軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

西からの風と、奇妙な捜索願

夕暮れ時の冒険者ギルド。

新人たちの野外演習の引率を終えた俺とクリスは、報告書を提出するためにカウンターへ向かっていた。

ギルド内は一日の仕事を終えた冒険者たちの喧騒に包まれ、いつも通りの平和な空気が流れている。

「エドウィンさん、クリスさん。ちょっとマスター室へ……変な依頼が来ているんです」

顔馴染みの受付嬢エミリーが、困ったような、少し興奮したような顔で手招きしてきた。

「これなんだがな……」

ギルドマスターが重厚な机の上に広げたのは、一枚の依頼書だった。

内容は『人探し』。

驚くべきは、その報酬額だ。破格の金貨五十枚。

「依頼主は、西方の有力貴族の代理人だ。探しているのは犯罪者ではなく、三年前に家を出奔した貴族の息子らしい」

マスターが手配書を指差しながら読み上げる。

「特徴は……『年齢は二十歳前後。金髪で、教養があり、計算や書類仕事に長けている。また、ある程度の武術の心得あり』……だそうだ」

マスターが冗談めかして笑った。

「これ、ふんわりとした特徴だが、クリス君にも当てはまるんじゃないか? 年齢も外見も、頭の良さも。おまけに君も最初は剣を使っていたらしいしな? ハハハ、まさかな!」

「そうですよね。ただの偶然ですよね?」

エミリーも笑いながら同意を求める。

俺も冗談だと思ったが、隣のクリスを見た瞬間、少しだけ違和感を覚えた。

クリスは表情を一切崩さず、完璧な愛想笑いを浮かべていた。

しかし、彼が手に持っていた報告書の束が、指の力でミシミシと音を立てていたのだ。

「ええ。よくある特徴ですよ。それに、僕は貴族の息子などではなく、ただの商家の息子ですから。読み書きや計算が得意なのも、店の手伝いをするために勉強させられただけです。歴史などに詳しいのは、単に本を読むのが好きだったからですよ」

クリスは淀みなく、落ち着いた丁寧な口調で答えた。

確かに、実家の商売を手伝うための勉強や、個人の趣味と言われれば、周囲を納得させるだけの筋が通っていた。

だが、彼の額には、一筋の冷や汗が流れていた。

「……マスター。この依頼、ギルドとして大々的に動くのはやめましょう。条件が曖昧すぎますし、貴族の跡目争いやお家騒動に関わる人探しなど、冒険者にとってはトラブルの元です」

クリスは珍しく強い口調で進言し、その場を強引に終わらせた。

ギルドを出て、家へと向かう帰り道。

夕暮れの空は赤く染まり、カラスの鳴き声が響いていた。

俺はしばらく無言で歩いていたが、人通りが少なくなった路地で口を開いた。

「……お前の実家か?」

クリスはピタリと足を止め、深くため息をついた。

「……師匠には隠せませんね」

振り返ったクリスの顔から、いつもの柔らかな笑みが消えていた。

その立ち姿には、隠しきれない品の良さと、背負ってきたものの重さが滲み出ている。

「ええ。あれは私の実家……ハイモア家からの手配書です。親が敷いたレールと優秀な兄弟たちから逃げるように家を出て三年……見つかるのが、予想より早すぎました」

「……」

「彼らは私を連れ戻すためなら、手段を選びません。このままでは、師匠やロウェナちゃんにも迷惑がかかる……」

クリスは俯き、「ここを出ていくべきかもしれない」という言葉を飲み込んでいるようだった。

俺は頭を掻き、大きなため息を一つ吐いた。

「あ、エド! クリス! おかえりー!」

家のドアを開けると、先に帰っていたロウェナが、パタパタと足音を立てて出迎えてくれる。

エプロン姿の彼女を見て、俺は小さく笑った。平和な我が家だ。

俺はロウェナの頭をガシガシと撫でながら、クリスに向かってボソッと言った。

「迷惑なんざ、今更だ」

「……え?」

「お前は俺の弟子で、家族同然だ。おまけに今はギルドの事務での仕事もある。……俺の身内に手出しする奴は、西の貴族だろうが何だろうが容赦せんぞ」

俺はクリスの肩を力強く叩いた。

「逃げる必要はない。腹を括れ」

クリスは目を丸くし、それから少しだけ泣きそうな顔で、いつもの真っ直ぐな笑みを浮かべた。

「……はい。肝に銘じます、師匠」

夜の帳が下りる頃。

窓の外、遠くの街角に、ギルドに依頼を出したと思われる身なりの良い男が、こちらの屋敷をジッと見上げていることに、俺たちはまだ気づいていなかった。