作品タイトル不明
5話 初めての二人の戦闘
鈴鹿とヨキと灰ヶ峰、初めてパーティ全員揃ってダンジョンを探索していた。たった3人のパーティなのに揃って探索するのが初とはこれ如何に。とは思うものの、ヨキのレベルの都合もあるため致し方なかったと思うことにしよう。
「イエーイ! 昨日振りだね! みんなよく眠れたかな? 俺はぐっすりだったよ!」
【おはようございます】
【なんか狂鬼さんテンション高くない?】
【朝型なのかな】
鈴鹿がいつも通り狂鬼の面を着け、配信を始める。コメントで指摘された通り、鈴鹿のテンションは高い。だがそれも仕方ないだろう。なんたって武器が持てるようになったのだから。いつもエリアボスからゲットするカッコいい武器たちを視界に入れないようにしていたのだ。それを使えるとなればテンションも上がる。
とはいえ、武器を持つイコール不死を縛るという大きすぎるデメリットもあるのだが、武器を持つ前から不死を縛っているので今更である。
【あ、今日はヨキちゃんいる!!】
【ほんとだ!! 灰ヶ峰様も!!】
「ああ、今日はみんなが二人の戦闘の様子を見たいって言ってたから、一緒にいてもらってるんだ」
【とうとう狂鬼さんのパーティ戦が見れるのか!?】
【楽しみ!!】
「いや、エリアボスは俺だけで戦うよ。それに二人もそれぞれ別でモンスターと戦ってもらうから、基本一人だね」
【パーティとは】
【未だに狂鬼さんに常識を求めるなんて酷なことを言う】
【そうだぞ。そんな狂鬼さんのパーティメンバーだぞ。この二人も俺たちの常識で測れるはずがない】
思っていた戦い方ではないが、それでもヨキと灰ヶ峰が戦うと聞いてコメントが盛り上がりを見せる。
鈴鹿が言ったように、残念ながらパーティで戦うことはしない。一人でも苦労しない相手を、わざわざパーティで戦うというのも違うと思うのだ。レベル250のその先。いずれ三人で戦うことになるかもしれないが、それまでは各々技術を磨いていく予定である。
「お、早速モンスター来るな。まずは灰ヶ峰お願い」
鈴鹿の気配察知にかかったモンスターが遠くに見える。
地砕龍(ちさいりゅう) :レベル153
それは大きな恐竜であった。体高3メートルはある四足歩行の龍。 堅固(けんご) な外皮に筋肉質なのが見てわかる巨体。まるでトリケラトプスのように太くぶ厚い身体だ。そんな地砕龍がこちらに突進している。あんなの質量の暴力だ。圧迫感が凄まじい。
そんな地砕龍に、灰ヶ峰が一人近づいてゆく。通常モンスターとはいえ、相手は3層5区のモンスターだ。あんな巨体のモンスター、パーティで囲んで戦うべき相手である。しかし、灰ヶ峰は気にする様子もなく刀を抜く。『 淵割(ふちさき) の 剣(つるぎ) 』は鈴鹿たちに合わせて4層に取っておくようだ。
「ふぅぅ……」
一つ、息を吐く。灰ヶ峰は剣術がレベル10へと至った。とはいえ、まだ至ったばかり。集中し、攻撃をイメージする。丁寧に丁寧に、魔力を練り上げた。
ここまで丁寧にせずとも、今の灰ヶ峰ならば地砕龍如き圧倒できるだろう。だが、灰ヶ峰はそうしない。鈴鹿とパーティを組んだ灰ヶ峰は、モンスターを倒すことが目的ではないことを学んだ。自分を高めることこそが重要であり、そのためにモンスターと戦うのだと。
だからこそ、灰ヶ峰は丁寧に動きを意識し、刀を振り下ろす。
それだけで、地砕龍が真っ二つに分かれ、黒い煙へと姿を変えた。
【……え、一撃?】
【狂鬼さんかよ】
【そもそもどんな攻撃? まだ刀が届く距離じゃなくないか……】
灰ヶ峰が簡単に片づけすぎたため、コメントが動揺している。地砕龍は見た目からして堅そうだし、何より大きい。それだけのモンスターを一刀のもとに切り伏せて見せた灰ヶ峰に、ファンは歓喜し視聴者は困惑している。
