軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第403話 多脚戦車の進捗状況

エル先生の双子の妹、アルさんの登場は意外だったが、無事にメイヤパパの企てを阻止することに成功する。

アルさんが不吉な言葉を残したのは気になるが、とりあえず当面の問題は解決した。

次にやることは問題の根本的解決である。

オレはドラゴン王国へ直接乗り込み、メイヤの自称婚約者に『メイヤは自称婚約者とは結婚しない』と告げに行くことになった。

だが、善は急げとすぐに出発する訳にもいかない。

緊急の書類を片づけて、オレ達がいなくても仕事が回るように手配をする。

同時並行で今回の旅に必要な物資を揃えていった。

一方、当事者のメイヤはというと――。

自室で何かをやっていると思ったら、一通の手紙を書いていたらしい。

その手紙を高額な金額がかかる飛行船便で出すために本部を出ようとしていた。

偶然通りかかったオレは、メイヤが手にする手紙を一瞥。

それが何かを尋ねた。

彼女はどこか自慢気に胸を張りドヤ顔で告げてくる。

「この手紙ですか? ふふん、いざという時の保険ですわ」

「保険?」

「はい、保険ですわ。そろそろ飛行船便の時間が近いので、これにて失礼しますわ」

「あっ……」

メイヤはパタパタと背を向けて本部の門をくぐり街へ出る。

オレは彼女を止めて手紙の内容を確認するかどうか、迷ってしまう。

結果、中途半端な声をあげて、空中に腕を伸ばしただけだった。

だが後に――その手紙が悲劇を引き起こすこととなる。

この時のオレはそのことに気付くことができず、ただメイヤの後ろ姿を見送っていた。

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数日後――ようやく一通りの準備を終えると、飛行船ノアで竜人大陸へ向かう。

出発前、オレは下半身が蛇で上半身が人のラミア族、ミューア・ヘッドに声をかける。

「ミューア、例の件は全面的に任せるから確実に完遂してくれ」

「お任せください。この手の交渉事は得意ですから」

彼女の自信に満ちた笑顔に、オレは安心感を抱き飛行船ノアへと乗り込んだ。

飛行船ノアで直接、ドラゴン王国へ乗り付ける訳ではなく、一度メイヤ邸へと向かう。

メイヤがロン宛てに『直接会って話がしたい』という旨の手紙を出すためだ。

相手はメイヤの幼馴染みで自称婚約者とはいえ王族。

また人として、連絡もせず突然訪ねるのは礼儀に反する。

そのため、相手の都合の良い日時を訪ね面会の許可を求める必要があるのだ。

返事が来るまでオレ達はメイヤ邸でお世話になることになっていた。

一時は住んでいた場所なので、ココリ街本部同様に気を許してくつろぐことができる。

返事が来るまでの間ぼんやりと待つのも時間がもったいないので、この機会にメイヤから『ロン・ドラゴン』についての人となりを直接聞くことにした。

メイヤ邸のリビング。

シアがいつも通り本邸のメイドでもないのに取り仕切り、香茶ではなく竜人大陸で一般的に飲まれている茶々をテーブルへと並べる。

茶菓子の準備を終えると、メイヤが『ロン・ドラゴン』について語り出す。

「彼について一般的に語られていることとしては――魔術師として優秀、頭脳明晰、容姿に優れ、情にも厚い。統治にも優れ、民達の支持も高い人物ですわね」

「魔術師として――というか、凄い強い人物っていう印象はあるな」

「そういえばリュートくんは、ランスさんと戦っている時に他大陸の様子を見せられたんだっけ?」

スノーがオレの言葉に反応する。

彼女達にはランス戦の詳細を話している。

その時、各大陸での戦いを見せられたことも話していた。

「そうそう。魔力が封じられているのに剣一本でランスに強化された 静音暗殺者(サイレント・ワーカー) を圧倒してたんだ。あれは凄かった」

「王家に伝わる宝刀、『 聖竜昇竜刀(せいりゅうしょうりゅうとう) 』ですわね」

メイヤ曰く、 静音暗殺者(サイレント・ワーカー) を圧倒できたのは、 聖竜昇竜刀(せいりゅうしょうりゅうとう) のお陰らしい。

しかし宝刀がなくても、魔術師としての実力は高く『今もっとも魔術師S級に近い人物』と言われているとか。そこに宝刀の力を上乗せすれば魔術師S級――いや、それ以上の力を発揮する可能性すらある。

