軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

故郷の話

店の中は、外から想像していたよりも落ち着いていた。

壁は濃い色の木材で、飾り気は少ない。

だが、棚に並ぶ壺や布の模様が、どこか異国の空気を残している。

香りも、外ほど強くはない。

火を通した香辛料の匂いが、温度を落として漂っていた。

客は多くない。

この時間帯だからか、話し声も低い。

「……ここ、静かですね」

エルフリーデがそう言うと、ルーカスは頷いた。

「うん。賑やかな時間は、もう少し後」

席に案内され、向かい合って腰を下ろす。

卓は小さく、距離が近い。

ルーカスは、腰を下ろした瞬間に、ふっと肩の力を抜いた。

外套を外し、椅子の背に掛ける仕草が、どこか無防備だ。

(……さっきまでと、雰囲気が違う)

エルフリーデは、そう思った。

注文を済ませ、料理が来るまでの間。

ルーカスは、店内を一度だけ見回す。

懐かしむ、というほどではない。

ただ、そこにあることを確かめるような視線だった。

「僕の母方の国ね」

ぽつりと、説明する。

「連邦から見ると、だいぶ東の方にあるんだ」

それだけ言って、続けない。

料理が運ばれてくる。

香りが、さっきよりもはっきりする。

だが、不思議ときつくはない。

湯気と一緒に、穏やかに立ち上る。

ルーカスは、一口目を口に運ぶ前、ほんの一瞬だけ間を置いた。

それから、静かに食べる。

咀嚼はゆっくり。

表情は変わらないが、眉間の力が抜けている。

(……年相応だ)

エルフリーデは、そう感じた。

仕事中の、糸目のまま周囲を測っている顔ではない。

どこか、気を張らない青年の表情だった。

「どうですか」

エルフリーデが聞くと、ルーカスは一度だけ頷く。

「うん。ちゃんと、同じ味だ」

嬉しそうでも、感動している様子でもない。

でも、それが一番正直な反応に見えた。

「母の側にいた時だけ、こういうのを食べてた」

さらりと言う。

「常じゃない。むしろ、特別な時だけ」

一拍。

「でも、あの人のいる場所では――普通だった」

それだけで、十分だった。

エルフリーデは、黙って聞いていた。

相槌を打たない。

質問もしない。

その沈黙が、心地よいと分かっているからだ。

「連邦に来てからは、会食向けの料理ばかりでさ」

軽い口調。

だが、愚痴ではない。

「こうして落ち着いて食べると……思い出すね」

そこで、初めてエルフリーデを見る。

「君が平気だって言ってくれて、嬉しかった」

本心だった。

「一人で食べるより、ずっといい」

エルフリーデは、少しだけ目を伏せる。

「……王宮でも」

静かに口を開く。

「異国の料理は、よく出ました。外交の場では、残さず味わうのが礼でしたから」

それから、付け足す。

「でも、これは……好きな方です」

正直な言葉だった。

ルーカスは、ふっと笑う。

いつもの、胡散臭い笑みではない。

肩の力が抜けた、素直な笑い方だ。

「それは、よかった」

その後は、言葉が少なくなった。

二人とも、料理をきちんと食べる。

無理に会話を繋がない。

静かな店内で、皿の上の料理が減っていく。

――ただ一緒に、食べている。

それだけなのに。

ルーカスは、久しぶりに

「役割」ではない自分で、この味を口にしている気がした。