軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第338話 尋問

2日目、深夜。

軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) 運営委員会本部スタッフルーム前に、拘束された男達9人が鎮座している。

首には念のためにと魔術防止首輪が付けられていた。

彼らは 宝石と石炭(ジェム&コール) 、他軍団を占拠したテロリスト達である。

オレが 宝石と石炭(ジェム&コール) を占拠した男性3名を倒し、人質のリズリナ達を救出。

他2つの軍団はスノー達に任せた。

占拠された軍団はどれも戦闘能力が他軍団と比べると低く、人気が無く、人目も少ないため狙われたようだ。

人気が無いので警備意識も低く、団員が人質に取られたら抵抗する術がないため、テロリスト男性3人ずつで簡単に占拠できてしまったらしい。

自画自賛ではないが、オレ達の活躍により人質に怪我はなく救出することに成功している。

ただ問題があるとしたら――リズリナを含めた人質になった若い女性が現在、運営委員の本部ベッドで眠っているが、一様にうなされている。

なぜか全員が共通して『結婚……結婚しないと……』と。

事情は分からないが某受付嬢さんの呪いでも受けているのだろうか?

詳しい話は彼女達が目を覚ましたら聞くことになるだろう。

男達は全員似た覆面をしていたが、今は取られている。

全員、人種族だった。

詳しい事情を聞くため、これから尋問をする予定だが……

「団長、彼らの尋問は是非、私に任せてください」

PEACEMAKER(ピース・メーカー) の外交部門担当のラミア族、ミューア・ヘッドが話しかけてくる。

うちの軍団の情報担当で、影の支配者の一人と言われる彼女が本当に珍しく団長であるオレにお願いをしてきた。

だが、オレは彼女の願いを却下する。

「駄目だ。今回、ミューアは大人しくしていろ」

「どうしてですか? 理由を説明してくださらないといくら団長のご命令でも納得できませんわ」

ミューアが食い下がるので指摘する。

彼女は PEACEMAKER(ピース・メーカー) 以外の関係者、祭の責任者やスタッフがいるためオレを『団長』と呼ぶ。

「ミューア……気持ちは分かるが、殺気――いや、怒り過ぎだ。そんな冷静じゃない状態で尋問なんて任せられるわけないだろ?」

ミューアは危険情報を全て把握していたつもりだったが、今回の男達のテロ行為を完全に見落としていた。

結果、彼女はプライドを大いに傷つけられ、捕らえた男達に対して怒りを覚えていた。

どれぐらいミューアが怒っているかというと……口元はうっすらと微笑んでいるが、目の瞳孔が完全に開いているのだ。

正直、滅茶苦茶怖い。

その怒りは正直――殺気レベルである。

自分自身、それなりの修羅場をくぐってきたが、現在の彼女を前にしていると自然と手が震えてくる。

祭の責任者やスタッフなど、自分達に怒りが向けられていないのに涙目になっているほどだ。

今、ミューアに男達の尋問を任せたら、大変なことになってしてしまうかもしれない。

男達は9人も居るから、一人や二人回復不能になったとしても情報を引き出す人材には困らないが、愛妻クリスの幼馴染みに手を汚して欲しくない。

「とりあえずミューアに彼らの尋問は任せないからな。少し気持ちを落ち着けて冷静になれ」

「いやですわ、団長。私はいつでも冷静ですよ。もちろん今も十分落ち着いていますわ」

「とにかく駄目なものは駄目だ。クリス、ココノ、ミューアを頼む」

『はい! お任せください!』

「ミューアさま、もう夜分も遅いですし、心が落ち着くお茶を飲み就寝致しましょう、ね?」

両脇から友達であるクリス、ココノに手を取られて PEACEMAKER(ピース・メーカー) が寝泊まりしている臨時宿泊場へとミューアが戻って行く。

去り際、男達を睨んだが、それ以上は何もしない。

本部スタッフルーム前にはオレとスノー、シア、祭スタッフと男達が残る。

彼らの目的であるメイヤは、クリス達が戻った臨時宿泊場から出ないよう厳命している。宿にはうちの団員が交代で歩哨に立っている。