「優秀なのは認めましょう……ですが、彼は昔からめんどくさい考えを持っているから始末が悪いんですわ。アレさえなけれもう少しマシですのに」

『めんどくさい考えですか?』

クリスが小首を傾げミニ黒板を掲げる。

メイヤはうんざりしたように応えた。

「説明が面倒なのですが……一言であらわすなら彼は『ドラゴン主義者』ですの」

「ドラゴン主義者ですか?」

今度はリースが質問する。

メイヤは腕を組み、少し考えてから口を開く。

「……彼、ロン・ドラゴンは魔物の王であるドラゴンのように優秀な者同士で結婚し、より優秀な者を産み出そうという考えを持っているのです」

なるほど前世、地球、ナチスが掲げていた『血統主義』のような思想か。

魔術師として優れた実力を持ち、家柄、能力ともに高く、民からの信頼も厚いほぼ理想的な為政者だが、その思想は偏っているということか。

確かに面倒な人物だ。

個人の戦闘技能も高く、国のトップで権力も手にしている上に、思想が偏っている。

そんな相手に『メイヤを后にするのは諦めろ』と言っても、納得するはずがない。

実力行使に出ても、メイヤを手に入れようとするだろう。

ココノが溜息をつく。

「メイヤさまを諦めさせようとするのは大変骨が折れそうですね」

「だな。でも、だからと言って、こちらが引く理由にはならないけどな」

「りゅ、リュートしゃま!?」

メイヤはオレの台詞に感動し、瞳を潤ませ頬を赤く染める。

そんな彼女にオレ達は微苦笑を漏らす。

いつも通りの PEACEMAKER(ピース・メーカー) らしい空気感。

この慣れ親しんだ雰囲気を護るためにも、確実にメイヤの結婚話を潰さないとな。

相手が一国の権力者で、魔術師S級に近い実力者だとしても、オレ達 PEACEMAKER(ピース・メーカー) は魔王や疑似天神を倒してきたのだ。

ただの一介の 軍団(レギオン) とは違う。

たとえ武力を用いてでも、メイヤの結婚話を潰そう――と改めて気持ちを固めた。

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手紙を出して数日。

未だに返事は来ていない。

暇を潰すため――ではないが、時間が十二分にあるため自称『メイヤのライバル』の竜人種族、魔術師B級、リズリナ・アイファンの工房へと向かう。

リズリナの工房はメイヤを強烈に意識しているためか同じ街に建てられている。

行くのが楽だから別にいいのだが……。

彼女には PEACEMAKER(ピース・メーカー) が材料と資金を出資し、多脚戦車の研究をおこなってもらっている。

一応スポンサーだが、ロン・ドラゴンの時のように事前連絡を取る。

王族であるロンとは違いすぐに了承の返信を受け、工房を訪ねる。

さすがに全員で向かうのは邪魔になるので技術者であるオレとメイヤの二人で向かった。

「よくきたわね! メイヤ・ドラグーン!」

彼女は竜人種族の伝統衣装ドラゴン・ドレスに白衣を着た姿で出迎える。

なぜか勝ち誇った表情で、腕を組み仁王立ちしていた。

一応、スポンサーのオレも隣に居るのだが完全無視である。

メイヤが呆れたように溜息を漏らす。

「リズリナさん……本当に貴女はちっとも昔と変わりませんわね」

「ぬぐぐ! メイヤ・ドラグーンこそ相変わらず人を見下した態度を取って!」

リズリナは番犬のように『ガルルル』と威嚇の声をあげる。

メイヤは相手にしていないが、喧嘩になっても面倒なので早々に間に入る。

「はいはい、そこまで。今日は喧嘩をしに来た訳じゃなくて事前連絡した通り、多脚戦車の進捗をこの目で確認しにきたんだ。余計な諍いは勘弁してくれ」

「……分かってるわよ。別に本気でメイヤ・ドラグーンと喧嘩しようと思ったわけじゃないし」

オレの仲裁にリズリナは恥ずかしそうにそっぽを向く。

彼女としても久しぶりにメイヤと会えて嬉しく、テンションが上がっただけのようだ。

「と、とりあえず中に入りなさいよ! あたしの研究成果を見せてあげるんだから!」

リズリナはオレ達に背中を向けると、さっさと一人工房内へと進む。彼女の耳が赤いのは見なかったことにしてやろう。

オレ達は顔を見合わせ、肩をすくめると彼女の後へと続く。

工房はまるで体育館のように広い。

天井から鎖がぶら下がり、地面に穴が掘られたりしている。

鎖で本体を持ち上げ移動させたり、穴に潜って下から調整をおこなったりするようだ。

まるで個人で経営する自動車工場のようだった。

「これが最新型の多脚戦車『クモクモ君あるふぁ2』よ!」

リズリナの合図に合わせて熟練工のような老人が、布を取り去る。

その下から多脚戦車『クモクモ君あるふぁ2』が姿を現した。

てか、老人に何をさせているんだ。

