作品タイトル不明
301 ときめきの聖夜祭 27
目を丸くして空を見上げると、さらに数発の花火が夜空に上がるのが見えた。
「どうやら聖夜祭が終了したようだな。同時に領地戦も終了したはずだから、チームごとの集計が始まるぞ」
兄の言葉を聞いて、深夜0時になったことに気付く。
楽しかった聖夜祭が終わってしまったわと残念に思いながら、私はきょろきょろと周りを見回した。
領地戦の集計は一体どうやって行うのかしら、集計係がエリアごとに生徒の数を数えに来るのかしらと色々推測していると、突然、胸元部分が温かくなる。
「えっ?」
一体何かしらと視線を下げると、どういうわけか鎖骨の下に貼っていた所属チームを識別するための♠マークが少しだけ盛り上がっていた。
驚いて見つめると、マークは肌からはがれ、空中に浮かび上がる。
「き、北チームのマークが自然に外れた!?」
びっくりして目を丸くしたけれど、不可思議な事象が起こったのは私だけではないようで、兄の体に貼付していた♠マークも体からはがれると、上空に向かってふわふわと登っていく。
一体どういうことかしらと、空に登っていくマークを見つめていたけれど、いつまで経っても視認できるので、何らかの魔術がかけられているようだ。
すごい仕組みねと思ったところで、体に貼っていたマークが学園から配布されたものであることを思い出した。
「きっとマークを描いたインクが特殊なものだったのね」
全然気づかなかったわと思いながら、マークの行く先を見つめていると、上空のある地点でぴたりと静止する。
そこには、他の生徒たちからはがれたであろうマークがたくさん集まっていた。
大空を見渡すと、私の頭上だけでなく、東と西と南の空にもマークが集まっている。
東の空には♣マーク、西の空には♦マーク、南の空には❤マークといったように、それぞれの所属チームのマークが多く集まっていたけれど、中には他チームのマークもぱらぱらと交じっていた。
他エリアの空に集まったマークもはっきり見ることができたので、恐らく、どの場所からでもゲームの結果が確認できるよう魔術がかけてあるのだろう。
さすがだわ、これなら一目で各チームの状況がわかるわねとわくわくしていると、マークがちかちかと点滅し始める。
それから、自チームのマークが白色に、自チーム以外のマークが緑色に変色した。
我が北チームであれば、♠マークだけが白色で、♣♦❤の3つのマークが緑色になる形だ。
続けて、同じようにマークがちかちかと点滅した後、数名分のマークが赤色に変わった。
「あっ、白緑赤というのは聖夜カラーね! でも、赤色に変わったのは何のマークかしら?」
首を傾げながら独り言を呟くと、兄が答えてくれる。
「領地戦のルールによると、ポイントには3種類あった。自領の生徒の1ポイント、他領から移動してきた生徒の2ポイント、それから、人気投票で選ばれた生徒とプディングから役付きを引き当てた生徒の5ポイントだ」
「つまり、ポイントごとに色分けしてあるということですね。ということは、白色のマークが1ポイントで、緑色のマークが2ポイント、それから、赤色のマークが5ポイントですね。人気投票の生徒と役付きの生徒は、各チーム2名ずつでしたから、数的にも納得がいきますわ」
ということは、我がチームにある赤色のマークのうち2つは、役付きである兄と私の分かしら。
でも、名前が明示されない以上、赤色マークの生徒が誰だか正確には分からないわよねと思っていると、空に赤色の文字で名前が描かれ始めた。
「あっ、赤色マークの生徒が誰か教えてくれるみたいね。さすがね、運営は生徒の好奇心を理解しているわ! どれどれ、我が北チームの場合は……」
<サフィア・ダイアンサス>
<ルチアーナ・ダイアンサス>
「お兄様と私だわ! これは役付きの分ね」
残り2人は誰かしらとわくわくしながら大空を見上げていると、不思議なことに、その後もう一度兄の名前が空に描かれた。
<サフィア・ダイアンサス>
「えっ、お兄様の名前が2回も描かれたわ。間違いじゃないかしら?」
そう考えたけれど、次の瞬間、はっと目を見開く。
「分かったわ! お兄様はプディングくじのみならず、人気投票でも選ばれたということね!!」
ということは、兄は1人で10ポイントも持っているということだわ。すごいわね。
「もう一人の赤色マークの生徒は……あら、ルネ・ロードデンドロンと出たわ! まあ、彼はこんなに人気があったのね。失礼したわ」
先ほど、お兄様ほど人気はないはずだと考えて悪かったわ。
そう思ったものの、人気投票が行われたのは聖夜祭の最中だから、もしかしたら魅了をかけられた生徒たちが、こぞってルネに投票した可能性もあるわよね。
何にせよ、ルネが我がチームに残ってくれてよかったわ。
ひょっとしたら普段の忠誠心を発揮して、エルネスト王太子のチームに行くんじゃないかと心配していたのよね。
「全て出揃ったから、各チームのポイント状況が分かるわね。マークの数的にはやはり南チームが多いような気がするわ」
それぞれの空を眺め、どこが1位なのかを予想する。
