きなのだが、オッサンになると新しいことが中々会得しにくくなる。

『砂糖の販売について、許可するのはやぶさかでないが――その製造法を知らせよ。円卓会議アルストロメリア』

俺は失念していたのだが、この国で砂糖と塩を売るためには、国の許可がいるのだ。

その手続きをユリウスがやってくれたらしい。彼は優秀だ。

「アルストロメリア様から、手紙が来るってことは、あの方が摂政をしているのだろうか?」

「おそらくは……」

「それではユリウス、俺の言葉を書き留めてくれ」

彼が胸のポケットから、俺が渡していたメモ帳とボールペンを取り出した。

「ケンイチ様。お願いいたします」

「え~と―― 一緒にお送りする植物を育てて、茎の汁を絞ることで砂糖になります。なお、植物の育成には大量の水が必要になるので、普通の畑では育ちません――こんな感じか。前後にそれらしい挨拶などをつけて、サトウキビの苗と一緒に王都へ送ってくれ」

「かしこまりました」

「枯れないだろうか?」

「獣人の飛脚を使えば、数日でしょうから。土がついていれば問題ないかと……」

「解った――それでは、よろしく頼む」

「ははっ!」

ユリウスが一礼して仕事へ戻ったが、アマランサスが立ったままなので、椅子を引いてやった。

彼女が一礼して、椅子に座る。

「アマランサス、王都でサトウキビの生産を試みるだろうか?」

「王都でも砂糖は欲しいでしょうから、十分に考えられると……」

「しかし、水がいるからなぁ。川の水じゃ少々――う~ん、そういえば、ソバナの近くに湖があったな。あそこなら栽培可能だろ」

「その場合、レインリリー公爵家の重要性が、さらに増すことになりますわぇ」

「帝国も欲しがるだろうしなぁ」

「王家としても、公爵家が力をつけすぎるのを、警戒すると思われますが」

「それなら辺境伯領の専売にしたほうが、アルストロメリア様も安心安全だな」

「はい」

アルストロメリア様の名前を出す度に、アマランサスが俺を睨むのだが……。

「ケンイチ、砂糖は王国でも専売なのか?」

「ああ、帝国もそうなのか?」

「まぁな」

「砂糖が簡単に入手できるようになる――というのは素晴らしいことですね」

レイランさんが上を向いて妄想している。

おそらくは、砂糖が手に入ることで、色々なお菓子文化が発達することを夢見ているのだろう。

ユリウスが追加の連絡を伝えてくる。

「それから、ケンイチ様。ノースポール男爵様から、近々お伺いしたいと連絡がございました」

ユリウスが確認したということは、公式な書簡ではなかったのだろう。

普通に連絡ってやつだ。

「おお、懐かしい。彼と別れたあとに、こんなことになるなんて――承知したと、返信をしてやってくれ」

返信しても、もうこちらに向かっているかもしれないが……。

その向かい――俺とアマランサスの話を聞いていたメリッサが頭を抱えている。

「ちょっと待って――ここで砂糖の生産ですって?」

「ああ、もうすぐ始まるぞ?」

「なんでそんなことになっているのよ!」

なんでって言われても困るなぁ……。

「なんでって、ここの基幹産業にするつもりなんだよ。砂糖があれば酒も作れるしな。サトウキビから作る酒は――ラムだっけ?」

「そうだな。ラムにするのは蒸留器が必要になるが……」

アキラがラムの説明をしてくれた。

「その他の産業を興すためにも、クラーケン退治が必要だ。岸辺で作業する住民が狙われたりしたらまずい」

「そうだな、岸に獲物が沢山いると解れば、やってくるかもしれない」

「街に明かりも増えるし、その明かりを辿ってくる可能性もある」

アキラと話していると、メイド長のマイレンがやってきた。

「ご主人様、夕飯のメニューはいかがいたしましょう」

「そうだな、人数が多いからカレーにしよう。一番無難だろう」

「やった! カレーだ!」

カレーと聞いたアネモネは嬉しそうだが、リリスが俺のほうを見て、ニヤついている。

「リリス、どうした?」

「いや――領主らしくなってきたのぅ……と思うてな」

「はは――まぁ、それなりにな」

作戦会議は終了。とりあえず伝える情報は、全て協力してくれる魔導師たちに伝えた。

――とはいえレイランさんたちは、アキラから話がいっているし、メリッサと婆さんだけなんだけどな。

あとはクラーケンとのガチンコ勝負だな。

そのあと、サトウキビ畑を見回って、順調な生育を確認。

定期的に成長促進の魔法を使ってもらっているので、成長が早い。

こんなことが可能なのも、さすが異世界だが――いくら魔法を使っても水と肥料は供給されない。

カラカラの痩せた土地で魔法を使っても、成長促進できないのだ。

そのため、定期的に水と肥料を与える必要があるのは、普通の畑と全く一緒。

要は、魔法を使って成長を早送りしているだけってことで、成長促進させるためには大量の水と肥料が必要となる。

俺がいる間は、シャングリ・ラから化学肥料を購入できるが――俺になにかあれば、それがストップしてしまう。

村でも堆肥作りを指導して、肥料の一定供給はできそうであるが――。

魔法で肥料成分を作ることはできないだろうか?

