軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第374話 魔人大陸3

「あら、時間切れみたいね」

セラス・ゲート・ブラッドの握っていた愛剣が、その姿を戻す。

代用として使っていた魔石の魔力を全て使い切ったのだ。

「あらあら、本当に楽しい時間というのは経つのが早いのね」

セラスの見た目は美しく、可愛らしさも備えている。到底、クリスを産んだとは思えない。むしろ姉だと言われた方が信じられる。

胸も大きく腰もくびれ、ハリウッド女優でもセラスほどスタイルのいい人はいない。

そんな彼女が頬に返り血が付いたまま、可愛らしく溜息を漏らす。

スタイルも良く見た目も最高峰の人物だが、敵味方含めて現場に居る誰もが『可愛らしい』とは到底思わなかった。

彼女の戦い方があまりにも鮮烈、苛烈過ぎたのだ。

一方、ピュルッケネン達はというと――

『お、己……己……ッ』

『あ、兄者……兄者……』

砂山の棒倒しの如く、体中という体中を鞭剣で削られていた。

最初はまるまると太っていたのに、今では削られ過ぎた鉛筆の如く細くなっている。

しかし、彼らはまだ生きていた。

セラスは愛剣の魔力が切れて、普通の剣に戻ってしまったが、彼らはまだ生きているのだ。

彼女は時間内に殺しきれなかったのである。

その事実に痛みを堪えながら、ピュルッケネンが嗤う。

『ど、どうやら奥の手も尽きたようだな。今ので儂達を倒しきれなかったことを今すぐ後悔させてやろう』

「あら? 今のが奥の手なんて 私(わたくし) 一度も言ってないわよ?」

セラスが剣を握ったまま右手を顎に当て小首を傾げる。

やっている仕草は可愛いが剣と返り血、先程の戦いイメージで敵側にとっては恐怖しか感じない。

セラスは気にせず続ける。

「むしろ貴方達との戦いは、完全に 私(わたくし) の我が儘なの。本当ならもっと簡単に倒す方法もあったのに……。でも、どうしても 私(わたくし) の手で貴方達に一矢報いたくて。いやだわ、あんまり嬉しかったのと久しぶりに剣を振るえたから、年甲斐もなくはしゃいじゃったわ」

