軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第57話 ガチファイトクラブ

『奴隷市場ブルーテス』1階は、四方を壁で囲まれていた。

奴隷達は鉄の檻に入れられて、壁際にずらりと並べられている。中央にも2個ずつ2列ずつ並んでいた。

奴隷の檻には番号が振られ、前に各商品を説明するための商人が座っている。

2階受け付けで希望に近い奴隷の番号を教えられ、客がその檻番号へと向かう。もちろん、指示された番号以外を見て回っても問題は無い。

壁、床、天井とも石造りで、魔術で作り出された光によって室内を満遍なく照らしている。

木の鎧戸で開閉する約30センチ四方の窓は全て開いていた。

鎧を着た警備員達に連れられて、2階から降りてきたオレ達を檻に入っている奴隷達が不思議そうに眺めていた。

体育館3つを横に並べ繋げたほど広い。

その中心は、休憩スペースのためか椅子が置かれている。その椅子を警備員達が片付ければ、即席の闘技スペースの出来上がりだ。

シアは警備員達により、手足の枷を外される。

2、3度筋肉をほぐすように動かす。

オレも側に立つメイヤに、下げていたガンベルトと靴を脱いで預ける。

「別にボクにならって靴まで脱がなくてもよかったのに。なんならハンデとしてそっちの魔導具っぽい物を使わせてあげてもいいよ」

「まさか。勝った後でごねられても困るしね。それとも言い訳作りのために使ってあげたほうがいいのか?」

シアの顔が不機嫌になる。

「ふん、その減らず口に見合うだけの実力があることを祈っているよ」

彼女は鋭い視線で睨み付けてくる。

オレも負けじとにらみ返した。

「リュート様、無理はなさらないでくさいまし」

「分かってる。メイヤも危ないから離れていろ」

彼女は頷き距離を取る。

警備員の1人がレフェリーのようにオレ達の間へ立つ。

「改めて条件を確認する。『魔術無し』『武器無し』『目つぶし無し』『金的無し』『相手が気絶、戦意を消失したら敗北』。さらに、これ以上危険だと我らが判断したら止めに入る。問題無いか?」

「問題無い」

「ボクもありません」

双方の合意を取ると、警備員はオレ達に距離を取るよう指示を出す。

約10メートル離れると、警備員は外に聞こえそうなほどの声量で『始め!』と合図を告げた。

オレ、シア――双方すぐさま構える。

オレは両手を顎あたりで構えた。

彼女も似たような構えを取る。

「リュート様、頑張ってください!」

メイヤの声援を耳にしながら、シアと対峙する。

彼女は爪先でテンポを刻み時計回りにステップ。

「――フッ!」

鋭い踏み込みで、左ジャブのようなパンチ。慌てて距離を取れば、追い打ちとばかりに攻めてくる。

こちらも払いのけるようにジャブ。

だがダッキングで交わされ、逆にボディーへ右拳がめり込む。

「ぐっ!」

後退していた逃げ腰だったためダメージは少ないが、足は止まる。

追い打ちの左足のミドル。

反射的に脇腹をガードするが――彼女の足がぐにゃりと軌道を変え頬に蹴りがめり込んだ。

まさかのブラジリアンキック!?

「ッッッ!?」

『ウオッッォオォオォォォォォッォォオオォッォッ!!!』

たまらず床に手を付く。

打撃が当たったことに興奮し、奴隷と警備員達は耳が痛くなるほどの喝采をあげる。

「り、リュート様! 世界の国宝と言っても過言ではないリュート様をけ、蹴りつけるなんて! 神をも恐れぬ冒涜ですわ!」

「ふ~ん、この程度なんだ。本当に減らず口だったみたいだね」

シアはメイヤの悲鳴を無視して、倒れたオレを冷たい視線で見下してくる。

オレは歯ぎしりして立ち上がり、右アッパーを繰り出すが彼女は華麗に後方へ下がった。

再び距離が出来る。

(女性だから舐めていた訳じゃないが……攻撃が的確だな。気を抜いたらすぐ倒されそうだ)

