軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45 再会

(そろそろ限界かしら)

部屋の隅の結界ハウス――気配を完全に断つ小さな空間からドラゴンを眺めながら、リゼットは思う。

ここで寝泊まりをしながらヒットアンドアウェイ戦法でドラゴンと戦ってきたが、そろそろ限界が近い。

持ち込んだ食料はほぼすべて食べつくし、魔力回復用のエーテルポーションもなくなった。

それでもドラゴンはまだ生きている。

炎のブレスを吐く頭は魔法で潰したとはいえ、氷のブレスを吐く頭はまだまだ健在だ。

しかも自己回復モードに入ってしまっていて、攻撃しても攻撃しても治癒してしまう。そのため完全に手詰まり状態となっていた。

残念ながらいまのリゼットの火力では削り切れない。

(ドラゴンさんはいったい何を食べているのかしら)

水を飲みながら、眠っているドラゴンを眺めて思う。

結局一度もドラゴンの食事風景は見ていない。

食事の回数が少ないのか、そもそも食事というものを必要としていないのか。だとしたらあの無尽蔵の生命力はどこから湧いてきているのか。

ダンジョンからか、それともあの魔石からか。エリアボスが必ず体内に持っていた琥珀色の石。

床の土部分に視線を落とす。

蒔いた種が可愛らしい双葉を出している。カナトコからもらった魔法植物マンドラゴラの種だ。

双葉にそっと水を与え、立ち上がる。

「そろそろお暇しますね、ドラゴンさん。また来ますのでその時はよろしくお願いします」

次に来るときにはマンドラゴラの群生地ができていればいいと思いながら、扉に向かう。強固な結界の通路を作りながら。

扉に手を当て、魔力を通す。

「ん~~……重い……」

いくら魔力を注ぎ込んでもなかなか開かない。

入る時はあっさりと開いたのに。

もしかしたら内側からは開かないのかもしれない――軽く絶望的な気分になってきて一旦離れたとき、外側から扉が開き始める。

外に誰かいる。

「――リゼット!」

名前を呼ぶ声が、心臓を叩く。

扉の外から伸びてきた手がリゼットの腕をつかみ、開いた隙間からリゼットを外へと引っ張り出す。

「えっ、ええ? レオン?」

気がつけばレオンハルトの顔がすぐそこにあった。

エメラルドの瞳がリゼットを隈なく見つめる。無事を確認するかのように。

「よかった……」

怪我がないのを確認し、レオンハルトの緊張がほどける。耳の近くで響いたのは安堵したような、いまにも泣きそうな声だった。

そして外にいたのはレオンハルトだけではない。

「レオン、ディー……え? 教会騎士様も? ギュンターさんとヒルデさんも? どうしてここに――」

「お前を助けに来たんだよ!!」

ディーの叫びが洞窟内に反響する。

「私を……」

教会騎士のダグラスも、そしてレオンハルトの仲間だった戦士のギュンター、回復術士のヒルデも、ほっとした顔でリゼットを見ていた。

その瞬間、リゼットの緊張の糸がふっと切れて、じわりと涙が浮かぶ。

「……皆さん、ありがとうございます」

深々と頭を下げると、足元がふらりと揺れた。すぐにレオンハルトに支えられる。

「ごめんなさい、お腹がすいてしまって……」

「うん。食事にしよう」

レオンハルトが手持ちの食材を次から次へと両手鍋の中に入れて煮込んでいく。

何かの肉にミミックの足らしきもの、毒消し草に、麻痺消し草に、海藻。

「まあ。お鍋ですね」

「ここまでほとんど鍋だったんだぜ。こいつ焼くか煮るしか知らねえから。そのくせ作りたがるし」

ディーが呆れたように言う。

「何も言わず食べていたじゃないか……」

「言える雰囲気ってもんがあんだろ。なーリゼット、レオンに料理を教えてやってくれよ」

「はい、私でよければよろこんで」

鍋に火が通るまでの間、貰ったブドウを食べながら話す。

第五層で食べたトレント水で育った白ブドウだ。

ディーもブドウを食べながらリゼットを見る。

「――で、お前いままであの中でどうしてたんだ」

