軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第441話 軍オタアフター 温泉

ひどく張り切っているシアは、とりあえず好きにさせることにした。

彼女があそこまで積極的に物事を進めるのは珍しいためである。

たまにはシアの好きなようにすればいい。

夕飯までには時間があるため、オレ達は早速温泉へと入ることにした。

現在、宿泊している高級宿屋『 白銀邸(はくぎんてい) 』には複数の温泉がある。

男湯、女湯、混浴だ。

お湯の成分的にはどれも一緒で、単純に区切られているだけである。

男湯、女湯は今居る部屋を出なければならないが、混浴は階段を下りた一階にある。

専用なので実質、家族風呂扱いだ。

なのでオレと妻達の6人で早速、混浴へと向かう。

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「これはまさに絶景だな!」

オレは思わず感嘆の声を叫ぶ。

一階にある混浴の床は全て石で出来ている。

湯船も巨大な岩をくりぬいて、研磨した感じだ。前世日本、テレビやネット、漫画で見るようないかにもな湯船ではないが、これはこれで趣がある気がする。

何より、混浴は露天風呂で目の前が一面の海が広がっているのだ。

ちょうど夕日が水平線に落ち、世界を朱く染め上げる。海の蒼と空の朱が混じり合い僅かな時間がしか拝めない芸術的風景を作り出す。

そんな風景を眺めながら妻達と一緒に温泉に入れる至福。

感嘆するなというほうが無理な相談である。

「正直、この風景を見られただけで来たかいがあったな」

「ですね。新婚旅行を提案し、手配も全て整えてくれたシアに感謝しないと」

隣に座るリースが湯に漬かりながら同意する。

ちなみに温泉は乳白色の濁り湯のため、湯船に漬かるとその豊満な胸やきめ細かい肌、全てを見ることは不可能だ。

……別に今、見えなくても問題はないのだが、なんか悔しい。

「クリスちゃん、今の見えた!? お魚が跳ねたよね、あそこ!」

「(コクコク!)」

スノー&クリスは風呂場の端にかぶりつき、海を凝視している。

スノーは魔術で視力を強化し、クリスは裸眼で海を楽しげに観察していた。

この2人の場合、観光地によくある100円を入れると覗ける望遠鏡は必要ないな。

一方、ココノは温泉が熱くて長く入って居られず、3分ほどで上がってしまう。

入っては上がって、入っては上がってを繰り返していた。

現在はタオルで前を隠しながら、すぐ側の縁に腰をかけている。

「ココノは無理して入らなくても大丈夫だからな。熱かったらこまめにそうやって体を休めた方がいいぞ。後、辛かったら先に出ていいからな?」

「はい、ありがとうございます。でもまだ大丈夫です。まだまだ温泉に入って居られます!」

ココノは病的に白い肌が温泉の熱さで、赤くなっていた。

普段肌が白いため、その変わりように驚く。

皆と一緒の時間を過ごしたいため、頑張って入り続けるつもりらしい。

のぼせる前に彼女を温泉から連れ出そうと、心に決める。

問題はやはりメイヤだ。

「リュート様の肌、リュート様の黒髪、リュート様から流れる汗、リュート様の鎖骨、リュート様に触れたお湯がわたくしの肌に染みこんで……うぃひぃ!」

メイヤは先程から目の前に広がる絶景ではなく、ずっとオレを見続けていた。

さらにぶつぶつと呟き、その内容がだんだんマニアックになっていく。

ココノとは違った別の意味で顔を赤くしていた。

オレやリース、ココノ、スノー、クリスは彼女の奇行にも慣れているので問題なくスルーする。

黙って温泉に入っていれば、テレビコマーシャルに採用され利用客が確実に増えるほど見栄えがいいというのに……。

リースが指を組み、大きく伸びをする。

「本部の大風呂に入るのも気持ちいいですが、この町の湯もまた違っていいですね。ですがどうしてこのお湯は白く濁っているのでしょうか?」

「オレも詳しくはないけど、この湯は地下にあって色々なものが溶け込んで居るんだ。その溶け込んでいる成分によって湯が白く濁っているんだよ」

「なるほど」

ふんわりとした説明だが、リースは納得してくれたようだ。

さすがにオレも温泉の成分については知らない。

また彼女達に温泉成分の意味を1から教え込む自信もなかった。

「リュートさま、やはりお湯に溶け込んだモノに影響を受けて、子供が授かりやすくなるのでしょうか?」

体の温度を下げたココノが、リースの反対側に座る。

左右をココノ、リースに挟まれた形だ。

「だと思うぞ? けど、オレが耳にする湯の効能は普通、美肌や疲労回復、傷の治癒とかなんだが……」

本当にこの湯につかっただけで授かりやすくなるのだろうか?

