軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10話 zooのエリアボス戦

八王子ダンジョン1層3区と4区の境界、そこにzooのメンバーは集まっていた。

「じゃ、張り切っていこうか」

希凛の短い声掛けに、各々返事を返す。長い声かけはいらない。作戦会議など、ここにくるまでに散々地上で行ってきたのだから。

今日は1層4区のエリアボスに挑む日。エリアボスには何度も挑んできたが、初の4区のエリアボスであり、初の情報ゼロで挑むエリアボスである。希凛を含め、皆が緊張していた。リラックスも大事だが、適度な緊張は集中へ繋がる。そもそも、適正外の1~3区ならまだしも、エリアボスに挑まずとも1層4区では常に緊張を強いられるのだ。今更少し緊張したところで気にもならない。

まばらだった樹の間隔が徐々に狭まり、林へと様相が変わってゆく。見通しが悪く、 斑蜘蛛(まだらぐも) をはじめ 樹上(じゅじょう) に生息するモンスターもいるエリア。ゆっくりと、それでいて迅速に歩を進めていく。途中斑蜘蛛や 晶尖蟻(しょうせんあり) を見かけるが、見つからないように避けて進んでゆく。今更戦うようなモンスターではないからだ。

そのまま奥へ奥へと進んでいくと、小鳥が右手を上げた。

「き、来ます」

視線の先、高速で風を叩く羽音を響かせながら、5匹のモンスターが姿を現した。

薄刃蟷螂(うすばかまきり) :レベル58

薄刃蟷螂:レベル56

斑蜘蛛:レベル49

風蜂(かぜばち) :レベル63

痺蝶(しちょう) :レベル57

「ワン子、蟷螂。にゃあ子は蜘蛛を毒で」

手早く希凛が伝える。小鳥に指示を出さないが、すでに彼女たちの中で取り決めされたルールに 則(のっと) って小鳥は動く。この中で最も嫌な敵は 痺蝶(しちょう) だ。前衛の蟷螂、魔法も使える蜂は中衛、蜘蛛と蝶は後衛である。 痺蝶(しちょう) は痺れさせて感覚を奪う鱗粉を飛ばしてくるため、後方にいようとも早々に片付けたい。それが、小鳥の役割である。

迫りくるモンスターに向かって、小鳥が一人で突っ込んでゆく。両手には薄刃蟷螂の上位種である 灼燐蟷螂(しゃりんかまきり) からドロップした、 燻(くすぶ) るように 仄(ほの) かに 朱(あか) く輝く双剣を握っていた。防具は同じモンスターの防具を揃えることができておらず、風蜂と灼燐蟷螂からドロップした防具を組み合わせている。

そんな小鳥が突出すれば、当然他のモンスターから集中砲火を受けてしまう。それを犬落瀬が挑発のスキルを使い、無理やり犬落瀬へと注目を集めさせた。

犬落瀬が握る大盾は、1層3区からの相棒である『 兎鬼(とき) の盾』だ。黒鉄製のような漆黒の盾は、背の高い犬落瀬を隠せるほどにでかい。そんな 兎鬼(とき) の盾に、挑発によって引き寄せられた蟷螂二体が斬りつけた。強力な攻撃であるが、金剛のスキルが発現した犬落瀬の防御を突破するほどではない。微動だにしない盾を切り裂かんと蟷螂たちが攻撃を仕掛ける隙を狙って、 太閃蟻(たいせんあり) からドロップした両刃の長剣で犬落瀬が応戦してゆく。

そんな犬落瀬の先、 痺蝶(しちょう) を攻撃するために突出した小鳥に狙いを定めた斑蜘蛛に、猫屋敷の毒魔法が襲い掛かった。 毒牙百足(どくがむかで) からドロップした杖が、スキルレベル6になった毒魔法の威力を高めてくれる。斑蜘蛛を覆う様に、透明の毒を出現させた。透明化のせいで毒性が弱いが、本命はそれではない。毒の影響により動きが覚束なくなった斑蜘蛛に対し、足場の樹を毒魔法で腐らせ落下させる。下にはモンスターだろうとも腐食させる強力な酸の毒沼。斑蜘蛛はろくに動くこともできず、黒い煙へと姿を変えていった。

