軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第359話 魔力消失

この異世界から魔力が失われて約1ヶ月が経った。

魔術に依存した異世界の生活は、魔力消失により混乱の極みに達している。

前世、地球で言うなら電気がまったく使えない状況のようなモノだ。

しかも『魔力がなぜ消失したのか?』が分からないため回復の目処も立たない。

そのせいで大陸間を行き来していた飛行船が完全に止まった。魔力が回復しなければ魔石に溜めることができないからだ。

現在は海運でなんとか運び回っている状況だが、飛行船に比べて遅いため、どうしてももたついてしまっている。

さらに大陸奥地に荷物を運ぶ商人が激減している。

魔物や盗賊の護衛用に冒険者を雇い入れるが、現在魔力が消失したため大怪我を負った場合、魔術で治癒することができない。最悪の場合は、小さな切り傷が化膿し死亡するケースすらありうる。

なので冒険者達は魔力回復まで様子見。結果、護衛する者達がいなくなった。商人達も護衛無しでの移動は不可能と判断し、大陸奥地への物資輸送がほぼ麻痺している状況だ。

この状況を商機ととらえ、販路を横取りするため動く者や純粋に物資を送る使命感から私兵や知り合い同士で塊って移動する商人達なども居る。

オレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) も一部必需品の護衛を務めていた。

他にも、冒険者達が怪我を恐れて依頼を断る魔物退治などを請け負っている。

貴族の護衛などは自業自得、身から出た錆で力を貸すつもりはない。

しかし村や小さな町からの魔物討伐依頼はどうしても断れなかった。

城壁のある街などなら魔物からの防衛は難しくないだろうが、小さな所は違う。

数匹の魔物が出ただけで村人全滅の危機にすら陥る場合もある。

さすがに放っておけず、依頼が来たら冒険者に代わって討伐をしていた。

またオレ達、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) なら遠距離から一方的に致命的な攻撃をくわえることができる。

魔物から傷を負わされる可能性は限りなく低い。

この魔物退治はスノー部隊とクリス部隊に任せている。

スノーは獣人種族だけあり気配察知が高く、銃器の扱いに長けている。

クリスは軍団随一のスナイパーだ。長距離から一方的に狙撃することができる。

もちろんスノー、クリス、部隊の団員達にも自分達の身の安全を第一に考えるようにとは言い含めている。

不幸中の幸いは、ココリ街から離れた村や町からの救援願いが来ていないことだ。

飛行船ノアを動かす事態にはまだなっていない。

「ふぅー」

オレは執務室の自席に座り、長い溜息をつく。

目の前に立つルナから渡され代替品研究報告書を机に置く。

「やはり、現状、代替品を使って 弾薬(カートリッジ) などの補充は難しいか……」

「前々からちょこちょこ研究はしてたけど、まだ『どの素材が有効なのか?』の段階だったから、魔力が無い今の状態でいきなり『出来ました!』っていうのは難しいよ」

「だよな……」

ルナは白衣のポケットに両手を突っ込み溜息を漏らす。

彼女の白衣姿も随分板に付いてきたものだ。

ルナの言葉通り、オレ達『兵器研究・開発部門』では魔術液体金属や『魔力で無煙火薬』など以外で製作する方法を模索していた。

代表的なところでは、ゴムの木がいまだに見つからないので代替品として『毛無熊』の皮を加工してゴム代わりにしている。

だがずっとメインは『兵器研究』だったため、代替品に関しては暇を見つけて片手間でやっていた。

こんなことになるのなら、もう少し代替品研究に力を注いでおけばよかった。

ルナが落ち込んだ表情を浮かべながら問う。

「もしかしてそんなに消耗品の備蓄が少ないの?」

「……正直に言えば余裕はない。新規団員を約100人も採用し、彼女達の装備、訓練にかなりの数を使ったからな。全員、遠慮なく戦ったら弾薬は約5日で無くなる計算だ」

「弾薬の製作はルナ、リューとん、メイヤっちの三人で暇を見つけては作っていたからね。やっぱり三人で100人以上の補給を賄うのは無理があるよ」

「すまない。もう少し、『兵器研究・開発部門』の人材育成に力を注ぐべきだった」

あまりに『兵器研究・開発部門』が他部門と違って特殊で、高度な技術力が求められるため人材確保は後回しにしていた。

そのツケが容赦なくオレ達の肩に乗っかってくる。

「今更ぼやいてもしかたないけどね。一応、引き続き代替品研究は進めるけど、期待はしないでね」

「頼む。苦労を掛けて悪い」

「あははは、何言ってるの! 最初こそクリスちゃんと一緒の部隊じゃないからぶーたれてたけど、今はこの部門に居るの気に入ってるんだよ。色々、研究すると意外な発見に驚いたり、アイデアが上手くいって嬉しかったりするから」

