軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

手紙

応接室で、ローテーブルを挟んでアレクシス夫婦と向かい合った。

「どうぞ、読んでいただけますか?」

アレクシスが手紙を差し出した。

「わかりました。拝読します」

封の縁から、夫人の香りが薄く立ち上った気がした。気のせいだとわかっていても、私の手は震えていた。

**親愛なるガブリエルへ**

**大切な門出となるはずだったパーティを台無しにしてしまったことを、心からお詫びいたします。**

**こんなにも恥ずかしく、情けないことはありません。本当にごめんなさい。**

──奥様……。

**思い返せば、友人だと思っていたあの方々にとって、私はただの金蔓でしかなかったのですね。**

**ああ、なんという嘆かわしさでしょう。自分の見る目のなさを思い知らされました。**

**そこで、私は決心いたしました。この手紙と共に残すのは、ここら一帯の貴族たちに貸し付けてきたお金の証文の束でございます。**

「!」

私は思わず証文の束に目をやった。

**本来ならば、返ってこなくても構わないとさえ思っておりました。けれど、今は違います。**

**彼らに対して、私は本当に怒っています。こんなにも怒りを覚えるのは初めてです。少し気が変になっているのかもしれませんね。**

**ガブリエル、もし私に何かあれば、これをあなたに相続して欲しいのです。息子のアレクシスにも、その旨を伝えてあります。**

**あなたのように誠実で強い女性が、この証文を活かして、この街をもっと良くしてくださることを信じています。**

**心からの愛と謝罪を込めて。**

**カトリーヌ・アルベール**

手紙を読み終え、私は紙を膝の上に置いた。

──あれほど穏やかだった奥様が、このような怒りなど。

──今際の時にそんな思いをさせて、こちらこそごめんなさい、奥様……。

胸の中で、何かが締め付けられた。

「そういうわけで、その証文をガブリエルさんに引き取ってもらいたいのです」

アレクシスの声で、私は顔を上げた。

「恐れ入りますが、相続権は息子であるあなたにありますが……」

「私たちの領地はブレンナールから遠く、母に会うのも数年に一度でした」

アレクシスが言葉を選んだ。

「だから、母の交友関係も分からず、今このような債権を持っても、扱いに困るのです」

「夫は領地運営で忙しいのです」

アレクシス夫人が、少し迷惑そうに口を挟んだ。

「こんなよく分からない債権回収に充てる手間や費用を考えると……」

──実はカトリーヌ夫人から、息子さん夫婦との関係が上手くいっていないと聞いていた。

私にとっては慈しみ深い母のような存在だったカトリーヌさんは、実の息子さんやその奥様には、違う面を見せていたのかもしれない。

「わかりました。私が引き取ります」

アレクシスがほっとした表情を見せた。

「そうですか! 良かった」

「ただし、タダというわけには……」

「いいえ、タダで結構です」

伯爵が立ち上がった。

「我々は明日には領地に戻らなければならないのです。手続きは私の弁護士に任せるので、そちらとお願いしていただけますか?」

「わ、分かりました」

「では」

颯爽と、二人は応接室を後にした。

◇ ◇ ◇

ブレンナールの拠点に戻り、私は仲間を集めた。

ガブリエル、エレナ、ニッキー、マルコスの四人で、卓を囲む。

「……というわけで、カトリーヌ夫人から託された借用書よ」

「随分な数ね」

エレナが束を捲った。

「合計だと金額も相当なもんだ」

マルコスが計算しながら言った。

「合わせれば、八億Rを超える」

ざわつきが起きた。

「私はカトリーヌ夫人とは面識がないけれど」

エレナが少し声を落とした。

「ちょっとこの額は異常よ。言っちゃ悪いけど、お金の力で周りに人を集めていたように見えちゃうわ」

「夫人はお年を召してから、この街に移住してきましたから」

ニッキーが穏やかに言った。

「彼女にとって、それが仲間を作る方法の一つだったのでしょう」

「私だって、夫人に甘えてたくさんの帽子を買っていただいたわ」

私は手紙の文字を、もう一度目で追った。

「でも、お金だけが夫人との繋がりだったとは思わない」

「だとしても」

エレナが続けた。

「夫人は二人も知らない、孤独を抱えていたのかもしれないわね」

ニッキーが、私を見た。私もニッキーを見た。

二人とも、すぐには何も言えなかった。

「で、どうする? これ取り立てるのかい?」

マルコスが、空気を変えるように言った。

「まさか」

私は首を振った。

「夫人が亡くなって、私が代わりに借金を取り立てたりしたら、なんて言われるか」

「それを恐れて、息子の伯爵も債権を放棄したのね」

エレナが頷いた。

その時、マルコスが束の中の一枚に目を止めた。

「おや、ベルモンド・アレの名があるぞ」

「どなたでしょう?」

「この街の行政官さ」

マルコスが顔を上げた。

「先日、セレモニーパーティの時間に合わせて、わざわざ貴族夫人に向けての講演会を突然開いた」

全員が、同時にマルコスを見た。

「張本人だ」