軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第75話 大蠍

ハイエルフ王国、エノールを出発して7日、朝。

ようやく目的地のグリーン・ホーデンへと辿り着く。

オレ達は視界が広い森手前の草原に馬車を止める。

朝食を済ませ、皆、装備を調える。

まず初めにスノー&シアに森の様子と 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) の正確な位置を調査してもらう。

この2人は魔力が多いし、スノーは嗅覚と聴覚特化、シアは気配察知レベルが高い。

彼女達なら奇襲などを受ける心配はないだろう。

「判断を下すような場合は、例えどんな決断でもシアは副官であるスノーに従ってくれ」

「了解。奥様の指示に従うよ」

「それじゃ昼ぐらいには一度戻るから」

「スノー、シア、2人とも気を付けて」

『頑張ってください!』

「シア、スノーさん、無理はしないでください」

2人はオレ達に見送られ、森へと分け入っていく。

スノー&シアが最初に向かうのは、 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) がもっとも多く目撃されている場所だ。

オレ達はフル装備で、周囲を警戒しながら2人の帰りを待った。

宣言通り、スノー&シアは、昼頃に戻ってくる。

野戦服の一部は汚れているが、怪我はないようだ。

安堵で軽く息を吐き出す。

昼食を摂りながら、彼女達の話を聞く。

「ボク達は、極力戦闘を回避するため魔物に注意しながら目撃地へ行ったんだけど、魔物の数が妙に少なかったんだ。最初ボク達の運が良いのかと思ったけど、根本的に魔物の数が少ないみたいで。恐らくだけどツインドラゴンの時みたいに、 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) に狩られたり、住処を追われたりしてるんだと思う」

「そして、わたし達が目撃情報が一番多い場所から探してみたら、洞窟を見付けたの。その周囲に魔物の骨や人のなんかが散乱して。中は覗いてないけど、ほぼ間違いなくあの洞窟が巣だよ」

でも、とスノーが続ける。

「シアさんにも話したんだけど、妙に骨の数が多い気がするんだよね」

「そりゃこの辺の魔物の数が減るほど狩ってれば、骨は増えるだろ。何か問題があるのか?」

「う~ん、上手く言えないんだけど気になるんだよ」

「 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) は3本の尾から毒針を飛ばし、獲物を殺害して食べてしまいます。だから獲物を仕留める確率が高いんです。スノーさんはそんな毒針の危険性を訴えているのではないのですか?」

「うーん、そういうのでもないような……」

リースの指摘に彼女は首を傾ける。

「とりあえず2人の偵察のお陰で、敵の位置がはっきりと分かったわけだ。これなら事前に話しておいた作戦がそのまま使えるな」

作戦とは――鉄条網で 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) を足止め、AK47の掃射で注意を引きつつ、後方又は横合いからパンツァーファウスト60型で止めを刺す、というものだ。

「鉄条網は巣から最低でも50メートル以上離れた地点に作成。オレは 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) の後方又は横合いに位置するようにタコツボを掘って身を潜ませる。スノーとシアは、鉄条網から最低でも100メートル離れた位置から牽制射撃。 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) の気を引いてくれ。クリスはさらに後方でリースの護衛兼周辺警戒と、いざという時の援護。リースは補給を任せるが、危険を感じたら1人でも逃げること。分かったな、必ずだぞ?」

「…………」

リースは何か言いたそうな顔をしていたから、先に釘を刺す。

「分かっているとは思うが、これはリースが僕達と一緒に付いてくるために国王と交わした約束だ。僕達や国王を裏切るような馬鹿なマネはせず、ちゃんと逃げるんだぞ?」

「……分かっています」

それでも不満げに俯く。

オレは彼女を励ますように明るい口調で話しかけた。

「大丈夫だって、作戦通りやれば絶対に上手くいくから。リースが1人で逃げるような事態にはならないよ」

「そう、ですよね。励ましてくださってありがとうございます」

彼女の顔色が落ち着いたのを確認して、作戦概要の話を続ける。

「 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) の止めはオレがパンツァーファウストでする。パンツァーファウストは、リースが現地で2本だけ出してくれ。最後の1本は預けておくけど、いざという時すぐ手渡せるよう心構えしておいてくれ」