ルナは落ち込んでいた表情から一転、満面の笑顔を返してくれる。

彼女のこういう真っ直ぐな明るさは本当に有り難い。

オレ達の用件が終わると、ちょうどよいタイミングで扉がノックされる。

声をかけると部屋に入ってきたのは、ミューアだった。

「あら、お邪魔でしたか?」

「大丈夫だよ、ちょうどリューとんとの話も終わったところだから。それじゃルナは研究室に戻るね。んじゃね、ミューたん」

「ええ、また後でルナさん」

二人は仲良く会話をして、入れ替わりで部屋を出る。

しかし、今、ルナはなんと言った?

ミューたん、だと!?

ふわふわで、甘々な萌系アイドルのような渾名を誰に対して言った?

ミューアを『ミューたん』と呼んだということか!?

す、凄い……ルナは本当に凄い奴だ。まさかミューアを『ミューたん』と呼ぶなんて……!

「リュートさん。私に言いたいことがあるなら遠慮なく仰って頂いていいんですよ?」

「い、いえ、なんでもありません。ごめんなさい」

ミューアは満面の笑顔で声をかけてきた。

笑顔なのに……まるで大口を開け、今にもこちらを喰い殺しそうなドラゴンを前にしたようなプレッシャーを感じる。

慌てて謝罪を口にした。

暫し、プレッシャーを浴びせられていたが、不意に解消される。

どうやら許してもらえたようだ。

安堵の溜息を漏らすオレに、ミューアが手にしていた種類を差し出す。

「現在は色々立て込んでいますから、深く言及はしないでおきますね。とりあえず 冒険者斡旋組合(ギルド) から緊急依頼です」

「緊急依頼?」

ミューアは曰く近日中に全 軍団(レギオン) に今回の『魔力消失』の原因を調査、解明――できれば解決するよう緊急依頼を出すらしい。

この依頼は強制で、拒否した場合はどれほど上位の 軍団(レギオン) でも問答無用で資格を剥奪する。

「 冒険者斡旋組合(ギルド) も随分無茶な依頼を出すな……」

「それだけ彼らにも余裕がないのです。このまま魔力が消失した場合、冒険者達や軍団団員も正常な活動ができず、 冒険者斡旋組合(ギルド) そのものが崩壊しかねません」

現状は 冒険者斡旋組合(ギルド) にとっても死活問題の状況らしい。

なら拒否不可能な強制依頼ぐらい出すか。

「もし今回の依頼を断ったら、 冒険者斡旋組合(ギルド) はたとえミスリルや 神鉄(オリハルコン) のトップ軍団でも処分するらしいので、どうかリュートさんもこの依頼を断らないようお願いします」

「オレ達としてもいつまでも魔力が消失したままじゃ、正常な軍団運営ができないからな。原因究明は言われなくてもするつもりだが……何が原因なのかまったく手がかりが無いのがな……」