南かしら、でも東と西もいい感じよね、いやいや北もいけるんじゃないかしら。
そんな風に予想を声に出していると、いよいよ点数が集計され始める。
我が学園の生徒数は1クラス約50名で、各学年2クラスずつあり、3学年制だ。
だから、全校生徒は約300名になる。
結果はどうなるのかしら、とどきどきしながら見つめていると、チームごとに点数が表示された。
「東チームは112ポイントだわ! 西チームは106ポイント、南チームは133ポイント、北チームは133ポイントだわ! つまり……」
喜びの声を上げようとした瞬間、南チームと北チームの上空で大きな花火が上がった。
「同点1位だわ! やったわ!!」
大きな声を上げると、私はぴょんとその場で飛び上がった。
南チームにはエルネスト王太子とラカーシュが揃っているから、ぶっちぎりで1位だと思っていたのに、同点1位になれたわよ。
喜びながらも不思議に思っていると、兄がにこやかに微笑んだ。
「女子生徒の数は南チームが多いだろうが、我がチームは男子生徒が多いからな」
「そうだったわ!!」
お兄様は男女関係なく人気があるんだったわ。
男子生徒が我がチームに集中したから、女子生徒に大人気のエルネスト王太子とラカーシュチームに並ぶことができたんだわ。
お兄様のおかげねと笑顔で見上げたところ、兄はなぜか私にお礼を言ってきた。
「ありがとう、プリンセス。愛らしい姫君が我がチームにいてくれたおかげで、優勝することができた」
「いえ、もちろん違いますよ! 男子生徒に人気があったのはお兄様です」
そもそも私はずっと他チームの領地を回っていたから、自チームの勝利に貢献したはずがないわ、と申し訳なく思っていると、兄が麗しい笑みを浮かべる。
「我がチームに男子生徒が集まった理由は、正確には誰も分からない。そうであれば、私はお前のおかげだと考えることにしよう。少なくとも10ポイントを持つ私が北エリアにいるのは、お前に魅了されたからだ」
「お兄様ったら」
お世辞だと分かっていたけれど、勝手に頬が赤くなる。
私は照れ隠しに頭に被っていた花冠を外すと、兄の頭に載せた。
「これはご褒美です。聖騎士様、私に魅了されてくれてありがとうございます」
一瞬、兄は虚を突かれたように目を丸くしたけれど、すぐに花が開くようにふわりと微笑む。
「どういたしまして。プリンセス、あなたに魅了されるのはとても簡単なことですよ」
兄はさらりとすごいことを言うと、まるで王冠でも被っているかのように誇らし気に頭を上げた。
「うむ、明日はこの花冠を被ったままカンナ侯爵領に行くとしよう」
「そんな馬鹿げたことをするなら、即座に返してもらいます」
とんでもないわと兄に忠告した後、私はおずおずと兄に質問した。
「カンナ侯爵領訪問ですが、カール様は一緒に来てくれると思いますか?」
「お前が望むなら来るだろう」
端的に答える兄に向かって、先ほどカールと会った話をする。
「食堂でカール様に会いました。その時は、カンナ侯爵領に一緒に来てくれると言っていましたが、体調などもありますから、直前まで分かりませんよね。それで……決断する際、お兄様に背中を押されたと言っていました」
兄は何でもないとばかりに肩をすくめた。
「私は彼と話をしただけだ。そもそも彼は、お前に誘われた時からカンナ侯爵領に行きたいと思っていたようだぞ」
確かに本人もそう言っていたわね。
「それでも、お兄様と交わした会話が影響したのだと思います。ありがとうございます」
兄はおかしそうに横目で見てきた。
「お礼を言うのが早くはないか。アレクシスが待っているところに、隣国の王子を連れて行くことで、トラブルになるかもしれない。お前は後悔するかもしれないぞ」
「お、恐ろしいことを言わないでください!」
そういえばカンナ侯爵領とカールの母国であるニンファー王国は隣接している。
何か確執があったとしても不思議じゃないわ。
ぶるりと震える私を見て、兄は「また見当違いなことを考えているな」と苦笑した。
それから、私の頭をぽんと叩く。
「そろそろ帰るか。明日はカンナ侯爵領へ出発するから、今日はしっかり眠った方がいい」
「そうですね」
返事をしたところで、ダリルのことが心配になる。
ダリルはルイスのところに行くと言って東チームに行ったままだけれど、今夜は公爵家に泊まるのかしら。
念のため迎えに行ってみましょうと思ったところで、眠そうなダリルがふらふらと歩いてきた。
「ダリル!」
名前を呼ぶと、ダリルは目をこすりながら近寄ってきて、ぽすりと私に寄り掛かった。
「お姉様、眠いから帰ろう」
兄は自然な動作で手を伸ばすと、ダリルを抱きかかえる。
すると、ダリルは安心したようで、あっという間に眠ってしまった。
顔を覗き込むと、ダリルは満足したように口元に笑みを浮かべている。
「ダリル、今日はとっても楽しかったわね」
眠っているダリルに話しかけると、私は兄と一緒に学園を後にした。
そして、翌日。
どきどきしながら待っている私の前に、カールは現れてくれた。
だから、兄と私、カールの3人はカンナ侯爵領に向かって出発したのだった。