そんな猫屋敷に風魔法を放とうとする風蜂を、同じく風魔法によって生み出された刃が襲う。羽を傷つけられコントロールを失った風蜂に襲い掛かるのは、風蜂からドロップした槍を握る希凛だ。水魔法に続き風魔法が発現した希凛は、槍の穂先に風の刃を纏わせ風蜂と切り結ぶ。希凛は風蜂と戦いながらも、風魔法によって威力が底上げされた水の弾丸を蟷螂の一体に放った。今しかないというタイミングで放たれた水の弾丸は蟷螂の鎌を大きく弾き上げ、出来た隙に犬落瀬がすかさず一太刀入れることで止めを刺すことに成功した。

会敵から流れるような動きで対応し、あっと言う間にモンスターはその数を減らしていった。数が減ればモンスター側に抵抗の余地は無い。zooはものの数分で、自分たちよりも数の多いモンスターを対処してみせた。

「うん、動きは問題無いね」

「『毒牙の杖』も調子いいよ。エリアボスに挑む前にゲットできたのはついてるよね、僕」

「珍しくにゃあ子がゲットしたからね~」

「そ、そうですね! にゃあちゃん似合ってます!」

「この杖が似合ってるってのは、素直に喜べないんだけど」

猫屋敷の持つ『毒牙の杖』は、黒紫色の大きな牙を削って作られた杖だ。おどろおどろしい見た目をしており、女の子が似合ってると言われて素直に喜べないデザインであった。

「さて、これからはできるだけ戦闘を避けていくよ。魔力は温存していく」

索敵に優れている小鳥を先頭に、 犬落瀬(いぬおとせ) 、猫屋敷、希凛の順に並びエリアボスを目指してゆく。エリアボスはエリアの最奥にいることがほとんどのため、場所はおおよそわかっていた。

モンスターを避けつつ、初回の戦闘を含め合計4度のモンスターとの戦闘を制しながら、zooは目的となるエリアボスのもとへとたどり着いた。

翡翠戦機甲型(ひすいせんきこうがた) :レベル84

それは美しい鎧を纏ったゴーレムであった。鎧は名前の通り翡翠色をしており、まるでドレスのような西洋風のデザインである。手には鎧同様に翡翠色をベースに装飾が施されたランス、もう片方には盾が握られていた。身長は大きくなく、希凛と同じくらいである。手足もすらりと細長く、鎧の意匠からも女性を彷彿とさせるゴーレムであった。まるで美術作品のような美しさ。そのデザイン性の高さから、博物館に展示されていてもおかしくないような見た目をしている。

しかし、zooのメンバーはそんな見た目に見惚れることもなく、即座に展開した。

「ちっ、ゴーレムかよ」

そんな中、猫屋敷が舌打ち交じりに悪態をつく。ゴーレムは状態異常にならないため、得意の毒魔法を封じられたようなものだ。

「ワン子、見た目に騙されないでね。甲型だ。パワーは凄いよ」

「うん、大丈夫」

ゴーレムは名前を見ればどんなタイプか簡単に判別がつく。甲型は近接戦メイン、乙型は遠距離からの魔法がメイン、 丙(へい) 型は特殊ギミック持ちの厄介なタイプである。目の前の翡翠は甲型。女性のような線の細い見た目をしているが、エリアボスに相応しい力を備えているはずである。見た目に騙されて気を抜けば、簡単に盾を弾かれることだろう。

だが、犬落瀬は言われずとも気を抜くことは無い。1層4区のエリアボスに挑めるほどの探索者ならば、翡翠と相対すればわかる。肌に感じる圧力は、れっきとしたエリアボスのそれであった。

犬落瀬が一歩前へ出る。代わりに小鳥は後ろへと下がった。初見の敵の一撃目は、犬落瀬が受けるのがzooの戦い方である。タンク職である犬落瀬が一撃を受け、速さ、そして強さを確認し小鳥が前へ出るのだ。

犬落瀬が近づいたことで、翡翠が起動する。予備動作など一切なく、気づけば犬落瀬の眼前で翡翠がランスを構えていた。

「くぅっ!!」

瞬きの間に、ランスによる刺突が兎鬼の盾へと三度叩き込まれる。 薄刃蟷螂(うすばかまきり) 2体の攻撃を受けてもびくともしない犬落瀬が、僅かに押し込まれた。それだけで翡翠の攻撃力の高さを物語っている。

三連突きで突破できなかった犬落瀬の盾に、今度は重い一撃を放つために力を溜める翡翠。だが、悠長に翡翠が力を溜めるの待つほど、zooは翡翠を舐めていない。翡翠の側面から小鳥と希凛が襲い掛かった。