リースやカレンも居るため、そうそう手出しはできないはずだ。

スノーの師匠、ホワイトは昼間、勧誘員として臨時舞台に立たせてアイドルのを真似事をさせていたら恥ずかしさがオーバーヒート。

現在、臨時宿泊場で寝込んでいる。

正直、やりすぎた感がある……。

受付嬢さんを焚き付けた人物ではあるが、頑張りを鑑みてそろそろ許してもいい気がしてきた。

ホワイトが望むなら明日はお休みにして、部屋で寝かせておく予定だ。

そのため彼女は現在、戦力にならないだろう。

今回、男達の尋問はオレとシアが担当する。

スノーには周囲を警戒してもらう。

祭スタッフはあくまで現場責任者として同席してもらっているだけだ。

「さてそれじゃなぜメイヤを狙ったのか、アンタ達の背後に誰がいるのか教えてもらえるか?」

「……ふん、青二才が。我々が偉大なる頭領のことを話すわけがないだろ。たとえ全身を拷問で痛めつけられようとも、決して話したりはしない!」

代表者らしき男性が決め顔であっさりと情報を口にする。

本当に彼らはあのミューアを出し抜いた人物達なのだろうか……いや、もしかしたらこちらを騙す演技の可能性もある。

オレはとりあえず鎌を掛けてみた。

「なるほど、偉大なる頭領ね……随分、部下達に慕われているんだな、その貴族様は」

「馬鹿な! 我々の偉大なる頭領様を貴族ごときと一緒にするな! 我々は誇り高き島の住人だぞ! 奴らは所詮、我々に搾取されるだけの家畜なのだ!」

代表者男性が激高し反論してくる。

これがもし演技なら、前世、アメリカのハリウッドでやっていけるレベルだ。

演技ならば、だ。

あまりに簡単に情報を口にする男に、オレはなんだか頭痛がしてきた。

彼らと会話をするだけで疲れてくる。

「それでオマエ達の他にも仲間は居るのか? どうしてメイヤを連れ去ろうとしたんだ? 先駆者同盟(ピオニエ) の宝箱トラップを複雑な物に取り替えたのはオマエ達か?」

「くっくっくっ……さてどうかな」

男達は意味深に笑うだけで、口を滑らせなくなる。

ようやくちゃんとした尋問ができそうだ。

オレは変な安堵感を覚えた。

だが男達はこちらの予想をことごとく裏切ってくる。

「メイヤ様を欺く偽りの勇者リュートよ。どれだけ貴様がメイヤ様のお力を利用し、甘い蜜を舐めようが我々の忠誠心の方が上だと知れ! 貴様達は悉く我々の深謀なる策の前に震え上がるだろう!」

「!? 若様、彼らを取り押さえてください!」

シアが慌てて声を挙げ、動き出す。

オレは意味を理解できず、彼女の指示にすぐには反応できなかった。

代表者男性が声を高々と上げた後、不自然に口内を舌が動いているのに気付く。

オレもようやくシアの慌てた理由に気付いた。

彼らは奥歯に自害用の薬物を所持していたのだ!

身体検査で武器の類は取り上げていたが、基本ナイフ程度の軽装備だったため油断していた。

他男性達も、代表者男性が口上を述べ注目を集めている間に下を向き準備を終えていたため、すでに薬物を飲み下した後だった。

シアが気付いた時にはすでに遅く男達はその場にバタバタと倒れていく。

クソ! 言動に惑わされ油断した! まさか彼らが自害を選ぶほど忠誠心を持ち合わせていたのは予想外である。

シアは倒れた男達に駆け寄り、治癒を試みる。

もしかしたら助けることができるかもしれないと――しかし、彼女は地面に膝を突き手に解毒魔術を展開するがすぐに治療を止めてしまう。

痛ましそうに堅く瞼を閉じると、シアはゆっくりと立ち上がり力無く首を振る。

「申し訳ありませんでした、若様……自分が気付くのに遅れてしまって」

「いや、気にするな。男達が軽装だったから油断し、奥歯まで調べなかったオレのミスだ。まさか薬物を口内に仕込んでいるとは……」

「はい、自分も完全に油断しました。そのせいで彼らは明後日ぐらいまで起きないでしょう」

「ああ、テロリストとはいえ、目の前で倒れられ明後日まで起きないなんて……明後日まで?」

シアの意味不明な言葉に台詞を途中で止めてしまう。

「明後日まで起きないってどういう意味だ?」

「? 言葉通りの意味ですが。彼らが飲み込んだのは強力な睡眠剤です。恐らく明後日までは目を覚まさないでしょう」

自害したわけじゃないのかよ!