「う~ん」

考え込みながら――ぐるりと村を巡回して家に帰ってくると、背中から声をかけられた。

「旦那!」

振り向くと、なにやら懐かしい顔。

ソバナに向かう峠で世話になった獣人3人組だ。

皆が革の鎧と、剣を装備しており、獣人らしく動きやすい格好だ。

「よおっ! お前らか。こんな所までやって来たのか?」

「アストランティアの近くで、新しい領ができたって聞いてやってきたんだ。旦那はアストランティアに帰るって言ってただろ?」

そう話すのは、3人組のリーダー格のミケ子だ。

「それだけの情報で来たのか?」

「いいや――森猫様と一緒に暮らしていて、獣人のメカケを囲っているって聞けば、旦那だと思ったよ。ははは」

「そうそう」「そうなんですよねぇ」

背が小さい黒いチビ子と、サビ柄の太子がうなずいている。

ミケ子が俺に、身体を擦り寄せてきた。

「ねぇねぇ旦那。獣人のメカケがいるなら、あと3人ぐらいいいじゃない?」「そうそう」「よろしくお願いします~」

「待て待て、増やすなって言われてるからな」

そこにミャレーとニャメナがやってきた。

「聞き覚えのねぇ声が聞こえると思ったら、てめぇらか。こんな所まで追っかけてきやがって!」

「ふぎゃー!」

「妙なにおいを旦那につけるんじゃねぇ!」

2人が3人組を押しのけると、俺に抱きついてスリスリしている。

「なんだよ、ちょっとくらい分けてくれてもいいじゃないか!」

「こっちの毛皮をなでてもらう時間が減るだろ?!」

「そのとおりにゃ。この毛皮のツヤツヤがなくなるにゃ!」

「そうだぞ、旦那になでてもらうと、気持ちいいんだ……」

ニャメナが、俺に抱きついてうっとりとした表情を浮かべる。

「トラ公なんて、気持ちよすぎて、小便を漏らすにゃ」

「クロ助! それは今言うところじゃねぇだろ!」

「ふぎゃー! 羨ましい!」

ミケ子が、歯を剥き出す。

「お前らは、ガサツでズボラな男どもに突っ込まれていればいいにゃ」

獣人の男ってのは、女をなでたり可愛がったりしないらしい。

「「「ぐぬぬ……」」」

睨み合ってる獣人たちの間に割って入る。

「こらこら、喧嘩するな。スマンが魔物討伐の準備で忙しくて、お前たちに構っていられない」

俺の言葉を聞いた3人組の目が光る。

「魔物討伐?!」「そりゃ、聞き逃すわけにいかねぇな」「そうだよねぇ~」

「あ~無理無理、お前らじゃ腰抜かして動けなくなるだけだからな」

ニャメナの言葉に、ミャレーのツッコミが入る。

「トラ公は、自分の失敗を棚に上げてるにゃ」

「うるせぇ!」

「湖の上での戦いになるんだよ。獣人たちの出番はちょっとないんじゃないかなぁ――と思ってな」

一応、3人組の説得を試みるのだが、ミケ子が食い下がる。

「そんなのやってみないと解らないじゃないか!」

「船も、俺たちの分しかないしな」

「そうだにゃ! 引っ込んでろにゃ!」

「「「ぐぬぬ……」」」

「こら、煽るんじゃない」

実際、あんな巨体だと剣も役に立たないだろうし、ボウガンなども効き目が薄いだろう。

3人組には諦めてもらうしかないが、彼女たちはここに移住を希望しているようだ。

そうなると、面倒をみてやらないとだめだな。

現状、住宅がまったく足りていないので、コンテナハウスを一個貸してやった。

3人で使うようだ。

「旦那、この箱を借りていいのかい?」

「ああ、家がまったく足りてないからな。もう少しすれば公営の住宅が建つはずだ」

「そこを借りられるのかい?」

「そうだ、安い金額でな――だが、領の持ち物だから、悪事に使ったりするとすぐに追い出されるぞ?」

「そんなことするはずがねぇだろ!?」「そうですよ~」

黒いチビ子と、太子が毛を逆立てている。

「はは、悪い悪い。仕事が欲しいなら、毎朝俺の家の前に来れば人手を募集している部署が発表される。その仕事をやれば、日銭がもらえるからな」

「おおっ!」「やったぜ!」「嬉しいです~」

「この村には、お仕事紹介ギルドがないからな。もう少し大きくなれば、できるかもしれないが……」

「まぁ、旦那の腕の見せ所だな!」

ミケ子が笑っているが、そのとおりだ。

領の経営を破綻させてしまうと、こうやって集まってきた領民を路頭に迷わせてしまう。

ちょっと反則だが、俺のチートもあるしな。

領の経営を軌道に載せるためには、それもありだろう。

夕方になったので、皆で飯を食う。今日はカレーだが、面子が多いのでテーブルを複数くっつけている。

メリッサと婆さん、アキラの家族が同じテーブルについている。

アキラとアマランサスは酒を飲んでいるが、彼は――祝福を使って酒を分解できると言っていた。

まぁ毒も効かないって話だしな。

彼ができるってことは、俺にもできる可能性があるので、試しにやってみた。

少しワインを飲み、ほろ酔いになったところで酒の分解をしてみる――できた!

できたからといって酒を飲もうとは思わないが、付き合い酒がしやすくなったのは確かだろう。

ここである考えが浮かんだ。

俺の近くで酒を飲む、ウワバミだというアマランサス。

高い戦闘能力を持っている彼女も祝福と似たような力を持っているのではないだろうか?

