作品タイトル不明
第339話 軍団大々祭、3日目
軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) 、3日目。
昨夜はリズリナの軍団を含めた、3つが謎のマスク男達に占拠されてしまったが、オレ達 PEACEMAKER(ピース・メーカー) が人質を無事に解放し、マスク男達も無力化することに成功する。
彼らは尋問途中で、薬を服用し情報を渡す前に自害――ではなく、強力な睡眠剤で眠りについてしまったのだ。
いったい彼らは何がしたいのか……。
しかもまだ仲間がいるようなことを眠る前に言っていた。しかし 冒険者斡旋組合(ギルド) は祭3日目を強行。
警備強化と他軍団に呼びかけをするとは言っていたが……本当に大丈夫なのだろうか?
祭最終日3日目、午後は中央ステージで軍団のアピールをする予定だ。
ステージの他にも彼らが狙うメイヤの警護もあるため、 冒険者斡旋組合(ギルド) の警備強化に貸す人材はいない。
正直な気持ちとしては祭を中止した方がいい気がするのだが……。
主催者である 冒険者斡旋組合(ギルド) に『NO』と言われたら、こちらとしては引き下がるしかない。
この祭自体、オレ達との親睦を深めるためある意味企画されたものだが、資金を出している訳でも、準備を手伝っている訳でもないのに一方的に口を出すことは難しい。どの世界でも資金と人手を出すところの発言力が強いのだ。
ちなみに PEACEMAKER(ピース・メーカー) は今回の軍団アピールステージで、ガンプレイをする。
ステージ用衣装である『カウボーイコス』も準備してあるし、リボルバーで実際に空砲も撃つ。派手なステージになること間違いなしである。
これでさらに軍団をアピールして投票順位トップを維持する狙いである。
一応、祭2日目も PEACEMAKER(ピース・メーカー) は暫定投票で1位を獲得している。
リズリナが所属する軍団、 宝石と石炭(ジェム&コール) の順位は現在逆1位――つまり最下位だ。
1日目もお客様は入らず、2日目は途中でマスク男達に占拠され途中で勝手にスペースを閉められた。
3日目も昨夜の占拠問題により、リズリナのスペースは開くことが難しいらしい。
はっきり言って、現状、リズリナの軍団に負ける気がこれっぽっちもしないのだが……。
賭け云々は結局どうなるのだろう。
そして最終日、3日目。
軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) が開かれる。
最終日とあってお客様は1、2日目以上だ。
PEACEMAKER(ピース・メーカー) スペースも人が溢れるほどで、団員達が忙しそうに応対している。
屋台やシューティングレンジ、軍団の設立や理念についての講演など、どのスペースも人気が高い。
その中でも注目を集めているのは『ピース君』だった。
どうやら昨夜、マスク男達を油断させるため『ピース君』姿でリズリナを救出した話がいつのまにか広まったらしく、子供達だけではなく、大人達まで呼び寄せる結果になってしまったのだ。
『ピース君人形』を持っていれば山賊に襲われない、病魔も撃退する――と尾ひれが付き、3日目分の人形が午前中で売り切れそうになる。
確かに『魔王を倒した軍団が製作したマスコットが、今度はテロリスト達を鎮圧した』と知られたら、そういうことになってもおかしくはないが……個人的にはもっとマスコット的可愛さで人気が出て欲しかったな。
またそのせいで問題も起きた。
転売のためか商人らしき男性が、あるだけ買い占めようとしたのだ。
当然、拒否。
すると男は人形販売屋台前でごね始める。
結果、『機嫌が最悪に悪いミューアさんの事務所』行きになってしまった。
タイミングが悪いにもほどがある。
本気で可哀相だ。