そうなったら、なぜ彼女が『田中孝治』の名前を知っているのかも聞けなくなる。

オレは気合いを入れ直す。

シアをよく観察する。

彼女が使っている格闘術はこの世界のオーソドックスでは無い。

爪先でリズムを取り、隙をついて着実にダメージを与えてくる。こちらが打って出れば、無理をせず引く。

完全なヒット&アウェイ。洗練された実戦格闘術だ。

だが旦那様やギギさんと比べれば拳は軽いし、迫力も無い。

旦那様の怖さを体験している身からすると、この程度怖くも何とも無い!

今度はオレから仕掛ける番だ!

「ふっ!」

真っ直ぐ突っ込み左ジャブ!

しかし相手は距離を取り回避。

さらに軽いステップで時計回りに動き、回り込んでくる。

構わずオレは彼女へジャブを打つ。

シアはギリギリで回避しながらタイミングを計っている。

オレはわざと大振りで右ストレートを打つ。

そのタイミングに合わせて、シアがカウンターを狙ってきた。予想通り!

オレ達は同時に回避する。

距離が零になる。

オレはすぐさまシアの首を両手でロック!

ムエタイで言うところの首相撲と呼ばれる体勢だ。

「!?」

彼女は初めての事態に戸惑い行動がワンテンポ遅れる。

その隙にオレは、右膝をシアの脇腹へ叩き込んだ。

「ガァッ!」

耳元で漏れる苦しげな呼気。

手を弛めず、2発目!

同じ場所へ右膝を入れる。

シアは苦しげに喘ぎ、たまらず両手で突き飛ばしてくる。

再びオレ達の間に距離が出来た。

だが、腹部のダメージは深刻らしく、シアは膝を付き荒い息を漏らす。

『ウオッッォオォオォォォォォッォォオオォッォッ!!!』

警備員と奴隷達の歓声が沸き起こる。

今度はオレが彼女を見下ろす形になった。

「本当に減らず口かどうか分かっただろ?」

「き、きさ、ま――ッ」

シアは苦しげな表情のまま無理矢理立ち上がる。

しかし、瞳に宿る闘争の炎はいまだ消えていない。

それはオレ自身もだ。

「いくぞ!」

「おお! かかってこいシア!」

オレ達はどちらかともなく雄叫びをあげ、真っ正面から突っ込みあう。

2人の雄叫びと奴隷、警備員達の歓声が混じり合う。

声は外まで響いていただろう。

男女などという性別を超え、オレとシアは殴りあった。

結果――2人ともダブルノックアウト。

勝負は引き分けという結果になる。

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オレとシアは、オレの自宅で握手を交わす。

目の前のテーブルには冷たい飲み物。

彼女は一息にそれを飲み干すと、勢いよくテーブルにコップを置く。

「最初はひょろい男だと思っていたが根性がある。実にいい戦いだったよ」

「こっちこそシアの拳はきいたよ。特に左の蹴が顔に当たった時はやばかった」

「いやいや、こちらこそ。密着した状態で右膝を腹部に入れられた時は骨が折れたかと思ったよ」

と、シアはオレの戦いを讃えてくる。

彼女の性格はどうやらさっぱりとしたもののようで、戦いあった後はわだかまりは無いようだ。

勝負はダブルノックアウト――引き分けに終わったが、無事シアを買うことが出来た。

オレ達は青あざや傷をこさえて自宅へと戻ってくる。

傷はスノーの治癒魔術で治してもらった。

お陰で現在はどこを見ても傷など1つも無い。

拳を合わせた同士、妙な連帯感が生まれる。

シアがソファーに座ったまま深々と頭を下げた。

「それでは改めて、よろしくお願いします、ご主人様。未熟ながらご主人様のお役に立てるよう努力していきたいと思います」

「ご主人様なんて、止めてくれ。確かに金銭を支払ったから、書類上はオレが主だ。でもオレ達は互いに死力を尽くして戦った仲じゃないか。オレのことは『リュート』って名前で呼んでくれ」