希凛は風の刃を二つ発動しながら、自身も槍で削りに行く。ゴーレムは体内深くにあるコアにエネルギーがある限り、再生し続ける特性がある。そのため、再生エネルギーを枯渇させるほど削るか、強力な一撃でコアを粉砕するかが攻略法となる。zooは一撃の火力はあまりないため、普段から搦め手や手数でダメージを蓄積させることが多い。そのため、希凛は早々に翡翠の再生エネルギーを削りに行く方針を採用した。

狙うは脚。ゴーレムは再生するためどこを攻撃しても致命傷にならないが、逆にどこを攻撃しても再生エネルギーを使う。そのため、狙いやすく攻撃を当てやすい場所を集中的に削るのが常套手段だ。槍を横薙ぎに振るい脚を刈り取りに行きながら、発動させた風の刃は背中と胸を狙って襲い掛かる。

翡翠の盾側から攻撃をしているため、どれかは防がれるだろう。しかし、どれかが当たれば確実に削れる。希凛のそんな目論見を、翡翠が無情にも打ち砕く。前後に放たれた風の刃に対し、盾を高速に動かすことで難なく防いでみせた。だが、希凛の攻撃は三つ。脚へと斬りつけた槍が決まると確信した時、翡翠の足が高速に動き上から槍を踏みつけられた。

「足癖が悪い!」

翡翠は槍を地面へと踏みつけると、即座に希凛の顔面に向かって蹴りを試みる。だが、それは小鳥の襲撃によって防がれた。

小鳥はランス側から翡翠へと迫っていた。翡翠は犬落瀬に浴びせた様にランスを高速で小鳥目掛け突きこむが、小鳥はそれを躱してみせる。ただ、そう簡単には接近できない。相手は人間ではなくゴーレムなのだ。まるでロボットアームが高速で動いているかのように、生き物らしからぬ動きで重量のあるランスを小枝のように振るい、小鳥を近づけさせない。

1層3区までならば、小鳥はその中に踏み込むことは無かっただろう。だが、1層3区で 水刃鼬(すいじんいたち) に襲われ、仲間である猫屋敷が殺されかけたあの日から、小鳥は無謀であろうとも一歩踏み出すことを自分に強制するようになった。危険だとわかっていても、小鳥は自分で決めたことを貫くために翡翠へと踏み込み双剣を構えた。

希凛の攻撃に合わせるように小鳥は翡翠へ肉薄する。触れれば小鳥など枯葉の如く吹き飛びそうな威力のランスが、小鳥の頭上を通り過ぎた。小柄な小鳥が身を 屈(かが) め、地を這うように翡翠への接近を成功させる。しかし、小鳥が双剣を振るよりも早く、翡翠が後方へと引いてしまった。

だが、退いた先には毒がある。犬落瀬の後ろで魔力を練っていた猫屋敷が放った毒魔法。翡翠が引いた先を広範囲で、頭上から降り注ぐ毒の雨が襲った。翡翠はランスを振ることで風圧を生み出し、毒の雨を霧散させようと試みる。ただの雨ならばそれで振り払えただろう。しかしこれは魔法によって生み出された毒の雨。猫屋敷が毒牙の杖を握り締め魔力制御に専念することで、翡翠が生み出した風圧にも負けない毒の雨へと変化する。

ランスによって直接弾かれた毒もあるが、それでも全てを弾くことは不可能。ランスを掻い潜った毒の雨が、翡翠の美しい鎧を汚染する。これには堪らず、翡翠は更に後方へと下がりzoo達から距離をとった。

「いや、強いね。相当威力高いよあの子」

「そうだね。まさか私の攻撃も全て防がれるとは思わなかったよ。削るのも一苦労だ」

「に、にゃあちゃんナイスです。ど、毒効いてますよ!」

「僕が創った毒だからね。けど、そう何度も当てられないよ。この毒は武器への付与も難しいし、僕にとって天敵だよアイツ」

猫屋敷が顔を顰める。先ほど猫屋敷が生み出した毒は、猫屋敷のとっておき。魔力に反応して内部の魔力を体外へと放出させる毒。いずれゴーレムと戦うことを想定し、猫屋敷が創り上げていた毒だ。強制的に魔力を放出させられる毒は、魔力で動くゴーレムにとっては最悪な毒である。しかし、それは当てられたらの話。

毒魔法は速度のある攻撃に不向きなため、相手に当てるのがまず難しい。透明化させると毒性が薄まってしまうし、毒の霧や弾丸ではスピードが出せず、翡翠のように小回りが利く近接戦メインのモンスターには簡単に避けられてしまう。それを補うために味方への武器に付与することもできるのだが、この毒は纏った武器の魔力も放出してしまうので仲間の魔力も減らしてしまうのだ。まだまだ改良の余地が残る毒である。

