軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

90 カドレア城 11

私はぼんやりとした頭で、兄とラカーシュが東星に近付いていくのを見つめていた。

今の私の状態が、兄に魔力を分け与えたことに起因するというのならば、同様に魔力を吸い取られたはずの東星はどうして平気なのだろうと不思議に思いながら。

けれど、そうだった、元々兄は自分の魔力を返してもらっただけだから、東星からしたら、自分の魔力を吸収されたわけではなく、奪っていた他人の魔力を戻しただけのことで、平気なのかもしれないと考え直す。

まあ、どちらにしても、今の私は体がふにゃふにゃで何の役にも立たないわー、と思いながら兄たちに視線を定める。

視線の先―――兄たちの更に前方では、ジョシュア師団長が東星を一手に引き受けていた。

師団長が東星と対峙してからそれなりの時間が経過したはずだけれど、こちらへの道を塞ぐような形で東星と私たちの間にしっかりと立っている。

見えるのは師団長の背中側だったけれども、最後に見た立ち姿と変わらない様子だったため、すごいわねと思わず心の中で呟いた。

もちろん魔術師団長の職位にあるため、先ほど兄が慇懃無礼な様子で口にしたように、王国一の魔術師であるとは思ったのだけれど、今回ばかりは相手が悪いと心配していたのだ。

なぜなら、対峙しているのは、伝説の存在である『四星』なのだから。

細い体をした美しい女性という見た目に騙されてはいけないと思う。

恐らく、深淵にしか棲まないといわれる上位種の魔物より、何倍も強くて凶悪なはずだ。

並みの魔術師なら、僅かな時間も対峙することはかなわず、すぐに倒されてしまうだろう。

―――にもかかわらず、これだけの時間を師団長一人で対峙出来ていること自体が、驚愕に値する出来事だった。

そう感心する私の視界の先で、師団長に向かって歩いている兄の口から、驚いたようなつぶやきが零れた。

「やあ、すごいな、師団長殿は。本当に1人で相手をするとは……」

その言葉を聞いた私は、えっ、と驚いて兄を見やる。

あれっ、ジョシュア師団長に東星と対峙するよう頼んでいたのは、お兄様自身だったわよね。

勝算も考えず、成り行きでお願いしていたというのかしら……いや、まさか。

そう信じたい私を裏切るかのように、兄の声が続く。

「この場で1番強力なのは師団長であるから、盾として適役だと思いはしたが……。だが、そうは言っても相手が悪い。すぐに玉砕すると思っていたのだが、うむ、師団長の職位は伊達ではなかったようだな」

ひ、ひどい、お兄様はちょっとひど過ぎるのじゃないかしらと目をむいて見つめていると、兄の隣にいるラカーシュまでもが同意するように頷いた。

「美しい撫子の花を守って散ったのだとしたら、それはそれで誇らしい結末ではあるが、生きて守り続けられるとしたら至上だな」

……ダメだ、これは。

ラカーシュからしたら、女性を守る行為は全て……悪役令嬢の私を守る行為ですら、 貴族の義務(ノブレスオブリージュ) ということになるのかしら。

私を守って格上の敵に対峙することを、当たり前のように受け止めているわよ。

やだやだ、高位貴族の紳士たちって、志が高すぎてついていけないわ!

もう少し、ジョシュア師団長の頑張りを正しく評価してほしいわよね。

そんな私の考えを無視するように、王国が誇る2人の高位貴族はジョシュア師団長の左右に位置すると足を止めた。

どうやら全く躊躇することなく、東星との闘いに参戦するようだ。

……ジョシュア師団長に対して酷い言葉を発していたけれど、同じくらいに志の高い行為を自ら行うというのであれば、もう仕方がないのかしらね。

兄とラカーシュに気付いた東星が、珍しいものを見たという風に片眉を上げた。

「あら、戻ってきたの? この魔術師に時間稼ぎをさせている間に、自分たちは逃げるものかと思っていたけれど☆」

「やあ、まさか。挨拶もなく女性の館を去るなど、そんな紳士の風下のような行為をするはずもない。……どの道、君の意思に反して、この城から出ることは叶うまい?」

カドレアの城に何らかの仕掛けがしてあるのだろうと仄めかした兄を見て、東星が可笑しそうににまりと笑う。

「さすがねぇ、サフィア。わたくしのことをよく分かっているわ☆」

兄は品のよい微笑みを浮かべると、さらりと提案した。

「それは光栄だ。……さて、カドレア、最初で最後の交渉だ。君の望みが『 世界樹(ユグドラシル) の魔法使い』であるのならば、必ずしも戦う必要はないと思うのだが?」

兄の言葉を聞いた東星が、ぴくりと頬を引きつらせた。

「……あら、わたくしと交渉をするですって? 突然、どういう風の吹き回し? 交渉とは同等の立場同士の者が行うものだと思っていたけれど、………サフィア、お前は体に馴染みもしていない魔力を取り戻しただけで、わたくしと同じステージに立っているつもりでいるのかしら?」

そんな東星に対して、兄は美しく微笑んだ。

「うむ、どうやらそうらしい。私は君と同じステージに立ったと思っているようだな」