作品タイトル不明
SS ココノのお悩み
「コホコホ……すみません、ご迷惑をかけて」
「迷惑だなんて、ココノはオレの奥さんだろ? 奥さんの看病をして迷惑だなんて思う夫がいるはずないだろう」
「リュートさま……」
オレの言葉にベッドで横になるココノが涙を零しそうになるほど瞳を潤ませる。
彼女は久しぶりに体調を崩し、朝から寝込んでいた。
先程、消化にいいリンゴのすり下ろしたものを少し食べさせ、温かなスープを飲ませたところである。
オレは額に置かれたタオルを交換する。
スノーが作ってくれた氷水を入れた桶の中に、タオルを入れて絞る。あまり力を入れ絞り過ぎると、冷たさが無くなってしまうため加減が難しい。
再びココノの小さな額に載せた。
彼女はひんやりとした感触が気持ちいいらしく、目を細める。
「でも本当に久しぶりだな。最近は体を動かしてからずっと体調が良かったのに」
「ラヤラさまやカレンさま、クリスさま達が運動のご指導をしてくださったお陰です。皆さまがよくしてくださっていたからこそ、最近はずっと調子がよかったのですが……。コホコホっ」
「大丈夫か、水でも飲むか?」
「いえ、平気です」
ココノは儚い笑顔を浮かべるが、すぐに表情を真剣なものに変える。
「実は、その……前から考えていたことがありまして……」
「考えていたこと?」
「はい、このままではリュートさまや他皆さまにご迷惑をかけてしまうので、少しでも体を丈夫にするためにも、ダン・ゲート・ブラッド伯爵さまの元で体を丈夫にする修行に出ようかと思っておりまして……。リュートさま、どうでしょうか?」
「いやいや、駄目だよ! ココノは今のままで十分だって!」
「ですがわたしももっと皆さまのお役に立ちたいのです……ッ」
体調を崩して寝込んでいるのに、彼女の瞳は力強い光を宿していた。
本気で皆の―― PEACEMAKER(ピース・メーカー) の役に立ちたいと思う気持ちが伝わってくる。
とはいえまさか本当に体を強くするため、旦那様の元へ送り出す訳にはいかない。
彼女が体を鍛えることに反対しているのではない。
信じて送り出したココノが、旦那様の下でムキムキマッチョになっていたら嫌だから反対しているのだ。
『リュートさま! ココノはこの通り元気になりました! 今では素手でリンゴのすり下ろしが作れるぐらい体が丈夫になったんですよ! 特にこの腹直筋と外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋がキレてて素晴らしいですよね? リュートさまや皆さまの為にも頑張りました(ムキムキッ)!』とか言われたら心が折れる自信がある。
それこそバキバキに!
だがココノの熱い気持ちを無碍にするのも可哀相である。
さてどうしたものやら――
「話は聞かせてもらったわ!」
『ばぁん!』と寝室の扉が勢いよく開かれる。
開けたのは PEACEMAKER(ピース・メーカー) の研究・開発担当のルナ・エノール・メメアだ。
ルナは薄い胸を全力で反らし得意げに語り出す。
「ココノンの落ち込む気持ちは分かるわ! そりゃ大切な人達の力になりたいもんね。でも安心して、こんなこともあろうかとココノン専用の魔術道具を開発しておいたから!」
「おい、ルナ」
「ふふん、お礼なんていらないわよ。ルナとココノンはお友達だから。お友達のためにやっていることにお礼なんていらないわよ!」
「いや、そうじゃなくて。病人がいる部屋で勢いよく扉を開けたり、大声を出すのは止めて欲しいんだが。体に障るから」
「あっ、ごめんなさい……」
注意するとルナは素直に謝罪する。
根は言い奴なんだよな。
オレは溜息を一つしてから、話を促す。
「それでルナはいったいココノのためにどんな魔術道具を作ったんだ?」
「リューとんは知ってるはずでしょ。ルナが何をしていたのか。だいたいリューとんが作り出せないかどうか、試して欲しいって依頼してたんじゃん!」
「ん? ああ、アレが出来たのか?」
「あくまで『試作品』だけどね」
『試作品』とはいえアレができたのか。
確かにアレはココノ向けの魔術道具である。
彼女はベッドで横になりながら、可愛らしく小首を傾げる。
「あのリュートさま、ルナさま、アレとは一体なんでしょうか?」
ココノの質問にルナが無い胸を張る。
「ふふん! アレっていうのはね――」
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「た、助けてくれ!」
「く、来るな! こっちへ来るな――ギャァアアァ!」
「化け物だ! 化け物が来やがッ――うがあぁゥ!」
後日。
獣人大陸のとある田舎村。
近くの山を根城にする山賊が近辺の村を襲っていた。
貧しい村々のため村人は生活するのが手一杯で、冒険者に支払う金が無い。
山賊達もそれを分かっているため村を襲っていた。金品がなくても食料となる畑が存在し、若い娘を連れ去れば自分達で楽しめる上に売れば金になる。
そこで村民が PEACEMAKER(ピース・メーカー) に助けを求めてきた。
現在は体調を回復させたココノがアレ――バイクに乗って逃げる山賊達を追いかけ回していた。
ある意味、『元気に走り回っている』と言えなくもないが……。
ココノの後ろにはSVDを手にクリスが乗っている。
山賊達はこのロリコンビからなんとか逃げようと、細く荒れた道へと入り込む。
だが、ココノはバイクを巧みに操作して追いかける。そして彼女の後ろに乗るクリスが次々に狙撃し山賊達を無力化していくのだった。
山賊の中には魔術師も居り、肉体強化術で逃げ出そうとしたがココノのバイクの速度が予想以上に速く振り切れない。
クリスの射程距離に入ると問答無用で打ち倒される。
はっきり言ってこのコンビから逃げ切れるのは、 PEACEMAKER(ピース・メーカー) メンバーの中にもいないのではないだろうか?
ラヤラあたりが一目散に上空に逃げれば少しは可能性があるか、ぐらいである。
「リュートくん、あれは一体なんなの?」
「あれはオートバイだよ。ハンヴィー擬きを製造した時、いつか作ろうと思っていたんだ。けど色々忙しかったからルナに任せていたんだけど、試作品っていう割には軽快に動いているな」
ハンヴィー(擬き)のエンジンを付け替えればいけるかと思ったが、大きすぎて流石にバイクには流用できなかった。
そこでルナに、パワーはそのままに魔力モーターの小型化を依頼。
出来上がった試作品が、今目の前を走り回っているバイクである。
スノーは小回りも利く高速移動遠距離狙撃台と化しているココノ&クリスを眺めながら呟く。
「あれ、わたしが本気出しても逃げられる自信ないよ」
「右に同じです」
スノー&シアが断言する。
なんだか逆に山賊達が可哀相になってきた。
「うぎゃぁぁあぁあ!」とまた一人、ココノ&クリスの餌食となる。
だがココノが元気よく走り回っているし、オレ達の役に立っているという充実感が顔に出ている。
その姿を眺めていると、『これはこれでいいか』という気分になってきた。
愛妻のココノの真剣にバイクを操作する表情を眺め、オレは満足気に頷いた。