オレは再び溜息をつく。

「私の方でも原因は調査していますが結果はお察しです。引き続き調査する予定ですが」

「頼む。もし人の手や資金の追加なんかが必要なら言ってくれ。ほんの欠片でも手がかりが掴めるなら安い物だから」

「手がかりですか……これはあくまで私の勘という程度ですが、今回の騒動にランスが関わっている気がします。あくまで勘ですが。リュートさんも気付いていますよね?」

「……ああ、もちろん。ランスが以前話していた状況に酷似し過ぎているからな」

ミューアの指摘を受けなくても、すでに気付いていた。

ランスが生きていて、『 神核(しんかく) 』を手にしている可能性が高いことも、だ。

「その線でより情報を集めようと思います。よろしいですか?」

「全部、ミューアに任せるよ」

『何を?』とは互いに口にしない。

『ランス生存』の線で、彼がどこに居て何をしているのかをミューアは魔力消失後から可能性の一つとして調べていたが、よりその方向で情報収集を強化すると言っているのだ。

オレも暗黙のうちにそれを了承した。

ミューアとの話が終わると、再び扉がノックされる。

まるで先程の焼き直しだ。

返事をすると、団員の一人が慌てた様子で顔を出す。

彼女はミューアに視線を向ける。

ミューアは『話は終わったからどうぞ』と言いたげに手を向け促す。

団員は軽く一礼するとオレへ改めて向き直った。

「あ、あの団長! 門の前に住人の皆さんが集まって、『いつまで魔力の無い生活が続くのか』って団長に説明して欲しいと騒ぎになっていて……」

「そんなことオレに言われても分からないぞ」

ぼやくと、ミューアが微苦笑する。

「いつまで続くか分からない魔力無しの生活。不安な気持ちを落ち着かせたいため、魔王を倒した勇者であるリュートさんに前向きな言葉をもらって一時の安心感を得たいのでしょう。下手に混乱し、騒ぎになる前に顔を出して、声をかけたほうがいいと思いますよ?」

「オレは精神を安定させる薬じゃないんだが……」

「ある意味、これも勇者としてのお勤めでは?」

「勇者になったつもりなんてないんだけどな……」

とはいえ、無視するわけにもいかない。

オレが顔を出し、声をかける程度で気持ちが落ち着くなら、率先してやるべきだろう。

これも PEACEMAKER(ピース・メーカー) の理念『困っている人、救いを求める人を助ける』の一つではあるのだから。

オレはミューアと執務室前で分かれ、駆け込んできた団員と一緒に正門へと急いだ。

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

新・純潔乙女騎士団本部、正門。

その前には約30人ほどの老若男女が集まっていた。

門の前で歩哨に立っていた団員2名の他。応援として追加で5名ほどが、門の前に立ち住人達が無理矢理門を超えて入らないよう押さえている。

魔力消失前は、観光客達が一目魔王を倒した勇者がいる街や建物を見ようと来ていた。

さすがに現在はそんな余裕はどこにもない。

なので門の前にこれだけの人数が集まったのは久しぶりである。

オレが顔を出すと、集まった住人達の視線が一斉に集まった。

押しとどめていた団員達は一様に安堵した表情を浮かべる。

「勇者様! この魔力が消失した状況はいつまで続くのですか?」

「うちの母が足を怪我して治療できないのです! どうにかなりませんか!」

「団長様、このまま魔力が戻らなければ我が店は破産してしまいます! どうか PEACEMAKER(ピース・メーカー) のお力でなんとかしてください!」

「勇者さま――」

集まっていた人々は一斉に不満と不安、要望を口にする。

ミューアの指摘通り、魔王を倒した勇者、トップ 軍団(レギオン) の団長として彼らに前向きな声をかける。

この程度で、皆の不安が一時的にも落ち着くならやるべきだろう。

「皆さん、落ち着いてください。今回の魔力消失に関して 冒険者斡旋組合(ギルド) を上げて調査をしている最中です。遠くないうちに原因が究明されるでしょうから、もうしばらくの辛抱です」

こんな感じで声をかけていくと、だんだんと住人達の不安や不満などが落ち着いていく。だが消えた訳ではない。あくまで一時的な処置だ。

彼らの悪感情を取り除くには、魔力が戻らないことにはどうすることもできない。

一方でこの騒ぎをニヤニヤと見つめている冒険者達も居た。

怪我を負っても治療する方法が限定されているため、街外に出て魔物を倒すこともできず燻っている連中だ。

魔王を倒した勇者、トップ 軍団(レギオン) 団長のオレが住人達の対処に困っているのを眺めて憂さ晴らしをしているのだろう。

うざくはあるが、この程度で彼らの鬱屈した気分が解消されるなら安い物である。

下手に暴れられるより100倍以上マシだ。

鬱陶しくはあるが……。

だが、途中で彼らのニヤニヤとした意地の悪い視線が消える。

気になってオレから視線を向けると、彼らは一様に空を見上げていた。

さらに周囲に居る住人、団員達までも一様に皆、空を見上げていた。

オレも自然と空を見上げる。

するとそこには――

「!?」

まるで上空に投射し映像を映し出しているように巨大なランスの姿があった。

幽霊のように半透明で、反対側を飛ぶ鳥が透けて見える。

『皆さん、こんにちは、今晩は、場所によってはおはようかな。僕はランス・メルティアと申します』

ランスは誰しもが好感を覚える微笑みを浮かべ告げる。

『――これから僕は、復讐を始めたいと思います』

彼は心底幸せそうな笑顔で断言した。