作品タイトル不明
111 虹樹海 13
ルイスの言葉を聞いたダリルは、驚いたように目を丸くした。
それから、どうしたものかという風にそわそわと私を見つめてきた。
その期待するような表情を見て、まあ、ダリルは本当に私と一緒にいたいのだわと思わされる。
……公爵家の4男という立場上、私と暮らすことが難しいとしても、それはジョシュア師団長やサフィアお兄様が考えることよね。
こんな眼差しで見つめてくるダリルに対して、私が否定的な発言をしたら、ダリルはぺしゃんこになってしまうわ。
そう考えた私は、無責任にもダリルを誘惑することにする。
「ダリルが私と一緒にいたいと聞いて嬉しいわ。一緒に暮らすことになったら、ダリルが大好きな野菜チップを作ってあげるわね。というか、あれはお試しのお菓子だったし、私はもっと美味しいお菓子をたくさん作れるわよ」
ダリルは頬を染め、きらきらとした瞳で見つめてきた。
「……本当にいいの? 勿論、僕はルイスが大好きだけれど、お姉様も大好きで、……お姉様と一緒にいたいな」
すると、東星に対して睨みをきかせていた兄が、―――東星のぼんやりとした様子から、ひとまず安全だと判断したようで、口を差し挟んできた。
「やあ、ダリル。では、侯爵家で暮らすか? このままウィステリア公爵家に戻っても、9年間のブランクがあるから、すぐには馴染み辛いだろう。その分、うちにいれば今まで通りだ。どのみち、今後はジョシュア師団長やルイス殿がお前を頻繁に訪ねてくるだろうから、やはり公爵家がいいと思ったら、その時点でウィステリア公爵家に戻ればいい」
「えっ」
否定されると思っていた兄から、全面的に肯定されたため驚いて声を上げる。
……そ、そんな簡単な話なんですかね?
私は確認するかのように、もう一方の保護者であるジョシュア師団長を見ると、師団長は思案するような表情を浮かべていた。
「基本的にサフィアの提案に問題はないが、1つだけ……、ダリルは『魅了』の継承者だから、父が何と言うかだな」
「ああ……」
師団長の言葉を聞いて、諦めたようにしょんぼりとするダリルを見て、私は少し考えた後に1つ質問をした。
「ジョシュア師団長、その……『魅了』の能力者をもう1人増やすというのは、やってもいいことでしょうか?」
「……どういう意味だ?」
訝し気に尋ねてくる師団長に対し、言葉を選びながら説明する。
「その……ダリルから魅了の能力を消してしまう方法は分かりませんが、ウィステリア公爵家にもう1人、魅了の能力保持者を増やすことはできると思うのです」
「どういうことだ?」
「つまり、ウィステリア公爵家には1代に1人、必ず『魅了』の能力者が現れるのでしたよね? 推測ですけど、次の代の継承者を生み出していない、1番新しい代の継承者が欠けた場合は、同じ代の別の者から能力の発現があると思うんです」
なぜならゲームの中では、ジョシュア師団長が魅了の継承者でしたからね。
ゲーム開始の時期である半年後までに、師団長に能力が発現するはずです。
「恐らくですけど、ダリルが東星と契約したため、彼は死亡したと見做されず、次の継承者が現れなかったのではないでしょうか。つまり、ダリルが完全にウィステリア公爵家の者でなくなれば、新たな継承者が現れると思われるのですけど……」
途中で言い差すと、私は全てを委ねるような表情で師団長を見つめた。
ここまで話をしたら、メリットとデメリットの全てをつまびらかにして、判断を仰ぐべきだと思ったからだ。
そのため、私は最大の当事者である師団長をじっと見つめたまま口を開いた。
「ただ、その場合、……公爵家の新たな『魅了』の継承者は、ジョシュア師団長になります」