『調子に乗りおって……この程度で勝ったと思うなよ!』

削られ切った鉛筆のようなピュルッケネン達が、力を振り絞り触手を生み出す。

「あらあら、魔石が魔力を失ったからって、その程度の数を捌けないとでも思っているのかしら」

『ふん! そうやって戦うことしか脳のない野蛮人が! この触手は攻撃にあらず! こう使うのだ!』

「!?」

ピュルッケネン達が伸ばした触手はセラス達ではなく、彼女達に倒された悪漢共に突き刺さる。

彼は殺害された悪漢共だけではなく、怪我を負っているがまだ息のある者達まで関係なくむさぼる。

「助けて! 助けて! ぎゃぁあッ!」

「痛い! 俺は味方なのにぃ!」

「嫌だ! こんな死に方、嫌だ!」

セラスに削られた体を補充するように内側から肉、骨、血を、魂すら啜る勢いで咀嚼する。

あまりにショッキングな光景に、百戦錬磨のセラスやその陣営達でさえ、硬直してしまう。ある者は耐えきれず視線を背け、ある者は地面に吐瀉物を吐く。

セラスは明確な嫌悪感を目に宿し、魔力の切れた刃を手に一人突撃する。

「この外道! 今すぐ、その命を散らしなさい!」

『それはこちらの台詞だ! 貴様も儂の体の礎になるがいい!』

むさぼりきって一部復活した触手がセラスへと襲いかかるが、前傾姿勢で突撃したまま枝葉の如く切り払う。

そのままピュルッケネン達の命にまで到達するか――と思いきや。

「ッゥ!?」

横からの不意打ち。

咄嗟に反応し、剣を盾に防ぐ。

魔力が消失しているのにかかわらず、人外的攻撃威力。

セラスはほぼ反射的に自分から後方へと跳躍し、衝撃を吸収する。

それでも勢いを殺しきれず、地面を転がるもわざと勢いを殺さなかった。

地面を転がり、その勢いで飛ぶように跳ね態勢を建て直す。

再びピュルッケネン達と距離が開いてしまったが、不利な体勢で追撃を受ける方がまずい。

セラスを不意打ちをしてきたのは、倒れていたはずの悪漢の一人だ。

「ううぅ、ぁぁあぁ……」

彼はメリーの手で気絶させられた一人だった。

しかし背中に触手が生え、中身を貪られながら戦わされている。

背中に生えた触手が彼の筋肉を無理矢理動かし、手足が潰れるのも構わず攻撃させたのだ。

彼だけでは終わらない。

増える触手の数だけ、肉人形が生み出される。

生死にかかわらずだ。

『最初からこうしておればよかったのだ! さぁ、襲え、襲え! 我が最強の軍団よ!』

こうなっては倒れている者だけではなく、まだ立って生きている味方陣営の悪漢達にさえ襲いかかり、肉人形へ変えようとする。

そんな状態で、彼らがいつまでもピュルッケネン達に従っているはずもなく、

「や、やってられるか! 俺様は抜けさせてもらうぞ!」

「化け物の人形になってたまるか!」

「どけ! どけ! 俺が先に逃げるんだ!」

我先に逃げ出す。

ピュルッケネン達は逃げる彼らに構わず、背中に触手を突き刺していく。

「どうしてまだそんなに動けるの!? いい加減、効き始めてもいい頃合いじゃ……」

セラスは自身が手にする刃に視線を走らせた。

『どうやら銀毒が、貴様らの奥の手だったらしいな! だが銀毒などヴァンパイア族の正統当主にはきかぬわ! 我こそがヴァンパイアのヴァンパイア! ヴァンパイア王なのだ!』