このままではマズイということになり、購入制限を設けた。
基本的には一人一個、子供達優先。
また連れている子供の人数に合わせて購入OKにした。
転売しようとしていた商人達はシャットアウト。
あぶれた彼らはせめて『ピース君』の加護を受けようと、着ぐるみに抱きついてくる。
『ピース君』の中に居るオレは、列をなし並ぶおっさん達に抱きつかれるという拷問を受けた。
拒否することもできたが、人形の転売を断った上に、ハグも拒絶したらさすがに可哀相だ。
オレは心を無にしつつ、並ぶおっさん達とハグをくりかえす。
ちなみに転売熱が上がらないようどういう形になるかは分からないが、『ピース君人形』を販売することを宣伝しておいた。
これで少しは落ち着くといいのだが……。
交代の時間になり、オレは他団員と『ピース君』の中を入れ替わる。
入れ替わった途端、なぜかおっさん商人達は潮が引くようにいなくなり、代わりに子供を連れた親子、恋人達がメインになる。
オレだけがおっさん商人達に抱きしめられたという経験だけが残った。
……いや、着ぐるみ越しとはいえ年頃の女の子であるうちの団員が、おっさん商人達に抱きしめられることがなくてよかったのだが。
微妙に納得がいかない。
「リュートくん、お疲れ様!」
「ありがとう、スノー?」
したたる汗をタオルで拭いながら、親子連れや恋人達に囲まれた『ピース君』を盗み見るとスノーが飲み物を片手に声をかけてくる。
声で判断して振り返ると、なぜか彼女は午後からのステージの『カウボーイコス』姿だったため、語尾に『?』をつけてしまう。
中央イベントステージ開始は、午後からの予定だ。
もう少しで昼になるが、着替えるのには早すぎる。
彼女は語尾の疑問符に気が付き、コップを片手にくるりとその場で一回転する。
「もう少しでステージの時間だけど我慢できなくて着替えちゃった。どうかな?」
「もちろん、最高に似合ってるよ。スノーはスタイルがいいから、何を着ても似合うよ」
「えへへへへへ、褒めすぎだよぉ~」
スノーは褒められて嬉しそうに体をくねくねさせる。
喜んでくれるのは見ていて嬉しいが、いい加減、手にある飲み物を渡して欲しい。
だが実際、彼女の『カウボーイコス』はとても似合っていた。
衣装はオレが絵を描き、細々とメモを書き込み補足した。
後は針子達を纏める女性に絵とメモが書かれた紙を見せながら、説明して作ってもらったのだ。
お陰でとても出来がいい。
ブラに革製のベスト、下はホットパンツ。丈の長いブーツに、手袋、少女にはややごついガンベルトがいい塩梅でアンバランスさを演出している。もちろんカウボーイハットも忘れず製作した。
ホットパンツには尻尾穴が空いている。
そのためスノーの可愛らしい尻尾が、オレに褒められて嬉しかったのかフリフリと動いていた。
「でも、イベントステージが午後だから、早すぎるってことはないか。確かにぼちぼち準備しててもいいぐらいだな」
「ステージイベント中はうちのスペースを閉めるんだっけ? なんかちょっともったいないな。こんなお客様が入っているのに、時間になったら閉め出しちゃうなんて」
「スノーの気持ちはよく分かるよ。でも人手が足りないからな……」
ステージに立つ人材と準備に PEACEMAKER(ピース・メーカー) の半数以上が参加する。
さらにメイヤの警護を考えると……どう頑張ってもスペースを開くのは無理だ。
一部を開き続ける選択肢もあったが、逆に混乱の元になりそうで断念した。
薄々理解はしていたが、さすがに人手不足である。
今回、入団希望者を勢いで募集してしまったが、ある意味タイミングとしてはよかったのかもしれない。
スノーの師匠である『氷結の魔女』、魔術師S級のホワイト・グラスベルのアイドルコンサートばりの頑張り(強制)により、かなりの人が集まった。
現時点で入団希望者は200人を突破している。
