軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第358話 到達――ランス視点

――時間は少しだけ遡る。

前世で僕をいじめ抜いた 相馬(そうま) 亮一(りょういち) と、裏切った掘田くんをぶつけることで無事に前世、地球人の魂に調整された 魔法核(まほうかく) を手にすることができた。

魔法核(まほうかく) 入手後、最終計画の準備もあったためすぐには動けなかった。

その期間を利用して世界中を回り、掘田くん、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) や新・純潔乙女騎士団に恨みを持つ人材に声をかけ揃える。

彼、彼女達はあくまで掘田くん達にイヤガラセをするためだけの人材だ。

僕の100万分の1でも絶望や苦悩を味わって欲しいものである。

飛行船の準備を終えて、ララと二人で 中央海(ちゅうおうかい) へと出る。

中央海は、六大大陸の中心にある海のことだ。

その中央海のほぼ真ん中へと飛行船で辿りつく。

そこにはただ汚染されていない綺麗な海があり、水平線が360度広がっているだけだ。

僕とララは甲板へと出ると、穏やかな海面へを見下ろした。

「さて、それじゃ早速、取り掛かろうか」

「お気を付けてください、ランス様」

心配そうに胸の前で両手を握るララへ、微笑みを向けて懐から 魔法核(まほうかく) を取り出す。

魔法核(まほうかく) の力を借りて、僕は海中に沈められたこの世界の中心地を再び引き上げようとしているのだ。

その中心地で元直弟子である5人が天神を殺害。

天神の復活を恐れたら彼らは死体を焼き、灰にして埋め、得たばかりの 魔法核(まほうかく) の力を使いその地を海中深くへと沈めたらしい。

五大魔王のうち、四大魔王の封印地を暴き、数少ない記録を掻き集め調査した結果だ。

僕は 魔法核(まほうかく) の力を使い、再び中心地を浮上させようとしているのだ。

手にした 魔法核(まほうかく) へ意識を向ける。

「ぐぅうぅ……ッ!」

まだ 魔法核(まほうかく) を自身に取り込んでいない。

地球人用の魂に書き換えたとはいえ、力が強すぎるのだ。まだ取り込むにはリスクが高い。

そのため外部から一部を利用しようとしたが、膨大な力が流れ込んできて今にも体と魂が吹き飛び塵になりそうになる。

奥歯を食いしばり、なんとか耐えながら中心地を浮上させる。

海中火山が爆発したように海が泡立ち、吹き上がる。

前世、地球でも見られない現象に心が奪われそうになるが、堪能している余裕は正直無い。

奥歯を噛み過ぎて血の味が広がる。

血が口の端から流れ落ちた。

額と言わず、全身から汗が噴き出し流れ落ちる。

「ッぅ……」

「ランス様!」

なんとか耐え切るが足から力が抜け倒れそうになる。

ララが慌てて背中を支えてくれなければ、そのまま甲板に倒れていただろう。

彼女がハンカチを取り出し、口元や鼻を拭う。

赤い自身の血で彼女のハンカチを汚した。

鼻血を出すなど何年ぶりか。

だがお陰で無事に中心地を引きずり出すことに成功する。

眼下には海中深くに眠っていた大地が再び、太陽の光を浴びていた。

「これが……天神が殺害された中心地……」

ララは歴史学者でもないのに、興奮と好奇心を抑えきれないような表情を浮かべる。

気持ちは分かる。

前世地球でいうなら、アトランティス大陸が目の前に浮上してきたようなものだ。

いくら歴史に興味のない人物でも好奇心を抱かずにはいられないだろう。

「ふぅ……さて、いこうか」

「はい、ランス様」

汗を拭い深く息を吸い、吐いてから自身の足で立つ。

僕とララは、飛行船を着陸させ、無事に天神が殺害され、封印された中心地へと降り立つ。

降り立った大地は海水で濡れており、イソギンチャク、逃げ遅れた小魚がピチピチと跳ねていた。

僕とララは構わず歩き続ける。

途中から大地の様子が激変する。

がっちりと几帳面に埋められた石畳は、海水に数万年も漬かっていたはずなのに苔一つ生えていない。

まるで今製作したばかりと言いたげなほど白く整っている。

前世、地球の最先端技術でもこれほど異様なことは絶対にできない。

一目でここから先は別の意味での異界だと理解した。

「……ララはここで待っていてくれ」

「了解致しました。ランス様、お気を付けて」

ララは胸元でギュッと両手を握り締め、僕を見送る。

『私も付いていきます』と言わないのは、彼女もまたこの異常性に気付いているからだろう。

僕は 魔法核(まほうかく) を握り締め、白い石畳に足を踏み入れる。

「ぐぅッ!」

「ランス様!?」

頭痛がするほどの拒否感も同時に襲いかかってくる。

心配の声音を上げたララへ、『大丈夫だ』と片手を上げた。

僕は 魔法核(まほうかく) の力をさらに強くするが、それでも全身で吐きそうになるほどの強烈な不快感に呵まれる。

天神を殺害した五大魔王達は、現場に何人たりとも近づけたくないらしい。

数万年、海水に漬かり浸食を受けないほどの強い拒絶の結界に耐えつつ、僕は中心地へと歩き出す。

魔法核(まほうかく) の力をさらに引き出す。

僕自身が本当にギリギリ耐えられる限界だ。

