軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

91 カドレア城 12

東星から見たら、お兄様は遥か格下の相手なのだろう。

その表れのように、同じステージに立った、という兄の言葉を聞いた途端、東星は見て分かるほどに顔を引きつらせた。

けれど、兄は気付いているだろうに丸っと無視すると、話を続ける―――普段とは異なり、相手を馬鹿にしたような口調で。

「カドレア、先ほどからの君の言葉を拾い集めると、魔法使いに果たしてほしい役割があるのではないか? 事と次第によっては、私が仲介できると思うのだが。……ふっ、何も力と恐怖で支配することだけが、魔法使いを使役する唯一の方法でもあるまい?」

自分より格下だと思っている兄の無礼ともいえる態度に、東星が我慢できるはずがない。

案の定、東星は顔色を変えると、眉を吊り上げた。

「サフィア、お前ごときに指図されるいわれはないわ! わたくしが1番、わたくしの望みを分かっている! わたくしが1番、わたくしの望みを上手く実行できるのよ!!」

そう言うと、東星は大きく腕を振り上げた。

東星の表情は怒りで歪んでおり、明らかに激高している。

……ああ、多分、この会話ですら兄の作戦なのに。

冷静さを欠くということは注意力が散漫になり、普段通りの力を出せなくなるということだ。

だからこそ、兄は高慢そうな表情を作り、東星の精神状態を崩しにかかってきたというのに。

けれど、そのことに気付いていない東星は、感情のままに腕を振り下ろすと術を発動した。

「風・刃・風!!」

それから、兄に向かって飛んでいく風の刃を見ながら、勝ち誇ったようににまりと笑う。

「わたくしとお前の格の違いを、その身で思い知るがいいわ!!」

「水魔術 <修の5> 淼渦盾(びょうかだて) !」

兄は落ち着いた表情のまま、前方にすらりと両手を伸ばすと、魔術陣を展開することなく魔術を発動させた。それぞれの手から渦巻く水の盾が現れる。

兄は盾の1枚を自分の前に、もう1枚をジョシュア師団長の前に配置させた。

東星の風の刃は兄を目掛けて、あるいは兄の隣に位置しているジョシュア師団長を目掛けて、幾つも飛んできたけれど、その全てが水の盾に塞がれていた―――ただし、風の刃の威力は相当なもののようで、水の盾に当たった箇所は大きくへこみ、盾の一部が崩れ、水しぶきとなって兄を、そして、師団長を濡らしていた。

「……大した威力だな。だが、残念なことに、狙いがよくない。様々な箇所に漫然と攻撃するのではなく、同じ個所に続けて刃を放てば、傷を与えられたものを」

言いながら、兄は濡れた髪をかき上げた。

それから、ちらりと隣の師団長を見やる。

「だが、濡れただけでもダメージを与えられた者もいるのだから、ある意味、この攻撃は効果的だったと評価すべきか」

兄の最後の呟きの意味が分からず、何のことかしらと考えを巡らせていると、ぽすんと何かがお腹にぶつかってきた。

えっ、と思って視線を下げると、コンラートがぎゅっとしがみ付いていた。

「コ、コンちゃん!」

ルイスとともに安全な場所に退避していたはずだけれど、と思って周りを見回すと、すぐ隣にルイスが所在なさげに立っていた。

ああ、きっと、ルイスはコンラートをどう扱っていいか分からないのだろう、と思いながらしがみ付いてぶるぶると震えているコンラートを抱きしめる。

「コンちゃん、怖いの? でも、お姉様がいるから大丈夫よ。お姉様は強いから、コンラートを全てから守ってあげるからね」

安心させるようにそう言うと、コンラートは驚いたように顔を上げた。

「違うよ! 僕がお姉様を守りに来たんだよ。前の時、僕は逃げ出すことでしか家族を守ることができなかったけど、今度は違う。僕が盾になってでも、お姉様を守るよ」

「コ、コンちゃん!」

真剣な表情で立派なことを言う小さな弟の姿に、私はぎゅっと胸を締め付けられるような思いを味わった。

コ、コンちゃんったら、いつの間にこんなに立派になったのかしら!

お姉様はとっても嬉しいわ。

そう思いながら、ぎゅうぎゅうとコンラートを抱きしめていると、遠くから兄がルイスを呼ぶ声が聞こえた。

「ルイス! 師団長殿を介抱してくれ!」

驚いて兄の方に視線をやると、ジョシュア師団長の体がぐらりと傾くのが見えた。

咄嗟に、師団長の隣にいたラカーシュがその体を支える。

ラカーシュはそのまま師団長を背負うような形で足早に近付いてきたけれど、ラカーシュの後方では、兄が東星に応戦している姿が見えた。

ラカーシュは丁寧に、けれど、素早くジョシュア師団長を私たちの側に横たえると、一言も言わずに踵を返し、兄のもとに取って返した。

兄と東星の間では激しい戦闘が継続中であり、気にはなったものの、ぐったりとした様子で横たわるジョシュア師団長を優先すべきことは明らかだった。

背中側から見ていた際には一切分からなかったけれど、師団長の前面は酷い状態だった。

服は何か所も大きく切り裂かれ、どくどくと赤い血が流れている。

むしろこの傷で、どうやったら何事もないかのように立っていられたのかと不思議に思う程の傷の深さだった。

状態を確認しようと伸ばした私の手が触れる前に、師団長はびくりと体を跳ねさせると、大きくせき込んだ。

その口から、ぼとりと大きな血の塊が吐かれるのを見て、内臓のどこかを傷付けたのではないかと心配になる。

けれど、師団長は上半身を起こすと、安心させるかのように片手を上げた。

「問題ない。……今すぐ死ぬような傷でもない」

明らかに、口からでまかせを言っているように思える言葉だった。

その証拠に、師団長の傷からは途切れることなく血液が流れ続けているし、その顔色は尋常ではないほど青ざめている。

私はジョシュア師団長の服の胸元部分を両手で掴むと、驚いたような表情をした師団長をきっと睨みつけた。

「ジョシュア師団長、今は非常事態なんですよ! 格好つけたことを言わずに、正直に答えてください!!」

「……はい」

私の迫力に気おされたのか、血だらけの師団長は目を丸くして、素直に返事をした。