軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

134 兄妹デート 4

「恋愛に制約、ですか?」

質問の意味が分からず、首を傾げて聞き返す。

すると、兄はひたりと私に視線を定めてきた。

「ああ、そうだ。ラカーシュ殿、ジョシュア師団長は、我が国でも5本の指に入る優良な結婚相手だ。最上位である公爵家の継嗣で、頭脳・魔術ともに優れていて、人柄もよい。通常であれば、女性の方から寄っていく相手だと思われるが、お前は『彼らであるからこそ』避けているように見える」

「ふえっ!?」

何の前置きもなく、ずばりと核心に迫ることを言われたため、どくりと心臓が跳ねる。

油断していたところの一撃に心底慌ててしまい、ごまかすための言葉がついて出た。

「そそそうですかね? ラカーシュ様もジョシュア師団長も魅力的過ぎるので、私のように色々と不足している者は、畏れ多すぎて無意識に避けてしまっているのでしょうか。おほほー」

しどろもどろに言い訳する私を見て、兄は面白くもなさそうに手を振った。

「やあ、あれだけ王太子殿下が迷惑そうな様子を見せていたにもかかわらず、全く気にすることなく付きまとっていたお前が、王族でもない者相手に『畏れ多すぎる』? これはまた、奇妙なことを言うものだな」

それから、私の言葉を全く信用していない様子で兄が続ける。

「その王太子殿下にしても、以前は執心していたはずだが、先ほどの会話からでもはっきり分かるほど、いつの間にか興味を失っている」

兄は手袋をはめた指先で、テーブルをとんと叩いた。

「いや、いつの間にかではなく、ある日を境にお前は殿下を避け始めたのだったな。それはいつからだと起点を考えれば……お前が個性的な後転を殿下に披露した日からだ。ルチアーナ、あの日に一体何があった?」

「ひいっ!?」

兄の言葉を聞いた私は、椅子の上で飛び上がった。

蛇に睨まれた蛙のような心境で、頭がいい人っているのだなと素直に驚いたのだ。

兄が口にした『個性的な後転』とは、私が乙女ゲームに登場する悪役令嬢であることを思い出し、王太子の目の前で無様にすっ転んだことを指しているのだろう。

つまり、悪役令嬢であることを思い出したタイミングで王太子を避け始めたことに、兄は気が付いていたのだ。

普通の人にとっては何でもない情報の羅列だろうに、兄は事象と事象を結び付け、事実を推測できるのだ。

そして、実際に真実に辿り着いている。

ほんのわずかな情報から真実を導き出すなんて、兄は本当に頭がいいのだなと感心する。

ぽかんと大きく口を開けていると、兄はさり気ない様子で、空になっていたカップに紅茶を注ぎ足した。

「ルチアーナ、お前が言いたくないのであれば、無理に聞き出そうとは思わない。だが、お前が一人で考えたとしても、お前の頭脳の範囲でしか答えは出てこない。言いたくはないが、お前の学園での成績を考えると、私に相談するのが得策だろうな」

兄は生真面目そうな表情を作っているけれど、発言内容は完全に私の悪口だ。

ちょっと酷くないかしら!? と思ったものの、当たっているので文句も言えない。

むむむ、と口ごもっていると、兄は譲歩した提案をしてきた。

「あるいは、お前に起こったことを口にするのが難しいのであれば、制約の理由でもいい。ルチアーナ、お前は一体何を恐れて、恋愛に制約をかけている?」

兄は長い脚を組むと、紅茶のカップを手に取り、優雅な仕草で口に運んだ。

「ところで……先ほど、お前の恋人に引き渡すまでは、私がお前の 守護者(ガーディアン) たろうと言ったが、私は相手を選ぶからな」

「えっ!?」

兄が話題にしているのは、私の恋人のはずだ。

それなのに、兄が『相手を選ぶ』とはどういうことだろうか?

「言っておくが、初級魔術を覚えたてのような輩がお前との交際を申し込みに来ても、返り討ちにするだけだ。まさかその程度の連中と、これまでの私の助力が同じだと考えるはずもないだろうから、お前がそのような輩を連れてくることなどあるはずもないがな」

当然といった表情で念を押してくる兄を前に、『それはちょっと……』と、心の中で反論する。

お、お兄様、常識を思い出してください。学園で教わるのは初級魔術のみです。

その初級魔術ですら、自分の属性の魔術全てを卒業までに習得できる生徒は一握りなので、覚えたてだろうが何だろうが、「初級魔術を覚えた」魔術師はエリートなのです。

上級魔術を行使できるお兄様やラカーシュが規格外なのですから、規格外を基準にしたら、私は一生独り身ですよ!!

必死に心の中で言い返す私の心配を肯定するかのように、兄は言葉を続けた。

「そのため、お前が恋愛に制約をかけ、ようやく私の基準に適合できそうなレベルの者を外していくのならば、……お前に恋人ができる可能性はゼロだ」

兄のきっぱりした言葉を聞いた瞬間、私の頭の中にががーんと絶望の音が鳴り響いた。

ゼ、ゼロ!

攻略対象者を避けていたら、私に恋人ができる可能性はゼロなのですか!?

思ってもみなかった未来に呆然としていると、兄がもう一度、同じ質問を繰り返してきた。

「そのため、お前は制約から解放されるべきだと考えるが……さて、お前はなぜ、恋愛に制約をかけている?」