軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

SS  妹は思春期?

「……どうしたんだ、リース?」

「リュートさん、少々お時間よろしいでしょうか? 実はご相談があって……」

昼、食堂で食事を終え、執務室に戻り書類仕事を再開しようとドアノブに手をかけると、背後から落ち込んだリースが声をかけてきた。

もちろん彼女の後ろには護衛メイドのシアが『当然』とばかりに佇んでいる。

とりあえずリース達を執務室へと入れる。

オレは彼女と向かい合うようにソファーへ座ると、シアはいつの間にか湯気がのぼる香茶をお盆に載せていた。

執務室には台所がある。しかし、それは奥の方にあるのだ。

なのに2~3秒シアから目を離したら、いつのまにか彼女は香茶を載せたお盆を手にしていた。

一体どうやって、その香茶を準備したんだ?

むしろ、こんな怪しげな香茶を飲んでも大丈夫なのか?

オレが疑わしい視線を香茶に向けていると、シアが告げる。

「ご安心ください。体に影響はありません」

なんだよ体に影響が無いって!?

滅茶苦茶、怖いんだけど!

護衛メイドであるシアが、オレやリースに変なことをするとは思えないので飲むつもりだが……。

あんまり心臓に悪いことはしないで欲しい。

とりあえずオレとリースがソファーに座り、向かい合う。

シアは部屋の隅に立ち、いつでも対応できるように佇んでいる。

「それで相談って一体なんだ?」

「実はルナについてなのですが……」

リースが深刻な表情で告げる。

ルナに何かあったのか!?

オレは彼女の言葉の続きを息を呑んで待つ。

「ルナが最近、私に構ってくれなくて……」

彼女の言葉にソファーからずり落ちそうになる。

何か深刻な相談事かと思ったら……。いや、些細に見える悩みでも、当人にとっては頭の痛い問題という場合もある。

兎に角、リースの話に耳を傾けた。

「最近、ルナが冷たくて……ご飯やお茶に誘っても『今、研究で忙しい』と断られて、一緒に買い物に行こうと提案したら、『お姉ちゃんと一緒に買い物なんて恥ずかしい』と言われまして……」

リースは暗い表情で語る。

思春期の娘の気を引こうとする父親のような悩みだな。

とりあえず、オレは当たり障りのない返事をする。

「ルナには 8.8cm対空砲(8.8 Flak) や120mm 滑腔砲(かっこうほう) 、他にも色々な兵器開発の研究を頼んでいるから忙しいのは事実だし……きっとたまたまタイミングが合わなかっただけだよ。気にする必要はないと思うよ」

「……でも、この前、私がお買い物を誘ったのに断られて……次の休みの日にクリスさんやココノさん、ラヤラさん達と一緒に街へ出かけたんです。それはもう楽しそうに」

ルナー!

せっかくのフォローが逆にリースの心に止めを刺す結果になってしまう。

「リュートさん、私、妹に嫌われてしまったのでしょうか? そうですよね、私のようなできそこないな姉なんて嫌われて当然ですよね……」

過去、オレ達と出会う前、リースは『無限収納』という精霊の加護にコンプレックスを抱いていた。

また姉や妹が自分と比べて優秀なため、コンプレックスがより深くなっていた。

最近は『自分は自分』と割り切ったのか、自身を卑下するようなことはなくなったのが、妹に冷たくされたせいでネガティブな人格が表に出てきてしまっている。

オレは慌てて慰める。

「リースは悪い方に考え過ぎだって。第一、ルナもいい歳だし色々難しい年頃なんだよきっと! 思春期の時は肉親と一緒に居る所を友人や知り合いに見られるのが恥ずかしいって思っちゃったりするだろ? でも、別にリースが嫌いってわけじゃないんだよ」