狂鬼チャンネルの視聴者は、『狂鬼だから』で大体のことは流してきた。死ぬだろと思う攻撃を何度受けても不死身のように復活しようとも、エリアボスを相手に一方的に戦おうとも、まだレベル200にもなっていないのに特級探索者を一方的にたこ殴りにしようとも、モンスター相手にソロで戦っていようとも。それらは全て『狂鬼だから』で片づけてきた。
しかし、灰ヶ峰は狂鬼ではない。そのため、『狂鬼だから』が使えないのだ。そのことに、視聴者が動揺している。
【狂鬼さんのせい? それとも特級クラスって普通これくらいできるもんなの?】
【特級でさえ苦労するのが5区なんだぞ? レベル差があるとは思うけど、一撃はさすがに……】
【魔法か? それとも剣術? 剣術だとすると……】
「やるね灰ヶ峰。いい感じじゃない?」
「使えるようにはなった。だが、まだタメが必要だ。まだまだだな」
コメントの賑わいに対し、鈴鹿たちはいつも通りだ。灰ヶ峰は淵の番を一人で倒すほどの実力者である。これくらいは余裕だろう。
とはいえ、灰ヶ峰はまだ納得は出来ていないようだ。刀が届かずとも、魔力を練り上げ地砕龍を両断してみせた。しかし、それはあくまで剣術を拡張し再現してみせただけ。灰ヶ峰は剣術スキルレベル10へと登り詰めたが、それはゴールではなく通過点であることを知っている。鈴鹿というイカレた強さの探索者に並ぶには、まだまだ到底足りない。
故(ゆえ) に、灰ヶ峰は淵の番を倒した後も、別のエリアボスに何度も殺されようとも鍛錬を続けているのだ。上を目指すために、鈴鹿という便利な蘇生アイテムを使って。
灰ヶ峰が地砕龍を瞬殺した後、コメントと会話しながら探索を再開する。今日は鈴鹿のエリアボス戦をヨキと灰ヶ峰も見るそうなので、最後まで一緒に行動する予定だ。
パーティとは何かという哲学をコメントと話していると、新たなモンスターが見えてきた。
風鈴鬼蜂(ふうりんおにばち) :レベル155
魔水蜂(ますいほう) :レベル142
魔水蜂:レベル133
黄感蟷螂(おうかんかまきり) :レベル146
紺糸鍬形(こんしくわがた) :レベル160
昆虫型のモンスターの集団だ。この中では 紺糸鍬形(こんしくわがた) が最も強く、強敵である。レベルが高いこともそうだが、 紺糸鍬形(こんしくわがた) 自体あまり出現しないモンスターであり、レア枠のモンスターである。当然珍しいだけでなく、強さもレア度に見合ったものだ。
モンスターたちの見た目は、蜂や 蟷螂(かまきり) で想像する昆虫と大きな乖離は無い。サイズや凶悪さは違えど、姿かたちから名前の虫を連想できる。しかし、 紺糸鍬形(こんしくわがた) は違う。どちらかと言えば蟷螂に近い見た目をしていた。蟷螂にカブトムシの外骨格を無理やりくっつけ、腕は鎌の代わりに 鋏(はさみ) に置き換わっている。クワガタらしい特徴的な顎はあるもののサイズは小さく、顎というよりも鹿のように枝分かれした角が二本生えているように見える。
クワガタは平べったくて可愛らしい顔をしている昆虫だが、目の前の 紺糸鍬形(こんしくわがた) は怨念を抱えたような形相をしていた。まるで落ち武者だ。スリムになったからか動きは早く、強固な外骨格により守りも硬い上に魔法も効きづらい。3層5区では1、2を争う強さのモンスターである。
「う~ん、次はヨキだけど、いっぱいいるな。間引く?」
「いえ、問題ございません。お任せください狂鬼様」
ヨキが収納から 戦斧(せんぷ) を取り出し、軽やかに回してみせる。初見のモンスターだが、ヨキはやる気十二分だった。初めて鈴鹿に見せる戦闘なのだ。ここで下手なことはできない。鈴鹿も2層5区のエリアボスを単騎で倒すヨキが通常モンスターに後れを取るとは思っておらず、仮にピンチだとしても魔法なり見えざる手なりで間に入ることは容易なのでヨキを戦わせてみることにした。
