軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第440話 軍オタアフター 湯の町リリカーン

新婚旅行に行くことが決まったが、仕事が無くなるわけではない。

事務仕事はバーニーに、素材採取系を魔術師S級の『氷結の魔女』ホワイト・グラスベルさん、ケンタウロス族のカレン・ビショップに代わってもらう。

彼女達も『新婚旅行ならしかたないよね』と納得してくれた。

本当にありがたい話だ。

やるべき仕事は多いため、長期間ココリ街を離れることはできない。

新婚旅行は7日間のみと決まった。

普通は1ヶ月、長くて半年は旅行に費やすらしい。

しかし、オレ達は新型飛行船ノアがあるため、どの大陸に行こうが数日で着いてしまう。

もっとも時間がかかる移動時間を節約できるため、滞在日数が7日間のみと決まったのだ。

早速、準備を終えると旅行先へと出発する。

向かう先はハイエルフ王国エノールの領地、湯の町リリカーンだ。

湯の町リリカーンは名前の通り『湯』、つまり温泉が湧き出ている。

そのため湯治場として人気があり、海も近いため新鮮な魚介類を目玉とする宿が多い。

ハイエルフ王国エノールの領地の一つで、海の先には獣人大陸がある。

そんな観光地にオレ、スノー、クリス、リース、ココノ、メイヤ、そして護衛メイドとしてシアが到着する。

飛行船ノアで直接、湯の町リリカーンに乗り込まず徒歩数時間先の広場に着陸。

今回は PEACEMAKER(ピース・メーカー) ではなく、新婚夫婦として町を訪れる。

そのため正体を隠し、のんびりと温泉を楽しむつもりだ。

大々的に結婚式パレードを開いているとはいえ、この世界にはテレビや写真、ビデオがある訳ではない。

飛行船ノアや銃器を出さなければ、そうそう正体がバレることもないだろう。

徒歩で移動途中、商隊が通りかかる。

交渉してお金を多めに支払い、空いているスペースに乗せてもらう。

普段鍛えているオレやスノー、クリス、リース、シアはともかく体の弱いココノや開発者のメイヤは長時間の徒歩移動は厳しい。

休み休み行くつもりだったが、通りかかってくれてラッキーである。

積み荷は湯の町リリカーンに下ろす物資だ。

堅い木箱に入った酒精や町で手に入らない食料品が積まれており、空いたスペースに腰を下ろさせてもらう。

商隊の人達と話をしつつ、ゆっくりと移動する。

短い森の街道を抜けると、青空より蒼い海が目の前一杯に広がった。

「うわぁぁっ! 綺麗! リュートくん、海だよ! 海!」とスノーが馬車から身を乗り出しはしゃぐ。

『キラキラと宝石のように輝いています』とクリス。

「飛行船から見るのとはまた違いますね」とリースがしみじみと呟く。

「海も綺麗ですが、町も凄いですね……。あれは山を削って作っているんですよね?」とココノが感嘆の声を漏らす。

「よく見ると山肌にも建物が建てられていますわね。あれはどうやって資材を運び込んで建てているのかしら? 周辺の木々を切って使っている感じでもありまんわよね」

メイヤは海の綺麗さより、山肌に建てられてる建物がどうやって建築されているかに興味を抱く。

研究者故の性というモノか。

湯の町リリカーンは今まで見てきた街々とは大分毛色が違う。

スノー、クリス、リースの指摘通り目に眩しい青々とした海岸線と、ココノ、メイヤの感嘆通り山を削り、あるいは山肌に沿って建物が建てられている。

まるで『海と山の間に無理矢理スペースを作り出した町』という感じだ。

町を遠目から眺めると、まるで自然と人々の執念が融合した印象を受ける。

町には馬車に乗れたお陰でまだ日がある内に辿り着くことができた。

商隊の人々にお礼を告げて、宿屋へと向かう。

オレ達がこれから7日間お世話になる宿は、リースご両親が泊まったこともある由緒ある宿屋らしい。