リリスの能力が、対象者に祝福を与える力なら、その祝福を内包している王族がいてもおかしくない。

祝福があるなら、酒も分解できるだろうしな。

「こりゃ美味いねぇ! 香辛料料理かい?!」

この中では、婆さんだけがカレー初体験だ。

アキラは、俺からカレーをもらい、彼の家族と一緒に食べているからな。

「この領は、香辛料の規制がないからな。食いたい放題だぞ?」

「アストランティアでも、ソガラムのやつがいなくなって、いやらしい商人がいなくなったからねぇ」

「ケンイチのおかげだよねぇ~」

アネモネがカレーを頬張りながら言う。

「ケンイチ――そなた、アストランティアでも色々とやっておったのかぇ?」

「まぁ、その悪徳商人がプリムラを脅してきたもんだからさ」

「ケンイチを脅すなど、命知らずも甚だしいの」

「そのときは貴族に知り合いもいなかったし、なるべく穏便にしようと結構気を使ったんだぜ?」

「いまなら、まるごと吹き飛ばしてしまえばいいにゃー!」

「ウチのアキラなら、油を撒いて火を点けるにゃー!」

ミャレーとミャアがそんなことを言っている。

ちょっと離れた場所で、獣人たちがカレーを食べながら、聞き耳を立てていたのだろう。

「おれはなぁ―― 一応、平和主義者なんだよ?」

「そなたが言うと冗談にしか聞こえんが……」

リリスがつぶやく。

「あ! 俺も俺も!」

アキラの言葉に、カレーを食べていたクレメンティーナが反応した。

「お前のどこが、平和主義者なんだ!」

「フヒヒ、サーセン!」

「そんなことはないぜ、お姫様。旦那はありえないってぐらい優しいし――まぁ、たまに凄い怖いことを言い出すから、逆に怖いんだけどさ」

ニャメナからすると、俺が人間の身体の構造を知っていることが、すごく怖いらしい。

「そりゃ、考え方――教義の違いみたいなもんだからな。なぁ、アキラ?」

「ははは、なんだ俺もそのグループの中に入るのか?」

「獣人たちは、俺が人間の構造を知っているのが怖いって言うんだよ」

「確かに俺も、ウチのミャアに、それは言われたことがあるな。獣人なんて見たことがなかったから興味があるし。人間とどれだけ違うんだろう――とかな?」

アキラは戦場で死んだ獣人たちの身体を調べたそうだ。彼らの頭蓋は、耳の部分が大きくえぐれていると言う。

「そのえぐれた部分に、デカい蝸牛器官が入っているんだろ?」

「そうだ、だから耳がいいんだ」

アキラが、スプーンを立てると頭に当てて、耳を模している。

「その反面、脳の容量が小さくなるだろうからな」

「ケンイチ――獣人たちが文字を覚えられないのも、そのせいだと思うか?」

「俺も考えたことがある。多分、そのせいだとは思うが――単に知能が低いというよりは、文字とかを認識する部分が、まるごと抜けているような感じだと……」

「文字を認識できないから、計算もできない……」

「そんな感じだと思う。元世界にもそういう病気があったろ?」

「失読症だっけ?」

アキラと会話をして、獣人の身体についての情報をやり取りしていると――ふと気がつく。

周りがドン引きしていた。

「ああ、スマンスマン、飯のときにする話じゃなかったな」

「皆様、ウチの者が、申し訳ございません」

レイランさんも頭を下げて、アキラを睨みつけた。

「フヒヒ、サーセン」

「まったくアキラは、周りに配慮しろ」

クレメンティーナの言葉は、俺たちが使う空気を読め――と同義であろう。

謝る俺とアキラに、リリスが訝しげな顔をしている。

「そなたたちの話を聞いていると、頭のどこの場所で、なにを司っているのか、知っているような素振りだが……?」