年齢的に15歳~18歳が最も多く、最年長は22歳の女性魔術師だ。他にも年齢一桁の魔術師の才能を持つ女の子が入団を希望したが、最低年齢である15歳と区切っていたためお断りした。
雇い入れて『幼女魔術師特殊部隊』とか作っても面白そうだが、さすがに自重した。
幼女魔術師を受付嬢さんに立ち向かわせるなんて、いくらなんでも鬼畜過ぎる。
「そういえば人材募集に活躍してくれたホワイトさんはどうしたんだ?」
「師匠ならまだ宿で寝てるよ。昨日、一昨日のダメージが抜けないからって」
ホワイトは『恋の伝道師』云々を気取っていたが、大勢の人前に出るのは苦手らしい。
2日連続で薄着の衣装を強制的に着せて人前に立たせたダメージは、こちらの想定以上に大きかったらしい。
彼女が望むなら最終日は休日にするつもりだったから問題はない。
多すぎるほど、人材も集まったしな。
「頑張ってもらったし、今日ぐらいは休んでもらおう」
彼女には将来的に新・純潔乙女騎士団の名誉顧問として頑張ってもらう予定だ。
ここで無理をさせて精神的に潰れられても困る。
現在、対受付嬢さん用に戦力はどれだけあっても『多すぎる』ということはないのだから。
気付くとスノーがジト目を向けてくる。
「……わたしも勢いで師匠を巻き込んじゃった側だけど、あんまりイジメないであげてね?」
「もちろんだよ。なんだかんだ言って、あの人はスノーの師匠で、オレ達の恋を応援してくれた人だしね」
スノーは表情から胸中を読んだのか、釘を刺してくる。
赤ん坊の頃から一緒に育った幼馴染みだからこそできる芸当だろう。
それにこんな所でホワイトを酷使するつもりはない。
受付嬢さんが襲来したら真っ先に前線に立ってもらう人物なのだから。
「リュートくん、また酷いこと考えているでしょ?」
「酷い事じゃないよ。ちゃんと彼女には責任を取ってもらおうと思っているだけだよ。それよりスノー、他の子達も順次着替えるように指示を出してくれないか?」
「いいの、もう着替えて? まだ時間あるよ」
すでに着替えたスノーは自身を脇に置き告げる。
「せっかくだから、ステージ衣装に着替えて、接客をしてもらおうと思ってさ。そっちの方が興味を持たれて、ステージに足を運ぶ人も増えるだろ?」
「なるほど、さすがリュートくんだよ! それじゃわたし、みんなに指示出してくるね!」
スノーは背を向けると、パタパタと走る。
口から思わず出たアイディアだったが、存外悪くない。
だが、彼女と入れ替わるように血相を変えた 大々祭(だいだいさい) 運営委員スタッフが駆け込んでくる。
スノーが相手の尋常ではない気配に戻ってくるほどだ。
「め、メイヤ様はどちらにいらっしゃいますでしょうか!?」
「どうしたんですか、いったい? とりあえず落ち着いてください」
スタッフは挨拶もなくメイヤの所在を尋ねてくる。
……まさかとは思うが、スタッフに擬装した彼女を狙うマスク男一味じゃないだろうな。
そのため居場所を尋ねられても即答はしなかった。
スタッフは青い顔で懇願する。
「こ、ここではお話できなくて……と、とにかく早急にメイヤ様とお話をさせてください! お願いします!」
スタッフはぺこぺこと壊れたように頭を下げて『メイヤに面会したい』を繰り返す。
いくら何でも普通ではない。
スタッフの後ろで怪しい動きをしないか様子を窺っているスノーに視線を送る。
衣装着替えを皆に伝えるのは取り消しで、一緒に付いてきて欲しいと。
彼女は一つ頷き理解する。
こういう時、幼馴染みは楽でいい。
「……分かりました。こちらです」
前をオレが歩き、スタッフの後ろを挟み込むようにスノーが移動する。
オレ達が向かったのはスペース内の事務所だ。
もちろんミューア専用事務所ではない。
現在あちらは見た目、普通の建物なのに近付くだけで本能が危機感を訴える魔窟と化している。
