軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

292 緩衝地帯で一休み? 8

兄が明け渡してくれたのは、天井と壁に一番多くヤドリギが飾られている場所だ。

ヤドリギには赤と白のリボンがたくさん結び付けられていて、ところどころキャンディがぶら下がっていた。

私はセリアとユーリア様とともに、笑いながらヤドリギの下に立つ。

それから、3人で輪になると、それぞれの手を握り合った。

「聖なる夜に、家族同然の相手として一緒にいることができて嬉しいわ。この友情が永遠に続きますように」

ユーリア様がしっかりした声で願いを口にすると、すかさずセリアも後に続く。

「ルチアーナお姉様、ユーリア様と一緒に聖夜を過ごすことができてとても嬉しいです。何の憂いもなく晴れやかな気持ちで聖夜を迎えられたのは、そもそも数年振りですわ。私に幸福をくれたお友達に幸運が訪れますように」

2人の言葉がとても嬉しかったため、私は握った手に力を込めると願いを口にした。

「嫌われ者だった私にお友達ができるなんて夢のようです。仲良くしてくださってありがとうございます。どうかお2人とずっと仲良くいられますように。それから、次の聖夜まで私のお友達に幸せだけが訪れますように」

私たちは顔を見合わせると、3人でぎゅっと抱き合い、誰からともなく笑い出した。

楽しそうなセリアとユーリア様を前に、私はとても恵まれていると思う。

3か月前に前世を思い出し、自分が乙女ゲームの悪役令嬢だと気付いた時は、まさかこんな風に笑える日が来るとは思っていなかったのだから。

それなのに、私が笑えているのは家族とお友達のおかげだろう。

離れた場所にいたダリルが近寄ってきて、私の服を掴んだので、セリアとユーリア様は気を利かせて私から離れる。

ダリルは所有権を主張するように私に抱き着くと、振り返って兄を見た。

「サフィア、今度は僕たちの番だよ」

どうやら私がセリアとユーリア様と3人で願いごとをしたのが羨ましかったようで、真似をしたいらしい。

兄がダリルの言葉に従ってヤドリギの下に来ると、3人で輪になるように立ち、ダリルは左右の手で私とお兄様の手をぎゅっと握った。

ダリルに促されて、私と兄も手を握る。

「じゃあ、今度はきょうだいの誓いだよ」

ダリルはそう言うと、神妙な顔で誓いを述べた。

「聖なる夜に、家族として一緒にいることができて嬉しいです。この家族の絆が永遠に続きますように」

ダリルの言葉はユーリア様が述べた言葉とほぼ同じものだった。

多分、ユーリア様の言葉を聞いて素敵だなと思い、真似をしたのだろう。

ユーリア様はそのことに気付いたようで、微笑ましそうにダリルを見ていた。

一方、私は真剣な表情のダリルを見つめる。

ウィステリア公爵家の四男に生まれながら、特殊魔術を持っていたため不遇な幼少期を過ごし、ダイアンサス侯爵家で暮らすことになった私の可愛らしい弟を。

「ダリル、あなたが私の弟としてダイアンサス侯爵邸で暮らすと言ってくれた時、私はとても嬉しかったわ」

私は長年、実の弟であるコンラートが亡くなったことを忘れていた。

そして、やっと思い出した時、ダリルが私の側にいてくれたから、私はちっとも寂しくなかった。

ダリルはぐだぐだ生活がしたいと言って侯爵邸に来てくれたけれど、実際にはそれだけが理由ではないはずだ。

ダリルは不遇な生い立ちを持つ分、他人の感情に敏感だから、私の寂しさに気付いて側にいてくれたのだろう。

同時に、彼が受けた苦しみや悲しみはウィステリア公爵邸で癒すことができず、だからこそダイアンサス侯爵家に来たのだろう。

多分、ダリルは今、心と体を休める時期なのだ。

なので、私とお兄様はダリルが望むだけ、侯爵邸で一緒にいるけれど、傷が癒えた時には、ダリルは侯爵邸を出ていくだろう。

だから、ダリルとずっと一緒にいたいけれど、私はそのことを願わないわ。

「サフィアお兄様とダリルを私に与えてくだった幸運に感謝します。どうか私の大切な2人が健康で幸福でありますように」

私は心からの言葉を述べたというのに、ダリルがぷうっと頬を膨らませる。

「お姉様ったら、家族の絆を願うのを忘れているよ」

私の心情を理解しているであろう兄は、取りなすようにダリルに笑いかけると、「代わりに私が願おう」と請け合った。

それから、兄は私とダリルを優しい瞳で見つめる。

「家族の絆は永遠だ。だから、私は全力で家族の安全と幸福を守ろう。それは家族でなくなっても同様だ。私の大切な妹と弟が、世界で最も幸福になりますように」

兄の言葉がすとんと私の心に落ちてくる。

ああ、きっと兄は私たちを守ると本気で言ってくれたのだわ。

大変なことをさらりと本気で言ってくれて、それから、きちんとそのことが本気だと私たちに伝わるようにしてくれたことが嬉しいわ。

頬を赤らめていると、同じように頬を赤くしたダリルが文句を言った。

