軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

136 謎解きとマザーアントリオン

バジリスクがいた部屋の奥に、また部屋があった。

扉がなく出入口だけがある部屋に入る。モンスターはおらず、どこかから現れる気配もない。

「広い部屋ですね……」

リゼットの声が石造りの部屋に反響する。

この階層でいままでで一番異質な部屋だ。

砂がなく、明かりもない。前の部屋からの光がわずかに届くのみだ。

「仕掛け部屋のようだ。リゼット、明かりを頼む」

レオンハルトに言われて、リゼットは灯火の魔法を使って部屋全体を照らす。ぱっと明るくなった部屋には、いくつかの台座に乗った石像があった。

リザードマンの石像と違い、こちらは小柄だ。台座がついていることもあり、バジリスクに石化させられたのではなく、意味があって作られ、ここに設置されているのだろう。

「んー、どれどれ……部屋に妙な三体の石像……これ回転するな。台座も動くし。場所と方向を合わせろってことか。ヒントはこのプレートだな」

ディーが顔を上げた先――部屋の奥にある大きな扉の上には、金属製のプレートが掲げられている。

綴られている文字は二種類。女神語と、エルフ語。

「北の地に火が生まれ。西からの風がすべてを滅ぼし。南からの日差しが大地を砕き――東からの水がすべてを押し流し。不毛の大地だけが残る……不穏な詩ですね」

「女神語とエルフ語……おそらく同じ意味の言葉が書かれているな」

深い意味があるのか、それともただの言葉遊びなのか。

「まーこういうのは深く考えないで、場所と方角さえ合わせて行きゃあいーんだよ。どう考えてもこれは女神のことだろ?」

石像の台座に手を置いてディーが言い、レオンハルトが頷く。

「つまり、火の女神の像を北に、風の女神の像を西に、水の女神の像を東にか――ひとつ像が足りないな」

「部屋の中央に、何か描かれています。これが土の女神なのかも」

「うん。光があちら側からしか来ていなかったし、あっちが南と考えて良さそうだ」

手前の部屋の方向を見ながらレオンハルトが言う。

「んじゃサクッとやりますか」

「……そうですね……」

部屋の中央に立っていると、不思議と世界の中心に立っているような気持ちになる。

リゼットは静かに天井を仰いだ。

「リゼット、どうしたんだ?」

「不思議な石像……意味深な謎解き……なんだかとってもダンジョンって感じです……!」

「あいつは放っとけ」

リゼットを無視してディーは石像を覗き込む。

「こいつ、あの火の女神様になんとなく似てるな」

石像の背面に、炎を模したような模様がある。

「レオン、こいつを北側にやってくれよ」

「わかった」

レオンハルトが台座を押すと、ズズズ……と重い音を立てて動く。

「わ、私も手伝います」

ダンジョンのロマンに触れない手はない。

火の女神に似た石像が乗った台座を北側に移動させ、いかにもここに置けとばかりの色が変わったパネルの上に載せる。石像を回転させ部屋の中央に正面を向けると、どこかでカチッと音がする。

「こちらは水の女神フレーノになんとなく似ていますね」

水の女神に似た石像の背後には、水の流れと水滴のような文様がある。

それを東の位置に、そして最後に風の女神の石像の台座を西の位置に動かし、像を回して中央に向ける。

――ガコン。

地下で仕掛けが動くような音がして、奥の大きな扉がわずかに開く。

「よっしゃ。解除成功」

ハイタッチをし合って喜びを分かち合う。

ギギギ……と扉は少しずつ開いていき、外から風が吹き込む。砂の混ざった冷えた風が。地下墓地のような静謐な空気が。

扉の先は吹き抜けの空間だった。

広い空間に、上から強い風と共に、何かが少しずつ下りてくる。優雅に軽やかに。

(なんて……なんて、大きいトンボ……)

流線型の細長い、宝石でできたかのような瑠璃色の身体。透き通ったガラスのような翅。

幻想的な姿にリゼットは心奪われる。

バジリスクが蛇の王なら、このモンスターはトンボの女王だ。

【鑑定】マザーアントリオン。アントリオンの成体。風魔法を使い、魔法耐性も高い。

きらきらと静かに光る複眼が、静かにリゼットたちを見つめている。

魔力の動きを感じる。

――風魔法が来る。無数の風の刃が。

【聖盾】

レオンハルトの魔力防壁が魔法を無力化する。

「フリーズランス!」

リゼットは全力を込めて、氷の槍で翅を貫く。

「フリーズランス!」

もう一度。更にもう一度。

翅に大きな穴の開いたマザーアントリオンは最早飛べず、落ちていく。

下には大きい砂山と穴がある。幼体のアントリオンが落ちてくるフレイムアントを食べていた穴だ。

幼体アントリオンは既にいない。上から落ちてきたマザーアントリオンに、フレイムアントたちが集り、食べていく。

――ダンジョンは食うか食われるか。

壁には、さなぎの抜け殻があった。状況を見るに、少し前に見たアントリオンがさなぎとなって羽化し、マザーアントリオンとなってリゼットたちの前の現れたのだろう。

「さすがモンスター……なんて羽化速度でしょう」

生命の循環と神秘に震えるリゼットの隣で、レオンハルトとディーが下を覗き込んでいる。

「穴の底に階段がある。飛び降りるのは……やめておいた方がよさそうだ」

「ん。あそこに行く最短ルートは――こっちだな。おい、行くぞ」

早々にその場を離れ、地図を確認してルートを選び、進んでいく。時に砂に流されて、あっという間に目的の部屋に到着する。

たくさん集まっていたフレイムアントたちを倒すが、マザーアントリオンの身体はもう残っていなかった。

砂穴の隣には、琥珀色の魔石が転がっていた。