「ヨキってどんな風に戦うんだろうね」
スマカメをヨキの方へ飛ばし会話を聞かれないようにしながら、灰ヶ峰に話を振る。
「ヨキの発言が事実ならば、一撃で複数の斬撃が生み出される。それならば、初撃で紺糸鍬形以外は倒せるだろうな」
「一撃で? 5体もいるんだぞ。それはさすがにきつくないか?」
「いや、戦神がどのようなスキルかはわからないため考慮しないとしても、斧術がレベル10ならばそれくらいはできるはずだ。そして、ヨキはお前に嘘をつくような性格ではない」
鈴鹿もヨキが嘘をついているとは思っていないが、かといって抽象的な擬音混じりのヨキの報告をきちんと理解できている訳でもない。灰ヶ峰も倒せるというのなら、ヨキを信じて戦いを見守るのが一番だろう。
一人で前に出るヨキに気づいたモンスターたちが、ギチギチと顎を打ち付けながら標的に定める。背中の羽を高速で羽ばたかせながら、一斉にヨキへと襲い掛かった。魔水蜂が遠距離から水魔法による弾丸を射出し、風鈴鬼蜂が周りのモンスターの速度を上昇させる魔法を使い、 黄感蟷螂(おうかんかまきり) と紺糸鍬形が一気に彼我の距離を詰めにくる。
それに対し、ヨキは慌てず魔力を練り上げる。ぐんぐん、ぐんぐん魔力を込め続ける。
「ん? なんであんな魔力込めてんの」
ヨキがアホみたいに魔力を込め続けるので疑問に思った鈴鹿だが、その声はヨキには届かない。
いつの間にかヨキの口元は黒い硬質なマスクで覆われており、まるで狂鬼の面のようにそこから血に染まる牙がのぞいていた。足も踏ん張るためなのか鉤爪が地面を鷲掴み、藍色の 瞳(ひとみ) は竜の 眼(まなこ) となり爛々と輝いている。
「さぁ、地獄の門が開いたぞ。狂鬼様の御前だ。派手に踊れ。―――断絶」
夜姫(よき) が戦斧を振り下ろす。たった一振りで、全てのモンスターが両断された。それは黄感蟷螂も紺糸鍬形も例外ではない。そして、両断された断面から地獄の業火が吹き上がる。鈴鹿たちの視界を蒼白く染め上げながら、火災旋風のように一切の容赦なく全てを燃やし尽くした。あまりの熱波に、鈴鹿がスマカメを遠ざけたほどである。
魔法の炎が掻き消えた後には、当然のようにモンスターは一体たりとも生き残ってはいなかった。
「……灰ヶ峰さん。一振りで 紺糸鍬形(こんしくわがた) も倒されましたけど」
「オーバーキルがすぎる。存在進化まで解放して、魔力の大半を使っているな。お前がエリアボスとしか戦わせないせいで、魔力の適切な出力が分かっていないんじゃないか?」
ヨキの圧倒的な攻撃に対し、鈴鹿は驚き引いているが灰ヶ峰は逆にダメ出しをする。灰ヶ峰の言う通り、ヨキは鈴鹿に見てもらえるとあって、テンションをぶち上げて何も考えずに攻撃をぶっ放した。それは多くの魔力を消費した、いわゆる一撃必殺。エリアボス相手であればそれも良いかもしれないが、下手に魔力を消費してしまえば継戦が厳しくなってしまう。エリアボスが倒せなければ魔力を失った探索者は絶望することしかできないのだ。そんな攻撃をただのモンスター相手にぶっ放すのは、探索者の初心者も初心者の動きである。
しかし、ヨキはそもそも探索者として普通の活動をしたことがない。鈴鹿の指示のもと、2層4、5区ではモンスターから気配遮断のために隠れて行動し、エリアボスまで辿り着けば死ぬ気でひたすらエリアボスと戦っていた。ヨキにとって戦いとは目の前のモンスターを全力で倒す事。その後の事なんて倒した後に考えればよいのだ。その結果、普通なら灰ヶ峰のように魔力を温存しながら最小限の消費でモンスターを倒す場面で、ヨキはあれほどの攻撃をぶっ放すような探索者に育ってしまっていた。
「狂鬼様いかがでしたでしょうか!」