「いえ、さすがにそう言う訳には……では、これからは若旦那様ということで『若様』と呼ばせて頂きます」

「まぁシアがそういうなら。それじゃこれから宜しくな」

「こちらこそよろしく、若様!」

オレ達はスノー達には分からない戦いあった者同士の友情で繋がり、再び握手を交わす。

シアとのじゃれ合いはこれぐらいにして、オレは彼女に質問を尋ねる。

どうしてオレのことを知っていたのか?

『田中孝治』という名前をどうして知っているのか?

以上、2点だ。

シアは『奴隷市場ブルーテス』の時みたいに袖にはせず、話してくれた。

「これはボクの隠す秘密に関わります。なので若様、奥様方も他言無用でお願いします」

と、前置きを入れて話し出す。

「信じてもらえないかも知れませんが……ボクには幼い頃から神のお告げを聞く『神託』のような力があるのです」

ただこの力は一方的で、自分から望んで聞くことは出来ないらしい。

その神託によりオレの名前を知り、『田中孝治』と告げれば自分に相応しい主――オレに確実に買い取って貰えると告げられた。

オレと勝負したのは本当に自分に相応しい主かどうか、確かめるためだったらしい。

俄には信じられ無い話だが……事実、シアはオレの奴隷として買われている。

シアもようやく念願叶ったと喜色満面で喜んでいた。

オレはてっきり田中と彼女に何らかの関係があるのかと思ったが……。

それにまだ違和感がある。

だが、シアは悪い奴じゃない。拳を交えたからこそオレ自身がよく分かる。

それに主従契約をしているから、裏切ったり主に不利益な事は出来ない。

だったらこの違和感はオレの気のせいか?

彼女はこちらのささやかな疑問も気にせず、嬉しそうに笑顔で頭を下げる。

「この力のお陰で、ボクに相応しい主に出会って本当に嬉しいです。これからどうぞ宜しくお願いします」

「こちらこそ、宜しく」

とりあえず話し合いは終わり、今日からシアも一緒にこの一軒家で暮らすことになった。

部屋は1階の客室だ。

その日は、シアの私服や下着、小物などを買うために費やした。

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翌日、メイヤ邸。

工房側の射撃場で『S&W M10』『Ak47』『M700P』の射撃を見て貰う。

今後、彼女にも扱って貰うためだ。

オレが『AK47』、スノーが『S&W M10』、クリスが『M700P』をそれぞれ撃つ。

シアは尖った耳を押さえていた手をゆっくりと離し、驚きの表情をしていた。

「これを若様がお作りになったなんて……流石、魔石姫が師と仰ぐだけのことはありますね」

「今後はシアにも使って貰うつもりだから」

「素晴らしい魔術道具だとは思いますが、ボクに使いこなせるかどうか……」

彼女は気が進まなそうな声を漏らす。

「シアは冒険者時代どんな武器を使っていたんだ?」

「ナイフを双剣のように扱っていました。だから、あまり飛び度具は苦手で」

「うっ、双剣か……」

オレを騙し、奴隷に売った偽冒険者にも双剣使いが居たな。

うぅうぅ……トラウマが。

「ま、まぁシアなら少し練習すれば問題無く扱えるようになるよ。それにいざという時用にナイフを装備しても構わないし。後で武器屋に行って気に入ったのがあったら買おう」

「ありがとうございます、若様」

なんだったら、オレがシア専用のナイフを作ってもいい。

彼女にロシア軍が使っているスペツナズナイフを持たせるのも有りかもしれない。

今度、時間が出来たときにでも色々試してみよう。

オレは防具、小物作りと並行して、ナイフ作りの研究も進めてみようと考える。他にもいくつか作りたい物がある。

またスノー&シア専用のAK47作りは、メイヤの練習のためにも一緒に作ろうと決意を固めた。