「確かにルナもそろそろそういう時なのかも……」

オレの言葉にリースは納得する。

胸中で安堵の溜息を尽きつつ、提案した。

「ならオレが間に入るから、納得するまで話し合ったらいいんじゃないか? 姉妹なんだし正面から話し合えばきっと分かり合えるはずだよ」

この提案にリースの瞳に光が灯る。

「ですね。良い機会ですし、ルナと納得いくまで話し合ってみます!」

こうしてオレはリースとルナの話し合いの場を設けることにした。

後日――ルナの研究室。

「え? 別にお姉ちゃんのこと避けてないよ?」

この答えにリースがあからさまに動揺する。

「で、でも最近、お茶に誘っても断ったり、お買い物も一緒に行ってくれなかったし」

「お茶はご飯を食べてすぐに誘われても飲める訳ないでしょ。お買い物はクリスちゃん達と事前に行く日にちを合わせてお店の予約をしてたから、肉親だからって当日無理矢理追加するなんて恥ずかしいでしょ? だから断ったんだよ」

「そ、それじゃ最近、顔を合わせてくれないのは?」

「普通に仕事で忙しいからに決まってるでしょ? ルナだって一応、働いているんだから忙しい日が続いて顔を合わせ辛い時もあるに決まってるじゃない」

あー、つまり、全部、リースの勘違いだったわけか。

仕事が忙しいのはオレの責任だが、他はどうもリースのタイミングが悪かっただけらしい。

彼女はルナの言い分を聞いて、複雑そうな顔をしていたが、同時に安堵もしていた。

「そうだったの……ごめんなさい、私の勘違いで」

「別にいいけど、そんなにお姉ちゃんはルナとお茶とか、お買い物とか行きたかったの?」

「もちろんよ。だって私達は姉妹だもの。たまには妹と一緒にお買い物や食事、お話をして、甘えられたりするものなの」

リースは今回の教訓を生かし、素直に自身の感情を吐露する。

この台詞にルナは不思議そうに小首を傾げていた。

「妹に甘えられたいものなの?」

「ええ、少なくとも私はね」

「よく分かんないけど、そういうものなんだ」

「そういうものなのよ」

リース、ルナ、姉妹にしか分からない仲直りの空気が漂う。

どうやら一件落着らしい。

オレは背後に控えるシアを一瞥し、落ち着くところに落ち着いたことに安堵する。

「それじゃ折角だから、甘えちゃっていい?」

「ええ、いいわよ」

「実はこないだクリスちゃん達と遊びに行った時にお姉ちゃんの靴を借りたんだけど、泥が付いちゃって。ごめんね」

「……えっ」

『ごめんね』の時、ルナは可愛らしく上目遣いで謝ってくる。

さらに謝罪は続く。

「しかも一緒に借りたスカーフとハンカチを引っかけて一部破いちゃったんだ。後、お姉ちゃんがお気に入りで買い込んでいたオヤツ、この前お腹が減ったら全部食べちゃった☆」

「…………」

「お姉ちゃん? どうしたの俯いて……」

オレの位置からはリースの背中しか見えないが、彼女が今どんな表情をしているかは理解できる。

「ルナ! そこへ座りなさい!」

「ちょ!? どうして怒っているのよ! 甘えていいって言ったじゃない!」

「貴女のは甘えではありません! だいたい、昔から私の靴や小物を勝手に持ち出さないよう言っていたではありませんか! しかもしまっていたオヤツは、期間限定品で大切に食べていたものですよ! もう手に入らないのに、貴女って子は!」

「りゅ、リューとん! シア、助けて! お姉ちゃんを止めて!」

今のリースを止めるのはオレ達では無理だ。

大人しく説教を受けるしかない。

オレとシアは、ルナの助けを拒否して巻き込まれないうちに戦略的撤退をする。

だがまぁ、姉妹の交流というのは色々あるものだ。

今のルナ、リースの関係も一つの姉妹の交流なのだろう――そう思うことにして、オレ達はそっと扉を閉めたのだった。