「分かりました」

パンツァーファウスト60型は現在3本しか制作出来ていない。

オレが2本受け取るのは、1本が仮に失敗してもすぐ追撃出来るようにするためだ。

「質問はないか?」

最後に確認するが皆、特に手をあげなかった。

「それじゃ昼食を終えて、少し経ったら出発しよう」

オレの決定に皆、元気よく同意の声を上げてくれる。

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昼食後、準備を終えシアを先頭に、スノー、オレ、リース、クリスの順番で森へと分け入った。

リースも野戦服に、予備の防具を着けている。

彼女の腰には護身用にオレの『S&W M10』リボルバーがある。

一応、リボルバーの扱い方も馬車旅の最中に教え込んだ。

森へ入って約数時間で、問題の洞窟へとたどり着いた。

彼女達の言う通り、洞窟の入り口には多数の骨が散乱している。まるで自身の力を誇示しているようだ。

洞窟は切り立った崖に穴が空いている感じで、これなら入り口から出てきてもすぐ後ろの森へ逃げることは不可能だろう。

洞窟は奥が見えないほど続いている。

目を凝らすが 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) の姿、気配は微塵も感じない。

「リース、頼む」

「分かりました」

リースは、精霊の加護で収納していた有刺鉄線の束を取り出す。

すでに魔術液体金属で作った鉄杭に一体化して、鉄条網化してある。

あとは杭を地面に撃ち込むだけだ。

鉄条網は洞窟入り口正面、約50メートル先に埋め込んでいく。

皆で手分けして埋めていくが、肉体強化術を使えば簡単に地面奥まで突き刺すことが出来る。

『皆さん、洞窟奥に異変ありです!』

この中で一番目の良いクリスがミニ黒板を振り、皆に注意をうながす。

「パンツァーファウストを出してくれ。1本は話した通り予備として誰かにすぐ渡せるようリースが持っててくれ」

「分かりました。リュートさん、どうぞ!」

リースはパンツァーファウスト60型を地面に3本だし、2本を手渡してくる。

残りの1本は指示通り彼女が抱え、後方へと下がる。

「きゃっ!」

「だ、大丈夫かリース!?」

「へ、平気です。すみません心配をおかけして」

彼女はパンツァーファウスト60型を抱えたまま、転んでしまう。その程度では誤爆することはないが、心臓にあまり宜しくない。

オレは安堵の溜息をつき、今度はスノーに指示を出す。

「スノーはあの辺にタコツボを作ってくれ!」

「土系の魔術はあんまり得意じゃないんだけど頑張るよ」

スノーは指示通りの位置に手を付き呪文を唱える。

「大地よ、土よ、我が声に応えよ! 言霊に従いその姿を変えろ! 翠嵐(ノーム・ファクトリー) !」

土、土の中級魔術。

スノーはいつもの中級水系より多くの魔力を消費している。

タコツボの高さは、オレが屈むと姿が隠れる程度。

横と奥行きは、人が寝そべることが出来るほどに広い。

押しのけられた土は左右にほぼ均等に散らばる。

やや目立つが問題ないだろう。

オレはパンツァーファウスト60型を小脇に抱えながら、 ALICE(アリス) クリップから『破片手榴弾』を取り出す。

「皆、位置に付いたか!?」

鉄条網側からスノーとシアがAK47を持ち手を振ってくる。

彼女達は 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) が姿を現したら、AK47を掃射。注意を集め鉄条網側に 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) が引っかかったら、約100メートル先まで後退。そこからさらにAK47を撃ち注意を引きつける。

大蠍(ジャイアント・スコーピオン) が3本の尾から飛ばす毒針の距離は約50~70メートル。それだけ離れていれば、まず問題は無いだろう。

クリス、リースはさらに後方で待機している。

オレは 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) を誘い出すため、手榴弾のピンを抜き肉体強化術で補助! 全力投球で洞窟内へと投げ入れる。

すぐさまオレはタコツボへと駆け込み身を隠す。

破裂音。

洞窟内部が一部崩落する音が続く。

さらにオレでも分かるほど足音と擦過音を鳴らし、洞窟入り口から 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) が姿を現す。

『ピギギイギッギギィぎぃいいぃぎギぃぎィイィッ!』

寒気を感じさせる鳴き声。

体長は10メートル。

全身は毒々しい程の赤。微かに生える産毛も鉄針のように鋭い。

両手の鋏は鋭く、金属製の甲冑でも易々と切り裂きそうだ。尾は3本に分かれ、それぞれが独自に動いている。それがさらに 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) の外見的凶悪さを加速させていた。

虫嫌いの人が見たら、一発で失神しそうな大きさとデザインだ。

「尻尾が3本あるからって偉そうにしないでよね!」

「ボク達はこっちだぞ! この蠍野郎!」

2人は罵声を飛ばし、AK47をフル掃射!