「詳しくってわけじゃないが――頭の中に脳みそが入っているだろ? 文字を認識したり手足を動かしたりって、脳みそが司る場所が予め決まっている」

「ほう?」

「それだけじゃない。人が無意識にしている、呼吸や心臓の鼓動の調節なども司る場所がある」

「なるほどのう……」

黙ってカレーを食べていた婆さんが反応した。

「お前さん、只者じゃないと思っていたけど……ここまでとはねぇ」

「身体の構造を知っていれば、病気や怪我の治療にも役に立つからな」

「そうそう、病気ってやつには原因がつきものだからな」

アキラの言うとおりだ。

「逆に人体を効果的に破壊することも可能になる。武術と医学ってのは常に表裏一体だ」

「柔道とか柔術家が接骨院とかやってるよなぁ」

「そうだな」

「たとえば? どんなことが可能になるの?」

話を聞いていたメリッサからの質問に答える。

「俺たちの周りにある空気。これは複数の気体の混合物だ。それの組成をいじることで、生き物を窒息させることができる」

「そんな面倒なことをするなら、酸素と血中ヘモグロビンとの結びつきを邪魔したほうが簡単かもな」

「おお、その手もあるな。さすがアキラ」

「アキラもそういう知識を持っているのですか?」

「まぁね、センセ。知りたいなら教えてあげるよ」

「……」

メリッサが固まっているが、アネモネが声を上げた。

「息を止めるなら、もっといい方法があるよ!」

「なんだい? アネモネ」

「ゴーレム魔法で水を操作して、敵の口に入れればいい」

「おおっ! 溺死か! そういう手もあるな! さすがアネモネ」

「えへ」

「俺のマヨネーズと一緒だな。ははは」

アキラは、マヨネーズでドラゴンを窒息させたそうだからな。

「ちょっと待って、ゴーレム魔法で水を操作って?」

メリッサの言葉に、アネモネがテーブルの上に水を撒いて、魔法で動かしてみせた。

それを見た婆さんが驚く。

「なるほどねぇ。ゴーレム魔法にこんな使い方があったなんて」

「婆さん――これは帝国じゃ普通に使われる技術だぞ?」

「王国じゃ、ゴーレム魔法ってのは、人型を動かす魔法って固定観念ができちまってるからねぇ」

「水を操って、水面の上で船を動かす実験にも成功したぞ?」

「な~る! そういう手もあったか!」

アキラが手を叩いた。

「かなりのスピードを出せる――アキラたちは試したことはなかったか?」

「さすがに船はなかったな」

「アキラ――船を動かすだけじゃなくて、ゴーレムを使って、モーターが作れるかもしれない」

俺の言葉に、彼がアイテムBOXから、なにかを取り出した。

「じゃ~ん! 実は、もう作っているのでした!」

彼が取り出したは、元世界のと少々形が違うが、電動マッサージ器。

ボディは木製だ。一体、なにに使うのかは知らないが――ゲフンゲフン。

それを見た、レイランさんとクレメンティーナが真っ赤になっている。

「それ、わざわざ作ったのか?」

「へへへ、苦労したぜぇ」

「あ、アキラ! 早く、それをしまいなさい!」

真っ赤になったレイランさんが、必死にアキラにしまうように言っている。

「おお! ケンイチが使ったものに、よく似ておるのぅ!」

見覚えのある形に、リリスが反応した。

「まぁ、同じようなものだよ」

「なんだ、ケンイチも作ったのか。まぁオッサンなら、しゃーないな――フヒヒ」

「まぁな。それって回転子がゴーレムになっているのか?」

「そうだ。電池は魔石な」

「俺の思ったとおりだな。構造は簡単そうだが、魔石からの動力伝達回路が解らないから、カールドンさんに聞くしかないな」