怪物化する際、ピュルッケネン達はランスの力によって『銀毒』を無効化する体に作り替えられていた。

ピュルッケネン達は、セラスの当てが外れたことに全身の肉をぷるんぷるん揺らしながら大笑いする。

「ッ! メリー! 全員に撤退命令を!」

「か、かしこまりましたメェー!」

セラスは歯噛みし、陣営全員に撤退命令を下す。

悪漢達と違って、セラス陣営は統率を保って撤退する。

しかし、ピュルッケネン達が見逃すはずがない。

『逃がすかぁ! 貴様らにも触手を突き刺し、肉人形にしてくれる! 生きたまま、味方同士で殺し合いをさせてやろう! 泣いて、喚いて、絶望し儂を楽しませるがいい!』

『さすが兄者だ!』

ピュルッケネン達は調子に乗り、威勢の良い声をあげながらセラス達を追撃する。

悪漢達の体を吸収しながら、セラスに削がれた肉体を修復した。

さらに触手を増加。

悪漢達の次は彼女達陣営を肉人形にすべく触手を伸ばす――が、突然、視界が暗転する。

『!? ぐぎゃぁぁぁあぁ!!!』

さらに底部から鋭い刃物に突き刺される痛みに悲鳴を上げてしまう。

『こ、これは落とし穴!?』

痛みに耐えながら状況を確認する。

ピュルッケネン達は追撃中、セラス達が作ったらしい落とし穴に嵌ってしまったのだ。

さらに落とし穴底部には槍や剣が剣山の如く無数に設置されていた。

また刃だけではない。

落とし穴の底には魔石が大量に敷き詰められていた。

「 私(わたくし) がいつ『銀毒が奥の手』といったのかしら?」

声に視線を向けると落とし穴の縁、セラスがピュルッケネン達を見下ろす。

「銀毒が効果ないなんて、最初から想定済みよ。だから確実に殺しきる策を講じてから戦いを挑んでいるに決まっているじゃない」

勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求める――孫子の言葉である。

『勝つ軍隊は、戦う前に勝利を得てから戦争をおこなう。負ける軍隊は、戦争が始まった後、勝利方法を求める』という意味だ。

先程の撤退や銀毒の効果無しに驚いた姿も全てピュルッケネン達を釣り上げるための演技である。

彼女達は最初から、この『落とし穴+魔石暴発』の罠でピュルッケネン達を仕留めるつもりだったのだ。

しかしセラスが、ピュルッケネン達と戦いたいとわがままを言い出した。

結果、一部作戦が変更され、セラスvsピュルッケネン達が実現する。

セラスvsピュルッケネン達は本当に不要な一戦で、完全に彼女の我が儘だったのだ。

そしてセラス側はいつでもピュルッケネン達の殺害が可能だった。

最初から、ピュルッケネン達が勝つ道筋などなかったのである。

セラスの話を聞きながら、ピュルッケネン達は落とし穴からなんとか出ようと奮闘する。しかし一向に出ることができずにいた。

なぜなら穴に敷き詰められた剣や槍には返しが付いており、どうやっても抜けないのである。

触手を刺した悪漢達に筋肉が壊れるのを無視して、引っ張り出そうとするが動かず。

触手を使って自力で出ようとするが、失敗する。

時間をかければ脱出も不可能ではないが、セラス達が見過ごすはずがない。

ピュルッケネン達が血相を変えて訴える。

『いいのか! 儂らは愚弟の――ダンの実兄なのだぞ! そんな儂らを本当に殺すつもりなのか!?』

『兄者の言う通り! 兄者の言う通り!』

「あらあら、当然殺すに決まっていますよ。生かしておく理由が無いもの」

セラスは微笑みを浮かべたまま断言する。

「もしこの場に夫が居たら、許していたかもしれません。優しすぎるのがあの人の欠点でもあるのよね。だから 私(わたくし) が代わりに貴方達を殺します。敵は絶対に殺さないといけませんもの。特に貴方達のようなのはチャンスがあれば確実に殺しておかないといけませんわ」

笑みを浮かべたまま明確な殺意を叩きつける。

ピュルッケネン達に活路はもうない。

セラスと敵対した時点で、彼らの死は決定していたのだ。

『馬鹿な! 馬鹿な! ありえん! 儂はヴァンパイア族の正統当主なのだぞ! こんなところで死ぬなどありえんだろ!?』

『兄者! だから最初からダンに逆らうなど止めようと言っていたじゃないか! こうなったのも全部、兄者のせいだ!』

『ラビノ! き、貴様だってダン達を襲い、会社を乗っ取り、金品を巻き上げるのに賛成していたではないか! 今更、儂だけに責任を押しつけるなど恥を知れ!』

『恥!? それを兄者が言うのか! 事業に失敗したのだって、兄者が取引相手に無茶苦茶な要求を突きつけたか――』

セラスは突然、始まった兄弟喧嘩に溜息をつき、首をすくめた。

彼女は彼らに呆れ、背を向けると起爆するため穴から距離を取る。

『せ、セラス殿! 待ってくれ!』

『兄者はどうなってもいい! だから』

ピュルッケネン達はその事実に気付き、慌ててセラスを呼び止めようとしたがもう遅い。

刹那、起爆スイッチを入れられ魔石が暴発。

爆発エネルギーが上空へと突き抜ける。

最初に起爆した 即席爆破装置(IED) とは比べものにならない爆発が、ピュルッケネン達を襲う。

後の静寂――穴に入ってたピュルッケネン達は消失し、穴からはみ出ていた触手だけが力無く散らばっていた。

セラスがそれを確認すると、

「それじゃ屋敷に戻りましょうか。久しぶりに動いたから汗を掻いてしまったわ。屋敷に戻ったらお風呂の準備をお願いね」

「畏まりましたメェー」

彼女は剣をメイドに渡すと、いつもの微笑みを浮かべて告げる。

夫の実兄を殺害したことに全く罪悪感や後悔など抱いていなかった。

こうして魔人大陸での戦いに決着が付く。

そして次の舞台は――極寒の地、北大陸。

どこよりも寒い北国で、どこよりも熱い戦いが繰り広げられていた。