軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

116 天翔けるペガサス

充分な休息を取り、鍋の残りに小麦粉で練った団子を入れて、再び火を通して食事にする。出発するころには雨もすっかり止んでいた。

足元がぬかるんだ森の中を歩く。雨の影響か、うっすらと霧が出ている。そして、植物が元気になっているように、リゼットは感じた。命のきらめきを感じた。

「お前らが見たトロルってどんなのなんだ?」

ディーがマッピングしながらレオンハルトに聞く。

「森に住む巨人だ。俺たちが見たときは普通に立って歩いていたが、普段は腹を引きずりながら移動しているはずだから、見つけにくいかもしれない」

「ほふく前進みたいな感じか? 怖えなオイ」

「確かに……想像すると壮絶ですね」

順調に探索を進めていっていたが、大地にできた裂け目で道が途切れる。

切り立った、深い崖だった。下には川が流れている。山からの雪解け水だろうか。遠くには山嶺が見え、その頂には白い雪が冠していた。

「これ以上向こう側には行けねーな。リゼットの魔法でなんとかならねーのか?」

「試してみます――ストーンピラー!」

崖の壁が盛り上がり、対岸へ向かって伸びていく。

だが、三分の一ほどで止まる。

これではとても向こう岸へ届かない。助走をつけて跳んだとしても、崖下に真っ逆さまだ。

もう一度魔法を使って向こう側からも道を伸ばしてみても、まだ間が空いていた。

「引き返すか?」

「トロルのいた場所は、対岸の方だ。探索しておきたいな……上流に行って、幅の狭いところを探そう」

「そうですね」

顔を上げ、上流の山嶺の青い影を見る。

「あそこの空にいるのは何でしょうか。鳥にしては、シルエットが……」

「あれは――ペガサスだ。翼の生えた馬……すごいな。ここには、こんなモンスターまでいるのか」

レオンハルトは感動したように息を漏らす。

よく見れば、それは確かに大きな翼が生えた白馬だった。風のように自由に優雅に空を飛んでいる。

「ペガサスに乗ることができれば、向こう側にも移動できるのではないでしょうか」

リゼットは想像して心を震わせた。

想像した光景はあまりにもロマンに溢れていた。

「すごいなお前。まだモンスターと心通わせられるつもりでいるのか」

「何事もやってみなければわかりません」

「うう〜ん……」

レオンハルトは腕を組み、難しい顔で唸る。

「もし捕まえることができても、あの馬は小さいし細すぎる。翼のサイズからいっても、自重を飛ばすだけで精一杯だろう。乗って飛ぶのは無理だと思う」

「確かに不思議です。あの翼のサイズでどうやって飛んでいるのでしょう」

鳥やドラゴンと比べれば、その差は歴然だ。身体のサイズに対して翼が小さすぎる。

「魔法じゃねーのか? 風の魔法とか」

「そうだな……魔法を使っているなら、乗っても大丈夫かもしれない……」

考え込む。

「だがペガサスは頭が良いし気性が荒い。乗せてもらえたとしても、下手をすれば崖下に落とされる。危険すぎて賛成できない」

「ふーん。もしかしてお前、乗りこなす自信がねーの?」

「はあっ?」

ディーにからかうように言われ、大きく声を上げる。心外だとばかりに。

「王子なのに実は馬に乗れねーとか。まあ誰にでもできないことはあるよな」

「乗れないっていつ言った? 俺は、誰にも懐かなかった気性の荒い馬を乗りこなしたことだってある」

「まあ、さすがです。では早速試してみましょう」

何事も挑戦。何事も経験。

「でもどうやって捕まえるよ。縄かけるにしても、相手は空飛んでんだぞ」

「ペガサスは休憩のために水源に下りてくる。近くの水源で待ち伏せすればいい」

ペガサスの飛んでいく方角を確認し、幸いにも崖のこちら側だったので、その後を追って移動する。

しばらく歩き回った末に、無事に泉を確認した。ペガサスのものらしき白い羽根が数枚落ちている。ここで休息を取ったのは間違いない。

結界を張って、茂みに隠れながら待つ。道具の手入れをしたり、昼寝をしたりしながら。

のんびりと過ごしているうちに、ふと、風の流れが変わる。

梢の葉擦れの音が音楽のように響き、ふわりと翼を持つ白馬が天から下りてくる。

そして、泉の水面に立つ。水紋をいくつも重ねて。

【鑑定】ペガサス。鳥の翼を持ち、自由に空を駆ける白馬。気性が激しい。

(きれい……)

太古の森の泉で静かに水を飲む、翼の生えた白い馬。あまりにも幻想的な光景だ。

「……なぁ。オレが言うのもアレだけど、本気でやるのか?」

「俺だって、ペガサスに乗ることに憧れたことはある」

「お、おう……無理すんなよ。縄はいいのか?」

「必要ない。手も出さないでくれ」

レオンハルトが結界から出て、泉に近づいていく。

水を飲んでいたペガサスが、気配に気づいて首を持ち上げる。

一人と一匹の視線が合う。静かに見つめ合う。

リゼットは固唾を飲み、祈るような気持ちで見守った。

相手はモンスター。種族が違う。生きている世界が違う。

だが馬は頭のいい生物だという。人の心を読めるという。

心を通わせるのに、言葉はいらない――……

ペガサスがレオンハルトの方へゆっくりと近づいていく。

――そして。

怒ったように激しくいななき、後ろ足で大きく立ち上がる。踏み潰さんばかりに。

レオンハルトはそれを紙一重で避ける。

ペガサスの怒りはそれでは収まらなかった。翼の付近で魔力が動く。魔法で編まれた風の刃が、レオンハルトに襲いかかる。

【聖盾】

ペガサスの魔法を魔力防壁で無効化し、鋭く蹴り出された後ろ足を避け、ペガサスへ渾身の剣を振るう。

首を失ったペガサスが、倒れる。

レオンハルトは剣を握ったまま、倒れたペガサスの前に立ち、寂しげな背中でその姿を見つめていた。

「俺は、無力だ……」

「馬鹿力……」

「レオン、元気を出してください。ほら、おいしそうですよ」

「その慰め方はどーなんだ?」