作品タイトル不明
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「…これからはずっと俺とカイルがいる。
王宮に帰って来てからも、一緒に寝て、うなされたら起こす。」
「うなされてたら起こしてくれる?」
「ああ。俺は一秒だって、姫さんをあんな塔に一人でいさせたくない。」
「あんな塔にって…。」
「姫さんがいた場所もあの塔と同じ造りなんだろう?
…あんな場所に五十年も一人でいて平気なわけがない。
姫さんだって、古式魔術の話はうれしそうにするけれど、
あの場所でどんなふうに暮らしていたのかは一言も言わなかった。
…思い出したくないからだろう?」
「クリス…。」
言われてみたら、あの塔にいた時のことを全く話していない。
クリスもカイルも、それが当たり前のようにしていたけれど、
私が無意識でさけているのをわかってて、聞かなかったんだと知った。
「カイルはさっきまで考え込んでいたよ。
姫さんの夢に入る魔術はないかって。」
「え?」
「あとは夢を共有する魔術だったかな。
真剣に悩みこんでた。」
「えええ?そんなこと考えてたの?」
夢というか、人の意識の中に入るような魔術は知らない。
その人の思想というか、考えに干渉するような魔術は作り出されていない。
それを新しく作るというのはかなり難しいと思う。
「まぁ、難しいのはわかっているだろうけどな。
それだけカイルも姫さんをあの塔に戻らせたくないんだ。」
「戻るって、夢でしょ?」
「夢だけど、実際に暮らしていた記憶だろう。
それはつらいことをもう一度経験していることにならないか?」
「…。」
うなされているってことは、そうなんだろう。
二人に心配させて申し訳ないとは思うけど、自分でもどうにもならない。
「あぁ、責めているんじゃない。
俺たちは情けないって思っているだけなんだ。」
「二人とも情けなくなんかないよ?」
「…情けないよ。姫さんが苦しんでいる時に見ているだけは嫌なんだ。
なぁ。もう苦しい時は苦しいって言っていいんだぞ?
魔女だったことはわかったし、隠し事はもうないんだろう?
もう我慢しなくていいんだ。」
「我慢しなくていい…?わたし、我慢…してた?」
「してた。」
何を我慢してたんだろう。でも、クリスが断言するならそうなんだ。
今もぎゅうっと抱き寄せられ、こんなにも甘えさせてもらっているのに、
何を我慢していたというんだろう。
「…もし、本当に万が一のことがあって、
また姫さんが塔に入ることになったとしたら。」
また塔に入ると言われ、おもわず身体がビクッとしてしまう。
あの塔に入ることを考えたら震えてくる。
…そうか。まだ怖いんだ。
何も無いことが、何も音がしないことが、私をじわりと傷つけていく。
自分の息の音だけが響くような空間が…ずっと終わりなく続く。
あの塔に戻りたくない。
「あぁ、悪い。怖がらなくていい。
例えでも言うべきじゃなかったな。」
「…大丈夫。」
大丈夫、今は塔の中じゃない。
クリスの声が聞こえる。抱きしめられている腕から体温も伝わる。
一人じゃない…一人じゃない。繰り返し自分に言い聞かせる。
「ほら、我慢するな。嫌なことを思い出した。
つらい気持ちになった…そう言っていいんだ。
ただわかってほしかったのは、もう姫さんを一人にすることはないってことだ。
もし塔に入ることになったとしても、今度は一人にしない。」
「え?」
「俺とカイルも一緒に入る。」
「ええ?」
俺とカイルも塔に入るって、あの塔に三人で?
何を言ってるのかとクリスを見たら、いつも以上に真面目な顔をしている。
冗談で言ってるんじゃないんだ。
「約束しただろう。ずっとそばにいるって。
何があってもだ。」
「本当に?塔ってせまいんだよ?」
「三人でいたらもっとせまいだろうな。」
「何もすることが無いんだよ?」
「魔術の研究をすればいいだろ?三人ですれば面白いと思うぞ?」
「…くるしくて、さみしくて、痛いんだよ?」
「それは、俺とカイルがいてもか?」
三人だったら。あの塔での生活が三人だったなら。
きっと何もつらくなかった。
何があっても、乗り越えられたと思う…。
「本当に、三人で?」
「ああ。本当だ。だから、もう安心していい。
もう一人にはしない。」
「……うん。」
きっと、何度でもあの塔の夢を見る。
簡単に言葉だけで忘れられるようなものではない。
だけど…過去は変えられなくても、この先は変われる。
「もう寝よう。何かあれば起こしていい。」
「うん。」
手をつないだまま横になったら、反対側からカイルに手をつながれる。
カイルも目を覚ましたのかと思って見たら、ぐっすり眠っているようだ。
眠ったまま私に手を伸ばしてきたらしい。
両脇から規則正しい寝息が聞こえてきて、
その音に合わせて呼吸をしていたら、私もいつのまにか眠っていた。
目が覚めたら、ココディアとの開戦期限最終日、七日目の朝だった。