今回翡翠に毒を当てることができたが、これで翡翠も猫屋敷を警戒するはずだ。となれば、二撃目を与えるのは至難の業。雑に使って魔力を減らすのは馬鹿のすること。如何にして毒魔法を当てるかが猫屋敷の腕の見せ所だ。

感情を感じさせない人形のように、翡翠がzooたちを注視する。毒に侵された鎧は、いつの間にか綺麗さっぱりと修復されていた。あと何回削れば翡翠が止まるのか。

「基本はワン子が受けて。小鳥は自由に動いていいよ。にゃあ子、狙われるだろうから気を付けて」

希凛が指示すると同時に、翡翠が動き出す。ただ、直線的ではなく翻弄するように左右へ動きながら。希凛の言う通り、後方の猫屋敷を狙っているのかもしれない。

それを防ぐために犬落瀬が盾を構えた。挑発スキルを使用し、翡翠の攻撃を一身に受ける。スピードの乗った一撃は先ほどよりも重く、犬落瀬は防ぐのがやっとで反撃はできない。だが、犬落瀬には仲間がいる。希凛が風魔法を併用した水の弾丸を翡翠へと放つ。それらは簡単に盾で弾かれるが、希凛の目的は魔法を使うのは猫屋敷だけではないと意識づけること。その甲斐あってか、水の弾丸に紛れさせた鎧を腐食させる猫屋敷の毒も、翡翠は盾で受け止めてしまった。盾にへばりつくように広がる毒が、盾を脆くさせるために侵食してゆく。

さらに追撃のために小鳥が翡翠に接近した。ランスの猛攻を双剣で受け流し、一歩踏み込んでくる。先ほどの焼き増しのような攻撃パターン。それに対し、翡翠は自身のギアを上げる。翡翠は初撃含め未だ全力の攻撃をしてはいない。zooのメンバーは初撃の早さを前提に、攻撃を仕掛けていた。その 乖離(かいり) を利用し、ここで一人落とす。

翡翠が突っ込んでくる小鳥を串刺しにしようとしたとき、気が付けば犬落瀬の盾を攻撃していた。挑発。モンスターのヘイトを強制的に自分に向かせ、攻撃を自身に集中させるためのスキル。つい先ほども翡翠に対し使用したスキルだ。あの程度ならば多少狙いはぶれようとも振り切ることができるレベル、そう翡翠は判断していた。にも拘わらず、翡翠は犬落瀬の盾を攻撃している。それが意味するところは、犬落瀬もまた本気の挑発を使っていなかったということ。

ランスが犬落瀬へと向けられ、小鳥を相手にがら空きの側面をさらすことになる。小鳥が握る 灼燐蟷螂(しゃりんかまきり) の朱い双剣が魔力を帯びて煌々と輝いた。

連撃。このままコアまで破壊してやる。その意思を込め、小鳥が双剣を叩き込む。一撃で全てを削る必要はない。倒すのに百回攻撃が必要ならば、百回攻撃すればいいだけなのだ。ならば、今、百回切り刻む。

小鳥の双剣が翡翠の鎧を切り裂く。朱く染まり熱を帯びた双剣は、斬るというよりも焼き切る武器。熱による追加ダメージを与えながら、小鳥が猛攻を翡翠へ仕掛けてゆく。

ランスで対処するにも、これだけ肉薄されれば長物のランスでは満足に動けない。後退しようが、小鳥は翡翠に追従して追い詰めるだけ。

防戦一方の翡翠。だが、小鳥の攻撃は翡翠の防御すら潜り抜けダメージを与えていた。このまま押し切る。そう思った小鳥の視界は、迫りくる盾によって遮られた。

ドンッ

翡翠の盾を使った裏拳が、小鳥の顔面を正確に捉え吹き飛ばした。

ゴーレムにとって、腹を切り裂かれるのも腕を斬られるのも等しく同じダメージである。肉を切らせて骨を断つような攻撃は無いのだ。そのため、翡翠は小鳥に斬られるのを許容し、防御を捨てて攻撃を取った。

ゴーレムとの戦闘経験の無さ。エリアボスへの事前情報が無いために、ゴーレムへの対策も不十分で挑むこととなった弊害。zooの中で最も回避に優れる小鳥が、宙を舞った。