建物の主であるミューアの機嫌が悪いからだろうか。
事務所に向かうと、入ってすぐの応接室スペースにあるソファーへスタッフを座らせる。
監視を建物内部に居た団員へ任せる。
オレとスノーは奥の部屋へと移動した。
扉の一つに立ちノックする。
事前に決めていたノック音の種類で部屋に居る相手に情報を与える。
今したのは味方であるオレ達が来たことを告げる音だ。
ゆっくりと扉が開く。
中からシアが顔を出す。
彼女は扉を開き、頭を下げオレとスノーを出迎える。
部屋の中ではシアともう一人の護衛メイドがメイヤを警護していた。
要人警護にこれ以上の適任はいない。
現在の護衛メイド達の戦闘能力は高く、特に室内戦を得意とする。
オレでも2対1なら、負けるレベルだ。
中に入ると、シアが優雅な動作で扉を閉める。もちろん彼女の手には念のため警戒してコッファーが握られている。
部屋はそれほど広くない。
ソファー一式に、奥に机が置かれている。
それだけで手狭な印象を受けるほどだ。
メイヤは奥の机に座りペンを走らせている。
オレとスノーが部屋に入ったことにも気付かず、一心不乱にブツブツと呟き集中する。
つい聞き耳を立てると……。
「『リュート神様は仰いました。世界に光よあれ』。ちょっと微妙ですわね。やはりここは『リュート神様は仰いました。メイヤよ正妻になれ』。やっぱりこれですわね」
「何をやっているんだよ……」
「リュート様!? すみません、集中していたのでリュート様がいらっしゃっていたことも気付かず。リュート様の素晴らしさを後世にまで伝える一大叙事詩を執筆するのに夢中になりすぎてしまいましたわ」
メイヤは一心不乱に机に向かい書き物をしていると思ったら、そんなアホなことをしていたらしい。
台詞を聞いた限り、叙事詩というよりは聖書的な物に近い気がするのだが……。
しかし、マスク男達に狙われているのにもかかわらず、そんなことに夢中になっていた彼女に対して思わず脱力してしまいそうになる。
「もう、メイヤちゃん、何しているの!」
一緒に部屋に入ったスノーも、自身の立場を忘れたメイヤの行動に腹を立てのたのか彼女に詰め寄る。
「叙事詩を書くならちゃんと『リュートくんはいい匂い』も入れないと全然読む人に伝わらないよ!」
「なるほど、なるほど、ではその一文を追加しましょう」
スノー! オマエもか!
オレは二人のやりとりに頭を抱えそうになる。
――とりあえず、気分を切り替えメイヤに事情を説明した。
どうも 大々祭(だいだいさい) 運営委員スタッフがメイヤに火急の用があるらしい。
話は彼女を交え、関係者以外の前では話せない内容とか。
一通りメイヤは話を聞くと、席から立ち上がる。
「了解致しましたわ。では、そのスタッフさんとお会いしましょう」
「シア、悪いが念のため一緒に来てくれ」
「かしこまりました」
ありえないがスタッフが妙な動きをしないよう護衛のプロであるシアに動向してもらう。
もう一人の護衛メイドは部屋で待機してもらった。
部屋から出ると、ソファーに落ち着きがない様子でスタッフが貧乏揺すりをしている。
目の前に出された香茶に手を付けた形跡はない。
「お待たせして申し訳ありませんわ」
「め、メイヤ様!」
メイヤがソファーへ座ると、スタッフは安堵したような表情を浮かべる。
オレもメイヤの隣に座り、シア、スノーは背後に控えた。
「それでわたくしにお話があるそうですが、一体どんな用件ですの?」
「じ、実は……」
スタッフは言い淀む。
僅かな逡巡の後、スタッフは罪を告白するように用件を口にした。
「例の男達の仲間に本部が襲撃を受けて……スタッフと一部お客様が人質になってしまいました。彼らは人質を解放して欲しければメイヤ・ドラグーン様を引き渡せと要求してきたのです……ッ!」
彼の言葉に PEACEMAKER(ピース・メーカー) 事務所内の空気が凍りついた。