それでも歩く足は重く、汗が頬を伝い流れ落ちる。

イメージとしては前世、日本でやっていたRPGゲームの毒の沼を進んでいる気分だ。

「まさか魔法世界で、リアルに体験するとは……くっ、ある意味、貴重な体験といえなくもないのかな」

正直、あまり体験したいイベントではないが。

歯を食いしばり一歩、一歩進む。

途中で耐えきれず石畳の上に吐瀉してしまうが、魔術で水を生み出し濯ぐ余裕もなく袖で拭って再び歩き出す。

そして、ついに中心へと辿り着くことができた。

中心はまるでストーンサークルのように巨石が並び円を創り出していた。

僕は気力を振り絞り、巨石の脇をすり抜け中心へと到達する。

「!? 体が軽い……」

中心へと辿り着くと、先程まであった強烈な拒絶感、不快感が嘘のように消えた。

むしろ、高原にいるような爽快感すらある。

ストーンサークルの内外では天国と地獄ほどの差があった。

「ここが本当に天神を殺害した場所なのか?」

疑いを覚えてしまうほど、清涼感すらあり戸惑ってしまう。ストーンサークル外があれだけ酷かったのだから、『殺害現場である中心はもっと』と覚悟していたのだが……。

しかし動きやすいなら好都合だ。

中心へと立ち 魔法核(まほうかく) を取り出す。

この中心地にある石畳やストーンサークルが数万年経っても未だに綺麗なままや吐き気をもよおす拒絶の未知の魔術など――これを維持するには相応の魔力が必要だ。

この地の維持のため体外に微細に漏れる魔力を吸収する魔法陣が刻まれ、ストーンサークルはその増幅と吸収を司っている。

もちろんこんな規格外な魔法陣とシステムを創り出したのは、五大魔王達だ。

これだけ大がかりな装置を作り出すほど、天神の復活を恐れたのだろう。

僕はこの装置を利用し、今からこの中心を基点に世界中の人々から 魔術核(まじゅつかく) を奪い取るつもりだ。

深呼吸をし、気持ちを整え―― 魔法核(まほうかく) を胸に当て体内に取り込む。

「ぐぐうぅぅうぅッ!」

地球人の魂に調整されたとはいえ、その魔力は膨大。

体が内側から破裂しそうになる。

僕は地面に手を突くと、その魔力を刻まれた魔法陣へと流し込む。

さらに 魔法核(まほうかく) の力で魔法陣を修正、修正、修正――全世界の人々から 魔術核(まじゅつかく) を奪い尽くすため強化し、巨大化させていく。

最初、石畳までしかなかった魔法陣は、中心地を飛び越え 中央海(ちゅうおうかい) まで広がる。

もし宇宙から見たら、発光する巨大な魔法陣を観測することができただろう。

「があぁぁぁぁぁッ!」

『世界』にアクセスしている。

そう表現するしかない感覚。

世界が揺れる――同時に、 魔術核(まじゅつかく) を奪い始める。

魔術核(まじゅつかく) が僕の中にある 魔法核(まほうかく) へと次々吸収されていく。

欠けていたパズルのピースが雪崩をうつように入り込み構築され、急速に元の形を取り戻していった。

自身の中で 魔法核(まほうかく) が 神核(しんかく) へと 神化(しんか) していく。

また自分自身の体と魂が強制的に神へと構築されていくのを自覚した。

『僕』という個が、『真理』という全に変貌しようとする。

だが耐える。

ここで『僕』が消えては意味がない!

復讐のため、ただ復讐のためだけにここまできたのだ!

「ぜったいに、きえて、なるもん、か……!」

実際に口を動かし喋っているのか分からない。

ただ消えそうになる『僕』は、自身でも怖気を震ってしまう執念で自我を保ち続ける。

長い――長い、数年、数百年にすら感じる程の時間。それは実際は瞬きにもならない刹那だったのかもしれない。

だが僕は耐えきり、そして――。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

ハイエルフ王国エノール、元第一王女、妖精種族、ハイエルフ族、ララ・エノール・メメアはランスを石畳の境で見送った。

どれぐらい時間が経っただろう。

地面が揺れ、驚愕し腰をかがめて手を突く。

揺れはすぐに収まったが、直後、強烈な魂の一部を無理矢理引きちぎられる激痛に襲われる。

「ぐぐぐう……あぁぁッッッ!」

魔術師Bプラス級の魔術師でもある彼女の魂から、強制的に魔術核を奪っているのだ。

ララはランスが目的を達したことを理解する。

彼女は魂の一部を引きちぎられるような激痛を甘美の喜びで味わいながら、意識を失う。

――彼女が次に目を覚ましたのは愛しい人の腕の中だった。

意識がゆっくりと覚醒する。

瞼の裏。朝日を浴びているような眩しい光を感じて、ゆっくりと目を開く。

目の前には慈愛に満ちた微笑むランスが、自身の顔をのぞき込んでいた。

「おはよう、ララ」

金髪の長い髪は地面に付きそうなほどさらに伸び、風が吹いてもいないのにふわふわと揺れている。

頭上には光の輪が浮かび上がっていた。

彼の美貌はより磨かれ、神秘性すら帯びている。

自然とララは双眸から涙を流す。

「ランス様……成功したのですね」

「ああ、成功したよ」

彼はより一層、深い微笑みを浮かべる。

「僕は神へと至った」

この日、世界から『魔術』が失われ、一柱の『神』が誕生した。