しかし7.62mm×ロシアンショートは 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) の外皮に傷を負わせることが出来ない。

だが、予定通り 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) の注意が2人に集まる。

ドシュ! ドシュ! ドシュ!

粘着質な発砲音を鳴らし3本の尾から毒針を飛ばすが、2人はすでに後退し距離を取っている。

毒針は虚しく地面に撃ち込まれただけだ。

大蠍(ジャイアント・スコーピオン) は6本の足を動かし、スノー&シアを追いかけるがまんまと鉄条網に遮られる。

『ピギギギィッギギギィぃいいぃぎギギぃぎィィッ!』

鉄条網の見た目が細い柵のため、侮ったのだろう。

大蠍(ジャイアント・スコーピオン) は両手の鋏で切断しようとするが、上手くいかない。

メイヤが魔術液体金属の許容限界まで魔力を注ぎ制作した『レイザーワイヤー』だ。そう簡単に切断出来る筈がない。

その間にもスノー、シアがAK47を発砲。

作戦通り、注意を引きつけてくれる。

オレはタコツボに隠れながら、パンツァーファウスト60型の準備に取り掛かる。

まず弾頭の根本あたりに付いている安全ピンを抜く。

照門を立てる。

安全レバーを前へ押し出せば発射準備完了だ。

大蠍(ジャイアント・スコーピオン) との距離は約30メートル。

パンツァーファウスト60型の最大距離は60メートルのため十分射程圏内だ。

オレはタコツボから上半身を出し、パンツァーファウスト60型を肩に担ぎ弾頭を 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) へと向ける。

オレの位置的に、狙うのは奴の右後方。

相手はスノー&シアに夢中で全く気付いていない。

後方、3メートル以内に人や障害物が無いことを確認して、トリガーに指をかける。

「作戦通りに動いてくれてありがとうよ、蠍野郎――ッ!」

オレは1人呟きトリガーを押す。

『バシュッ!』という発射音と共に、弾頭が初速45m/秒で飛んでいく。

大蠍(ジャイアント・スコーピオン) が今頃オレの存在に気付くが、もう遅い。

約3キロのTNT魔力炸薬が、右足後方へと襲いかかる。

弾頭はあっという間に 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) へと着弾。

腹に響く破裂音。

モウモウと土煙を巻き上げる。

『ピギギギイギっギギ……ぃッッ!!!』

土煙が晴れる。

大蠍(ジャイアント・スコーピオン) はまだ生きていたが、右足2本と尾2本は全損、胴体はやや吹き飛ばされ、文字通り虫の息だった。

どうやら足に当たったせいで本体を削りきれなかったらしい。

それでもしぶとく、緑色の体液を撒き散らしヨロヨロとオレへと体を向ける。

残った1本の尾から毒針を飛ばすも、オレは肉体強化術で身体と視力を補助。

残っていた1本を手に難なく回避する。

オレは毒針を回避しながら、2本目のパンツァーファウスト60型の発射準備に取り掛かる。

弾頭の根本あたりに付いている安全ピンを抜く。

照門を立てる。

安全レバーを前へ押し出し準備準備完了だ。

大蠍(ジャイアント・スコーピオン) と正面から向き合いパンツァーファウスト60型を構える。

「今度こそ終わりだ!」

レバーを押し込み発射!

大蠍(ジャイアント・スコーピオン) は1本目で受けた傷のせいで動きがとても鈍くなっている。距離も20メートル無いため、外す方が難しい。

狙い違わず弾頭が頭部へ炸裂。

再び腹に響く破裂音。

今度こそ 大蠍(ジャイアント・スコーピオン) は体液を撒き散らし、頭部から胴体にかけて半身を失い死亡する。