軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

78 ダンジョンスローライフ

ダンジョン内に一日という時間の概念はないが、今日はオフ、休日である。

探索はしばらく中断して、洞窟の中で各々自由に過ごすことにする。

リゼットはこの機会に繕い物をすることにした。

汚れは浄化魔法で落とせても、こまごまとした傷みは魔法では直せない。針に絹糸を通し、ほつれた部分を繕っていく。自分の分が終われば、仲間の分も。

ディーは確保していたアイスウゴキヤマイモのツルでロープを編んでいた。

「いい素材だな……普通のやつより丈夫だ。売りだしたら儲かりそー」

「それは素晴らしいですね」

ダンジョンにしかない素材で作られた優れたアイテムは地上で重用される。ダンジョンからもたらされる恵みは多くの人を潤わせ、技術や文化を発展させていく。

そうしていると、レオンハルトがキリングベアーの毛皮を持って外から戻ってくる。

「いい具合にできている。これなら吹雪の中もしのげるはずだ」

「へーっ、立派なもんじゃねーか。高く売れそうだな」

一人一枚ずつ渡された毛皮を触ってみるとふかふかとした感触が返ってくる。

これを着込めばどんな寒冷地でも過ごせそうな、密度の高い毛皮だった。アーヴァンクの毛皮もよいものだったが、こちらの方が力強さがある。どこまでだって進めそうだ。

キリングベアーの毛皮を羽織る。

少し重いがとても暖かい。

時間と生地さえあれば、裏地をつけてボタンをつけて改良していきたいくらいだ。

「こうなってくると、ここに木材を運び込んで、床をつくって、より快適にしたいですね」

「住もうとするな」

「でも、ゴブリンも集落をつくっているのですから、やってやれないことはないはずです」

針仕事が終わり、貴重な針を片付けながらリゼットは言う。

「できるかどうかじゃなく、したいかどうかだよ。オレは嫌だね。こんな寒いし暗いし何にもないところ。こんなところで死ぬくらいなら、太陽の下で死にてーよ」

「女神の瞳の御許で――か。ディーは信心深いな」

レオンハルトが言うと、ディーはやめてくれとばかりに首を小さく横に振る。

「普通だ普通。それに信心も何も本物を見たら疑う余地ねえよ」

リゼットを見る。

正確にはリゼットの中にある女神の聖遺物を。

「そういえば、あれ以来ルルドゥは出てきませんね」

リゼットの中には火の女神ルルドゥの一部がある。

それを取り込む前は色々と騒がしくリゼットの頭の中に話しかけてきていたが、取り込んで以降は静かなものだ。

「おそらく眠っているのでしょう。そんなことより、ずっと気になっていたのですが、冒険者の方々って、探索中に何を食べているのですか?」

いまのリゼットには女神のことよりも冒険者たちの食料事情の方が興味がある。

「そうだな……ベーコンやハムに、パン、チーズにナッツというところじゃないか?」

レオンハルトの答えに、ディーも頷く。

「オレもそんな感じ」

「それだけ……ですか? 少々塩分が多すぎるような……」

そういえばケヴィンも同じようなことを言っていた。パンに干し肉にチーズ。

どれも塩分ばかり多くて栄養が偏っている。短期間ならともかく、長期間そんな生活をしていれば体調を崩すのではないだろうか。

「あとは……そうだな。ジャムとか、ザワークラウトを持ち込んでいたな」

「口寂しいときに薬草食っていざって時に困るやつもいるよな。まあだいたい似たようなもんだろ」

ディーは笑いながら言う。

冒険者の間ではよくある話なのだろう。

「――思い出した。クラウスが面白いものを食べさせてくれたな」

「誰だよそれ」

「俺の元従者だ。ハーフエルフで、エルフの伝統食を出してくれた」

「まあ。どんなものでしょうか」

――エルフの伝統食。

長い時間を生きるエルフだ。さぞかしおいしいものを知っているのだろう。

「食岩と言って、藻が乾燥して固まったものを砕いた粉だった。乳白色で、水で溶いて食べる」

「初めて聞きました。どんな味でしたか?」

「土」

爽やかな笑顔が眩しい。

「泥団子を思ってもらえれば近い」

「泥団子は食い物じゃねーよ!!」

「不足しがちな栄養が取れるという話だったが、結局一回しか出てこなかったな」

「大不評だったんだろ……」

「もったいないですね。調理を工夫すればいい食材になりそうですのに」

水分量を調整すれば、小さい団子にしてスープに入れて食べたり、具材を包み込んで焼いたりできたかもしれない。

「食岩は置いておくとして、野菜や果物とかは、やはりダンジョン内のものを?」

「食わねえ。普通は食わねえ」

「その発想すらなかった」

「え? どうしてですか?」

「変なもん食ったら死にそうだし。いやいまはそーでもねえってわかってるけどよ」

レオンハルトが無言で頷く。

「……なんてことでしょう。やっぱりモンスター料理の普及は必要ですわね」

そんな食生活ではクリアできるダンジョンもクリアできない。

「普及って、どうやって広める気だよ」

「そうですね……冒険者ギルドでモンスター料理を試食してもらうとか」

「下手すりゃお前が討伐されるぞ」

腑に落ちない。

「ダンジョン内で腹減って死にそうなやつに食わせるのが一番じゃねーの? 背に腹は代えらねぇし」

レオンハルトが無言で二度頷く。

「地道な啓蒙活動ですね……でも、確かにそうです。地道に広まっていけば、徐々に受け入れられていくはずです」

世界を変えるのには時間が必要だ。焦って事を仕損じてはいけない。

「そのためにも早くここから出ねえとな」

「そうですね」

「ま、ダンジョン生活も意外と悪くねぇけど――」

「でしょう?!」

「食い気味にくるな!」

その後は休めるだけ休んで、食べたいだけ食べて、眠りたいだけ眠った。

自由な休息で体力気力は全快し、万全の状態で洞窟から出る。キリングベアーの毛皮を着て。

最後にゴブリンの集落を片付けてからエリアの探索を再開しようとするが、ゴブリンの集落は既に壊滅していた。

何者かに殺されたのか、逃げ出したのか。

ゴブリンは一匹も残っておらず、家もすべて潰されていた。