いつの間にか存在進化は解除されており、いつも通りのヨキが尻尾をふよふよ左右に振りながら近寄ってくる。褒めて褒めてと言っているようだ。灰ヶ峰はもちろん、コメントも静まっている。狂鬼チャンネルの可愛い枠と思っていたヨキが、恐ろしい火力の技を平然とぶっ放したことで放心しているのだろう。普段雑談配信でしかヨキを見ないせいで視聴者は勘違いしていたが、ヨキはれっきとした狂鬼のパーティの一員なのだ。生半可な強さなわけがなかった。その事実を、あの燃え盛る蒼き業火と共に脳に焼き付けられた。
「うん、凄い強かった! さすがヨキだね! 圧倒的な火力、まさに戦斧使いのヨキらしい一撃だ!」
笑顔溢れるヨキに、鈴鹿はとりあえず思ったことを伝えた。魔力は有限だから考えて使うんだよ、なんて指摘はしない。そんなものは後ですればいい。今はヨキの力の強さを褒めるだけで良いのだ。
鈴鹿は灰ヶ峰から 注(そそ) がれる視線を受け流し、ヨキを褒めた。実際、ヨキがやったことは凄い。まず、魔力をめちゃくちゃ消費したとはいえ、ヨキは発言通り一撃で5発の斬撃を放ってみせた。まずこれだけで凄い。なんてったって、鈴鹿でさえ最近できるようになったようなレベルの技だ。それをダンジョンに入り始めて日も浅いヨキがやってのける。それを褒めずして何を褒めろと言うのか。
そして、斬撃の断面から発火させた火魔法。灰ヶ峰ですら魔力によって斬撃を再現させることにタメが必要だというのに、ヨキはあろうことか斬撃に火魔法すら付与させていた。それ故に、斬りつけられた断面から発火したのだ。恐ろしく高度な技をヨキはやってのけている。そのせいであれだけ魔力が必要だったとしても、威力の調整ができるようになればその辺もクリアしていくだろう。出来ないことを出来るようになるのと、出来ているものをブラッシュアップするのでは後者の方が圧倒的にやりやすい。
つまり、ヨキが放ったあの攻撃は、ヨキの強さを見せつけただけでなく、同時にヨキの伸びしろも感じることができる一撃であった。今後の魔力の配分方法や探索者としてのいろはは、おいおい身につけていけばいい。その辺は正直鈴鹿もあんまりわかっていないが、幸い3層5区まで普通にパーティで活動していた灰ヶ峰がいるのだ。探索者としての心得は灰ヶ峰に任せれば万事うまくいくだろう。さすが峰さんだし。
「あの斬撃はどうやったの? ヨキが振り下ろした攻撃をモンスターの数だけ再現した感じ?」
「どうとは? 戦斧は一度振れば複数の斬撃が発生するのが普通ではないのですか?」
何を当然のことを。そんな風にヨキが見てくる。それに対し鈴鹿は困惑する。『え、最近の子が言ってることわかんない』。そんなおじさんみたいな顔をして灰ヶ峰を見れば、灰ヶ峰は呆れたような顔をしながら教えてくれる。
「戦斧を一度振れば複数の斬撃が発生する。これはお前がヨキ相手に話していたことだろう。複数の斬撃が出せれば隙も無いと」
「え、本当?」
「はい。ですので、私は狂鬼様が求めるレベルまで精進しておりました。まだ数が足らなかったでしょうか? 本当はもっと斬撃出せるんですよ? ただ、モンスターが5体でしたので……」
「いや、十分凄い。本当に凄い。ヨキは天才だ。冗談抜きで三人の中で一番才能溢れてるんじゃないかな?」
「本当ですか! これからも狂鬼様に少しでも近づけるよう精進いたします!!」
藍色の美しい目をキラキラに輝かせながら、ヨキがさらにやる気を漲らせる。
ただ戦うだけであれば、ヨキは鈴鹿には敵わない。灰ヶ峰にも負けるだろう。しかし、ヨキには二人が持ち合わせていない感性があった。二人が常識として無意識下に切り捨てている選択肢を、ヨキは持っている。その強みを糧に、ヨキは単騎で2層5区を制覇してのけたのだ。非凡なる才を、ヨキは持っていた。
フリーズから解除されたコメント達がヨキに大量の質問を飛ばし始める。慣れぬコメント対応にあたふたしているヨキを見ながら、鈴鹿は『ヨキ、恐ろしい子!』そんな風に思うのだった。