「サフィアったら、自ら僕たちの平和と幸福を守ると言っておきながら、次には『幸福になりますように』と他力本願になっているよ」

多分、ダリルは嬉しさの裏返しで文句を言っているのだろう。

幼い頃から歪な愛情しか受けてこなかったので、正面から純粋な愛情を向けられると、咄嗟に素直な対応ができないようだ。

兄はそのことを分かっているようで、ダリルに向かって優しい声を出した。

「私は全力でお前たちを守るつもりだが、それでも、どうにもならない時があるかもしれない。そんな万が一の時のための願いだ」

「……サフィアは最強なのに謙虚だね」

ダリルが顔を真っ赤にしながら呟く。

ダリルの苦情に対して、あくまで愛情をもって返した兄の態度を嬉しく感じているのだろう。

そんなダリルに対し、兄は流し目を送った。

「兄としては弟のヒーローでいたいものだが、残念ながら私は最強ではない。そのことを知っているだけだ」

兄はそう言うと、雰囲気を変えるかのように天井に飾られたヤドリギを指差した。

「ヤドリギは聖なる木だから、魔除けにもなる。ダリル、お前はヤドリギの下に立ったから、来年は悪いものから守られるだろう」

「ジョシュア兄上とオーバン兄上のお説教からも?」

ダリルが思ってもみないことを尋ねてきたので、兄がおかしそうに微笑んだ。

「それが真に悪いものであればな」

ダリルは何か言い返そうとしたけれど、大勢の足音が響いたため、はっとしたように扉を見る。

同時に、ユーリア様が残念そうにため息をついた。

「10分経って、サフィア様の休憩時間が終わったようね」

楽しそうな女子生徒たちの声がどんどん近付いてきたため、どうやらユーリア様の推測は当たっているようだ。

時間切れねと兄を見上げると、私はにこりと微笑んだ。

「お兄様、ありがとうございました。私たちは次の部屋に行きますね」

手を振って別れようとしたところ、兄に呼び止められる。

「ルチアーナ」

何かしらともう一度兄を見上げると、兄は首元に結んでいたリボンをほどき、その中から一本を引き抜いて私の手首に巻いた。

「これで私と揃いだな」

「……101人目の恋人ということですか?」

兄のコートに100個ほど付けられたリボンを見ながら返すと、兄はおかしそうに微笑んだ。

それから、兄は首元のリボンをもう一本引き抜くと、ダリルの手首に結ぶ。

「お前の理論でいくと、ダリルは私の102人目の恋人になるのか? ははは、お断りだ。そのリボンは、私の大切な家族という印だ」

兄は心に染み入るような声で言ったので、私もダリルも嬉しくなる。

私のやんちゃな弟はにかりと笑うと、元気よく返事をした。

「いい目印だね!」

それから、ダリルはヤドリギの下でぴょんと大きくジャンプすると、走り出した。

「ダリル」

一体どこに行くのかしらと慌てて名前を呼ぶと、ダリルは悪戯っぽい顔で振り返った。

「お姉様、行くよ! 大勢の女子生徒が戻ってきたから、顔を合わせる前に逃げ出そう」

「分かったわ!」

私は大きく頷くと、ダリルと、それからセリアとユーリア様と一緒に、ヤドリギの部屋を後にしたのだった。

次の部屋に向かいながら、私はダリルに話しかけた。

「『ヤドリギを飾った部屋』は楽しかったわね」

「うん! でも、僕は全部の部屋が楽しかったよ! お姉様、聖夜って面白いね」

「そうね。でも、そんなお楽しみも、残すところあと一つだけだわ。『プレゼントを交換する広間』では、多くの人たちと贈り物を交換できるのよ」

とはいえ、私は交換できるようなプレゼントを準備していないのよねと、困ってセリアとユーリア様を見ると、2人から同じ表情で見返される。

どうやら状況は同じようだ。

全部の部屋を回るとダリルと約束したため、『プレゼントを交換する広間』を覗いてみると、そこには多くの生徒がいて、楽しそうにプレゼントを交換していた。

何事にも物怖じしないダリルが元気よく中に入っていったので、少し離れた場所で見守っていると、ダリルは女子生徒が持っている大きなうさぎのぬいぐるみに興味を示した。

けれど、ダリルはプレゼントを準備していないから、このままではプレゼント交換が成立しないわと困って自分の体を見下ろす。

私はプレゼントになり得る装飾品を身に着けていなかったかしらと、ぱたぱたと体を叩いて探っていると、女子生徒はダリルが腰に差していたハート付きの矢を指差した。

「それはキューピッドの矢ね。よかったらその矢と交換してもらえないかしら」

「もちろんいいよ! これはウィステリア公爵家の令息たちに甘い恋の夢を見せた力のある矢だからね」

ダリルは適当なことを言うと、にこにこ顔の女子生徒にキューピッドの矢を差し出した。

代わりに、大きなうさぎのぬいぐるみをもらっている。

こうして、私たちはとってもやり手なダリルと大きなうさぎのぬいぐるみとともに、広間を後にしたのだった。