オレの悲しみを返せ!

もうこいつら、ミューアに引き渡そうかな……少々冷静ではない彼女も、彼ら相手なら逆に頭が冷えるのではないか?

とりあえず眠ってしまった彼らの身柄は、祭スタッフへ引き渡す。

目を覚ましたら尋問を再開する予定である。

先の会話で彼らの口ぶりからまだ仲間が居るようだ。

色々残念な奴らだったが、行動力は本物だった。

そのためオレは 軍団(レギオン) 大々祭(だいだいさい) 3日目の中止を提言するが、却下されてしまう。

祭スタッフ曰く、すでに他軍団は最終日準備を終え、気合いを入れている。客の一部も3日目入り口にこの時間からすでに並んでいる熱狂ぶりだ。また今回の祭には少なくない金額がかかっている。

最終日を中止した場合、その分の資金回収は不可能。

また仮に中止にした場合、周囲の反発は必至。多々しがらみも多いとか。

さすがにそれらは避けたい、とか。

だが人命に関わる問題が起きる可能性があると訴えたが、逆に何とか開催しようと説得を受けてしまう。

警備を強化し、他軍団にも注意を勧告。客側にも気を付けるよう警告する云々。

いくらある意味、今回の祭の主役である PEACEMAKER(ピース・メーカー) でも、一軍団の言葉で止めるのは不可能なようだ。

大人しく引き下がるしかない。

オレ、スノー、リースは夜も遅い――というか、後数時間で日が昇る。

少しでも体を休めるため、自分達の臨時宿泊場へと戻った。

3日目の祭で何も問題が起きなければいいんだが……いや、絶対に何か起きるだろうな。

嫌な予感をひしひしと感じて、オレはつい溜息を漏らしてしまう。

一緒に肩を並べて歩くスノーが、場の空気を変えるため話を振ってきた。

「リュートくん、リュートくん、一つ気になっていたことがあるんだけど聞いてもいい?」

「気になること? 別にいいけど」

「リズリナさん達を救出に向かった時、どうして『ピース君』着ぐるみ姿で行ったの? 普通の恰好じゃなくてどうしてわざわざそんなことしたのか、わたし、ずっと気になってて」

メイドらしく、オレ&スノーの背後を歩くシアも興味深そうに耳を傾けるのを気配で察する。

隠し立てするほどの理由ではないため、彼女にも聞こえるように話した。

「ギリースーツのように『ピース君』を着ることによって人の輪郭を無くし、周囲に溶け込むことによって敵の目を誤魔化したんだよ」

またラヤラとクリス達の監視のお陰で、彼らがリズリナを盾にする可能性が高かったため、意表をつくギミックを施せる『ピース君』が最善だった。

予想通り、最後はリズリナを盾にされたが『ピース君』の奥の手の一つ『ピース君ビーム』のお陰で彼女を助けることができた。

ちなみに『ギリースーツ』とは、狙撃手などが敵に発見されないよう服やヘルメットなどに草木を付け擬装することを追求した結果、緑の塊となったカモフラージュスーツ、衣服のことである。

ギリースーツを着ると、周囲の風景に溶け込み発見が難しくなる。

またたとえ目に入っても人の形をしていないため反射的に『敵だ!』とは判断され辛いという利点がある。

ギリースーツの名前の由来は、スコットランドの妖精、『ギリー・ドゥ(Ghillie Dhu)』だとされている。

苔や木葉の服を着た妖精らしく、現在でもスコットランドやアイルランドでは狩猟や釣りのガイドはギリーと呼ばれている。

ピース君着ぐるみ姿で人質奪還に乗り込んだ理由と、ギリースーツについての話をしていると臨時宿泊場が見えてくる。

お陰でついあくびが漏れてしまう。

「……明日の最終日、何事もなければいいんだけど」

つい漏らしてしまった独り言にスノー、メイヤも無言で同意の気配を漂わせた。