湯の町リリカーンでも1番の高級宿だ。

基本的に身分の高い人物がお忍びで使う宿で、基本貸し切るのが一般的になっている。

貸し切りのため他客の視線を気にする必要もなく、堂々といちゃいちゃ出来るし、顔を隠す必要もない。

その分、当然だがお値段は普通の宿屋とは比べモノにならないが……。

それでも外部と接触が無いのはありがたい。

のんびりできるというものだ。

第一、この町の宿屋は前世日本の旅館と違い、基本泊まることをメインにしている。

湯船が付いていないのだ。

温泉に入りたい場合は、宿を出て歩いて温泉が湧き出ている風呂屋に入る。

つまり日本のように旅館で温泉を所持しているのではなく、町全体で共有しているのだ。

しかし今回泊まる高級宿は例外で、前世日本の旅館のように専用の温泉を所持している。

なのでいちいち外へ温泉に入りに行かなくてもいいのだ。

家族風呂は無いが、男湯、女湯、混浴の3種類が準備されているらしい。

3つに別れているが、どれも源泉は同じで効能も変わらないとか。

日本であれば数種類の湯がある場合もあるが、その方がおかしいのだろう。

シアの案内で町を進む。

日が沈む前に辿り着けたので、都会に出たてのお上りさんのごとく周囲を見て回る。

オレ達同じ湯治客、土産物屋、屋台では魚を焼いて売っていた。酒場では昼真っから男達が酒精を飲み、女性客は珊瑚と思われるアクセサリーを楽しげに見ている。

子供達は弓矢の的当てなどのゲームで一喜一憂していた。

まさに温泉街という空気が漂っている。

「あの弓矢のゲーム、面白そう! リュートくん、やろう!」

「後でね後で。まずは宿に着いて荷物をおろさないと」

子供のように瞳を輝かせて遊ぼうとするスノーを止める。

その間もシアは地元民のごとくすいすい道案内役として進んでいく。

大分歩き人通りが少なくなる。

そろそろココノがばててきたところで、目的地が見えたようだ。

「……あれが宿なのか?」

入り口には槍を手に鎧を着た門番らしき人物が4名立っている。

城壁のような塀で区切られ、鉄柵の内側には詰め所のような建物があり、周辺を犬型のモンスターが眠っていた。

恐らく番犬なのだろう。

門の先には舗装された道があり、森の中へと続いている。

高級宿というより、その筋の人達が居る本拠地のような空気感だ。

「ご安心ください、あれはただの門番ですので」

シアは躊躇いなく近付く。

門番達は油断なく彼女に視線を向けている。

身のこなしからかなりできる者達のようだ。

シアは封筒を取り出し、短く言葉を告げる。

門番の代表者が封筒の中身を確認。

一礼して、門を開けるよう指示を出す。

シアが戻ってくる。

「宿はこの道の先にあります。迎えの馬車が来るので少々お待ちください」

「りょ、了解……」

彼女の言葉にただ返事をするしかなかった。

王族や上級貴族等、地位のある者達が泊まる宿だ。

厳重に警備するのは当然といえば当然なのだが……。

先程通ってきた温泉街らしい賑わいとのギャップが激しくないか?

シアの言葉通り、森の中から馬車が姿を現す。

遠目から見ても角馬はよく世話をされ肌つやが良い。引いている馬車も下品にならいよう細心の注意を払って装飾されている。

オレ達は目の前に止まった馬車に乗って、7日間お世話になる宿へと向かう。

馬車に乗って10分ほどだろうか、宿屋が見えてくる。

宿は山肌を削り、海が一望できるように整地された場所にあった。

門もそうだが、建物も『宿屋』というレベルではない。

むしろ貴族の屋敷状態だ。

馬車から降りるとメイドが並び、代表して老執事が挨拶してくる。

「遠いところからいらっしゃって頂きまして、誠にありがとうございます。当宿を預かるセバールと申します。以後お見知りおきを」

「ど、どうも」

「さっ、皆様、中へどうぞ」

なぜかシアが現場を仕切る。

彼女も客ではないのか?