「あ、はい。結界にこもりながら地道にドラゴンさんと戦っていました」

「ええっ? おひとりでずっとあのドラゴンと戦っていたんですか?」

ヒルデに聞かれてリゼットは頷く。

「はい。ちゃんと食事も睡眠も取りながら戦いましたよ。部屋の隅の結界ハウスで植物を育てたりもしていました」

「――リゼットらしいな」

レオンハルトにも感心される。

リゼットは気恥ずかしさを感じながら続けた。

「結構いい感じに戦えていたと自負していたんですが、ドラゴンさんが自己回復モードに入ってしまって膠着状態になってしまいまして……私の食料も尽きてしまったので、一度上の階層に戻ろうと思っていたところなんです」

「……ったく、緊張感ねぇなあ。お前らしいぜ」

ディーが感心したように言い、ダグラスもギュンターもヒルデも尊敬の眼差しでリゼットを見つめていた。

恥ずかしくなってきてリゼットは視線を逸らし鍋を見た。

「あ、そろそろいいんじゃないですか?」

すっかり火が通っておいしそうに煮えている。

全員の分を取り分けてから、皆で一緒に食べる。

「いただきます。まあ……とってもおいしいです」

いろんな食材から旨味が出ていて、混ざって、複雑な味を作り出している。こんな豪勢な食事はいつぶりだろう。いくらでも食べられそうだった。

そしてリゼットは思い出した。一人で食べていた食事が味気なかったことに。大勢で食べる鍋が信じられないほどにおいしく、あたたかく、身体に染み渡っていくことに。

「食べ終わったら地上へ帰ろう。ヒルデ、帰還魔法の準備をしてもらえるか」

「――待ってください! もう少しでドラゴンさんを倒せそうなんです!」

リゼットは立ち上がり、激しく主張した。

ここで帰るのはあまりにももったいない。

「私だけでは火力不足ですが、皆さんの力を合わせたらきっと勝てます!」

リゼットは火力不足で撤退したが、あと少しなのだ。食事で魔力も回復した。もう一度やれるだけやってみたい。もちろん皆の同意があってこそだが。

「まー確かに、このまま地上に戻ってもこいつの抱えている問題は解決しないんだよな」

「そのとおりですが、それだけではなくて……こう、冒険者の心が燃えるというか」

ドラゴンを倒すことに。

誰も知らないダンジョンの奥に行くことに。そこにある何かを得ることに。

リゼットはレオンハルトを見る。

このパーティのリーダーはレオンハルトだ。最終的には彼の判断にゆだねられる。

何より、ドラゴンに挑むきっかけはレオンハルトとの出会いからだ。

――とはいえ、断られたとしてもリゼットにはこのまま地上に戻る気などないのだが。

無理なら無理でまた力を蓄えてドラゴンと再戦するつもりだった。

「――俺は、ドラゴンに挑みたい」

エメラルドの瞳には決意がこもっていた。

「だがこのパーティの目的はリゼットを助けることだ。それが果たされたいま、これ以上無理をするわけにはいかない」

レオンハルトはメンバーの顔をひとりひとり見る。

「だからここからはそれぞれ自分で判断してほしい」

「ダンジョンの真相に挑むおつもりでしたら、お付き合いいたしますよ」

そう言ったのは教会騎士のダグラスだった。

「女神教会でもダンジョンの謎は解明されていません。真相の究明は騎士の聖務のひとつでもあります」

「おれも賛成する。せっかくここまで来たんだ」

「私もギュンターと同じ気持ちです。皆さんをちゃんと回復させていただきます」

ギュンターとヒルデも賛成する。

「オレに戦闘は期待すんなよ」

ディーはいつもと同じく素直ではない。

反対する仲間はいなかった。

レオンハルトを再び見る。彼は力強く頷く。

「――わかった。行こう。今度こそ必ず守り抜く」

「はい。勝って、みんなでドラゴンステーキを食べましょう! おーっ!」

掛け声と共に腕を高く突きあげる。

「おうっ!」

「……お、おおー」

「はい!」

「おーっ!」

「おー……って、バラバラじゃねーか」

「気持ちはひとつです!」