軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第84話 有効射程と最大射程

時間は遡る。

サーベルウルフ、レクシの鼻を頼りにルナ捜索を初めて2日目。

オレ達は彼女が捕らえられているだろう屋敷を発見する。

屋敷は街の郊外にあった。

匂いはここで途切れているらしい。

屋敷のどの部屋にルナが捕らえられているのか、それとも地下なのか、オレ達は情報を収集しようとした。

しかし翌日、昼過ぎ――物々しい商隊が屋敷に姿を現し、鉄格子付きの馬車へルナらしき人物を乗せて移動を開始。

彼らが進んでいるのは完全にハイエルフ王国、エノールを出るルートだ。

「嫌な予感が当たったみたいだな……」

屋敷の様子を窺っていた、スノー、クリス、サーベルウルフのレクシに聞こえるように呟く。

彼女達もオレの言葉の意味を理解し、黙って頷いた。

どうやら犯人達は、誘拐した相手がハイエルフ王国エノールの第3王女、ルナ・エノール・メメアだと気付いているらしい。

ハイエルフ族の寿命は1万年。

それ故、長寿と夫婦愛を司る種族として、人種族から絶大な支持を受けている。しかも誘拐したのはハイエルフの王女。

好事家にとっては、これほど極上なものはない。多少リスクを背負ってでも手に入れたいと思うのは必然だ。

もし誘拐犯達の言葉にただ従っていたら、ルナは一生表に出ず日の光を浴びない生活を送ることになっていただろう。

今更ながら自分達が動いていてよかったと安堵する。

後はどうやって彼女を助けるかだ。

相手は鋼鉄の馬車。角馬も通常より一回りでかい2頭で引いている。車輪も鉄製でカバーがかかっている。しかも馬車を囲むように前後を20人近い男達が角馬に乗り並走している。恐らく魔術師も数人交じっているだろう。

商隊というより最早要人警護レベルだ。

しかも進む街道は隣街まで遠回りだが、平野で繋がっている。見晴らしのいい草原で隠れる場所は皆無。約1キロ先から、見下ろす形で監視するのが精一杯だ。これ以上、近づいたら相手に気付かれ逃走されてしまう。

もしここで取り逃がしたら、次ルナの動向を知るのはさらに難しくなるだろう。

「リュートくん、どうする?」

スノーが尋ねてくる。

「まずはなんとかして奴らの脚――ルナが乗っている真ん中の馬車を止めないと」

あの馬車の動きさえ封じれば、オレ達で強襲をかけて人質を奪還出来る。

問題はどうあの馬車の動きを封じるかだ。

パンツァーファウスト60型では威力が高すぎて、人質ごと殺してしまう。

手榴弾で車輪を破壊するにも、距離が遠すぎる。

即席で地雷を作るにも、制作して起動実験する時間が無い。不確定の要素が多すぎる。

クリスが燃えるような闘争本能を瞳に宿し、ミニ黒板を突き付ける。

『お兄ちゃん、なんとか私を有効射程に近づかせてください。そうすれば絶対に馬車の脚を止めてみせます!』

クリスの意気込みは有り難いが、彼女が使っているM700Pの最大射程は900m。最大射程とは、『発射された弾丸が地面に落ちるまでの距離』だ。

砲丸投げ、野球ボール投げの飛距離と同じ考えだ。つまりM700Pから発射された弾丸が地面に落ちるまでの距離が『900m』ということになる。

だが、銃は飛んだ飛距離を争う競技ではない。

物体に弾丸を当てて破壊したり、傷をつけたりしなければならない。

そして弾丸が物体を破壊したり、傷つけたりするのに十分なエネルギーをキープ出来る距離のことを――有効射程と呼ぶ。

その有効射程は銃の種類によって様々だ。

いくつか例をあげると――

拳銃弾の有効射程は約50m。

最大射程は~約1.5km。

アサルトライフル、ライフル弾の有効射程は約300~1km。

最大射程は~約2.5~4km。

機関銃弾(12.7×99)の有効射程は約2km。

最大射程は~約7km。

もちろん使う弾頭や 発射薬(パウダー) 、空気抵抗、 銃身(バレル) 長によっていくらでも変化する数字だ。

以上を加味して、確実な殺傷力を持たせたM700Pの有効射程はだいたい約500mぐらいだろう。つまり、クリスの望みを叶えるためには、彼女をあの商隊に約500mまで気付かれずに接近させなければならない。

「う~~~ん」

オレは腕を組み知恵を絞る。

スノー、クリス、サーベルウルフのレクシは黙って見守っていた。

例えば 対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル) なら、1.5km先の人間すら真っ二つにする威力があるが、今そんなものを製作する時間的余裕はない。

では、どうやってあの商隊に気付かれず、距離を縮めればいいのか……

「――これなら相手に気付かれず有効射程まで近づけるかも知れない」

『本当ですか!?』

クリスが希望の笑顔を浮かべる。

やっぱり嫁は明るい笑顔の方が可愛い。

「ああ、任せておけ! 僕に秘策有りだ」

オレは妻達へ向け、力強く親指を立てた。

作戦を決行するため一度、オレ達はメイヤが待つ飛行船へ急ぎ戻った。