「宿帳に記帳とかしなくても大丈夫なのか?」

「後ほど自分がやっておきますので、お気になさらず」

皆、顔を見合わせたがシアの勧めで中へと入る。

建物内も宿屋というレベルではない。正面には二階へ上がる広い階段があり、壁に掛かっている絵画は一目で高名な者によるものだと分かる。階段の手すり、窓縁、廊下の隅にも埃どころか汚れ一つ無い。

オレ達は手荷物をメイドに預けて、階段を上がり二階へと上がる。

廊下を進み奥へ。

途中、渡り廊下を通った。

海に沈む夕日が一望できる。

絶景とはまさにこの光景だ。

反対側には森林が青々と茂っている。

大きめの池があり、こちらも海に負けず劣らず見応えがある風景だった。

渡り廊下を進むと、ようやくオレ達が宿泊する部屋へと辿り着く。

『部屋』と言ったが、まるで前世高層ビルのワンフロアー全てをぶち抜き作った状態の部屋だ。

どの窓からも海が一望でき、置いている家具は超一流品ばかり。

シアの指示でメイドが荷物を置き、香茶の準備をする。

ソファーや椅子に座ったオレ達の前に、順番に香茶と茶菓子が置かれていく。

一通り終えると部屋を出て行った。

シア曰く、茶菓子はこの町の名物で、温泉の上記でサツマイモを蒸かし皮を剥いて潰す。潰した後、クルミを入れて固める。

ドライフルーツ版もあるらしい。

温泉の湯で蒸すことでサツマイモの甘みを最大限に引き出しているとか。

甘味に目がないクリスが早速手を伸ばす。

小さい金属フォークで切り分け、パクリと口にする。

『……サツマイモの自然な甘みに、クルミの食感が面白いです。10点満点中6.654点ですね』

久しぶりにクリスの甘味鑑定を聞いた気がする。

しかも、また数値が細かくなっているし……。

ちなみに昔、ハイエルフ王国エノールで食べた名物ハイエルフ焼きが2.17点だったはず。

点数だけなら領地である湯の町リリカーンの方が上のようだ。

「皆様、長旅ごくろうさまです。お疲れのところ申し訳ございませんが、宿の注意点等をご説明させて頂ければと思います」

「いや、シアも客の1人だよな?」

オレのツッコミを彼女はスルーして、説明を始める。

宿には湧き出る湯――つまり温泉があり、24時間入りたい放題。タオルや着替えも常に備えてあるので、手ぶらで行っても問題無し。

この部屋にも専用の温泉がある。

用件がある場合はその場に居るメイドや使用人に声をかけてくれれば、すぐに対応するらしい。

「ですが、場合によって近くに居ない場合もございます。その場合は、あちらにあるベルを鳴らしてくださいませ。あのベルは魔術道具で、鳴らすとこちらの指輪が締まる仕組みになっております」

シアは右手を掲げ、指輪を見せる。

確かに彼女の右手人差し指には黒い指輪が嵌っていた。

だから、なんで客であるシアが指輪を嵌めているんだよ!? だいたいいつ嵌めたんだ!

彼女は皆の疑問視線を無視して淡々と他注意事項等を説明する。

最後にシアは咳払いしてから、語り出す。

「この部屋の寝室には魔術と魔術道具を併用した最高峰の防音、防振対策が施されております。中でどれだけ激しく声を上げても、動いても外部に漏れ出ることはありません。例え寝室内で 8.8cm対空砲(8.8 Flak) を発砲したとしても、音や振動が漏れることはありません。絶対にです」

シアとも長い付き合いだが、彼女がコッファー以外でここまで真剣な表情をするのを初めて見た気がする。

「絶対に音や振動、匂い、気配、その他全て漏れる心配はありません。絶対にです」

念を押しすぎだろう。

オレもシアとは長い付き合いのため、彼女が何を望んでいるのかは分かる。

分かるが、気合い入れすぎだろう。

シアは真剣なだけじゃなく、どうやらひどく張り切っているようだ。

よほどララの出産が彼女の琴線に触れたらしい。

もし彼女が所帯を持ち、子供を産んだら教育ママとかになるのだろうか?

「では、自分は別室に下ります。もしご用がある時は、先程お伝えしたとおりベルを鳴らして頂ければすぐに窺いますので。では、失礼致します」

シアは一礼して、部屋を出て行く。

部屋にオレと妻達だけが残された。

「……シア、貴女はもてなされる側でしょうに……」

シアの張り切り具合に、さすがのリースもツッコまずにはいられなかったようだ。

こうしてオレ達の新婚旅行が始まった。