ランスと戦っていた時、竜人大陸を襲う 静音暗殺者(サイレント・ワーカー) の姿を見せられた。

その際、映像越しに多脚戦車『クモクモ君あるふぁ』の外見を目撃している。

名前が変わっただけあり多脚戦車『クモクモ君あるふぁ2』は、一つ前に比べてさらに見た目が変化していた。

以前の多脚戦車『クモクモ君あるふぁ』は、直線を多用しずんぐりとした重みのあるフォルムだったが、『クモクモ君あるふぁ2』はさらに足回りや胴体が太くなっている。

代わりに直線的な部分が大幅に削れて丸みを帯びていた。

シルエットで判別すると『クモクモ君あるふぁ』は名前の通り蜘蛛っぽいが、『クモクモ君あるふぁ2』はヤシガニに近い。

背負った120mm砲と合わさって、ゆるキャラのような可愛さが溢れ出ている。

リズリナは近づき、『クモクモ君あるふぁ2』の脚を軽く叩く。

「多脚戦車『クモクモ君あるふぁ』は、3割5分ほど巨人族の石材を混ぜて作られているけど、新型はさらに4割まで石材を増やすことに成功したのよ! お陰で機動力、耐久性、燃費、全ての面でパワーアップしているわ!」

「それは凄いな。なら実戦に出しても問題無いレベルになっているってことか?」

「うっ……それは、その……」

先程まで勢いに乗っていたリズリナが、途端に空気を抜いた風船のように萎む。

「い、移動する時はなるべくゆっくり。射撃の時は、止まって5、6発なら撃てるかな?」

「えぇ……」

オレは微妙な性能に思わず声をもらしてしまう。

巨人族の素材を4割も使って、未だその程度のスペックなのか。

この反応にリズリナが声をあげる。

「だ、だって! 勇者様が求める要求が高すぎるのよ! 移動しながら発砲して砲弾を当てるようにしたいなんてできるわけないじゃん! そんなことしたら普通、撃った瞬間に衝撃でバランス崩すし、敵に当てるなんて無理にきまってるじゃない!」

戦車が移動しながら発砲することを『行進間射撃』という。

オレは現在、製作中の多脚戦車もそれぐらいできるように目指している。

リズリナは匙を投げかけているが、前世、日本の90式戦車は約70km/h、10式戦車は回避行動を取りつつ行進間射撃が可能だ。

さらに目標に命中させるレベルである。

ここまでしろとは言わないが、なるべく近づける努力をしたい。

リズリナに理想目標を改めて告げると、

「70km/hでとか、回避行動を取りながら撃って当てるとか……もうそれ魔法レベルだよね? でなきゃ変態だよ、変態! そんなことできるわけないじゃん!」

激しく反論されてしまう。

聞いた話だと、アメリカで10式戦車のテストをした際、停車でも行進間射撃でも100発100中だった。テストに立ち会っていたアメリカの戦車開発技術者曰く、『本当にあり得ない……戦車開発の仕事やめたい……』と言い出すレベルだったとか、なかったとか。

今のリズリナはその時の技術者と同じ心境なのかもしれない。

だが、とりあえず、今後もそれを目標に頑張ってもらおう。

一通り話を終えると、今度はリズリナから話題を振ってくる。

「そういえばロン・ドラゴン陛下が国王になられたけど、メイヤ・ドラグーンは陛下と結婚するの? もし結婚するなら、いくら勇者様でもこうして二人っきりで居るって不味くない?」

あのリズリナでさえ『ロン・ドラゴン陛下』と呼び、メイヤが彼と結婚すると信じていた。

メイヤは今まで一番不機嫌そうな顔で否定する。

「ロンと結婚などするはずないですわ。わたくしの身も心も全てリュート様のモノですのに」

「えっ……ちょっと待ってよ。まさか結婚しないつもり?」

リズリナは一転、顔色を青くし、冷や汗を額から大量に流す。

「へ、陛下に逆らうなんて!? いくら勇者様達が強いからってあの人に勝てるわけないじゃん! 大人しく結婚しておきなさいよ、メイヤ・ドラグーン!」

「絶対に嫌ですわ」

メイヤは子供っぽく頬を膨らませて拒否する。

その態度は子供っぽいが故、強固な意志を感じた。

一方、反対にリズリナはさらに顔色を悪くする。

「絶対にやばいことになるでしょ! あ、あたしは関係ないから! 多脚戦車開発に協力してはいるけど、無関係だからね! 絶対にこっちを巻き込まないでよ!」

ある意味清々しい態度に、笑いしか出ない。

リズリナはロン・ドラゴンが、ランスの力でパワーアップした 静音暗殺者(サイレント・ワーカー) を一方的に倒す姿を目撃している。

その時の姿が強烈過ぎて、彼には絶対誰も勝てないと思いこんでいるのだろう。

オレ達は怯える彼女を落ち着かせる。

オレ達の口からも、リズリナは関係ないと念を押すことを約束した。

こうしてリズリナ工房の視察を終える。

――多脚戦車の視察から3日後。

ロン・ドラゴンから面会の許可が届いた。