俺とアキラの会話にリリスが割って入ってきた。

「それで、なにが作れるのかぇ?」

「リリスのドライジーネが魔道具で動いていたじゃないか。あれの大きなものを馬車につければ……」

「ケンイチの乗っている鉄の召喚獣のような乗り物が、我らにも作れると?」

「まぁ、上手くいけばな」

「でもなケンイチ。馬車を動かすほどの魔力を蓄えた魔石となると、相当でかい石じゃないと」

「チャージするのも大魔導師クラスじゃないとか……やっぱり、あまり普及しそうにないか……」

乗り物じゃなくても、利用できる場所はある。

たとえば、サクラで稼働している製材所。あそこで動いている大型の丸のこは水力で動いているが、魔石とモーターを使えば、水のない場所でも稼働できる。

「……」

俺たちの話を黙って聞いていたメリッサに、アマランサスが言葉をかけた。

「世の中、知らないことばかりじゃのう、メリッサ?」

「はい……アマランサス様」

皆で楽しく食事をしていると、俺の足下にベルがやってきた。

「にゃー」

「ベル、今日は遅かったな」

俺の脚に身体を擦り付ける彼女に、アイテムBOXから出したネコ缶を開けた。

「にゃー」

俺は、椅子から降りるとしゃがんで、ネコ缶を食べている彼女の背中をなでる。

「そうだ――今日はお母さんと寝るか」

「にゃー」

「そうかそうか」

「私も一緒に寝るー!」

カレーを食べ終わったアネモネが、俺の所にやってきて抱きついた。

「たまには、お母さんと2人きりにしてくれよ」

「にゃー」

ベルが、アネモネの周りを回ってすりすりしている。

「うー解った……」

珍しく、1発でアネモネが引き下がったな。

食事が終わり、明日からクラーケン討伐作戦を開始することを皆に伝えて、解散となった。

「よっしゃ、ベル行こうぜ!」

「にゃー」

暗い道を彼女と一緒に歩き、ツリーハウスを目指す。

ツリーハウスの下に到着すると、ベルはまっさきに階段を登った。

部屋の中はメイドたちによって、いつも綺麗に掃除されており、一分のスキもない。

ここは、元王族の2人も使うので、それなりのメンテナンスが求められているのだ。

「ふ~」

ベッドの上に身を投げ出して、大の字になった。

「にゃー」

「いや~領主ってのは色々と大変だな」

「にゃー」

俺の隣に香箱座りしているベルの身体にブラシをかけてやる。

彼女と2人きりだが、当然なにかするわけではない。

ブラシをかけ終わり、ベッドの上にブラシを放り投げると、横になった。

------◇◇◇------

――白い霧の中。

あれ? 俺はどうしたっけ? ぼんやりとした頭で考えても解らない。

1m先も見えないホワイトアウトだが、足下の感触や音から原っぱだと解る。

そのまましばらく進むと、少し霧が晴れて大きな木が見えてきた。

太い幹に、沢山茂った緑の葉。うねうねと地面を這う根っこの所に誰か人がいる。

よく見えないが、白いワンピースを着ているようだ。

さらに近づくと、少々浅黒い肌に黒く長い艷やかな髪をした女性がいた。

揃えられた前髪に、つり上がった大きなエメラルドの目と優しく微笑む口元。

「やぁベル」

耳も尻尾もないのだが――なぜかしらないが、俺はその女性がベルだと思った。

微笑む彼女が、俺に手招きをして太ももを指差す。

俺は招かれるまま、彼女の柔らかい太ももを枕にして寝転がった。

「いつもすまないな」

「それは言わない約束でしょ? それに、私のこの命はあなたのもの……」

少しハスキーだが、優しい声が俺の耳に届く。

俺はそのまま目を閉じると、身体をなで回す彼女の掌の温かみを感じながら眠りについた。