前世、日本にいた時もそんな話は耳にしたことがない。もしかしたら存在していてオレが知らないだけかもしれないが……。

温泉は好きだが、前世では旅行に出かけてまで入るほどではなかった。

だから詳しくないのだ。

なのでシアを疑うつもりはないが、少々疑問を抱いてしまう。

「確かに、このお湯はとても気持ちいいんですけどね」

「はふぅ、リースさまの仰る通り気持ちはいいのですが、少し熱いです」

左右に座る妻達の気持ちよさそうな表情と台詞に和んでしまう。

またココノの指摘通り、ちょっと温度が熱い気がする。しかしそれは屋外、露天風呂になっているため外気の気温の低さを考慮しての配慮だと思う。

それでも肩まで温泉につかっていると、額といわず体全体から汗が噴き出してくる。

まるで体の奥に溜まっていた疲労が汗となって、外部へと流れ出ているようだ。

子宝云々は置いておいて、今はこの温泉の気持ちよさを妻達と一緒に共有するのが最善だろうな。

「ふぅー、フゥー、くっ、見えませんわッ。いえ、きっとわたくしの愛が足りないのですわ。もっと目を凝らせば湯の中にあるリュート様の下半身だって絶対に見えるはずですわ! この程度でわたくしの愛が負けるはずありませんわ!」

上半身を十分堪能したメイヤが、次は下半身を凝視しようとしていた。

しかし濁り湯のため見ることができず、鼻息荒くチャレンジし続ける。

メイヤも別の意味で温泉を楽しんでいるようだ。かなり特殊な楽しみ方だが……。

さすがに一度、しっかり話をしないと駄目な気がしてきた。

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風呂から上がると日は完全に沈み、夜を迎える。

オレ達は備え付けのタオルで体を拭いた後、準備されていた衣服に袖を通す。

今まで着ていた私服は置いておけば後でメイドが回収し、洗濯しておいてくれる。

宿屋が準備した衣服は、女性がゆったりとしたワンピースで、男性はシャツとズボンだ。

男性用はデザインこそシンプルでパッと見は簡素だが、肌触りがとてもいい。良い素材を使っているのがすぐに分かる。

女性の場合、複数のデザイン、サイズ、色のワンピースが用意されていた。

衣服だけではなく、下着類まで準備されているようだ。

どれも高級店に置いていても問題がないレベルで、女性陣は嬉しそうに選び身に付けている。

オレは先に着替えて二階リビングへと戻った。

リビングに戻るとシアが壁際に待機していた。

オレが声をかけるより早く、彼女が口を開く。

「若様、お食事の用意ができましたが、いつぐらいにお召し上がりになりますか?」

「出来たならすぐに食べないと駄目じゃないか?」

「いえ、あくまで準備ができただけですので。もちろん今すぐでも問題ありません。またメニューも漁港で取れたばかりの魚介類メインですが、ご希望ならすぐに肉類もご用意いたしますが?」

「魚介類メインで大丈夫だよ。個人的には地元の魚料理を楽しみにしてたから」

これは本心だ。

やはり日本人としてたまに魚が食べたくなる。

「とりあえず食事の時間は皆が戻ってから、話し合って決めるよ」

「了解致しました。では決まり次第お声をかけてくださいませ。ご希望時間に合わせて鮮魚メイン、新婚・カップルラブラブ特別コースのご準備をさせて頂きますので」

「ああ、分かった――ちょっと待って、最後なんて言った?」

思わず濡れた髪をタオルで拭いていた手を止めてしまう。

シアは真っ直ぐな視線でリピートする。

「鮮魚メイン、新婚・カップルラブラブ特別コースです」

真面目な彼女の口から『ラブラブ』とか言われると微妙な気分になる。

何より『鮮魚メイン、新婚・カップルラブラブ特別コース』ってどんなコース名だよ。

「若様、本番はまだこれからです」

シアが瞳が怪しく輝かせ、力強く断言する。

彼女の気合いの入れ方が伺えた。

一体、どんな料理が出てくるというのだろう……。

ちょっと――いや、かなり不安である。