軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

静かすぎる食卓と、冒険者の求職活動

翌朝、俺たちは真新しい革の鞄を背負ったロウェナを、学校の校門まで送り届けた。

「いってきます!」

ロウェナは元気に手を振り、校門をくぐり抜けて校舎へと駆けていった。

その背中は、昨日まで魔物の気配に怯えていた小さな少女とは違い、どこか頼もしく見えた。

「……行っちまったな」

俺はポツリと呟いた。

「ええ。昨日の今日で、あっという間でしたね」

隣に立つクリスも、立住まいを直しながら感慨深げに校舎を見上げている。

俺たちは顔を見合わせ、苦笑しながら家路についた。

家に帰り、俺たちは遅めの朝食をとることにした。

淹れたてのコーヒーと、ベーコンエッグ。いつも通りのメニューだ。

カチャ、カチャ……。

食器が触れ合う音だけが、やけに大きく響く。

「……静かだな」

俺はカップを置いて呟いた。

「ロウェナちゃんがいないと、こんなにも広く感じるんですね」

クリスもカップを持ち上げ、少し困ったように笑った。

いつもなら、「これおいしい!」「きょうはなにをするの?」とロウェナの声が響いているはずの時間だ。

それが、今はシーンとしている。

掃除も洗濯も終わっている。魔物の襲撃もない。

……やることが、ない。

「なあ、クリス」

俺は深刻な顔で切り出した。

「俺たち、これから毎日、ロウェナが帰るまで茶を飲んで待つのか?」

「それは……精神衛生上よくありませんし、何より社会的な体裁も悪いですね」

クリスは真顔で頷いた。

働き盛りの男二人が、平日の昼間から家でゴロゴロしている図。

ご近所の目も気になるし、何より俺たちの精神が腐りそうだ。

「よし。何か仕事をしよう」

俺はテーブルを叩いた。

資金はあるが、社会と繋がりを持ち、生活リズムを作るために。

「条件は三つだ。一つ、場所はこの領都内。二つ、時間は朝から夕方まで。ロウェナが帰る時には家にいたいからな」

「三つ目は、僕たちのスキルを活かせるもの、ですね」

「そうだ。俺たちの腕なら、引く手あまただろうよ」

俺たちは自信満々で立ち上がった。

意気揚々と冒険者ギルドの扉を開ける。

久しぶりの独特な喧騒。

俺たちは真っ直ぐに依頼掲示板へと向かった。

「さて、手頃な依頼は……」

俺は掲示板に貼られた羊皮紙を一枚ずつ確認していく。

『街道に出現したオーガの討伐』

報酬は良いが、移動を含めて往復三日はかかる。

「却下。泊まりがけは無理だ」

『隣街への商隊護衛』

期間は一週間。

「論外。ロウェナの世話誰がすんだよ」

『未踏迷宮の探索』

帰還予定日、不明。

「死ぬかもしれんし、いつ帰れるか分からん。パス」

俺は頭を抱えた。

冒険者の仕事は、基本的に「遠征」か「長時間拘束」がセットだ。

日帰りで、しかも定時で上がれるような高難易度依頼なんて、どこにもない。

「……おい、クリス。俺たちが受けられる仕事、薬草採取かドブさらいしかないぞ」

俺が指差したのは、新人冒険者向けの低ランク依頼ばかりだった。

報酬は銅貨数枚。

今の俺たちの実力と装備でやるには、あまりにも割に合わない。

「主婦のパートタイムみたいなこと言わないでくださいよ」

事情を聞いたギルド職員に、呆れ顔で言われた。

高ランクの実力者が、定時上がり希望でドブさらいをしたいと言い出せば、変人扱いされるのも無理はない。

「ギルドはダメだ。……方向転換しよう」

俺たちはギルドを出て、街中での仕事を探すことにした。

「家庭教師はどうでしょう? 僕の知識なら、貴族の子弟に教えることも可能です」

クリスが提案する。

「貴族の家は礼儀作法が面倒だし、毎日定時は難しいぞ。それに、お前のその槍を持って入れる家があるか?」

「……確かに。武器持ち込み不可は痛いですね」

「じゃあ、酒場の用心棒か?」

「夜の勤務になりますよ。ロウェナちゃんとすれ違い生活になります」

「却下だな」

俺たちは街を歩き回り、商店や工房の求人を見て回った。

だが、どこも条件が合わない。

「住み込み歓迎(家あるから不要)」

「体力自慢募集(力仕事は得意だが、朝が早すぎる)」

「見習い募集(今更見習いはキツイ)」

歩き疲れて公園のベンチに座り込む。

「……俺たち、ひょっとして」

俺は空を見上げて呟いた。

「潰しが効かないのか?」

戦闘、サバイバル技術、魔物の知識。

どれも人並み以上だが、平和な街の、定時上がりの仕事には全く噛み合わない。

「認めたくありませんが……」

クリスも、疲れたように眉間を揉んだ。

「僕たちは、社会不適合者の側面があるようです」

高スペックニート。

そんな言葉が頭をよぎり、俺たちは深くため息をついた。

カーン、カーン……。

無情にも、夕方の鐘が鳴り響いた。

タイムアップだ。

「……帰るか」

成果なしのまま、俺たちはトボトボと家路についた。

家の前まで来ると、ちょうど通りの向こうから、ロウェナが走ってくるのが見えた。

「ただいまー! えど! クリス!」

満面の笑みで飛びついてくるロウェナ。

その笑顔を見た瞬間、俺たちの疲れは嘘のように吹き飛んだ。

「おかえり。学校はどうだった?」

「たのしかったよ! おともだちできた!」

ロウェナは充実した一日を過ごしたようだ。

その輝く瞳を見ていると、俺たちの悩みなんて些細なことに思えてくる。

「そうか、それは良かったな」

俺はロウェナの頭を撫でながら、クリスと目配せをした。

とりあえず、今日はこれでいい。

だが、明日からの「仕事」という難題は、依然として残ったままだ。

俺たちは「おかえり」と微笑みながら、腹の底で「明日こそは……!」と決意を固めたのだった。